わたしが紗月さんの恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった⁉︎)   作:ふじごがつ

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幼女化2

「えっと、その……Rボタンを押したら、いわゆる構え状態になりまして」

 

 流石にいきなり対人戦に参加するわけにもいかず、訓練場でボットを相手に基礎の基礎を紗月さんへ教え込む。

 コントローラーの使い方すら忘れていたので、きょう中に訓練場から抜け出せるか心配していたが、紗月さんは初回のときと違って難なく操作方法をマスターした。

 

 ……マスターしたのは操作方法であって、エイムがボットの体にかすりもしないのは当然の結果だけど。

 てか、今の一瞬でヘットショットを何回も決めるようになるのは理不尽だからね……。そういう理不尽を相手にするのは非常に難解であり、ぐぬぬって気持ちが溢れるからやめてほしい。真唯、お前に言ってるんだ!! 

 

「どうしちゃったの? 気持ち悪いよ、れな子おねえちゃん……」

 

 コントローラーに怒りをぶつけていると、体操座りで背筋を丸め、膝に顔を近づけていた紗月さんが上目遣いで訊いてきた。

 

「はうっ! 猫撫で声での罵倒……、なにか、わたしの何かが目覚めそうな気があ……」

 

「きッ……」

 

「あれ? なんか一瞬変な人の声がしたような」

 

「チッ……。なんでもないよ、はやくマッチしようよお。早く人をぶっころしたいよお」

 

「ちょお!! 全然隠しきれてないから! 舌打ちまで聞こえたし!! いったい紗月さんはどんな心情でとってつけたような笑みをしてるの!? 怖いんだけど!?」

 

 なんだなんだ? 紗月さんの奇行はとってもわたしに都合が良かったので、ノリに乗ってあげていたが、限度というものはある。……わたしが毎回その限度がわからずにぶっとんでしまうのはいいとして、だ。

 

 罵倒されて唯一の良かった点があるとすれば、紗月さんの幼児退行はわざとであるということが証明されたところだろう。

 

 それはそれとして、今回のは訳がわからないよ。

 紗月さんが勉強よりもゲームを優先する理由ってなに? 急な妹属性を足してきたのは? 大親友であるわたしを罵倒する理由は? その全てが理解不能である。誰か答えを教えてくれ、真唯様、香穂様、紫陽花様……。

 

 わたしが天に祈る声は神に届いておらず、紗月さんの表情が憑き物が落ちたように無表情となり、コントローラーを置いてすっと立ち上がった。

 

「……はあ、面倒くさいわね。仕切り直すから、少し待っていてちょうだい」

 

「あっ、はい。わかりました」

 

 ツッコム余裕もなく、紗月さんがわたしの部屋から出るのを見送ると、その背中は隣の部屋へ吸い込まれていった。

 バタンと扉が閉じた。

 

 まあわたしも家族のプライバシーとか守る側の人間ですよ。たとえ、妹が部屋に友達を呼んでわーわー楽しんでいる時にも壁に耳をぺったりと張り付かせて会話の内容を盗み聞きするような愚民ではありませぬ。

 

 そう、遥奈の友達なら、だ。今回はそう、わたしの大親友……マイベストフレンドこと、琴紗月さんなので、盗み聞きしたって愚民ではありませんよ〜。…………ダジャレではないと、あらかじめではないがことわっておこう。

 

「…………」

 

「うん……」

 

「だっ…………お」

 

「よし、まったく聞こえん。我が家の防音は優れておるようだ」

 

 壁に耳を当てても、言葉にならない声と、無音しか聞こえてこない。聞こえたところでなんにもないけど、隠れてしていることを暴きたくなるのは人の性(さが)じゃんか。

 

「甘織……あなたってばつくづく愚かよね」

 

「さ、紗月さん……これには深い訳が」

 

「いいわよ、そういう人種だって理解しているもの。やり直すから、クッションに座った状態で待つように」

 

「すみません……」

 

 わたしはいそいそとクッションの元へ戻ると、その数十秒後に扉をコンコンとノックされた。

 いや、数十秒って心配しすぎでしょ!? わたしの信頼ってそこまで失っちゃった? 

