怪異をぶちのめす   作:富士伸太

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呪殺三姉妹 2

 

 

 

 ドアが施錠されている。

 

 ただ鍵が掛かっているのではない。超常の力によって内側から強い力で固定されている。より専門的に言うならば、封印されていると言える。

 

「フンッ!」

 

 なので、力任せにドアノブをねじ切った。

 

 魔術的な封印や霊的な封印であろうとも、封印の力を上回る筋力があればどうということはない。そもそも力で破壊できない無敵状態がこの世に存在するならば子供に壊される祠などない。

 

「雲取さん、入るぜ……って、うお。これは……ダンジョンみたいだな……?」

 

 この部屋は3DKで、玄関の先にはキッチンがあるはずだった。

 だが俺の目の前にあるのは、果てしなく奥へ奥へ延びるフローリングの廊下だ。

 

 その廊下の脇にはところどころ扉がある。3DKどころか100DKくらいあるんじゃないか? まるで異世界で潜ったダンジョンのようだ。

 

 ダンジョンとは魔力や呪力が濃密すぎて空間が歪んだ場所のことだ。洞窟っぽい場所が多いが、城のような場所や森のような場所もあった。まさか日本の賃貸マンションがダンジョン化するとは思ってもみなかったが。

 

『誰だ……誰だ……』

 

『生者だ……こんなところに生者だ……』

 

『よこせぇ……命をよこせぇ……』

 

 そしてダンジョンには魔物がうごめく。

 廊下の奥から黒い影が三体現れ、物騒なことを言いながらこちらに近寄ってくる。

 

「ゴーストか……。けど、なんで刃物なんて持ってるんだ?」

 

 こいつは誰かが死んで幽霊になったのではなく、怨念が人のような形になったものに過ぎない。そして、本能的に生きてる人間に襲い掛かる。倒すしかない。

 

『死ねぇ……!』

 

「お前たちの攻撃まで食らってやる義理はないぜ……オラッ! 成仏しろ!」

 

『ぉぉぁああ……』

 

 聖属性が付与された状態で、殴り、蹴り、首を捕まえた状態で膝蹴りを叩き込む。

 ゴーストどもはまるで煙のように消えていった。

 常人よりは遥かに強いが、それでも魔王軍の配下よりは劣る、といったところか。

 

「うっかり普通の人が迷い込んだら死ぬな、こりゃ」

 

 俺は、時折現れるゴーストを倒しながら進んでいくと、通路の先にキッチンが現れた。

 

 ここも異常に広い。天井の高さは普通なのに、縦と横はまるで体育館ほどのスペースがある。

 

 そしてキッチンの壁面にはたくさんの冷蔵庫が並んでいる。テーブルも、まるで雑にコピペしたかのように空間内に点在している。

 

 気になって、冷蔵庫の中を開けてみた。

 

「……中身があるな」

 

 黒マジックで「これは桜のもの! 食べるな!」と怒りの注意書きが書かれたプリンがある。

 

 飲みかけの牛乳があり、使いかけの調味料があり、おひたしが保存されたタッパーがあり、誕生日のケーキがあり……つまりは、思い出がある。

 

 ガスコンロの上には香しい香りを放つカレーの鍋がある。その下の微妙な隙間にはゴキブリホイホイがある。

 

 歪みきって膨れ上がった空間のキッチンには、三姉妹の生活があった。どれもこれも、三姉妹がかつてこの部屋で生きてきたことを示す証拠だ。

 

 恐らくこのダンジョンは、雲取家の三姉妹の記憶によって作られているのだ。

 

『誰だ……』

 

『人間だぁ……生きてる人間……』

 

 だがゴーストだけは異質だ。

 誰か、別の者が生み出している。

 

「……お前らが汚していい場所じゃねえよ」

 

 襲いかかってくるゴーストたちを、カウンター気味に殴った。

 取りこぼしがないように念入りに倒して回った。

 

 

 

 

 

 

 広大なキッチンを抜けると、また通路となった。

 そして、通路の左右には様々な扉がある。

 

 風呂とトイレも無数に存在しているが、ここは特に何も関係ないだろう。魔力も呪力も感じない。

 

 問題は、三姉妹の部屋だ。

 大なり小なり、何かの気配がある。

 

 気配を確認するため、扉を開けた瞬間ゴーストが襲い掛かってきた。

 

『ぐぉおおおお!』

 

「ジャマだ」

 

 ゴーストを殴って消滅させた。

 何らかの理由で発生したゴーストは、この部屋に残留した思念を糧にして成長している。

 その証拠に、ゴーストが中にいた部屋はまるで引っ越した後のようにがらんどうだ。

 

 逆に、ゴーストがいない部屋は三姉妹の過去の状態が保存されていた。

 

 二十歳を過ぎたはずの茜さんの部屋には、学習机とランドセルが置かれていたのだ。

 杏子さんの部屋も同様だ。

 児童向け番組のキャラ物学習グッズが転がっている。

 

 部屋を巡っていくと少しずつ様子が変わっていく。ランドセルの定位置にあったものが通学鞄になり、レディース用のバッグになり、あるいは趣味のための楽器ケースやスポーツバッグが置かれていたりする。

 

 そんな思い出のアルバムのような部屋をめぐっていると、たまにゴーストが現れる。殴って倒す。

 次第に自分のイラつきが増していくのを感じる。

 ゴーストが、無実の少女たちの思い出を食らっていることをまざまざと感じていた。

 

 だがふと気付いた。

 一番下の妹の部屋が、まだない。

 

