怪異をぶちのめす   作:富士伸太

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夢が叶うダンスマカブル 8

 

 

 

「しかし蟲毒の儀式にしちゃ、あまりにイージー過ぎないか?」

「ですね、儀式を行うための準備や段取りが見えません」

 

 福内も俺と同じ疑問に気付き、さらにその先にたどり着いていたようだ。

 

「しかし、契約内容を開示して同意させることができたならば、儀式を実行するハードルは大きく下がります。確実に、そして簡単に成功させるのは、儀式を理解し思いを一つにする同志や信者の集団です」

 

『どーゆーこと?』

 

「例えば、そうだな……人を弔う葬式とか、安寧を願う礼拝とかは、趣旨を理解して同じ祈りや願いを持つ人間が集まれば道具がなくたって式典や儀式として成立するんだ」

 

『あ、なんかわかった。戦争映画でたまにあるよね。簡単でも戦地で戦友を弔う、みたいな。あと教会が空襲で焼けたから外でミサをするとか』

 

「そうだ。主催者と参加者の意思があれば成立する」

 

『じゃあ、ダンスマカブルみたいに「有名になりたい」って同じ思いを持つ人が、アプリで集まって儀式になってるってこと?』

 

「確かに『有名になりたい』、『魅力的になりたい』って意味なら、招待メールを受け取った全員が同志なんだろうが……。みんながみんな儀式の内容に同意して、その上でチャレンジしてるのか?」

 

「そこなんですよね……。明らかに深く考えずに参加している人はいるでしょう。それでもこのような強固な儀式として成立している」

 

『ちっちっちっ。甘い。甘いよー二人とも。真面目すぎて浮き世離れしすぎ』

 

 桜が妙に自慢げに人差し指を横に振る。

 

「桜。何かわかったのか?」

 

『趣旨を理解してるかどうかと、同意してるかどうかって別問題なんだよ』

 

「どういうことでしょう……?」

 

 福内が首をかしげた。

 

『考えてもみなよ。あたしらみたいな学生が、規約にいちいち目を通すわけないじゃん。それでもアプリをインストールするときは内容なんて見ないで「同意しました」ってチェックボックスにチェック入れてるんだよ』

 

 あっ、という声が福内の口から漏れた。

 福内は真面目に読んでそうだが、言われてみれば俺もちゃんと読んだことはない。

 

「で、ですが、規約を読むことが義務になっているものも多いのでは?」

 

『目を通さなきゃいけないとしても、さっさと一番下までスクロールしてポチッと押すだけ』

 

「……それにクリエイター登録の課題を受けるには時間制限がある。誰もちゃんと読まずに同意しちまう。参加者が内容を理解していなくても、『文章を読ませた』って手順をしっかりと踏んでいるんだ」

 

 福内が固まっている。

 こいつも、人間の怠惰さというものを甘く見ていたようだ。

 

『じゃあ、ここを踏まえて改めて夏樹ちゃんに聞いてみる?』

 

「そうだな。恐らくそのときに了解ボタンとかを押してるか確認だ。確認ができたら……」

 

「了解ボタンを押す直前の人を捕まえる。あるいは……私たちの誰かが招待メールを貰う側になるか、あたりでしょうか」

 

「そうだ。そこでクリエイター登録時の規約や契約内容を解読すれば……」

 

「……相手がどのような術者なのか推察ができます。あるいは運営の居所を割り出すことなどもできるかもしれません」

 

 三人が、よしと頷く。

 俺たちの様子をうかがっていた茜さんと杏子さんが、よくわからないけど頑張ってねと応援を送ってきた。

 

『よーっし! じゃあ反撃開始だぁ! 目指せ一攫千金! 生活費! 会社や学校に縛られない優雅なフリーランス生活ぅ!』

 

「いや高校は卒業したいが……」

 

 こうして俺たちは、改めてダンスマカブルの事件に挑むこととなった。

 

 

 

 

 

 

「運営にあんたらのこと推薦するのは構わないけど、確実に招待メールが送られるとは限らないよ?」

 

