怪異をぶちのめす   作:富士伸太

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きさらぎトロッコ 4

 

 

 

「百鬼夜行……ですか……?」

 

 福内が不思議に首をひねった。

 

「知ってるのか?」

「はい。とはいえ謎めいているところが多いのでどこまで事実かはわかりませんが……」

「ともかく教えてくれ」

「単独では退魔師に対抗できないような怪異が集った弱小怪異サークルです」

「言い方が酷い」

「教えてくれって言ったじゃないですかぁ!」

 

 福内が恥ずかしがりながら怒った。

 だが福内からそんな辛口の評価が出るのは流石に予想外すぎる。

 

「怪異に弱小サークルとかあるんだ……? ていうか倒されたりしてないの?」

「倒されています。ただ、基本的に群れを作らないはずの怪異が群れを作ったとき、百鬼夜行と仮の名前を付けているにすぎませんから」

「……複数体で行動していれば百鬼夜行ってことか。だがなんで『弱小』になるんだ?」

「怪異というのは基本的に個性が強すぎて、普通はチームワークなど望むべくもないからですね。怪異を怪異たらしめるのは、悪霊としての強さのみならず妄執あってこそ……ですから」

 

 言われてみれば確かにそうだ。

 

 怪異とは基本的に霊だ。未練も執着もない霊は、現実に干渉する力が弱いことが多い。格が低いというより、成仏に近いところにいて現実に関心が薄くなる……といった方が適切だろう。

 

 もしかしたら悟りを開いて霊でありながら強力な力を持つ存在もいるかもしれないが、人間に敵対的であることは少ないだろう。

 

「ダンスマカブルはアイドルに固執していたし、絶海入道も騙して人を食うことに固執してたな。偏執的な感情が強さに変換されてたとも言える」

「怪異ってそういうキモいところあるよね」

「うっ……! き、キモくないもん!」

 

 きさらぎが、桜の何気ない一言でダメージを受ける。

 

「ち、違うの! きさらぎちゃんをキモいって言ったわけじゃなくてね?」

「まあ、死んだ人間が怪異になったパターンとは別だろう」

「そーそー! れいちゃん良いこと言った!」

 

 ずびしと桜が俺を指差す。

 

「ともあれ、百鬼夜行のことだ。きさらぎがあったのはどういう怪異たちの集団なんだ?」

「それが……なんか特徴がないんだよね。あえて言うなら、丸の内あたりを歩いてそうなサラリーマンっぽいっていうか……」

「特徴が、ない?」

 

 福内が難しい表情できさらぎの言葉を繰り返した。

 

「うん。黒髪で、スーツを着た男なのは覚えてるんだけど……多分二十代か三十代か、それとも四十代かって感じで、若すぎず老け過ぎずくらいのことしか言えないし……」

「怪異っぽくはないな」

「どのような妄執を抱えているのか想像できませんね……。しかし、エージェントが百鬼夜行とは」

「痕跡も残さず、ダンスマカブルにあんな設備を提供できる怪異が弱小とも考えにくいな」

 

 ダンスマカブル・那須川ゆめも言っていた。

 あのアプリ『夢が叶うダンスマカブル』もエージェントが調達してきたと。

 

「認識を改める必要がありますね」

「ゆめちゃんを悪の道に引きずり込んだり、トロッコって怪異を育てたり、なんかヤなやつだね……」

 

 桜のシンプルな言葉に頷くしかない。

 

「きさらぎ。百鬼夜行のエージェントに会うことはできるか?」

「んー……どうだろう……。神出鬼没なんだよね……。それにボクも身動き取りにくいし」

「身動きが取りにくい?」

 

 今、俺たちがいるのは現実空間とは切り離された異空間だ。

 こんなところに行けるのだから、身動きが取れないというのも変な話だ。

 だが、よくよく考えてみると「電車」というものはどこか次の駅に向かうものだ。

 

 この電車は今、停止している。

 どこへ行く途中だったんだ?

