怪異をぶちのめす   作:富士伸太

4 / 40
呪殺三姉妹 3

 

 

 

「俺は即死級の攻撃を食らっても、俺が諦めない限り死ぬことはない。それが第一のスキルだ。……そして第二のスキル、【天が悪を誅せずとも】が発動してる」

 

『わっ、わけのわからねえことを言ってんじゃねえよ!』

 

 右手だけで持ち上げられた九神が騒ぐ。

 やかましい。

 

「状況がわかってないのはお前だ。お前は、俺を強くしたんだ。俺は、俺自身が受けたダメージや毒、呪いをパワーに変換できる。つまり傷つけば傷つくほど強くなる。今は、指だけでお前を逃がさないくらいには強くなってるぜ」

 

『離せ! 離せって!』

 

 スキル【天が悪を誅せずとも】。

 

 その身に受けたダメージ、または呪詛、猛毒、麻痺等のデバフが蓄積する度に攻撃力が倍加していく……というものだ。だから俺は、長期戦になればなるほど強くなる。

 

「じゃ、そろそろやるか」

 

『えっ? おい、やめろ! やめて、やめ……ぐへっ!?』

 

 俺は持ち上げた九神の体を、一気に振り下ろした。

 床に叩きつけられた九神が苦悶の声を上げる。

 

『ぐ……て、てめえ……』

 

「ほう、殺気がまだまだあるな。根性あるじゃねえか」

 

 九神を再び持ち上げ、そのままぶん回すようにして反対側の床に叩き付ける。

 

 もう一度持ち上げて、半円を描くようにまた床に叩きつける。

 

 こんなことをしたら床が粉々になるところだが、ダンジョンは不思議な力で守られていて多少の戦闘ではびくともしない。俺も三割くらいの力を出さないと壊せないので、遠慮無く何度も何度も叩き付けた。三十往復ほどやった。

 

『ごっ! がはっ! やっ、やめっ! ぶえっ!』

 

 まだ悲鳴を上げる余裕がある。

 もう三十往復追加だ。

 

「……こんなもんか」

 

『げえっ、がはっ……うえっ……』

 

 九神がダメージを殺しきれず、のたうち回った。

 刃物を維持できなくなったのか、俺の手の平に刺さった刃物も消えた。

 

「悪い。部屋、滅茶苦茶にしちまった。後で銀座さんが清掃業者を入れると思う」

 

『え、あ、うん……じゃなくて……まだ終わってない!』

 

 桜さんが九神を指差す。

 九神は、よろよろと立ち上がって俺を睨みつけてきた。

 しかもさっき床に叩き付けてできた傷が消えている。

 魔力や体力は回復していないようだが、傷を癒すくらいはできるようだ。

 なかなか進化してるじゃないか。

 

「殴り甲斐がありそうだな」

 

『こっちのセリフだ……人間かよお前……』

 

「人間やめてるお前よりは人間だよ」

 

『この野郎……! 遊ぶのはやめだ……死の苦痛を直接味わえ……!』

 

 九神が殺意を込めて俺を睨む。

 先ほどの雲取茜のように、死の苦痛を直接脳内に送り込んできた。

 

 いや、それだけじゃない。

 九神が殺した相手の恐怖も俺に送り込んでくる。

 こいつ……殺した人数は三人どころじゃないな。

 ヤクザの殺し屋紛いのことをしていたようだ。

 

 これだけ人を殺したら、魂が歪むのも仕方がない。

 そして加減してやる必要もない。

 

「茜さんたちの想念は大人しく食らったが、お前には加減するつもりはない。お前は、突然現れた相手に迷わず致命傷の一撃を出してきた。だったら同じ土俵で勝負してやる」

 

『当たり前だろうが! ビビったか今更!』

 

「そういう口は、俺の死に様を見てからにしてもらおうか」

 

 死の追体験は人の精神を直で攻撃する強力無比な技だが、諸刃の刃でもある。

 

 死んだことのない人間にはよく効くが、俺のように死んだことのある人間は耐性がある。まったく苦痛を感じないわけじゃないが、我慢ができる。

 

『……んん? なんだこの景色は……日本じゃねえ……どこだここ……氷河……? なんでお前じゃなくて俺の方が幻覚を……!?』

 