「そうなのか?」

 

 翌日、俺たち三人と原夏樹は再び学食に集まった。

 

 そこで「招待メールが俺たちのところに届くよう推薦してほしい」とお願いをしたが、その返事は少々つれないものだった。つれないというか、現実を教えてくれたと言うべきか。

 

「そもそもあんた、どーゆークリエイター目指してるのさ? 活動実態があるなら高確率で招待メールもらえるけど、単にふわっと『クリエイターになりたい』だけじゃメール来ないよ」

 

「自慢じゃないが、破壊はできても創造はできないんだ」

 

「あんたほどの男に言われたら何も言えないよ」

 

 夏樹が微妙な表情を浮かべる。

 というかちょっと引いてる。

 

『そんなことないよれいちゃん! 芸術は爆発だよ!』

 

「爆発……。そうか、何か魔法を使ってパフォーマンスをすればいけるか?」

 

『そうそう。採石場とかで大爆発するとか』

 

 桜が冗談めいたことを言う。

 だが福内はあまり乗り気ではないようだ。

 

「……自身の霊能力や異能を映像として出してしまうと、ダンスマカブル運営も警戒するのではないでしょうか。あちらはオカルトの知識と映像編集技術があるはずで、『種も仕掛けもない魔法』を見破ってくる可能性があります」

 

「警戒するほどか? ちょっと火を出して岩石を爆発させたり、素手でコンクリを砕く程度の超能力者って探せばいるんじゃないか?」

 

「いません。いませんから」

 

 福内が手を横に降って否定する。

 表情変化に乏しい子だから今ひとつわかりにくいが、恐らくけっこう呆れている。

 ……えっ、呆れられるような発言だったか?

 

「そんなにか?」

 

「そんなにです」

 

『れいちゃんくらいやべーやつポンポンいたら地球滅んでるよ』

 

「わたしも転校生のことよくわからないけど、やべーやつだってことだけはわかる。いや他の二人もやべーんだけどさ、あんたはなんか別格」

 

 三人全員が頷いている。

 そんなに、というレベルだったようだ。薄々わかってはいたが。

 

『あ、別に怖いとかキモいとかじゃなくてね。ヤバいってだけでね』

 

「雲取さん。あまりフォローになっていません」

 

「同情が身にしみるからそのくらいにしてくれ。で、魔法がなしならどうする? 夏樹は誰か協力して売れそうな人に心当たりあるか?」

 

 俺がそう言うと、夏樹に視線が集まる。

 夏樹は眉間に皺を寄せて答えた

 

「いや、うーん……。あたしに推薦メール送る権利があるのは確かだけどさ……。ダンスマカブルが招待メール送るくらい何かに打ち込んでて、だけど運営をぶっ潰すために協力してくれる人間って言われてもね……」

 

「やりたくなるくらいなら邪魔されたくはない……そう考えるのが道理か」

 

「遊び半分で同意してくれる友達ならいるけど、部活とか習い事でやってたとか、大会とか演奏会に出たとかって経歴とかも一応チェックして足切りしてるっぽいんだよね。そこがネックになってくると思うよ」

 

 夏樹の言葉に、俺と桜は眉間に皺を寄せた。

 人選がどうにも難しい。

 

『ねー、リンちゃんはそういう知り合いとかいない?』

 

「私もちょっと……退魔師以外の課外活動は、高校に入ってからはまったくしていなくて……」

 

 福内も思い当たる人はいないようだ。

 

 こうなれば、協力してもらうという方向ではなく、ダンスマカブルに挑戦する人の意思を無視してスマホを奪い取るような強攻策を考えなければいけないかもしれない。

 

「……ん? あれ? そういえばあんた福内リン……だよね?」

 

 そのとき、唐突に夏樹が質問を投げかけた。

 

「そうですが?」

 

「今まで忘れてたけど、中学のとき同じ学校だったよな。梅多摩中学だろ? クラス違ってたから話すのは初めてだけど」

 

「ああ、そういえば」

 

