なんで……こんなことになったんだろう。
えっと……頭では……わかってるんだけど……そのときの気持ちを思い出せないって言うか……はぁ……なんか凄く疲れて……。
……ああ、ごめん、話の途中だったよね、一瞬眠っちゃった。
えっと、そう……ダンスマカブルをやったきっかけ、だっけ?
最初は……ダンススクールの後輩の子が配信を始めて、凄く垢抜けてて……それで焦ってたんだ……中学じゃ全然地味だったのに……。
いや、地味っていうかさ、見た目あんまり気にしてないだけで、ダンス部じゃ一番ってくらい練習熱心だった……絶対化けるなって思ってた。
あたしはあの子より早くダンス始めてたし、それまでの練習量とか積み重ねはあたしの方が絶対多かった。だから中学生のときはまだあの子に教えられる側だったから、それで……楽しかったんだよね……。才能ある子だけど、あたしのこと慕ってくれたし……満足してた。
もちろん、いつか上に行かれるって思ってた。でも予想より全然早くって。十年後くらいに雲の上の人になるなら全然わかるんだけど……一年も経ってないのにさ。
だって、十万もいるんだよ。あの子をフォローしてる数。地元のバスケチームのイベントとか市のイベントで呼ばれて踊ったときだって再生数一万にも行かなかったのに。
なんか、それ見てたら焦っちゃって……あたしだってまだ追いつけるって思って……。親もダンスとかの習い事は中学までって言ってたし、ダンスやめてからは見る専でいいやって納得してたのに。
それで公園とかで練習とかして、配信とかもやってみたんだけど、やっぱ自己流じゃ限度あるしさ。いや、自己流で限界感じてるからダメだったのかな。
あたし、こっち側だったんだ。あの子たちみたいにキラキラできなくて、それをずーっと見上げる側で、手を伸ばしても届かないんだって。
頭ではわかっても諦められなくて、公園で練習してたら……ダンススクールの別の友達が、教えてくれた。あの子、きっとズルしたんだよって。
もしかしてあの子、ダンスマカブルを使ったんじゃないかって。
……それもわかってる。絶対そんなことない。ちゃんとした天才が、ちゃんとした練習をして、ちゃんとデビューして、みんな応援したくなったってだけ。こんなズルしてるはずない。
でもズルしてるかもしれないって思ったら、あたしでも手が届くじゃん、あそこまで行けるじゃんって、そう思ったら止められなくて……招待メールの募集をかけて……。ああ、でも、もう、負けたんだ。
勝ちたいって気持ちもなくなって……。
……ごめん。もう、寝て、いい……かな。
◆
倒れている子の眠気の訴えに、福内は無慈悲に首を横に振った。
「駄目です」
そう言って、軽く頬を叩く。
無感動な顔から繰り出される平手は見ていて少々怖い。
「い、痛いんだけど……」
「傷みを与えるためにやっています。寝てはいけません」
「あ、あんたさっきから何なの! せめて保健室に連れてくとかさぁ!」
倒れた子の友達が福内の襟首を掴んだ。
だが福内は一切動揺することなく反論した。
「あなたたちもわかるでしょう。これは病気や通常の体調変化ではありません。むしろ意思や感情の起伏がなくなる方がよくない」
「じゃ、じゃあどうすればいいの!」
「できる限り眠らないようにしましょう。お友達の皆さんも話しかけるように。雑談でもなんでもいいので、話しながら保健室に運んでください」
「わ、わかった」
倒れた子の友達二人は、やるべきことを与えられてすぐさま動いた。
だが福内は厳しい表情を浮かべたままだ。
そして、俺にだけ聞こえるように小さな声で言った。
「……恐らくこのまま消耗した状態が続くでしょう」
「だろうな」
俺も同じ見立てだ。
このままでは死に至る予感をひしひしと感じる。
「魅力を奪った、とか言ってたな?」