 

「……恥ずかしい話なんだけど、駅舎がトロッコに乗っ取られちゃってるんだ」

 

 きさらぎが、悔しそうに歯を食いしばりながら言った。

 

「……やはりそうか。ここはあくまで『どこかへ行く途中』に過ぎないんだな。異界というよりは異界に行くための通路にすぎない」

「うん。本当はきさらぎ駅を起点に日本全国の線路にワープできるんだけど、今は梅多摩線の沿線に閉じ込められてる。ボクの駅のホームに戻らないと……」

「じゃあ目的地は決まったわけだ」

「え?」

 

 きさらぎが、きょとんとしていた。

 話はこんなにもシンプルだというのに。

 

「行方不明の五人の生徒の居所。トロッコの逃げた場所。お前が帰るべき場所。全部一緒だ」

「そうですね」

「うん! きさらぎ駅に殴り込みだぁ!」

 

 福内が頷き、桜が拳を振り上げる。

 あとは、加速のレバーを押し込むだけだ。

 

「み、みんな……手伝ってくれるの……?」

「手伝う? 逆だ。お前が俺たちを手伝ってくれ」

 

 ようやく俺たちの言葉を理解したのか、きさらぎの顔がぱぁっと明るくなる。

 

「……ありがとう、みんな! それじゃ行こう!」

 

 きさらぎが運転席に行き、レバーを倒した。

 電車がゆっくりと動き始める。

 

「次は〜、きさらぎ〜、きさらぎ〜。各駅停車にお乗り換えのお客様は〜……」

 

 無機質なようで、どこか喜びをにじませた案内の声を流す。

 

「……あれ? おかしいな」

「どうした?」

「ここ、ボクの異界のはずなのに……くそっ……やられた……!」

 

 何か異変が起きたようだ。

 俺たちはきさらぎのいる運転室に向かった。

 客が入るのはよくないと思うが、非常事態のようだ。

 

「あれ見て」

 

 きさらぎが、俺たちにわかるように車両前方を指差した。

 

「あの赤いランプは……」

「停止信号だよ! くそー! 電車が言うこと聞いてくれないよ!」

 

 きさらぎの視線の先には、ランプが縦に3つ並んだ信号が置かれている。

 一番下が赤い光を放っている。

 間違いなく、トロッコの仕業だ。

 

「自分の異界に塗り替えて結界を作ったんだろうな」

「れいちゃん、ズバっと斬っちゃいなよ!」

「無理だ」

「えっ?」

「ダメージが治っちまった。もう一度あいつが轢き殺してくれないと武器を召喚できない」

 

 ティンダロスは収納してしまった。

 トロッコに轢かれたときの傷はふさがり、血も止まっている。

 

「きさらぎ。ちょっと俺のこと轢いてくれるか。加減はしなくていい」

「ごめん、この人もしかして頭おかしい?」

「れいちゃんの頭と体はおかしいけど、いい子だから嫌わないでほしいんだよね」

 

 桜がフォローになってないフォローをしてくる。

 聞いてるこっちが辛いのでやめてほしい。

 

「実際、俺がダメージを喰らわないとなんともならんぞ。行方不明の生徒たちのことも心配だし」

「それは確かにそうなんだけどぉ……」

 

 桜がもやもやと言いよどんだ。

 心配してくれるのはありがたいのだが、四の五の言っていられないときもある。このくらいは平気だしな。

 

「確かにそれが最短ルートのようにも思えますが……一度持ち帰りませんか? ここは状況を整理した方が得策に思います」

 

 確かに、予想していなかった情報が多い。

 そして相談できる人間もいる。

 

「それもそうか」

「そーだよそーだよ! 出直そう! きさらぎちゃんも、もうちょっと待っててくれる?」

「ううん、気にしないで。じゃあ近くまで送っていくね。あ、ボクを呼びたいときは……これ使ってくれる?」

 

 きさらぎが運転席からこちらに戻り、あるものを差し出してきた。

 これは……交通系ICカードタイプの定期券だ。

 梅多摩駅からきさらぎ駅までと書かれている。

 

「本当は特定の時間、特定の電車、特定の出口を出入りして暗号を解かないとボクの電車には乗れないんだけど、これがあればいつでもボクを呼べるから」

「わあ! きさらぎ駅フリーパスだ!」

 

 あまりオカルト味はないが、桜が嬉しそうにカードを見ている。

 

「それじゃみんな、がんばろうね!」

「おう。やろうぜ」

 

 きさらぎが元気な声で言った。

 こうして俺たちは、仕切り直すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 再び退魔師協会に行くと、何人か知らない顔がいた。

 

 十代後半から二十代前半の若い男女のグループがテーブルに陣取っている。その中心にいるのは、黒と赤のゴスロリ服に身を包んだ不機嫌そうな少女だ。腕に自信ありって顔をしながらこちらにガンを飛ばしてくる。

 

「誰よ、あなた。ここは魂を磨き抜いた選ばれた者だけが入れる高貴な場所よ。あなたみたいな肉体しか能の無さそうな人が来るなんて、退魔師協会も堕ちたものね」

 

 ……いいねぇ。

 

 冒険者ギルドで、「ママのおっぱいでも吸ってな」と言われて殴られたのを思い出す。

 

 ケンカなら喜んで買いたいところだ。

 

 って、あれ?