 そして記憶を送り込むということは、逆に、相手の死の体験を送り込まれることもある。

 敵も同じ攻撃を使えないという思い込みが命取りだ。

 

「氷河ってことは、嘆きの大海のあたりか。あそこはキツかったな。氷付けにされて海に封印されたんだよ」

 

『うっ、ううっ……寒いぃ……なんだこれは……』

 

「あのときはヴィニが助けてくれなきゃ詰んでたっけな……それまで本当に怖かったぜ。丁度、死なずに済むスキルを身に付けたばっかりで、酸素と体温がなくなる恐怖をずっとずっと感じ続けてたんだ。お前はどうだ? 耐えられるか? 俺は耐えたぜ」

 

 九神の精神に、俺の死の記憶を叩き込む。

 

 ついでに魔物に食い殺された記憶とか、火の魔法で燃やされた記憶とか、キツそうなのを幾つか送り込んでやった。

 

『げえっ……ごほっ……息が……息ができねえ……焼かれる……食われる……うがあああああああっ!?』

 

 九神が苦しみだした。様々な死の苦痛を同時に浴びて、別に息をする必要もないのに息ができない恐怖と戦っている。

 

「刺激が強すぎたか? ビビったか今更?」

 

『ひいいいっ……!?』

 

 九神が俺を恐れ始めた。

 普通は逆だろうと思うが、俺は、死霊系の魔物にとっては恐怖の象徴だ。

 悪霊は痛みの記憶を武器にする。

 しかし世界を救ってきた俺の痛みを超えることなどめったにない。

 

「安心しろよ。こんな手はもう使わない」

 

『……へ?』

 

 九神がきょとんとする。

 

「こういう呪いってのは、戦士が使っていい技じゃない。戦う技能がない女子供とか、戦闘職じゃない人間が怨敵に一矢報いるための奥の手だ。そうは思わないか? こんなのに頼ったらお前、戦士としておしまいだぜ?」

 

『なっ……何を言って……』

 

「お前は戦士じゃないって言ったんだ」

 

 異世界の冒険者間で最大級の侮辱だ。

 これを言われたら生きるか死ぬかの決闘しかない。

 

『ふざけっ、ふざけるな……! 俺は九神だ……格闘家九神刃いぶへぁつ?!』

 

 自分の名前を叫びながら殴りかかってきた。

 だが侮辱されて頭が血が上った状態で殴り掛かってきたところで、カウンターを食らわせてくださいと言ってるようなものだ。俺の右拳を食らった九神の体が、部屋の壁に激突する。

 

『がはっ!?』

 

「殴り合いたいなら、いいぜ。いくらでも付き合ってやるよ」

 

『なめやがって……!』

 

 九神が、手にはやしたナイフをひっこめて素手で殴りかかってきた。

 頭に血が上ったのかと思いきや、フットワークを駆使してコンパクトに、堅実に殴りかかってきた。

 

 狙いは悪くない。人体の弱点を的確に狙ってくる。力任せな戦いや、刃物の恐ろしさを全面に出してきたときよりもよほど恐ろしい。

 

『くそっ……なんでだ、なんで死なねえ……!』

 

 一方で俺はというと、普通に食らっていた。

 

 脇腹の骨が折れて肺に刺さった。

 

 顎を撃ち抜かれて脳が揺らされた。

 

 九神はナイフを捨てて殴りかかってきており、それゆえに俺のスキル効果の副作用が発動している。つまり、バフのない肉弾戦でのダメージが百倍になっている。このダメージ量からして、ヤクザの賭け試合でボクシングをしていたという経歴は伊達ではない。外道で悪党のこいつにも一片のプライドと、積み上げてきた修練がある。

 

 だが、それでも、俺には届かない。

 

「悪くはないが……軽いんだよ。お前が最初から拳だけを頼りにしてたら殺せたかもしれないが、正々堂々戦うには邪道を行きすぎたな」

 

 俺は異世界を救った勇者の当然の話として、魔術や小細工なしの素の肉体を、極限まで鍛え上げている。

 

『うるせえ……!』

 

 九神が猛攻を仕掛ける。

 俺はそれらすべてを食らいながら右拳を握り締めた。

 

『くそっ……倒れろ……! 俺はこうやって……邪魔する連中を……!』

 

「倒せないやつもいる。それだけのことだ」

 