「……魅力というのは言葉のあやですよ。いや、あのアプリ側は魅力こそが人間の魂の根源であると認識しているのかもしれませんが……彼女が奪われたものを、魔力と呼びます」
「オカルトめいた言葉を避けただけか」
魅力=魔力。
しかし地球においても魔力という表現で合っててよかった。異世界だと霊気とかオーラみたいな表現をする独自流派の魔法使いもいてややこしかったものだ。
「魔力を奪われれば生きる活力もなくして、衰弱していく。多分、原因不明の虚弱体質ってことになるんだろうな」
「そうでしょうね」
「だが魂を鍛え上げれば魔力も強くなり、超常の存在に勝つこともできるし、まあ、ちょっと便利な魔法なんかも使える」
「魔法? その姿で魔導師なのですか……? そもそも日本にはいないはずですが……」
なんか意味深なことを言ってるが知らん。
俺が魔法を習ったのは異世界だしな。
「病院に連れて行っても無駄なら魔法に頼る。それだけの話だ」
「ヒーリング系の能力を持っているのかもしれませんが、無駄です。これは肉体や精神の疲労ではありません。力そのものが奪われているのですから」
「わかっている。回復力や魔力の譲渡みたいなもんだ」
「魔力の譲渡はもっと無意味です。魔力とは、自分の魂の中にあってこそ力となるもの。体の外に放出すれば十分の一にまで減衰します。この子が復活するほどの魔力を与えようとしたなら、あなたが死にますよ」
俺は福内の言葉を無視して、手のひらに魔力を集める。
「大丈夫だ。むしろ、この子が受け止められるかどうかの方が問題だな」
俺は何度となくレベルアップを果たし、そして死の領域に踏み込んで復活した。常人の数千倍から数万倍の魔力を保持している。十分の一になろうが百分の一になろうが、大した問題ではない。
むしろ心配すべきなのは与え過ぎだ。空気を入れすぎた風船やタイヤのように相手の肉体や魂が破裂してしまう可能性がある。ほんのちょっとだけ、指先で塩をつまむだけで重量がわかる料理人のように、微量の魔力だけを手のひらに集める。
「【魔力譲渡】」
光の粒を、倒れた子の口に入れた。
その光はすぐにこの子の魂にたどり着いて……。
「ほわーーーーーーーー!?」
倒れた子が絶叫しながら起き上がった……いや、浮かび上がった。
友達がその様子を呆然と見ている。
目や口や耳などの体の穴から凄まじい閃光が放たれ、こぼれだしたエネルギーが床と空気を鳴動させて、周囲の窓ガラスにヒビが入る。あ、鼻血が出た。
「……ちょっと入れすぎたな。魔力を鍛えてない人間にはもうちょっと少ない方がよかったか」
『ちょいちょいちょい! れいちゃん何やってんのぉ!?』
桜がはわわわわと慌てている。
俺はなだめるように答えた。
「魔力量が少し多すぎて俺の魂に刻まれた職業特性も混ざったみたいだ。まあ……寿命が縮んだりはしない。問題ない」
『職業特性……って、なんか我慢すれば死なないみたいなめちゃめちゃ脳筋なやつ?』
「それはバーサーカーを極めた果てに取得できる上位スキルだ。バーサーカーになるだけで得られるスキルは『勇猛』」
『なんかすごい嫌な予感するんだけど、教えて?』
桜が額に手を立てて悩ましい顔をしている。
ちなみに福内さんはフリーズしていた。
状況がよくわかってないようだ。
「戦闘中は攻撃力が上昇して防御力が低下する。そして……」
「くっそ……何が不合格だよ……ぜってーゆるさねえしぃ……!」
「あっ、夏樹! 起きた!? 元気!? ていうか正気!?」
「なんか持ち上げられてるんだけど! 夏樹ってそんな力持ちだったっけ!?」
怨嗟の声を上げながら夏樹と呼ばれた子が地面に降りる。
だが先程までとは打って変わって、活力に満ちている。エネルギーのほとばしりによって制服の袖やスカートの裾がちょっと破れて、荒々しく勇ましい雰囲気が漂っている。そして力こぶを作って腕を上げれば、心配して抱きついていた子の体が持ち上がった。
「意識が失っている状態でも戦闘ができる」