わたしが紗月さんの恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった⁉︎) 作:藤五月
深夜零時をまわるころ、頬を赤らめた母さんが帰ってきた。
「おかえりなさい、母さん」
私がリビングで出迎えると、母さんはいつも通り抱きついてきた。
「はーい、お母さんがお帰りになりましたー!」
「で、きょうもすぐに仕事ですよね」
「そーだよぉ。ちょっち荷物を取りに来ただけ。なにかあるの? あるんだったら、私の帰りを待たずに電話でもしてくればいいのに。愛する娘からの電話だったらすぐにでちゃうよ?」
「そこまで急じゃないんです。ただ、明日、うちに泊まりたいっていう同級生がいるんです」
そう言うと、母さんはただでさえにやけているその口角をにんまりと上げた。
「明日って……ええ? 明日!? 明日って、その、クリスマスのイブ的なやつじゃなーい! 部屋の飾り付けは? ケーキとか、ケンタッキーとか買ってこよっかなー。あ、でもでも、私がお邪魔しない方がいいやつだったりしてー」
ウキウキで部屋を練りまわる母さんに、曖昧な返事をしようか迷う。
どっちでもいいわ。なんて言ったら、母さんはぜったいにタイミングを見計らって部屋に入ってくるかもしれない。
私としても、甘織と過ごす初めてのクリスマスを大切にしたい気持ちはある。
だけど、家族みんなでクリスマスを過ごすっていうのも、憧れがないとは言い切れない。
ただ、母さんが帰ってくる可能性が少しでもあれば、甘織が緊張してしまうのは容易に想像できてしまう。
まったく、恋人があれだと、あれこれと心配してしまうわ。
「うふふ、紗月ちゃんったら、かわいい顔しちゃてー」
頬をついてくる母さんの指を払って、ため息を吐く。
「茶化さないでください」
「茶化してないよ、いいなーって思っただけ。それでね、家に来る子って、前に会った甘織ちゃん?」
「はい」
「あの子はいい子よねぇ。私のこと、紗月ちゃんのお姉ちゃんって言ってくれたしー」
「いつまでそのことを言っているんですか」
「えへへー」
「ところで、時間は大丈夫なんですか?」
「あっ! そうだった、いけないいけない」
掛け時計を見た母さんは、慌ててポーチに化粧道具やらを詰める。
準備を終えると、母さんは玄関へ向かった。
「あのね、紗月ちゃん。私は明後日まで……ていうか、連絡来るまでは帰らないようにするね」
「そこまで頼むわけにはいきません」
「嘘。紗月ちゃん、いっつもこの時間だったらベッドですやすやしてるのに、わざわざ私のことを待っててくれたんじゃないの? うふふ、これ以上訊くのは野暮かしら?」
「…………はい」
母さんは私の頭を撫でて、手を振って玄関を後にした。
肌に触れるブランドの香水がこそばゆい。
顔にかかる髪の毛を親指と人差し指で挟み、いじいじしてから自分の部屋へ戻ろうとした。
そのとき――玄関のドアが開き。
一枚の五千円札を手渡された。
「ご飯代なら自分で出します」
受け取らずにいたら、母さんはおくびれることなく言い放った。
「女の子同士でも安全にするようのゴムはドラッグストアとかに売ってるから、これで買っておいてほうが安心よ。お釣りはお小遣いね」
「母さん!」