 

 扉の方を見ると、紗月さんがエイのような柔和な笑みをして、手を背中で組んでいた。

 

「ごめんね、れな子おねえちゃん。待たせすぎちゃったかな?」

 

「全然!! いや、ほんと、全然待ってないんで。どうぞこちらへ」

 

「えへへ、お邪魔しまーす」

 

 紗月さんは顔にエイを貼り付けたまま、とっとと軽いステップを踏んで体操座りしているわたしの膝の中にお尻を入れてきた。

 紗月さんの天使の輪を浮かべる後頭部から、直にシャンプーとコンディショナーの柑橘系の匂いがわたしの脳をくらくらとさせてくる。

 

「ちょっとだけ足広げてくれない?」

 

「…………あっ、はい。いいですよ?」

 

「うれしい……。ここ、私の特等席だからねっ。誰か座らしちゃめっ、だよ?」

 

「も、もちろん! わたしの膝の中は紗月さんだけのもので、す。……め?」

 

 あれ? なんか紫陽花さん(5ちゃい)時代の名残のようなセリフが多い気が……。なんだ? 紗月さんの行動や言動の節々に誰かが監督したのではないかという雰囲気が漂ってくる。……そう、好きな作品だなあ。でも、どっかで見たことがあるような絵柄だなあって思ってたら、好きな作家の別名義だったっていう感じが滲み出ている。

 

「じゃあねじゃあね、私だけだと怖いから、れな子おねえちゃんも握ってくれる?」

 

「あったりまえじゃん!! FPSだけは自信あるから任せて。FPSだけはね!!」

 

 そんな疑問は、紗月さんのあま〜い誘い声によって消え去ってしまった。

 わたしはズボンで手のひらを拭いてから、紗月さんが握るコントローラーに、手を重ねた。

 

 紗月さんの手……柔らかっ。

 それに、 強く触れると壊れてしまうのではと緊張が走るくらい細くも、骨はしっかりとしている。

 

「手つきがいやらしいわ。……こほん、よーし、このノーマル? を押したらいいの?」

 

「うっ、すみません……。紗月さんの手がかわいいなぁって思ってたわけではなくて、人の手の上でコントローラーを握るという行為がなにぶん初めてでして、勝手が分からず紗月さんのおててを弄るような形になってしまうんです」

 

「…………始めるわよ」

 

 紗月さんは振り向かず、マッチ待機に入った。

 その耳は初めてキスをしたときのように真っ赤で、わたしまでその熱が移ってしまった。

 

 画面はすでに飛行船の中にいて、あとは降りて物資を集めるフェーズになっていた。

 

 その間は暇っちゃ暇なので、紗月さんの手から離して汗を拭こうとするが……。

 

「お願いだから、もう……離さないで。次、手を離したら……あなたを殺して私も死ぬわ」

 

「なんて重い誓約なんだ……! でも、わたしの手汗を紗月さんに浴びさせるわけには……」

 

「あなた、自分の妹にも同じことを言うのかしら?」

 

「えっ……あー、んー? 妹とこんな形でゲームしないので、なんとも。って、普通に喋ってるじゃん!? どういうトリガー!?」

 

「私、れな子おねえちゃんの言ってることわかんない」

 

「声のトーン戻ってますよ!!」

 

「わたしぃ、れな子おねえちゃんのいってることわかんな〜い」

 

「あーもう! なんでそんなにかわいいの!? ふざけてるでしょ!?」

 

「……ところで、あなたが叫んでいるから海へ落ちてしまったのだけど」

 

「あ……!」

 

 ゲーム中だというのに、無駄なことを言い合っていたせいで画面のアバターは勝手に飛行船から放り投げられ、その後も一切の操作もされることがなく、そのまま海へ身を投げてしまっていた。

 

 ランクがかかってないから、精神的ダメージはないけど……。

 

「も、もう一回いきます?」

 

 コントローラーを握って離さずにいた紗月さんは、洗練されたスピードでふぁいぶ君の電源を落とし、コントローラーを元の位置へ戻した。

 

 あなた……操作とかルールを全部忘れたとおっしゃっていたのに、本体の落とし方は完璧なのですね……って、納得できるかあ!! 

