怪異をぶちのめす   作:富士伸太

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夢が叶うダンスマカブル 11

 

 

 

 象牙で作られた四角い付け爪で糸を弾けば、軽やかな音が和室に響き渡る。

 

 六段の調べだ。

 

 音楽の良し悪しなんてよくわからないが、郷愁を感じるメロディーを正確無比に演奏する福内は高校生レベルではないように思う。まるで日本人形がそのまま人間になったかのような幽玄な美貌とも相まって、芸能人やアーティストと言われたら素直に信じるだろう。

 

(……なんでつねるんだよ)

 

 と、内心で賛嘆していたら桜が俺の太ももをつねっていた。

 

(なんとなく?)

 

(……まあいいんだが。しかしこのままじゃ合格しちゃうんじゃないか?)

 

(うーん……)

 

 ……と心配していたら、演奏が乱れた。

 リズムが乱れ、メロディーが途切れる。

 だが福内はすぐにリカバリして復帰した。

 あたかも緊張のあまり手がもつれたかのように。

 

(失敗が疑われないように、失敗タイミングを見計らってたんだな)

 

(なーんか、もったいないね……)

 

 桜が寂しそうに言った。

 

 福内自身も、どこか悔しそうな表情をしている。敵を追い詰めるための手段ではなく、純粋に演奏してみたいという気持ちもあったのかもしれない。

 

 やがて演奏は終わり、福内は座ったまま一礼をした。

 

『大変残念ではございますが、福内リン様は当セレクションにおいて落選となりました。福内リン様の今後のご活躍をお祈り申し上げます』

 

 淡々とした、感情の乗らない声。

 

『それではセレクション参加費としてあなたの魅力を徴収をいたします。もし枯渇なされたときはご友人などを招待して、魅力を回復されてはいかがでしょうか。本日は誠にありがとうございました』

 

 だがそれは本当の無感情ではない。獲物に舌なめずりをする捕食者の喜悦を隠すための無感情であり、優しさを秘めた福内とは真逆のものだ。

 

「福内!」

 

『リンちゃん!』

 

 俺たちが名前を読んだ瞬間、スマホの画面が光り輝く。

 だがそこからの展開は、原夏樹のときとは違った。

 

 原夏樹のときは魅力……ええいめんどうくさい、魔力でいいや。魔力が吸われていくのが見てわかったが、福内は純粋な人間ではない。魔力と肉体の区別があまりない。魔力を奪われるということは肉体を奪われる、ということだ。

 

『リンちゃんが……おふだになってく……』

 

 肉体が護符……つまり魔力を物質化した紙切れとなって、スマホの中に吸い込まれていく。

 そのグロテスクさに苛立ちと怒りを覚えた。

 まさに「食われている」と言って差し支えない光景だった。

 

 やがてスマホの光が消えて、吸収が終わる。

 

 残されたのはスマホ、そして福内の制服だ。

 抜け殻になった制服がはらりと畳の上に落ちる。

 

『リンちゃん……いなくなっちゃったの……?』

 

 桜が動揺しながら福内の制服を触る。もしかしてまだ、そこにいるのではと縋るように。

 

「桜。大丈夫だ」

 

『大丈夫って……でも、リンちゃんの体がどこにも……』

 

「ここだ。譜面台の上だ」

 

『え? …………あっ! リンちゃん!?』

 

 譜面台の上には楽譜が置かれている。

 五線譜ではなく、漢数字が縦に羅列された不思議な楽譜だ。和楽器特有の表記なのだろう。だが注目すべきはその楽譜の上に置かれた一枚の落書き……いや、護符だ。

 

「魂の一部をこちらの護符に込めておきました。奪われた部分の位置はわかります」

 

『かーわーいーいー!』

 

 護符には福内が三頭身くらいにデフォルメして描かれており、しかもそれが動いている。器用なやつだとは思っていたが、アニメーションみたいになれるとは思わなかった。

 

『リンちゃんさー、これでVtuberデビューしようよー! 絶対バズるって!』

 

「まあ、コンテンツ力はあるな」

 

「そ、そんなこと言ってる場合ではありません!」

 

 リンがぷんすかと怒る。

 この姿の方が、生身のときよりも感情表現が豊かだ。

 絵だからだろうか?

 気になるところだが、福内の言う通り遊んでいる場合ではない。

 

「そうだな。ようやく相手の顔を拝める。場所はわかるか?」

 

「学校からは北北西の方角……恐らく150キロから200キロほどは離れているでしょう」

 

 護符の中の福内が指を指す。

 方位磁石のようなものだ。方角は合っているのだろうが距離が曖昧だ。

 

「かなり遠いな……範囲も広いし、もう少し絞れないか?」

 

「住所など詳しい場所を確かめてみます……む?」

 

「どうした?」

 

 福内が怪訝な声を出した。

 

「誰かが向こうの私に近づいてきています……私の魔力の大きさに疑念を抱かれたかもしれません」

 

「気を付けろよ。そっちは敵の腹の中なんだ」

 

「……これは……まずいかもしれません。一旦接続を……」

 

 そのとき、凄まじい音が護符から響いた。

 何かが高速でぶつかる音。炎や冷気によって空気が変質する音。

 つまり、戦闘の音だ。

 

「福内!」

 

『リンちゃん!』

 

 だがすぐに音は消えた。

 戦闘が終わったのではない。

 向こう側に行った福内と、護符にいる福内の魔術的な接続が断たれたのだ。

 

『れいちゃん! 助けに行かないと……でも範囲が広すぎるし……どーしよどーしよ!?』

 

 桜が慌てふためく。

 だがこうなるパターンを予想できていなかったというと、そうではない。

 福内の身に危険は迫っているだろう。

 だが福内は覚悟しているし、そのための準備も怠らなかったはずだ。

 

「落ち着け。福内には、ちょっとした手土産を渡しておいた。しばらくはなんとかなる」

 

『手土産?』

 

「それまでに福内と合流……つまりダンスマカブルの拠点に行くんだ。ヒントはたくさんある。不可能じゃない。魔力を奪われた全員、助けるぞ」

 

 俺がそう言うと、桜は覚悟を決めた。

 

『わかった……! やろう、れいちゃん!』

 

 

 

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