怪異をぶちのめす   作:富士伸太

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怪異 アイドルプロデューサー那須川ゆめ 3

 

 

 

 福内が攫われた直後に話は戻る。

 

 俺たちは、福内の言う方角と距離から「栃木県か福島県のどこか」とアタリを付けて、今のうちに移動しようとなった。

 

 が、俺は肉体的にはともかく社会的には高校生だ。車など運転できない。

 

 魔法で空を飛べるかと言われたらできなくはないのだが、制御がヘタクソで土地勘のない場所を飛んでも迷う可能性の方が高い。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、バイク趣味の雲取杏子さんだった。彼女のバイクはまだ処分されることなくマンションの駐車場に残ったままだ。手伝ってもらうのは申し訳ないと思ったが、「死んだ後にツーリングできるとは思わなかった」と二つ返事で了承してくれた。

 

 心地よい振動が響く。杏子さんも楽しそうだ。

 

『バイク楽しいでしょ!』

 

「ああ、悪くないな」

 

 広々とした道路を走り抜けていく感覚や肌で感じる風、なかなか良い。

 ヴィニの魔法で空を飛んだことはあるが、そのときは墜落の危険がそこそこあってあまり楽しめなかった。

 

『そういえば礼二くん、リンちゃんに何か渡してたよね? 紙の人形みたいな、神社でもらうようなやつ……あれってなに?』

 

 俺は、紙とハサミで作った人形を渡しておいた。

 その人形には自分の名、つまり「谷川礼二」と書いておいた。

 つまるところ、あれは俺の大事だ。

 

「呪いの藁人形みたいなものだ。人形を攻撃すると俺がダメージを受ける」

 

『のろっ、呪いの藁人形!? ていうか普通逆じゃない……?』

 

 普通はそうだ。

 自分のダメージを人形に肩代わりさせるものを護身用に忍ばせておく。

 もはや俺の作った人形は丑の刻参りと変わらないだろう。

 

「ちゃんと考えがある。心配する……がはっ!?」

 

 会話の最中、俺の腹部に衝撃が走った。

 肋骨が砕け、砕けた骨が臓腑を傷つけ、思わず吐血する。

 

「……やるじゃないか、ダンスマカブル」

 

 しぶとさや凶暴さ、総合的な戦闘力は九神の方が上だろうが、一発の重さはダンスマカブルが上回っているかもしれない。ダンスマカブルには九神には持っていない妄執がある。

 

 だがおかげで、久しぶりに武器を使えそうだ。

 

『礼二くん大丈夫……? けっこう衝撃が来たんだけど……?』

 

「むしろ運転の邪魔して悪いな。大したことはない」

 

『いや血とか吐いてるし胸とかお腹の感触がドロドロだよ!? 交通事故くらいのダメージあったよね!?』

 

「トラックに轢かれるくらいじゃ人間は死なない」

 

 ないないそれはないと杏子さんが首を横に振る。

 

「ま、そういうことにしておいてくれ」

 

『礼二くんが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけど……無茶しないでね……?』

 

「任せろ。それに解決の糸口も見つかった……福内、巻き込まれないよう注意してくれ」

 

 俺が護符の福内に呼びかけると、福内はわかったと頷く。

 

『加減してくださいね』

 

「わかってる。スキル【霊媒体質(憎)】、発動するぜ……見えた。そこの巨人女がダンスマカブルだな?」

 

『はい。すでに怪異と化しています。そして周囲に魔力を溜め込んだ水瓶のようなものが多くあります。壊さないでくださいね』

 

 その言葉に胸をなでおろした。

 

 もしもただダンスマカブルを倒すことだけを目標にしていたら、奪われた魔力もろともダンスマカブルの拠点を粉々に破壊していただろう。そうなると、ダンスマカブルの被害者が誰なのかもわからず、魔力を返しようがなくなってしまう。

 

 だが場所と規模は確認できた。あとは的確に狙撃するだけだ。

 

