ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか 作:ラブコメは正義マン
エイナとミィシャで士郎の認識にちょっとのすれ違いが起こる、そんな話です
「七階層~~!?」
本日二度目となる絶叫が、またもギルドに木霊した。
声の主はエイナ。ベルの担当アドバイザーである。
今日のベルの到達階層を耳にした彼女は言葉を失い、
次の瞬間には有無を言わせぬ勢いでベルを別室へと連れて行ってしまった。
その場に取り残されたのは、士郎ただ一人。
そこへ、同僚の悲鳴を聞きつけたミィシャが、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「ちょっとエイナ!?すごい声がしたけど大丈夫!?……ってまたあなたですか…」
「お、ミィシャ。ただいま」
「おかえりなさい……って違うわよ!さっきの悲鳴は一体何!?」
──また問題を起こしたのか。
そう言わんばかりの視線を、ミィシャは士郎へと向ける。
彼女は一応、士郎の担当アドバイザーではあるが、その視線に遠慮の色は一切なかった。
だが、続く言葉についに感情を爆発させてしまう。
「エイナさんなら、俺たちが今日七階層に降りたっていったらベルを連れて……」
──そこまで言ったところで、
「やっぱりバカなんですかあなたぁぁぁ!!!!!」
本日三度目の絶叫が響き渡るのだった。
***
──翌日、昼。オラリオ。
俺は、日課として続けている午前の鍛練を終え、オラリオの街を歩いていた。
ベルはあの後、エイナさんとデートの約束をしたらしく、今日のダンジョン探索は中止となった。
やることもなく街を歩く。
そうして歩くこと数十分。
気づけば、二日前まで働いていた、豊穣の女主人の前に来てしまっていた。
──どうやら、ここで働く生活が癖になってしまっているらしい。
だが、もう昼の営業は終わっている。
それに、俺の都合で辞めさせてもらった身だ。
こちらから出向くのは失礼な話だろう。
大人しく別の場所へ向かおうと、踵を返した──その時。
「士郎さん?こんにちは」
「シルか。こんにちは」
この店の看板娘──シルに声をかけられた。
「どうしてここに?」と言わんばかりに、彼女はきょとんとした表情を浮かべている。
「実は、気づいたらここに来てしまってだな……。オラリオについてもまだ知らない事ばかりだし。正直何をすればいいのか分からなくてな」
彼女へ正直に、ここへ来た事情を説明する。
話を聞いた彼女は、一瞬だけ考え込むように視線を泳がせ、やがて何か思いついたように、ふっと表情を和らげる。
「そういう事でしたら……。
良ければ、少し上がって行きませんか?
私、ちゃんとお別れも出来なかったので……。」
そう言って、彼女は目を伏せた。
確かに昨日は、早くに店を出たせいで、アーニャとリュー以外には、きちんと別れを告げられていなかった。
「でも、いいのか?今から色々作業があるんじゃ……」
「だいじょーぶですよ!士郎さんなら大歓迎です!」
花のような笑顔を浮かべる彼女。
こんな顔を見せられたら、むざむざ断ることもできない。
「そうか。なら、少しお言葉に甘えようかな」
「ありがとうございます!さぁ、中へどうぞ」
彼女の手によって入口のドアが開かれる。
手招きされるまま、店の奥へ。
そうして彼女に案内された先は──
目の前に高く積み重ねられた、皿の山だった。
「シル……これ──」
彼女の方へ向き直る。
だが、ここへ連れてきた張本人は、満面の笑みでこちらを見ており──
「一人でこの量は大変だったので、助かりましたー!あと、また今度料理教えてくださーい!」
そう言い残し、彼女は軽い足取りで厨房から出ていった。
扉が閉まる音がして、ようやく俺は気づく。
──ああ。
皿を一枚手に取り、蛇口をひねる。
どうせ、今日は暇だったんだ。いい時間つぶしになるだろう。
それでも──してやられた。そう思う感覚はぬぐえない。
「……なんでさ」
一人残された厨房で、俺の声が虚しく響いた。
***
──同時刻。バベル。
昨日の件で、ベル君のステイタスを確認した私──エイナ・チュール。
ファルナに刻まれた数値を追ううち、思わず目を見開いた。