 

「……それじゃあ、数学からするという話だったわよね。甘織、そんなところで座ってないで、こっちにきなさい」

 

 紗月さんはそう言って、わたしの勉強机に手を乗せてこちらを見下ろしてくる。そこには能面のような無があった。

 

 ひどいよ、紗月さん。さっきまであんなにたのしそうにボットを打っていたのに、いざ本番を前にすると緊張するような優しい心を持ってないくせに。しくしく。

 

「何食わぬ顔で進めようとしないでくださいよ……。わたしはまだゲームの世界に浸ってたいんですよ……。まだ人を打ってないじゃないですか……!」

 

「人を打つだなんて野蛮だわ」

 

「人のことを本で殴った人とは思えない言動……!」

 

「あら、そういえば頭を強くぶつけると直前の記憶が飛ぶって本当なのかしらね? 甘織、目を閉じなさい。それが私に対する贖罪になるわ」

 

「わたしはなんの罪を犯したんですか、御大臣様……?」

 

「その減らず口と生意気な目を閉じなければ刺すわよ」

 

「弁論する余地すら与えてくれないのか、この……! 極悪非道! すけこまし! 勉強魔!」

 

 片腕を天に掲げ、未成年の主張をするも、悪代官は無言の圧力でわたしの腕を下げさせた。

 

 観念した犬のような気持ちで目と口を閉じると、唇に湿った感触が、ほのかにあった。

 紗月さんの命令を無視して目を開くも、わたしの視界は紗月さんの手によって閉ざされていた。やっぱりわたしの信頼度が地の底まで落ちている。

 

 でもでも、キスされたらびっくりするでしょ!! 

 わたしたち、今は付き合ってないんだし……。

 

「さ、紗月さん……? このキスは、なにゆえ?」

 

「あなた……前はあれほど戸惑っていたのに、きょうは冷静ね。不服だわ」

 

「キ、キスしといてその言い様……、わたしの唇はそんなに安いの? 自分でも心配になってくるんだけど」

 

「心配するほどではないと思うわ。少しの人だけ……片手で事足りる人数からの価値は担保されていると思うわ」

 

「あ、ありがとうございます……なのか?」

 

「ふふっ、きょうは助かったわ、甘織。実験ができたし、確信を持つこともできたわ。妹さんにも、よろしく言っておいてくれないかしら。早いけれど、私は帰るわね」

 

「へ?」

 

「それじゃ」

 

 紗月さんは謎だけを残して、学校終わりの帰宅部のようなスピードでわたしの家から退散していった。わたしの情緒をぶち壊したままにして、どういうつもりなんだ? 紗月さんの心のうちが読み取れない……! 

 

 あの……わたし……、紗月さんが妹属性を出した意味と、妹の部屋に行った意味と、キスしてきた意味の謎を解くヒントすら持ってないんだが!! 手がかりがない状態でもやもやとしたまま勉強するなんてムリだよ! ムリムリ!! あーあ! 紗月さんのせいで次のテストが赤点だ〜い!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしもし、紫陽花? 昨日は助かったわ』

 

『よかったあ。わたしもちょっぴり不安だったんだけど、れなちゃんの様子……どうだったか聞いてもへいき?』

 

『ええ、その……恥ずかしかったけど、甘えるのは悪くなかったわ。でも、あなたから教わったって気づかれそうになってしまったのよ。だから、明日このことを聞かれても──』

 

『わかった、なんとな〜く逸らすように頑張るね。うふふ。そっかあ、れなちゃん……覚えててくれてるんだ』

 

 

 

 

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