「ダンスマカブル……一つ、教えておいてやる。手段を選ばなくていいなら、お前をぶちのめすなんて簡単なことだったんだよ。俺がお前のセレクションを受けるか、他人のセレクションを妨害すればお前との『縁が生まれる。そこから何度でも殴りゃよかっただけだからな。回りくどい手を使ったのは完全勝利したかったからだ」

 

 杏子さんの腰に回していた手を離して、足だけで体を支える。

 そして呼吸を整え、唱えた。

 

「召喚……次元歪曲剣ティンダロス」

 

 スキル【天が悪を誅せずとも】は、俺が傷つくたびに俺の攻撃力が増すスキルだ。だが一定以上のダメージを超えたとき。一定以上のダメージを受けることで、バーサーカー専用武器を使用することができる。

 

 その許可を得て呼び出した剣は、ひどく邪悪な見た目をした剣であった。

 

 鍔元には狼のような凶悪な目が爛々と輝く。

 

 刀身は波打ち、狼の牙のような細かい歯にびっしり覆われているまるで剣というよりはノコギリのようだ。

 

 そして用途としても、剣よりはノコギリに近いだろう。

 

 これは、斬撃を放ってダメージを与えるためのものではない。敵を斬り裂くことは無論できるが、ティンダロスが斬り裂く対象は、世界や次元といったものだ。

 

「抜剣」

 

 そして俺は、虚空に向けて剣を振るった。

 斬撃の軌跡が真一文字に空に刻まれ、異次元を隔てる門が生まれる。

 

「……そこだな」

 

 その門の先にあったのは、福内がダンスマカブルと戦っている姿だ。

 ダンスマカブルはまさしくアイドルの姿をしている。

 てか福内も似たような格好をしてないか?

 巫女のようにも見えるが、次元の先なので少しおぼろげだ。

 

 いや、今はそれよりもダンスマカブルを倒すことが先決だ。

 

 拳を構えて狙いをつける。

 すると魔力の光が軌跡となって、狙う先を照らす。

 ここを殴るぞという予告だ。

 まあティンダロスの初太刀ですべて一刀両断にするという手もあったが、福内もろとも殺してしまう可能性もあったしな。人命優先だ。

 

「福内。俺が殴ろうとしている場所は、魔力が漏れて光になってるはずだ。照準は合ってるか?」

 

『谷川さん。もう少し左に……。そう、そのあたりなら影響が少ないでしょう。でも加減してくださいね』

 

「わかった」

 

『……いや、あの、自然と言葉を返したのですが、何なのですかその技。おかしくないですか? なんで異界化した空間にそんな簡単に入り込めるんですか?』

 

「微調整はあまり効かないかもしれない。上手く避けろよ」

 

『それ本当にやめてほしいんですけど……!』

 

 俺は福内の文句を流ししつつ、魔力を込めた拳で数十発、裂け目の空間めがけて殴る。

 

 拳から放たれた魔力の衝撃破は、大爆発を巻き起こした。

 

 

 

 

 

 

 攻撃を放って10分ほど経ったあたりで、護符の福内から連絡があった。

 郵便物から住所を特定できました、と。

 

 教えてもらった住所をバイク搭載のカーナビに入力すると、すぐに具体的な場所が判明した。

 

『もう近くまで来てるからね。那須インターで降りるよ』

 

 アクセルをひねり加速していく。

 スピード違反してそうな速度だが非常事態だ。許してもらおう。

 

 しかし風が心地いい。異世界では船や竜に乗ったが、バイクにはそれらに劣らない楽しさがある。

 

『免許取りなよ。バイク貸したげるからツーリング行こうよ』

 

「それもいいな」

 

『ちょっと杏子姉! れいちゃんを変な道に誘わないでよ!』

 

『変な道って何よ、変な道って。ていうか表に出ないでよ運転中なんだから!』

 

『落ち着きなさいよ二人とも。運転は杏子ちゃんに任せてるんだから桜は表に出ない』

 

