わたしが紗月さんの恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった⁉︎)   作:藤五月

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テスト後

 10月の中間試験が終わった翌日、紗月さんが我が家へ泊まりにくる。

 

 いつもならウキウキで部屋を掃除して、まだかなあ、まだかなあってリビングで待っているんだけど、きょうは違う。まるで、処刑前夜の囚人の気持ちだ。

 

 なぜって……そりゃあ、理由はひとつしかないよ。

 この二週間、紗月さんにつきっきりで勉強を教えてもらったのに、平均点に届かなかったんだもん!! 

 

 ただでさえ、この甘織れな子──平均点をとってぎりぎり紗月さんに釣り合いすらしないというのに。平均点すらとれないようじゃ、同じ次元にいられない!? 

 そんなのムリ! 紗月さんとは一緒にいたい……。

 でも、紗月さんに平均点を取れなかった言い訳をするのは、もっとムリだ。

 

『ぴんぽーん』

 

 来た。

 やつが、来た。

 

 冒険者に街を案内する老人のような足並みで玄関まで歩き、わたしは、魔王が待ち構えている扉を開けた。

 

「おはよう、甘織」

 

「お、おはようございます」

 

「……どうしたのよ。そんなにしょぼくれた顔をして」

 

「いっ、いやあ、なんでもございませんよお」

 

「ふ〜ん、まあいいわ。とりあえず入らせてもらってもいいかしら? この季節とはいえ、外は寒いのよ」

 

「も、もちろんですとも! ささっ、スリッパもご用意しております」

 

 ぺこぺこと頭を下げながら、紗月魔王を玄関に招き入れる。

 

「お茶とか用意するから、先に上がっててください」

 

「いいけど、なんなの? あなた……ちょっと気持ち悪いわ」

 

「へ、へへえ……」

 

 怪訝な顔をされるも、わたしは紗月さんを部屋に送り出し、鬱屈とした気持ちのまま冷蔵庫からお茶を出す。

 グラスを二つ用意し、注いでお盆に乗せ、部屋に持っていく。

 

 足で扉を開けると、紗月さんは扉側の青色の座布団に座っていた。

 すでに、その座布団は紗月さん専用となっている。

 

 わたしはそっと床にお盆を置く。

 

「ありがとう、甘織」

 

「い、いえいえ」

 

「ところで、どうしてそんなに離れて座っているのかしら? 私、あなたになにかした?」

 

「紗月さんがしたと言いますか、わたしがしでかしてしまったといいますか……」

 

「そう。なら教えてくれないかしら? 私、こう見えて相談されることが多いのよ」

 

「そりゃあ、紗月さんは聞き上手ですから」

 

「ええ、知っているわ」

 

 紗月さんは後ろ髪をふぁさあっとかき上げた。

 こほん、と咳払いをして、お茶を一口飲む。

 

 小さく喉を鳴らし、顔を背けて言った。

 

「恋人が困っていたら、寄り添うのが普通でしょ……」

 

 横顔からちらっと見える頬が朱に染まっている。わたしの抱えていた陳腐な悩みを吹っ飛ばしてくれた。

 わたしはお盆を飛び越えて、紗月さんの胸にダイブする。

 

「さっ、紗月さあん……! じ、実はわたし……中間テスト、へいぎんでんどれながったんですぅ!」

 

「……は?」

 

「は、じゃないですよお! せっかく、せっかく紗月さんが時間を作って勉強教えてくれたのに」

 

「もう……ある程度予想はしていたけど、やっぱりあなたはおかしい人よ」

 

 紗月さんは、わたしのおでこを強くおしかえしながら、微笑んだ。

 わたしは人生でなんかい、この人のことを綺麗だなんて思わないといけないんだろう。

 

 ご尊顔に見惚れていると、ちゅっとキスされた。

 軽く、湿った唇が当たるだけのキスだけど、隙をつかれたせいで尻餅をついてしまった。

 わたしは手の甲を唇に当てて、紗月さんを見上げる。

 

「きゅ、急になにするの!? ひ、人がこんなに苦しんでいるっていうのに」

 

「したくなったからじゃ駄目かしら?」

 

「駄目じゃ……ないけど」

 

 するならするって伝えて欲しい。

 じゃないと、わたしの心が耐えらんない。

 

 紗月さんほどの美女と顔を近づけさせるのにも、よし! いくぞ、いくぞ。いまいくぞ。うん、絶対行く。ぜったい、あと一秒……二秒……三秒後に行く。ぐらいの準備が必要なんだ。

 

「あなたがどう思っているかは知らないけど、私はあなたと勉強するだけでも楽しいのよ」

 

 紗月さんはわたしの横にきて、肩に頭を乗せてきた。

 いい匂い。

 

「わ、わたしも……」

 

「あなたと付き合うまでに交友関係があったのは、真唯しかいないわ。だから、普通の人が恋人とするような遊びを私は知らないのよ」

 

「お察しします」

 

 わたしも紗月さんと似たようなものだから、頷くしかできない。

 こくこくと首を動かしていると、紗月さんの体温が高くなった気がした。

 

「付き合ってちょうど一ヶ月よ。きょうだけは、勉強だとか、真唯だとか、そういうつまらないものを考えず、恋人らしいことをしたい……と、あなたの恋人が言っているのだけれど」

 

 さっきまで外にいたとは感じられないほど熱い手で、ぎゅっと手を握られた。

 流れでベッドまでたどり着き、身が沈むようなキスをされた。

 ぐっと唇で押さえられて身動きが取れないまま、10秒……20秒と時間が過ぎていく。

 

 ようやく解放されたと思いきや、紗月さんはなにかを企む悪役幹部の笑みを浮かべていた。

 

「甘織」

 

「ひゃ、ひゃい」

 

「あなたが平均点を取れなかったことに罪悪感を抱いているのなら、ひとつ、お願いがあるのだけど」

 

「世界征服の手伝いなら手伝わないからね」

 

「違うわ。きょうは、あなたが上になりなさい」

 

「え……ええ! そ、それはムリ! ぜったいムリ!! ムリムリムリムリ!」

 

「先に私を襲ったのはあなたの方でしょ。ほら、こうやって──」

 

 紗月さんは繋いでいる私の手を持ち上げて、こぶりな胸に触れさせた。

 

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