わたしが紗月さんの恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった⁉︎) 作:藤五月
おはよう、甘織。
きょうも遅刻ギリギリ……明日も同じ時間にくるつもりなら、私が家まで迎えに行こうか?
ふふっ、そんなに拒否されると是が非でも迎えに行きたくなるね。
……ちょっと、香穂。この台本おかしくないかしら?
あまりにも馬鹿な男に思えるのだけど……シチュエーションボイスはこんなものって言われても、信じられないわ。
はあ、こんなことなら引き受けなければよかった。
駄々をこねないで、みっともない。
それに、仮にも報酬は貰っているのだから、最低限の義理は果たすわよ。
続き、喋っても大丈夫かしら?
……んんっ。
おはよう、甘織。
きょうも遅刻ギリギリ……明日も同じ時間にくるつもりなら、私が家まで迎えに行こうか?
ふふっ、そんなに拒否されると是が非でも迎えに行きたくなるね。
私はずっと心配なんだ。
もし甘織が登校中に可愛らしい子を狙う変態さんに誘拐されていたら、と。
それはない?
甘織の冗談は笑えない。
君は君が思っている百倍、いや、一万倍は魅力的だ。
だから、私と付き合って身を固めないか?
私が男装女子だから駄目?
性別だけが否定材料なら、なにも問題はないだろう。
なぜなら私は同姓である甘織のことを、誰よりも幸せな気持ちにさせることができるからだ。
ほら、こうやって抱きしめても、君の体は私を拒まないじゃないか。
あたたかくて、やらわらかくて、二度と離れたくない。そういう思いが君の心から溢れでている。
甘織も自分の心に素直になっていいんだ。
それを咎めるものはいない。
君をただひたすらに肯定する私がいる。
これでもまだ駄目か?
仕方がない。
本当はしたくなかったんだが、君があまりにも無自覚だからいけないんだ。
あまりにも、私を……。
…………香穂、ごめんなさい、勝手な妄想なのだけど、この台本……誰かモチーフがいるんじゃないかしら?
この口調に、違和感があるほどの自意識過剰、そんな変な人が私たちの周りに一人だけいるわよね。
口笛を吹くっていうことは、図星ね。
はあ、よりによって真唯をモチーフにした台本を私に読ませるなんて……。
私相手に隠し通せると思っていたのなら、おめでたい頭をしているわね。
そういうことなら話は別よ。
元々の依頼は、男装の撮影だけだったのだから、音声データは完全に消しなさい。
もしその音声が真唯や甘織の耳にでも入ったら、どうなるかわかっているわよね。
聴いた本人を殺して私も死ぬわ。
そうしなければいけないほどの業が、その音声データには宿っているの。