 二人は同じ中学だったか。

 いや、しかし今の福内リンは、『本来の福内リン』の式神だ。

 こいつが通っていたのか、それとも本体が通っていたのかわからない。

 

「あんた部活やってたじゃん。お琴とお三味線。文化祭の出し物で演奏してて上手いなーって思ったんだけど、あんたじゃダメなの? 確か部としてコンクールとかも出てなかったっけ?」

 

「……それは、ちょっと、難しくて」

 

 珍しく、福内の言葉の歯切れが悪い。

 

「んー、もったいないなー。確かまだ動画残ってたと思うけど」

 

「そうなのですか?」

 

『なにそれなにそれ。めっちゃ見たい』

 

「おいおい、人の昔の写真とかビデオを勝手に見るのも……」

 

「いえ、構いません。私も興味があります」

 

 福内は、自分の過去を見られることにあまり抵抗はないようだ。

 むしろちょっと楽しそうにしている。

 ……だとすると、福内が否定したのはなぜだったのだろうか。

 

「あったあった。文化祭の出し物、録画しといたんだよね」

 

 夏樹のスマホから動画が再生される。

 

 場所はどうやら夏樹がいた中学校の体育館のようだ。合唱部や吹奏楽部など音楽系の部が壇上で演奏を披露している様子が流れている。そして吹奏楽部が撤収したところで、お琴が搬入されてきた。

 

「ここからだね。古典邦楽部がお琴とお三味線、尺八の演奏をしてたときに……ほらいた」

 

『あっ、きれーい! これ学校で着付けしたの!? 凄くない!?』

 

 壇上に現れた古典邦楽部の面々は袴を履いていた。

 上は薄桃色で、下は暗い紫色の落ち着いた装いで、だが全員どこか楽しそうだ。

 

 この中で一番目立つのは福内リンだろう。

 落ち着いて大人びた顔立ちや長い黒髪が和服と合っている……だけではない。

 

 笑顔で、堂々としていて、周囲の部員たちも福内を見ている。この部の中心人物なのだろうということがカメラ越しでもわかる。

 

 舞台上に楽器と譜面台が並べられて、袴姿の部員たちが座る。

 映像の中の福内が構えた瞬間、他の全員もそれにならう。

 

 そして演奏が始まった。

 

「どこかで聞いたことがある曲だな」

 

『お正月によく流れるやつだね。なんだっけ?』

 

「六段の調(しらべ)、という曲です。正月の定番でもありますし、箏曲や三絃を習う人にとっても定番ですね。段位認定の課題曲などにも使われます」

 

 付け爪を弦に当てれば、郷愁を感じる響きが伝わる。

 音楽はよくわからないが、中学生だというのに大人顔負けの演奏をしているように感じる。

 

『いいなーかっこいいなー』

 

「そうだな」

 

 桜の言葉に同意する。

 こう言っては何だが、今の福内とは異なる雰囲気がある。

 桜の言う通り、格好いい。

 別の言葉に言い換えれば、堂々としていてリーダーシップが感じられる。

 目の前の福内は、リーダー気質よりかはマイペースで独立独歩という雰囲気だ。

 

(この映像は、もしかしたら……『本物』の福内か……?)

 

 そう思って福内をちらりと見る。

 福内は不思議と、嬉しそうだ。

 

「懐かしいか?」

 

「はい」

 

 夏樹の言葉に福内が頷く。

 なんとなく和やかな雰囲気のまま、動画鑑賞は終わった。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、決まりだねこれは」

 

『そだね』

 

「福内がいいなら構わんが」

 

 夏樹の言葉に桜が頷き、俺は福内の方を見る。

 福内だけはよくわかっていないのか、はてと首をひねった。

 

「すみません、話が見えないのですが……?」

 

「だから、わたしがダンスマカブル運営に、福内さんを推薦するってこと」

 

 と、夏樹が言った。

 

『これだけお琴を弾けるなら十分じゃない? 和風美人って感じだし。今度は振り袖とか着てみようよ』

 

 桜の言葉に、福内はフリーズした。

 

 

 

 

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