犯人は助手 作:だめ
辺りを見渡せば分厚い壁。少し大声を出したところで、その声が外に漏れる事は無いだろう。僕はこの場所を良く知っている。
世間で、名探偵と騒がれている"美少女探偵"のアジトの地下室。そこが此処だ。別名は"独断調査室"。僕は皮肉と事実を交えてそう言ってた過去を思い出し笑う。その様子を見て、これまで沈黙を貫いていた探偵が疑問を一つ口にした。
『何で笑ってるの?』
「昔を思い出しただけだよ。ほら、昔僕がこの部屋を独断調査室って言ったでしょ?そんな事を言ってた僕が調査されてるなんて面白いなって思って」
『違う』
僕の返しに対して、彼女はお気に召さなかった様で不機嫌そうな顔を隠そうとせず、此方を見た。
『何で、貴方は自分が犯人だと疑われてる状況なのにそうやって笑っていられるの?』
教えてよ助手と呟く彼女の顔は、見惚れてしまうほど酷く美しい。涙目になって、目の前の現実に対して必死に否定しようとしながらも粗を探せば探すほど、それが真実だと証明する為の証拠ばかり見つかるこの状況へのもどかしさが彼女をそうさせるのだろう。
「だから、言ってるでしょ?犯人は僕だ」
『違う!貴方が犯人な訳無い』
仕方無い。これが最後の推理になるだろうし、出来の悪い名探偵に力を貸してやりますか。全く手が掛かる弟子だ。
「……状況を整理しようか。セーラ。まずは、現場はどんな感じだった?」
『被害者は椅子に座って絶命。散らばっていたり、盗まれた痕跡は無し。だから物取りの線は薄いってナベさんが言ってた』
「だとしたら、被害者は犯人と面識があったと考えられる。理由は分かるよね?」
『知らない人が自分の部屋に入って来たら、多少の動揺が見えるから』
そうだ。寧ろ、その来客に対して被害者はリラックスして対応している様に見える。二人分の紅茶を出して、自分の席に深く座っている時点で予期せぬ来客と言う線は消して良い筈だ。
『犯人は、被害者の身内』
「そう。幸いな事に、被害者の友人関係は広く無くて……」
『その僅かな友人が私と助手だった。でも、私達は事件発生時一緒にご飯を食べていた』
「その日は中華を作ったっけ、麻婆豆腐と餃子」
その日僕と名探偵には人と会う約束なんて無かったから、口臭を気にせず、ニンニクたっぷりの餃子を楽しんだ。
『うん、美味しかった!……コホンッ。だから、私達には犯行は不可能』
「だけど現場の証拠的に、最も疑わしくて。限り無く黒に染まっているのは僕だ」
証拠に証言だってある。どうもおかしいし、あり得ないけど。それが事実だと言うのだったら、どんだけ狐に摘まれようとそうなんだ。
『あんな証言も証拠も気にしなくて良い』
「探偵がそんな事言ったらお終いだよ。探偵は、証拠や証言を使って隠された真実を解き明かすのが仕事なんだから。たとえ、人を不幸にしてもそう決めたんだったら最後まで守れよ」
『だって、おかしいもん。助手が私とご飯食べてる時、犯人の助手が被害者の部屋から焦った様子で走り去った証言なんてそんなのおかしい。おかしいよ!』
その場にあった証拠も僕がそこに居たと言う証拠だった。してもいない約束が被害者の机のメモに残されていた。さらに、紅茶の入ったコップには僕の指紋が見つかった様で訳が分からない。そこに居ないはずの僕の指紋がそこに存在するのだから。だとしたら、僕が殺したんだろう。知らんけど。
「おかしいって言ってもそれが事実なんだから。もう良い?警察に自首してくるよ。犯人は僕ですって。きっと警察も待ってくれてるんだと思うし」
悔しいなぁ、やっぱり僕も人間だから解き明かせない謎もあるんだな。なんて思いながら部屋を抜け出した。