 すべての攻撃を食らいながら大地を踏みしめ、九神の頬を思いきり殴りつけた。

 

『……ぁ』

 

 九神の体は再びマンションの壁に激突し、それだけにとどまらなかった。

 ダンジョン化して堅牢になったはずの壁が貫通して廊下へとはじき出され、そのまま廊下への壁に激突した。

 

『や、やったの……?』

 

 雲取桜さんが困惑しながらも嬉しそうに尋ねた。

 そう聞きたくなる気持ちはわかる。

 壁に激突して崩れ落ちた九神はどう見ても失神している。

 

「……まだだな」

 

 しぶとい男だ。

 道を違えなければ汚名じゃない名前を知らしめることもできただろうに。

 

「九神。起きてるんだろう。寝たふりをして不意打ちをするつもりだろうが、俺には通じないぜ」

 

『くそっ……付き合ってられるかよ……!』

 

 九神は突然自分の腕をナイフで刺したかと思うと、その血を吸って血の霧を盛大に吹き出した。真っ赤な煙が立ち込めて視界が閉ざされる。

 

『なにこれ……!?』

「煙幕替わりか……器用なやつだ。プロレスラーかよ」

 

 血の煙幕はすぐに晴れたが、そこに九神の姿はなかった。

 逃げるときは迷いがない。

 流石は殺しのプロってところか。

 

『ちょ、ちょっとあんた! 逃げられたらまずいんだよ! あいつは自分の分身みたいなのを生み出すから、外に出られたらたくさん人が死んじゃう!』

 

「落ち着けって」

 

 雲取桜さんが焦って俺に詰め寄る。

 その焦り方が、この少女の善性を表している。

 いい子だ。

 

『落ち着けるわけないじゃん! このままじゃあいつに何人も殺されちゃう……』

 

「あいつの眷属は全員倒したからな。九神が再び眷属を生み出す力を手にするには数年はかかるさ」

 

『そう、あいつの眷属が……え、全員倒した? うっそ?』

 

「それに……第三のスキル【霊媒体質(憎)】が発動してる。これがある限り、俺はあいつから逃げられないし、あいつも俺からは、逃げられない」

 

 スキル【霊媒体質(憎)】の効果は、霊的存在からの注目度が上がり、敵の攻撃ターゲットが強制的に当スキル発動者に変更される。そして敵の攻撃を俺が食らうことで「縁」が発生する。

 

 そして俺は「縁」を手繰ることで麻痺、呪詛、混乱等の行動不能状態でも常に敵をターゲットとした必中貫通攻撃を放つことができる。

 

 魔王や魔王幹部の多くは死霊属性で様々な呪詛やデバフを使いこなした。しかもどの攻撃も回避や防御が激しく困難だった。しかもこっちの攻撃は難なく回避する。だから俺は回避や回復を諦めた上で戦闘を継続し、そして攻撃のヒットに繋がるスキルを習得した。

 

 つまり。

 

 俺を殺そうとしたやつは、俺からは逃げられない。

 

「ちょっと借りるか」

 

 俺は、床に転がる九神のナイフを一本拾った。

 

 

 

 

 

 





谷川礼二
メイン職業:バーサーカー
サブ職業 :ネクロマンサー
称号   :勇者

所持スキル:
◆戦士は卑劣に破れない◆
遠距離攻撃、呪術、魔術、神秘、熱量、薬学的攻撃等、素手以外のあらゆる手段の攻撃で致命傷を受けたとき、痛みを食いしばって死を避ける。
あらゆる補正を受けない単独の敵が正面から素手で攻撃してきた場合、被ダメージ100倍の補正を受ける。

◆天が悪を誅せずとも◆
その身に受けたダメージ、または呪詛、猛毒、麻痺等のデバフが蓄積する度に攻撃力が倍加していく。
ダメージ量が許容量を超え、なおかつ死ぬことなく踏みとどまった場合、武器の使用を許可する。

◆霊媒体質(憎)◆
霊的存在からの注目度が上がり、敵の攻撃ターゲットを強制的に自身に変更することができる。また被ダメージ時に敵との「縁」が発生し、麻痺、呪詛、正気喪失等の行動不能状態でも常に敵をターゲットとした必中貫通攻撃を放つことができる。

その他、四代属性魔法、死霊術などのサブスキル

所持武器:
???
???
???
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。