怪異をぶちのめす   作:富士伸太

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夢が叶うダンスマカブル
夢が叶うダンスマカブル 1


 

 

 

 透明化した桜と通学していると、後ろから声を掛けられた。

 

「おっ、おはようございますぅ……」

 

 そこにいたのはカナちゃんだ。

 失神した彼女を保健室に預っぱなしだったので、少し心配していた……というか、怖い目にあっておいて俺に普通に話しかけてくるのだから案外度胸がある。

 

「おはよう。昨日は大丈夫だったか?」

 

「いやもう……情けない姿をさらしまして……保健室にも連れてってくれたみたいでほんとすみません」

 

 カナちゃんは、いやぁ恥ずかしい恥ずかしいと言いながらぺこぺこと頭を下げる。なんかこう、下っ端ムーブが妙に板についている。

 

「あ、でも音楽室、ていうか吹部には行かない方がいいかもしれません。谷川さん自身、幽霊扱いというかオカルト扱いみたいになってるようで……。桜の霊が乗り移ってるとかなんとかって」

 

 それは何一つ間違っちゃいないんだがな。

 

『よっしゃドンドン遊びに行こう』

 

 という桜の言葉をスルーしながら、俺はカナちゃんの言葉に頷いた。

 

「わかった。部活を邪魔したいわけでもないしな。行くのは止めておこう」

 

『えー、つまんなーい』

 

「あのぅ……そのうち、線香を上げに行ってもよろしいですか?」

 

「ウチにか? 桜の位牌や仏壇はあるし、構わないが」

 

「ちゃんとお詫びをしておきたいなって……釘を刺されましたしぃ……」

 

「釘を刺された?」

 

 あの手紙の末尾の「化けて出るよ?」のことだろうが、しらばっくれた。

 

「いやぁ、今にして思えば幻覚だったような気はするんですが……先輩に噂好きを注意されたんです。それで反省するところもありまして」

 

「反省?」

 

「マスコミに色々と部活のこととか桜ちゃん先輩のこととか話しちゃったんですよね……。なんかマイク向けられたら自分が事件の中心人物みたいな気がしちゃって。あ、でも、できるだけ美化して伝えたんですよ!」

 

 なるほど、それで桜ちゃんの個人情報が紙面に残ってしまったわけだな。

 

 銀座さんに見せてもらった記事にもカナちゃんの証言によるものがあったのだろう。とはいえ、そのおかげで俺もマンションの事情を知って除霊できたところもある。難しいもんだ。

 

「怖くはないのか?」

 

「怖いですけど……桜ちゃん先輩とケンカみたいになったままなのもイヤですし……。むごい死に方した人にこんなこと言うのも変なんですけど、なんか死んじゃったって感じしないんですよね……」

 

 変ですよね、とカナちゃんが自嘲する。

 

「いや、当人も喜ぶだろうよ。いつでも来てくれ」

 

「ありがとうございます!」

 

『あー、れいちゃん女の子を部屋に呼ぶ気だー。浮気者だー』

 

 桜ちゃんが冗談めかして俺を突っつく。

 

「それより谷川くん。もう一つご相談というか……何というか……」

 

「相談? なんだ?」

 

「ええ、まったくの別件なんですが……。谷川くんってダンスに興味あったりしますか?」

 

「全然ない」

 

「ですよねー」

 

 相談がいきなり終わった。

 ……と思ったが、これはただの話の前振りに過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 朝のホームルームの前、俺はカナちゃんから詳しい話を聞いた。

 

 近頃、とあるショート動画の投稿アプリでとあるダンスが幾つか投稿されているらしい。

 

 だが「流行っている」とは言いがたい。

 

 アプリのダウンロード数そのものが一万程度。そもそもユーザー登録しただけでは投稿する資格がないため閲覧ユーザーの方が多数派だ。投稿するためには、すでに投稿者側となった人から招待メールを受け取らなければならない。

 

 だがこの招待メールというものが曲者だ。ただメールを受け取っただけではない。制限時間内に自分のダンス動画や歌ってみた動画などを配信しなければ、「登録の意思なし」とみなされて招待メールが無効になってしまう。

 

 このアプリの名前は『願いが叶うダンスマカブル』。

 

『めんどくさー。フツーのアプリでいいじゃんね』

 

(そもそも普通のアプリでもダンスを投稿するのがわからん)

 

『え、そこはいいじゃん。楽しいし。やってみようよ』

 

(やらん。ダンスにいい思い出はない)

 

 桜ちゃんは動画投稿そのものは好きなようだ。

 確かに友達と一緒に、こういう記録を残すのは好きな方だろう。

 殺人犯にナイフを振るうよりよほど似合っている。

 

