怪異をぶちのめす   作:富士伸太

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夢が叶うダンスマカブル 7

 

 

 

 茜さんはお菓子作りが得意なようで、彼女が焼いたタルトを出すと福内が嬉しそうに頬張った。甘いものが好きなようだ。俺も食べるが、「なんとなく甘い気がする」「サクサクする」まではわかった。果物の違いはよくわからんが、好きな味だと思う。

 

 しかしお菓子を食べる福内は妙な小動物感があるな。ハムスターとかタヌキとか。

 桜たちも妙に生暖かい目で福内を見ている。

 

「……こほん。取り乱して失礼いたしました。まず本題に入る前に、一つ大事なお話を」

 

 と、福内が引き締まった顔で俺たちに告げた。

 

「大事なお話?」

 

「あなたたち……というより九神を封じるため、水面下では数十億円規模のプロジェクトが進行しています。すぐに中止しなければマンションそのものが取り壊されかねません」

 

『『『数十億!?』』』

 

 銀座さんからはそんなこと全然聞いてないんだが。

 

 いや、銀座さんはただの不動産屋だ。悪霊退治のような裏稼業の動きなど知る由もないか。可哀想な話だが。

 

「事前調査がなされて悪霊の不在が確認されればプロジェクトも中止されるとは思いますが……その前に九神を倒したことを申し出た方が丸く収まるでしょう。何億円かの報酬も出るかもしれませんし」

 

『おくえん!? マジで!? もらおうもらおう! すぐもらおう!』

 

「そのためには……私が推薦人となって谷川くんと桜さんを退魔師として登録するのが一番でしょうね」

 

『よろしくねリンちゃん先輩! 信じてるからね……! 絶対お願いね……!』

 

「え、ええと……入会の可否は協会の審査がありますから保証はできませんが……」

 

 桜が福内さんにプレッシャーを掛ける。

 しかし金額が大きすぎてちょっとピンと来ないな。

 

「そもそも桜たち……というか死んだ人間は退魔師になれるのか?」

 

「退魔師となる上で、生きているか否か、人間であるか否かは問われません。問われるのは、推薦人がいること。現在社会への帰属意識があり常識や順法精神を持っていること。そして悪霊と戦うための最低限の実力。この三要素ですね」

 

 冒険者ギルドより緩い。すごいな。

 

「うーむ、この手の組織に加入するのは面倒が多くてあまり気が進まないんだが……。嫌味な先輩が突っかかってきたり」

 

『えー、れいちゃんやりたくないわけ? 突っかかってくる先輩はさっきぶちのめしたじゃん!』

 

「言い方」

 

 またも福内さんのメンタルにダメージが入った。

 

「しょ、正直に言えば、偏った人材が集まっているのも事実です。ただ、谷川さんや雲取家の皆さんのようなあまりにも強い人は、退魔師に襲われたり危険視されないためにも退魔師になった方が平和を保てるとは思います。私が言える言葉ではないのですが……」

 

『うそうそ、冗談だって。リンちゃんはいい子。えらい子。だからお願い! ね!?』

 

「疑ってるわけじゃないさ。確かに所属がある方がトラブルは減りそうだ。よろしく頼む」

 

「承知しました。こちらこそご迷惑をおかけしたこと、申し訳ありませんでした」

 

 福内が深々と頭を下げる。

 

「……で、ようやくダンスマカブルの件だな」

「はい。まずは私が調べた限りのことをお教えしましょう」

 

 

 

 

 

 願いが叶うダンスマカブル。

 

 招待制動画配信アプリとしてアングラな界隈で密かな人気を集めるアプリで、視聴者として使う分には何の制限もないが、投稿や配信ができるクリエイター登録するためには、課題をクリアしなければいけない。

 

 ダンサーとしてクリエイター登録するのであれば課題曲に合わせたダンスを完璧に、魅力的にこなすことが課題となる。他にも、歌い手や楽器演奏者、歌とダンスを合わせたパフォーマーやアイドルなどで登録が可能だ。音楽系に特化しているためか、料理人やイラストレーターなどでは登録できない。

 

 そして、課題に成功すればクリエイターとなって大きな注目を浴びることができて、派手なMVなども作ってもらえる。だが失敗すれば、魅力……というか魔力を奪われる。

 

 魔力を奪われた者は衰弱状態に陥る。俺のように肉体とともに魂や魔力を鍛え上げた人間や霊能力者なら自力で回復できるだろうが、一般人ならば衰弱状態が悪化して死を迎えるだろう。

 

 だが、救済措置もある。課題に失敗した者には友人知人を推薦する権利が得られる。そして推薦された者が課題に挑めば、魅力の何割かを戻してもらい、衰弱から多少の回復を見込める。

 

 と、これが福内から聞いた話だ。ダンスにチャレンジした原夏樹の言葉を裏付けると同時に、今まで知らなかった情報も幾つかあったな。

 

「なるほどな……。ダンスマカブルはギャンブルみたいなもので、勝者が多数の敗者の魔力を得られるって仕組みなんだろう。課題をクリアした人間は、運営がMVを作ってくれるだけじゃなくて、敗退した人間の魔力を得て魅力的なパフォーマンスができるようになる……ってところじゃないか?」

 

『ひえー、絶対バズるってそういうことかぁ……』

 

 俺の予想に、桜が目を丸くした。

 だが話の肝はここからだ。

 