この目で見たステイタスは、私の予想を大きく上回っている。
ギルドの基準に照らしても、七階層へ降りること自体に問題はない。
──だが、それは数値の上での話。
彼の持つ武装は、ナイフを除いて貧弱なものばかりだ。
このままダンジョンへ潜っていれば、当たり所によっては一撃で命を落としかねない。
そう判断した私は、彼を連れてバベルにあるヘファイストス・ファミリアのテナントを訪れていた。
最初は緊張していた様子の彼だったが、新米の鍛冶師の作品を扱う階に来た途端、
その眼を輝かせ、奥へと駆け出してしまった。
「あっ…ベル君!……まったくもう…」
──一緒に選ぼうと思ったのに。
そんな気持ちが、思いがけず胸に浮かんだ。
だが、私の仕事はあくまでもアドバイザー。
さっき彼の主神にも釘を刺されたばっかりだ。
公私の分別は、きっちりとつけねばならない。
気持ちを切り替え、作品を見て回る。
剣や盾、鎧など様々な装備に目を凝らす。
その中にふと、目を引いたものがあった。
「これ……ベル君にいいかも」
手に取ったのは、翠碧色のプロテクター。
軽く、動きやすそうな作りだ。
これなら、彼の
手に持ったまま、彼を探しに歩く。
しかし、少しして見つけた彼の手には、既に別のものが握られていた。
「エイナさん!僕、これに決めました!」
「はぁ……ベル君って本当に軽装が好きなんだね。せっかく色々見てきたのになぁ……」
彼が手に持っていたのは、ライトアーマー。
その出来は悪くない。むしろ、良い部類に見える。
しかし、彼のためにあれこれ考えた時間を思い返し、少し意地悪な言い方をしてしまう。
「す、すみません……。」
私の意地悪に、素直に謝る彼。
反応が面白くて、つい、時々からかってしまう。
「いいんだよ。君が使う装備なんだもん。君がこれって決めたんなら、それでいいと思う」
「……ありがとうございます!」
私の言葉を聞いて、ベル君はカウンターへと歩き出した。
その背中を見送りながら、そのまま買いに行くつもりなのだろうと思った。
彼が見つけたものは、納得のいく装備らしく、その足取りは弾んでいる。
あの防具なら、上層までなら問題なく通用するだろう。
これで、一先ずの心配は和らいだ。
「待って、ベル君」
「はい?」
──それでも。
まだ不安が残っていた。
その不安を解消すべく、彼を呼び止めた。
「そういえば、明日もダンジョンに行くの?」
「はい。そのつもりです」
「私としては、できればパーティーを組んでほしいなぁ……なんて」
──そう。まだ彼は一人(ソロ)なのだ。
いかに防具に身を包もうと、一人ではいずれ限界がきてしまう。
彼には死んでほしくない。
そう思っての言葉だったが──
予想に反して彼は嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「そのことなんですけど……実は!ついにファミリアに仲間が増えたんです!!」
「本当に!?おめでとう、ベル君!」
予想外の言葉に、思わず声が弾んでいた。
でも、彼のファミリアが増えたなんて初耳だ。
最近の出来事だろうか?
「よかったね、ベル君!それで、その人はいつ入ったの?どんな人?」
未だ嬉しそうにしている彼に、続けて尋ねてみる。
「その人がファミリアに入ってくれたのは、つい最近なんです。ずっと、オラリオの外で戦ってて……すごく強くて。街でシルバーバックに襲われたときも、助けてくれたんです」
その言葉を聞いた瞬間、一人の人物が思い浮かんだ。
モンスターが逃げたあのとき、一緒に話を聞いていた彼。
「もしかしてその人って……赤い髪をした
「はい!そうです!……って知ってたんですか?」
「まぁ……ちょっといろいろあってね。」
あの日したことの後ろめたさから、少しだけ目をそらしてしまう。
民間人に情報を流す行為は決して褒められたものではない。
しかし、それが彼を助けることになったのだと思うと、少し嬉しくもなった。
「エイナさん?」
歯切れの悪い返事をしてしまったからか、彼は心配そうにこちらを見ていた。
その視線に気づいた私は、気をとりなおし、話を再開する。
「なんでもないよ。それよりベル君?