 ちなみに俺は嫌いだ。

 

 死者を踊らせるネクロマンサーとか、謎のデバフをばらまく吟遊詩人の悪魔とか、ダンスが強いやつはどいつもこいつも厄介な強さを持ってたのでトラウマがある。

 

「で、カナちゃん。これをインストールしてほしいってことか?」

 

「いえ、しないでください。誰かから頼まれても拒否してください」

 

「うん?」

 

 妙なお願いだ。実はカナちゃんがヘビーな投稿者で「動画を撮ってくれ」と頼むとか、あるいはフォローしてくれと頼まれる流れかと思ったが。

 

「谷川くんは転校生だし、何も知らないと思って『一緒にダンスしようよ』とか言ってくる人がいるかもしれないので……」

 

「まるで詐欺でも横行してるみたいじゃないか」

 

「実際、詐欺です……もし噂が本当なら、そうする気持ちもわからなくはないけど……」

 

 カナちゃんが陰鬱な顔をして意味深なことを言う。

 

「何があるって言うんだ?」

 

「……このアプリの招待メールは、一緒に仲間になろうって親切なお話じゃなくて失敗のペナルティの押し付けなんだそうです。まあ、招待メールを待ち望んでる人なら悪くないのかもしれないけど……」

 

「なんだそれ?」

 

 どうも意味深かつ曖昧だ。カナちゃんは確実に知っていると思うが、だが何かに遠慮している。声も小さい。

 

 もう少し突っ込んだ話を聞こうと思ったそのとき、教室の後ろの席から喜びの声が響き渡った。

 

「きたっ! 招待メール!」

 

「マジで!? どうする!?」

 

「やめときなよー、変な噂あるよ」

 

 最初に声を上げた女子生徒は食い入るようにスマホを見ている。

 そして指で画面をスワイプして下へ下へと何かを読み進め、そしてごくりと唾を飲み込んだ。

 

「……やる。絶対成功する」

 

 女子生徒が決意をするようにつぶやき、その緊張感が友達にも伝わったようだ。

 あの女子生徒たち三人だけ、どこか異様な雰囲気になっている。

 

「ちょっと空き教室探してくる」

 

「やめときなって……あたし知らないからね」

 

 囃し立てる友達と、制止する友達もいる。

 だが結局は三人とも席を立って足早にこの教室から去っていく。

 何かをするらしいが、何なのかわからん。

 

「げえっ……ヤバいですよ谷川くん……見に行きましょう」

 

「カナちゃん反省してないだろ」

 

「えっ、いやっ、今の反射的に言ってしまいまして……す、すみません……。でも下手したら誰か倒れるかも……死んだ人もいるって噂ですし」

 

「倒れて死ぬ?」

 

 たかが動画投稿サイトにあるまじき危うい言葉が出てきた。

 

「『願いが叶うダンスマカブル』はマイナーなアプリだし入会難易度もすごい高いけど、配信者登録に成功すれば絶対にバズるんです」

 

「ん? アプリの利用者は少ないんだろ? それでバズっても」

 

「そうです……けれど、投稿動画を編集して転載されたものは別です。すごいハイクオリティな演出がついて、楽曲も豪華になって、絶対にバズるんです」

 

 そういってカナちゃんはスマホを取り出し、動画アプリを開いて俺に見せてきた。そこには百万再生以上を記録したダンス動画が流れている。

 

「これがその動画なのか?」

 

「はい。普通の無編集のダンスが、こんな風になるんです。だからこれを知った人はアプリを入れて招待を待ちわびてて……。さっきの子も、多分そうだと思います」

 

 煌びやかな画面。スタイリッシュな衣装。プロの作ったミュージックビデオと言われたら素直に信じる。というか、素人投稿動画が元だと言われても信じられない。

 

「誰でもこうなるなら、流行るのもわかるな」

 

「誰でも、じゃありません。審査に合格した人だけです」

 

 ようやく話が見えてきた。

 審査に合格した人は栄光を手にする。

 だが失敗には代償が伴う。

 

「招待されたときの審査……自分の得意な歌とかダンスの動画を運営に送って不合格判定されると……呪われてしまうんです」

 

「課題と呪いか……」

 

「それで虚弱になって入院したり、中には衰弱死した人もいるとか……。そういう都市伝説なんです」

 

 噂好きのカナちゃんではあるが、今ばかりは無責任な楽しみに浸っている様子はまったくない。

 

 本物の恐怖が、カナちゃんの瞳の奥で揺れ動いている。

 

 

 

 

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