「だが本当に儲かるのは、課題を突破した人間じゃない」

 

「はい。利益を得るのは常に胴元……つまりアプリの運営側です」

 

「だよな」

 

「それに勝者となった者も、果たして幸福になったと言えるのかどうか……」

 

 福内が、険しい表情で呟いた。

 

『え? なんで? バズってハッピーなんじゃないの?』

 

「恐らく、他者から与えられた力を我が物とするのは中々難しいのではないでしょうか。最初に注目を浴びたはよいものの、次の動画、次の次の動画で視聴者は離れています。実際見ればわかるのですが、明らかに魅力が減っているので」

 

 そう言って福内がスマホを取り出し、アプリを起動した。

 ダンスマカブルではなくごく普通の動画配信アプリだ。

 

『うわっ……スマホごっつい……。女子高生が使っていいやつじゃないでしょ』

 

「そこは別にいいじゃないですかぁ……!」

 

 黒くてデカくて、妙に重そうなスマホだ。

 普通のスマホより二倍くらい重みがあるんじゃないだろうか。

 

「いわゆるタフネススマホというもので落下や衝撃に強く、銃弾くらいなら弾き返せます。さらにこれは、霊障があっても起動できるよう改造している特注品なんです。そして……」

 

 福内は早口でスペックを列挙していくが、桜は「ふーん」と興味なさげだった。

 

「で、これがダンスマカブルの試練をクリアした人のチャンネルか?」

 

「はい、そうです。こちらを御覧ください」

 

 投稿済みの動画一覧を示す。

 もっとも目立つのは一番最初に投稿した動画で、再生数が百万を超えている。

 フォロワー数も凄い。

 だが次なる動画からは様子が異なる。

 数字が格段に減っている。10万未満だ。

 次の動画、次の次の動画もどんどん再生数が減っている。

 

「動画の内容も見てみましょうか」

 

 福内が画面をタップすると、これまた豪華なMVが流れ始めた。

 恐らくは歌を歌ってダンスマカブルの試練をクリアしたのだろう。歌唱力が凄い。

 バラード系の歌を切々と歌い上げるその姿は、確かに心を打つものがある。

 

『うーん……どっかの動画だけがすごくバズって他の動画は全然見られないっていうのはあるけど、これはちょっと露骨だよね……? ここまでしっかりしたMV出せるなら次の動画も見たいって思う人多いと思うんだけど』

 

「……すでに飽きられているってことか?」

 

「次の動画も見てみましょうか」

 

 福内が次々と再生していく。

 最初の動画と同じジャンルの歌が流れてくるが、どれも最初の動画ほどの豪華さはない。

 いや、それだけではなく歌唱力もなんだか落ちているように感じる。

 

『数字もだけど、歌もなんか最初のと比べてパッとしないねー。なんでだろ?』

 

「……これが魔法だとしたら説明はつく」

 

『どーゆーこと?』

 

「最初の動画を投稿するときは、ダンスマカブルからもらった『魅力』を使って自分の実力以上の歌やダンスを表現できた。だがこの手の精神エネルギーを完全に自分のものにするのは難しい。体に馴染まなくて消失してしまう。あるいは消失する前にダンスマカブル側が回収しているかもしれないが」

 

 俺の言葉をふんふんと聞いていた桜が、話を飲み込み、そして叫んだ。

 

『……詐欺じゃん!?』

 

「まあ……詐欺と言えば詐欺かもしれない。試練をクリアした人にどういう説明してるかはわからんから何とも言えないが」

 

『うーん……他人から奪った魅力での成功であって本当の実力の成功じゃないって、この投稿した人とかわかってるのかな?』

 

「わからん。だがダンスマカブルとかいう運営が教える義理はあるようには……」

 

「いえ、義理というか義務はあるのではないでしょうか」

 

 と、福内が言った。

 

「けど、原夏樹が何か説明を受けた様子はなかったぞ」

 

「それが妙なんですよね」

 

『何が妙なの?』

 

 と、桜がこてんと首をひねる。

 

「こっちの世界ではどうなのかわからんが、魔術ってのはけっこうロジカルで厳密で……けっこうフェアだ。炎を出したり超常現象を起こすならば対価として魔力なり何なりを消費する」

 

『うんうん』

 

「この手の大規模な儀式を行うなら、儀式に参加する人間だけじゃなくて、儀式を主催する側にも色々とやらなきゃいけないことが多い。魔法陣を描くとか、寺院を建立するとか、供物を用意するとかな。だが学校に……人気のない通路にそんなもんあったか?」

 

『生贄かぁ……。視聴覚室の標本くらいかな』

 

「儀式に準備がいるのはこの世界でも同じです。私は……これは蠱毒の儀式に近いと思いました」

 

「蠱毒か……」

 

 異世界にもあった。毒虫や毒蛇、毒魚や毒サソリなどを集めて殺し合いをさせて、最後に残った一匹が他全ての毒を持つ最強の毒を持つようになる。たまにヴィニもこんな感じで毒薬や霊薬を作っていた。毒虫の採集を命じられてめちゃめちゃキツかった。

 

「参加者同士が戦っているわけではありませんが、試練をクリアできるか否か全員が試され、勝者が力を得る。しかし、最終的には儀式を執り行う者が力を総取りする……と考えれば似ているかと」

 

 ダンスマカブルは毒ではなく魅力を奪い合う蠱毒、ということだろうか。

 

 

 

 

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