「……少し外に行ってるから、着替えたらどうだ?」
桜が制服を持ってきたはずだ。
いつまでもボロボロの巫女アイドル姿でいる必要もないだろう。
「脱げないんです」
「呪いみたいなもんか?」
「いえ、これは形のない魔力や敵意のある呪いではなく、魅力を強化させようとする祈りに近いので……自然に消失するのも、解呪することも難しいのでしょう。このままでは、魔力を高めて除霊や戦闘になるときは常にこの姿に……」
福内がこめかみを押さえて悩ましい顔を浮かべる。
まあ……がんばってくれとしか言えないな……。
『もうそれでよくない?』
「よくありません!」
『ええー、可愛いじゃーん。それを捨てるなんてもったいないよ』
桜がスマホを取り出して、だが福内にぺしっと叩き落された。
桜は諦めずになだめすかすが、福内は納得しそうにない。
ここまでキレている福内は初めて見る。
「……よし、考え方を変えよう」
「考え方?」
福内が不思議そうに首をひねる。
「完全に解呪することは棚上げして、とりあえず制御できればいいんじゃないか? 自然と変身するんじゃなくて、自分の意志で変身するしないを決められればいい」
「ですが……こんな我流で未熟で乱暴な術式を解明するのは、まっとうな術式を解明するより難しいと思います」
福内はたまに毒舌が出るな。
今回は特にストレスが溜まっていそうだし。
「ダンスマカブル。いや、那須川ゆめ」
「あ、はい」
「成仏は少しお預けだ。お前、しばらく福内の守護霊になれ」
「えっ?」
「いやなんですけど?」
那須川ゆめは喜び、福内はめちゃめちゃ嫌そうな顔をした。
「術式を作り出した本人に解明させるのが一番だろ。他にも聞きそびれたことがあるかもしれないし、何よりエージェントとかいうやつと唯一接触してるんだ。このまま手がかりが消える方がリスキーじゃないか?」
「そうだけど……いいの?」
那須川がおずおずと尋ねる。
「許すわけじゃない。もし仮にお前が殺した人がいるなら償いは……」
「いない、いないって! 衰弱するのは確かだけど死にそうになったら魔力を戻してたよ!」
俺が人差し指を那須川ゆめの鼻の前に突き出す。
だが那須川ゆめは、ぶんぶんと首がちぎれんばかりに横に振る。
「そうなのか?」
「本当本当! 信じて! 魅力を奪った後の子も、魅力が枯渇して諦めるか、それとも根性で復帰するか一応後追いしてたし……。最近はなんかもう、魅力を吸うのが中毒になってたからヤバかったけど……それでも死んだ人はいなかった! 絶対!」
「確認するが、アプリの規約を書いたのはお前か?」
「大まかなフォーマットは私が用意して、詳細なところ……魅力の配分とかはエージェントが決めた。私にも十分得な内容だったから異論を挟む理由はなかったからだけど……」
その他、いくつか質問を投げかけて大まかなところはわかった。
こいつは、「死んだ後もスターを育てたい」という夢や野望をエージェントにぶつけて、エージェントは、「ではこういうシステムを作りましょう」と具体化していった。だがその具体化は、「有象無象から魅力を奪う」ことを主眼に置かれていた。
配信者をもっとケアして育成したいという要望はエージェントから技術的に不可能だと却下され、エージェントはより効率的に魅力を収集すればスターを生み出せる、あるいは自分自身がスターになれると那須川を誘惑した。
もっとも誘惑に負けたこいつが悪いのだが、そこは今後とも償ってもらおう。ただ返すべきものを返すだけでなく、色々と働いてもらう。
「……わかった。魔力を返却しきったあと、俺の魔力を貸してやるからそれで存在を維持しろ。福内もそれでいいか?」
「うーん……あまり気は進みませんが……」
「それに、強くなりたいならしばらく一緒にいた方がいい。こいつの執念はオリジナリティの強い魔術を編み出した。使えるぞ」
「そのオリジナリティが一番気が進まないんですが……はぁ……わかりました……」
本当に渋々と言った様子で福内が頷いた。
『いやーめでたしめでたし! せっかく那須に来たし、日帰り温泉とかよっていこうよ! 極楽気分!』
「極楽に行かれては困ります。私たちが帰れませんし……」
『あはは、そりゃそーだね』
「友達がすぐにいなくなるのは、寂しいので」
と、福内が穏やかな表情で言った。
『可愛いかよこいつぅ!』
「ちょっと、やめてください。苦しいので」
桜が福内を大仰に抱きしめた。
こうして、闘いは終わりを迎えたのだった。
◆
もう太陽が沈みつつあるが急ぐこともない。明日は休みだ。「のんびりドライブしながら帰ろう」という提案に乗って、近くのアウトレットモールに寄ることになった。
ちなみにバイクの人数オーバーだったが、福内が護符に変身してリュックサックの中に仕舞うことでなんとかなった。便利で羨ましい。
「家に着いたところで解散としましょう。後日、退魔師協会にご案内しますが……お二人にお願いがります」
人間体に戻った福内と、杏子さんからバトンタッチした桜と俺の三人でアウトレットモール内のハンバーガー屋に入り、注文を済ませて席に着いた。そこで福内が切り出した。
ちなみに福内の横には、二頭身か三頭身くらいのアルパカの人形がある。ここの施設のマスコットらしく、気付けば普通に買っていた。こいつ妙にお茶目だな。
「なんだ?」
「共に、退魔師としてのチームを組んでほしいのです」
「いいぞ」
『いいよ』
「あの……即決でいいのですか?」
俺たちが即答すると、福内は逆に困惑しながら質問を投げかけた。
「むしろ『後は勝手にやって』で放り出される方が困る。自慢じゃないが俺は言葉よりも力で解決するタイプだからな。どういうトラブルを起こすかわからんぞ」
『本当に自慢にならないやつぅー』
「新入りに強く当たる退魔師が再起不能にされる姿をまざまざと想像できます」
桜がけたけた笑い、福内がちょっと疲れた顔を浮かべた。
「桜さんはよろしいのですか?」
『あたしはユーレイだし、なんか退魔師とかいうのに除霊されたら困るし。生きてる子の友達とか協力者とかいないと怖いんだよね。それに、こういうのって先輩のコネがあるのって大事じゃん?』
「それは確かに否定はしませんが、幽霊の退魔師もいることはいますよ」
『へぇー、お仲間がいるなら興味あるな。どうやって生活してるんだろ。銀行口座作れるかとか聞きたいんだけど。今、契約関係って全部れいちゃんだからさー、個人名義の口座とかアカウントとか欲しいんだよね』
「それも問題ありません。むしろお二人ほどの実力があれば決して困ることはないと思います。むしろ私が足を引っ張らないかの方か……」
福内は自信なさげに語るが、それこそお笑い草だ。
同じように思った桜と目が合い、思わず笑いが込み上げた。
「な、なんで笑うのでしょう……?」
『今更何言ってんのって感じ』
「仲間として申し分ないってことだよ」
「ありがとうございます。では、仲間として……よろしくお願いします」
福内が、しずしずと頭を下げる。
堅苦しいのはよせよと言いたいところが、福内の流儀だろう。
『堅苦しいのやめろよぉー。仲間でしょー?』
「やめてください」
桜の方は我慢せずに福内のほっぺを突っつき、ぺしっと手で払われた。
「ところで私自身について、まだ語っていないことがありましたね……」
「福内自身というか……本当の『福内リン』についてだな?」
「はい」
俺が尋ねると、福内は静かに頷いた。