話が脱線しすぎた。
だが福内の力の正体がわかったことで、作戦は成功するという確信が持てた。
「改めて作戦を確認します。招待メールが私のスマホに届いたら、まず規約を確認します」
「ああ。文書の中から術者や儀式の特徴を見出して敵の全貌を捉える。儀式の実行者の名前や居所がわかれば最高だな」
「ですが、それがわからない場合は……」
「試練にあえて失敗する。魅力を徴収させて、徴収された先を突き止める」
俺がそう言うと、福内が目を伏せる。
「……できれば避けたい手段です。式神である私にとって、精神エネルギーは肉体そのもの。ただ倒れたり意気消沈するだけではなく、肉体そのものが囚われてしまう可能性があります」
「できれば代わってやりたいところだが」
『うーん……れいちゃんの魔力が奪われたら相手が超強化されるかもしれないしねぇ……』
やだやだと桜が肩を竦める。俺の力を受け止められる程の強敵がいたら個人的には嬉しいが、俺が黒幕を倒すまでの間に犠牲者が増えたらそれはそれで困る。
「はい。ですので……信じます。あなたたちを」
福内が、真剣な目をして言った。
「心配するな」
『まっかせといて、リンちゃん!』
俺が頷き、桜がえへんと豊かな胸を張る。
それを見た福内が、嬉しそうに口元にほほ笑みを浮かべた。
「さて、そろそろ受信希望の時間帯だ」
ダンスマカブルの視聴者としてユーザー登録をしたとき、「受信希望の時間帯」を書く欄がある。他のユーザーから推薦を受け、なおかつ音楽系の活動実績を他のSNSで確認できていれば、受信希望の時間帯に高確率でメールが届く。
すぐに釣れるかどうかはわからないし、最悪、何日かこうして準備のために和室なり何なりを借りることになるかもしれない……と思ったが、杞憂だった。
「……来ました!」
「早速か! 桜!」
『もちろん!』
福内のスマホにメッセージが届いた。
制限時間内にアプリを起動してセレクションに挑めばクリエイター登録が叶う……という内容だ。メールを上から下まで眺めるが、規約らしいものは書かれていない。
「やはりアプリを起動しなければダメか」
「ですね」
福内が『夢が叶うダンスマカブル』を起動させた。
するとそこには、通常の起動画面には存在しなかったボタンがあった。
「クリエイター登録申請……ここからですね」
福内が何か操作をするたびに、桜が俺のスマホを使ってパシャパシャと画面を写す。そして福内が操作を進めていく内に、目当ての画面が出てきた。
『規約の確認、ここだね!』
「これは……なるほど、ほぼ予想通りでしたね……」
規約にはこう書かれていた。
~~~
第一条(クリエイター登録の申請)
1.本サービスにおいてクリエイター登録を希望する者(以下、「申請者」といいます。)は、当社所定の方法により申請者が登録画面で制作した動画コンテンツ(以下、「審査動画」といいます。)を提出するものとします。
2.申請者は、新作動画の提出にあたり、当社が要求する形式、品質及び内容に従うものと……
~~~
「……まだるっこしい文章だな」
「ざっと見る限り、重要そうなのは第4条と5条ですね」
福内の言葉に従い、四条と五条を見る。
「ええと……申請者は申請手続きの対価として、申請者固有の精神エネルギー(以下、「魅力」と言います)を当社に対し提供するものとします。本項に基づき徴収された魅力は返還されないものと……って、やっぱり魔力を奪うのが目的だったか」
「次に7条を見てください。ここがどうにも悪辣ですね……。50%はセレクション合格者に配分します。残りの50%に相当する分については当社が回収し、当社の裁量で別事業に運用します……とあります。免責事項においても『生じた損害について一切の責任を負いません』と」
『みんなの魅力の半分は運営が持ってっちゃうってこと? ずるぅ……! これはずるいよ! 一体どこのどいつなの!?』
桜の怒りに、俺ははっとして規約を見返す。
これがもし魔術の儀式であるならば名前は絶対に書かれているはずだ。
「名前が……これか? 合同会社スターズ・エンチャントメント……」
「団体の名前だけですか……住所と名前は……書いていませんね」
「名前を書かずにこんな儀式できるのか?」
「恐らく、法人格として国に登記しているのでしょう。たとえ個人ではなく法人というくくりであったとしても、この世に生まれ落ちた証拠がある名前であるならば儀式として成立しやすいかと」
行き詰まった。
そして無慈悲にもスマホから声が響く。
『セレクションを受けられますか? 今から5分以内に申請ボタンを押さない場合、申請の意思なしとみなします。以降、他の方から推薦をされたとしてもクリエイター登録申請は不可能となりますのでご注意ください』
「……会社名だけで追えるか?」
「足取りを掴むだけならばできると思いますが、即座に、というわけにはいきません。登記上の住所と実際の活動場所が同じとも限りませんし」
福内が厳しい表情を浮かべる。
だがそれは諦めではない。
「時間が掛かれば掛かるほど犠牲者は増えて、ダンスマカブル運営は強くなる。徴収率を考えれば現状、数千人分の精神エネルギーを蓄えてよからぬことに使う気です。これが数万人、数十万人になるのは、さして遠い未来ではありません」
困難に挑む人間の目だ。
「……谷川さん。桜さん」
「おう」
『なに?』
「後は頼みます」
福内は、申請ボタンをタップした。
『申請ありがとうございます。そして改めてようこそ、「願いが叶うダンスマカブル」へ。当アプリはクリエイターを目指すあなたを、真心を込めて応援します。輝かしい未来を目指し、一緒にがんばりましょう!』
スマホから美辞麗句が流れる。
その爽やかな音声の裏でにやけているやつがいる。
その顔、ぶちのめしてやるからな。