わたしが紗月さんの恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった⁉︎) 作:藤五月
寒風が喉に痛みを与え、曇り空が私の行先を案じている。
憂鬱とした気分の中、枯れた葉を踏むたびになるが心地よい。
だって、隣にあなたがいるもの。
決して口には出さないけれど、そうに違いない。
きょうの私は自分の通学路でなく、彼女……甘織れな子の通学路で登校している。
「私の家もそうだけど、あなたってご両親とあまり似ていないわよね」
彼女の方を向くと、目が合った。
同じシャンプー、同じ朝食、同じ学生服を着ているせいで、ぱっと目を離してしまう。
「うっ、否定できない! とっ、というか紗月さん、きのうは質問責めにあってたけど、大丈夫だった?」
彼女は話題を変えようとしたので、乗ってあげることにした。
「そうね、改めてれな子さ……ごめんなさい、つい」
きのうは甘織のことをれな子さん、と言っていたからその発声がまだ喉に残っていた。
恋人同士なのだから下の名前で呼ぶことに対して違和感を感じるのはいかがなものかと思う。けれど、彼女と出会ってからはずっと苗字や二人称で呼ぶことしかなかったので、今更呼び方を変えるのは、周りからの目線の変化が少し怖い。
「紗月さんが恥ずかしそうにしないでよ! 別にわたしはれな子呼びでも構いませんが!? だってわたしは甘織れな子ですから!」
「けど、私があなたのことをれな子って言うのは変じゃないかしら?」
「それはわたしの名前が変だということですか?」
「違うわ。言葉の語感的によ。具体的に言うと…………言葉にするのは難しいわね」
真唯は甘織のことをれな子。瀬名はれな子ちゃん。香穂にいたってはいろんな呼び方をしている。
「紗月さんでも難しいものがあるんだ」
「当たり前よ。……甘織、私のことを紗月ちゃんと呼んでみてくれないかしら?」
「ええっ!? いきなりなんですか!?」
「口答えしないで言いなさい」
その場に立ち止まると、彼女は一歩前で振り返る。
彼女は首に巻いている私がプレゼントした手編みマフラーを両手でぎゅっと握りしめ、目線を下げて口をとんがらせておろおろする。
私がじっと視線を送ると、観念したかのようにはあーっと白い息を吐き出し、上目遣いで──。
「はっ、はい。あ……、えと。さ、紗月……ちゃん」
「っ……。こ、これでわかってくれたかしら?」
「うぅ〜、わかったようなわからなかったような……。で、でも……二人のときなら、れな子でも、わたしは嬉しいかと。……はっ! い、いや! なんていうかその! い、急がないと遅刻してしまう!!」
時間に余裕を持って家を出たのだから、そんな言い訳が通用するわけがないのだが、慌てふためくその後ろ姿がなんとも面白くて、かわいくて。
私はいじらしい気持ちを持って、けれど、伝わらないでと願うように言葉をこぼした。
「好きよ、れな子」