 

「初対面じゃないよな?」

「……みんな今の聞いた? だっさいナンパよね」

 

 その言葉に、周囲の取り巻きがげらげら笑う。

 桜がちょっと怒って進み出ようとするが、待ったをかけた。

 

「れいちゃん。あたしこいつら嫌い」

「まあ待て。思い出した。あのときのやつだな」

「だから、あなたなんて見たことあるわけないでしょ」

「いや、ある。お前の顔を見たのは初めてだが、手では触れた。覚えてないか?」

 

 俺はそう言いながら指を広げて見せた。

 

 そこに少しばかり魔力の膜を包む。

 

 絶海入道の作り出した『絶海』の中で、閉じ込められていた魂が壊れないようにコーティングしたときのしぐさだ。

 ゴスロリ少女は、それを見て何かに気付いた。

 じっと俺の手を……というより、魔力を見ている。

 

「リコ姉に何の用だ? ああ?」

「てめーどこの流派だよ。せっかくリコ姉様がシャバに戻ってきたってのにケンカ売ってんじゃねえぞ」

 

 ドン〇ホーテあたりでたむろってそうなジャージの男と女が俺に凄んできた。

 

「絶海をブタ箱みたいに捉えるセンス、タフでいいじゃねえか」

 

 あの暗闇の中で長時間過ごしていてこんなに元気なのは素晴らしい。

 骨がある。

 

「あのときは乱暴に扱って悪かったな。もう少し魔力を分けてやろうか?」

「ひいっ!?」

 

 リコ姉と呼ばれた女が後ずさり、テーブルの上の食器が床に落ちる。

 

「すすすすすすすみません殺さないで殺さないで殺さないで申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません」

 

 ……死ぬほどビビられた。

 

 取り巻きの前にいるにも関わらず、土下座をし始める。どうやら強さがわかる程度の強さを持ちながら、俺に勝てないことをわかってしまうくらいの実力らしい。悲しい。

 

「まあ落ち着いてくれ。乱暴する気はない」

「谷川くん、もう手遅れです。リコさんのトラウマが蘇ったようですので……」

 

 福内が俺の肩を叩き、小さく首を横に振る。

 そして簡単に彼女について説明を耳打ちしてくれた。

 

 ゴスロリ少女の名は、妙義リコ。

 十代のホープとしてはトップクラスで、福内に並ぶ実力者だった。

 

 過去形なのは、絶海入道に敗れて半年ほどあいつに取り込まれていたからだ。その間に福内は始祖魔術会流エクササイズによってレベルアップし、そして妙義リコはリハビリ中だ。

 

(恐らく絶海入道から帰還したということで彼女の取り巻きは妙義さんを褒め称え

ていたのでしょう)

(出所パーティーみたいなもんか)

 

 なるほどと思う後ろで、妙義リコが怯えながら取り巻きをなだめていた。

 

「お、お前たち、やめとけ。絶海入道を一睨みで殺した悪魔だ……あっ、いやっ、悪魔じゃないです、すみません失礼しました」

 

「えっ、こ、こいつが……」

 

 ざわざわし始めた。

 

「えー、助けられといて頭ぅ高くない? れいちゃん処す? 処す?」

「ひいっ」

「桜、あんまり怖がらせるな」

 

 桜が茶化すように言って俺の首にしなだれかかる。

 悪党の愛人みたいなムーブだが、ドン引きされてる俺を気遣ってくれている。

 

「お前、優しいよな。ありがとよ」

「えっ、あっ、えっと、こ、このタイミングでそういうこと言っちゃダメでしょ……」

 

 桜が顔を赤らめながら俺の体から離れる。

 

 

「はいはい、お二人ともお仕事をしますよ。あと妙義さん。あなたは一般人ではなく退魔師ですので、他の退魔師に助けられた以上は仁義を通してくださいね」

 

 ちょっと白けた感じの福内が、ぱんぱんと手を叩いた。

 

「わ、わかってるわよ……」

「仁義?」

 

 福内がヤクザみたいなことを言い始めた。

 

「具体的には救助の費用、もしくはこちらの応援要請に従うことですね。別にお金はいらないでしょうし、何か人手が必要なときは使ってあげてください」

「う、ウッス。よろしくお願いしやす」

 

 渡世人みたいなことを言うゴスロリ少女は見てて面白いな。

 しかもその後ろに、ビビリまくっている取り巻きも並んで頭を下げている。

 こっちがヤクザになったかのようだ。

 

「えーと、皆さん何してらっしゃるんです……?」

 

 カウンターの奥から樋口氏がやってきて、少々引きながら俺たちを眺めていた。

 

 

 

 

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