『はぁーい』

 

 運転中に姉妹ケンカが始まった。器用なもんだ。

 そうこうする内にバイクは高速道路から降りて山道に入っていった。

 

 あとは方角を示しながら地図と照らし合わせて、大まかな場所を絞っていく……が、意外なことに迷うことなく判明した。付近を通りがかったところで「合同会社スターズ・エンチャントメント」という看板が立っていたからだ。

 

『リンちゃん、大丈夫かな……?』

 

 バイクを止めて降りた瞬間、杏子さんが桜にチェンジした。

 俺は桜を連れて中へと入る。

 

 旅館のような佇まいだが、どうも事務所のようだ。

 経理関係と思しき書類やパソコンなどが並べられている。

 そして事務所から奥の方にいけば、まるで酒蔵のような不思議な場所があった。

 

「……加減してくれと伝えたはずですが?」

 

 そこでは、ちょっとボロボロになった福内が待っていた。

 無表情な中に確かな怒りが感じられる。

 

「すまん。いや、本当申し訳ない」

 

「冗談です。あなたがいなければ死ぬところでした。助けに来てくれてありがとうございます」

 

「いや絶対怒ってるだろ」

 

『でもリンちゃん、なんか……可愛くなってない? アイドルっぽいっていうか』

 

「なってません!」

 

 福内はなんだか不思議な格好をしていた。

 

 巫女服かと思ったが、袴のように見せかけた赤いキュロットスカートだ。上着も和服の構造に似せた飾りが施されている。袖は胴体部分と紐でつながっているだけで、脇とか肩がちらりと見えて、薄着よりも扇状的だ。

 

「相手の魔力を取り込んでしまい……姿を戻せないんです……。ところで私の制服はありますか……?」

 

 福内が恥ずかしそうに尋ねると、桜が、もちろんだと頷く。

 

『ちゃんと持ってきたよ。あ、でもその姿、写真で撮っておいても……』

 

「それはダメです。それより……あれを見てください」

 

「ああ。あれがダンスマカブルだな?」

 

 福内が指をさす方向に、不思議なものがあった。

 

 縄で縛られた女性だ。

 

 三十代くらいだがアイドル衣装を着ており、ダメージのせいでボロボロになっている。この状態で縄で縛られているのはひどく倒錯的だ。また額には、まるでキョンシーのごとくお札が貼られている。福内によって魔力を封じられたのだろう。

 

「起きなさい」

 

「むにゃ……あによ……もう答えることは答えたってば……ひいいっ!? やめ、やめて! ごめんなさい! もうしません! なんでもします!」

 

 俺を見てがくがくぶるぶると震え出した。

 どうやら、拳を放ったのが俺だとすぐに気付いたらしい。

 

「……どうやら怪異になりたてのようで、ただの悪霊に戻れたようです」

 

「そういえば俺も適当に怪異って呼んでたが、ちゃんとした定義があるのか?」

 

「大まかな話にはなりますが、妄執や怨念にとり憑かれて元の姿形を失ったものは怪異と呼ばれます。異様に手足が長いとか、獣のような体になったとか……。あるいは執着を持つ物品を取り込んだ者などもおります」

 

 なるほど、九神みたいなタイプだな。

 あれはなんというか、ナイフの化身といった風貌だった。

 今回は悪霊が一時的にアイドルの化身、というかアイドルの怪異になってたわけだ。

 

「那須川ゆめ。あなたは遺恨や怨念を抱いたままこの世を去りましたね? ですが、ただそれだけで現実に影響を及ぼす悪霊になどはなれませんし、ましてやあのような装置を作って自分を怪異に成長させるなどできるはずがありません。誰があなたに知恵や道具を授けたのですか?」

 

「う、うん。あれは、私が首を吊って、地縛霊みたいになったときのことで……」

 

 ダンスマカブルは完全に降伏したのか、全部を話し始めた。

 

 

 

 

 

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