「この様子だと……一番奥だな」

 

 俺は先を急いだ。

 

 途中なぜか曲がりくねったり階段があったり、複数のルートに分かれていたが、特に迷いはしなかった。呪いの力が濃くなる方が、目的地だ。むしろ目的地から入口に戻る方が迷いやすいだろう。ふりかえると色んな廊下や扉が見えて、どこから来たのかわかりにくい。

 

 恐らくここは、入った者を迷わせるダンジョンではない。一番奥に封印されているものを、外に出さないためのダンジョンなのだろう。

 

 そう思いながら歩き続けて、雲取姉妹の三女、雲取桜の部屋の前にようやく辿り着いた。

 

「ノックするべきなんだろうが緊急事態だ。邪魔するぜ」

 

『……誰!? ていうか……なに????』

 

 ドアノブを捻じ切って侵入すると、そこには予想通り高校の制服を着た女子がいた。髪を金色に染めた髪をサイドテールにして、高校の制服を少し着崩して着ている。彼女が間違いなく三姉妹の三女、雲取桜だろう。

 

 そんな彼女は、黒い刀身のナイフを手にして傷口から血を垂れ流している。何も知らなければ警察と救急車を呼んでいるところだ。

 

 だがそれ以上に物騒な気配を放っているのは、もう一人の悪霊。

 

 いや、これはもはや、魔物。

 

 あるいは怪異だ。

 

『ドアが開いた! 誰だか知らねえが、やってくれたぜお前……! これで殺し放題だ……って、なんなんだお前は……!?』

 

「お前に言われたくねえよ。人の家で刃物振り回して非常識だろうが。つーかなんだよその顔は。悪の秘密組織にでも改造されたのか?」

 

 こいつは、ハリセンボンのように体からナイフが生えている。

 

 俺のように刺されたわけではない……というか向きが逆だ。柄が体に突き刺さり、刃が外側になっている。まさにナイフ人間と言った様子だ。

 

 こいつ、自分が生み出す呪いが強すぎて、ただの悪霊から魔物に変貌している。

 日本だから怪異とか妖怪って言った方がいいのか?

 ま、どうでもいい。

 

「ああ、悪の組織じゃなくてヤクザだったっけ。九神刃一郎さんよ」

 

『俺の名前を知ってんのか。誰だ手前』

 

 ほぼ推理が当たった。

 

 雲取桜は霊となって、姉たち、そしてマンションの外を守るために、ここでずっと戦っていたのだ。殺人衝動を持て余した魔物、九神刃一郎と。もうこの二人は時間の感覚も失われているだろう。何日、いや、何か月経ったのかさえ認識できずに狭い部屋で戦い続けている。

 

「違和感にはすぐ気付いた。悪霊の被害が小さくて死者も出ていない割に、この部屋から吹き出す魔力量が異常だからな」

 

『話聞けよ!』

 

「九神。お前、生前は霊感があっただろう。そこの桜さんもそうだな?」

 

 高い魔力を持つ人間が死ぬと、強い力を持つ霊となる。

 

 おかげで死んだ後に心強い味方になってくれるやつもいたし、逆にネクロマンサーに操られてこっちを攻撃する悪霊にされたりもした。多分、地球でも同じことだろう。

 

『そ、そうだけど……だから何なのあんた』

 

「九神が周囲の人間に危害を及ぼしたり、姉の霊がこいつに取り込まれて悪霊化することを察したあんたは、自分が死んでここを守護することを選んだ。どうだ?」

 

『合ってる、合ってるけど……だったらなんでこのドアを開けたの……!』

 

 桜が悲鳴を上げる。

 

「そんなの決まってんだろ」

 

『馬鹿野郎がよぉ。おしゃべりする暇あんのか?』

 

 九神が、ナイフで俺を突き刺してきた。

 雲取杏子とは違った、殺意の籠もった迷いのない一撃が俺の首に刺さる。

 

「それで? 刺してどうするんだ?」

 

『それでって……え……いや、死んでほしいんだが……』

 

 アホらしい言葉を無視して、俺は刃が生えてない部分の腕を掴んで無理矢理引きはがした。

 

『てめっ……手を離せっ!』

 

「桜さんよ。ドアを開けた理由は、こいつをぶちのめすために決まってるだろ」

 

 九神の腕を、渾身の力を込めて握る。

 

『いてっ……この馬鹿力が……だが頭も馬鹿だなぁ!』

 

 九神の腕からナイフが生えて、俺の手のひらを貫通した。

 

「いてえな」

 

『けけけけけけ! さあ、解体してやるぜぇ……』

 

「バカはお前だ。俺を強くしたな」

 

『何言ってやがる、痛すぎてイカれたか?」

 

「俺の常時発動型スキル【天が悪を誅せずとも】。これは俺が被ダメージや毒、呪詛、精神錯乱……あらゆるデバフを受けたときに攻撃力に変換する。まあ、このスキルがなくたってお前程度の腕力なら逃すことはありえないんだが……」

 

『あ? いや、お前……離せよ……』

 

「逃げるチャンスを自分からなくしてどうするんだよ」

 

『おい! 離せって!』

 

 俺は手のひらにナイフが貫通した状態で九神の腕を渾身の力で握り続け、そしてまっすぐ上に持ち上げた。

 

『うわわわわわわ!? やめっ、やめてっ、やめろっておい!』

 

 九神の腕を渾身の力で握りしめて、そのまま片手で持ち上げる。

 そして勢いをつけて床に振り下ろした。

 

 

 

 

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