いくら強くなったって、ダンジョンは常に危険でいっぱいなの。
オラリオの外にいたなら、その人もダンジョンに慣れてるわけじゃないんでしょ?
だったら、サポーターを雇ってみるとか、どう?」
──少し、過保護すぎるだろうか。
ベル君のステイタスの伸びは、はっきり言って異常だ。
新たにファミリアに入ったという彼も、あの時に感じた気迫は、尋常ではなかった。
その二人がパーティーを組むなら、近いうちに中層まで到達していてもおかしくはない。
それでも、心配だ。
──心配させる何かが、彼らにはある。
その違和感の正体は分からない。
だが、せめてあと一人、ダンジョンに詳しい存在の協力はあるに越したことはない。
「サポーター……ですか。ちょっと、考えてみます」
「うん、ありがとう」
心配が伝わったのか、彼は素直に頷いた。
そのまま、カウンターへ向かっていく背中を見送る。
正直、少し彼に入れ込みすぎている自覚はある。
それでも、私の教えを素直に聞いてくれるいい子だ。
だからこそ、放っておけない。
これは決して色恋なんかじゃなくて、もっと単純な気持ちのはずだ。
そんな、誰に聞かせるでもない言い訳を胸の内で繰り返しながら、
目的の品を買うために、私もカウンターへ向かうのだった。
***
──夕方、路地裏。
(すっかり遅くなっちゃったな……)
エイナからの贈り物を受け取り、帰路についていたベル。
その帰り道──
「あうっ!?」
「うわっ!」
視界の端から、突然小さな影が飛び出してきた。
避ける間もなく衝突し、鈍い音と共に二人の体が弾かれる。
起き上がり、ぶつかった影の正体を確かめたベル。
その正体は、ぼろぼろの布に身を包んだ、華奢な少女だった。
「すみません!あの、大丈夫です──」
「追いついたぞ!!このクソパルゥムがっ!!」
ベルが少女へ声をかけようとした途端、一人の男が同じ道から飛び出してくる。
見れば手には剣を構えており、目には憎悪が宿っている。
それをみたベルは、反射的に腰に下げていたナイフを抜いていた。
「あぁ?なんだ。てめぇそのガキの仲間か?」
「ち、違いますけど……」
「ならなんでそいつを庇う?」
「……ぉ、女の子だから?」
「ふざけんなよ……クソガキィッ!!」
ベルの煮え切らない返答に、男はますます怒りを募らせていく。
吐き捨てるような言葉と共に、男の手が柄へとかかり──
今にも切りかからんとした、その瞬間だった。
「止めなさい」
強く、凛とした声が響いた。
突然割り込んできた声に、男もベルも思わず動きを止め、声のした方へと視線を向ける。そこに立っていたのは──
夕飯の買い出し袋を提げたリューだった。
「チッ!次から次へと……邪魔すんじゃねぇ!」
舌打ちとともに、男は気を取り直したように剣を構える。
その視線の先にいるのは、リュー。
先ほどよりも大きな声で叫びながら、一歩を踏み出そうとした。
だが──
「吠えるな」
それよりも早く、リューの放つ
直接その圧を受けていないベルでさえも、思わず足がすくむほどの威圧感。
直接受けている男は、もはや指一本さえ動くことすらできなくなっていた。
路地裏に、重く、冷たい空気が流れる。
やがて、思考を取り戻した男は、捨て台詞を吐きながら、逃げるようにその場を後にするのだった。
そうしてしばらくして、リューとベルもその場を去る。
だが、先ほどまで追われていたはずの少女の姿は、そこにはもうなかった。
彼女が身を潜めていたのは、少し先の曲がり角。
リューが現れ、あの威圧感が路地を支配した瞬間。
少女はその空気に紛れるように、誰にも気づかれぬまま、その場を離れていたのだ。
追われていた少女は、逃げ延びたその場所でひとり立ち止まる。
そして──
妖しく、口元をゆがめて笑った。
──まるで、次の獲物を見つけたように。
女性視点って難しくないですか?違和感あったら教えてください
UA数とお気に入りが見るたびに伸びてて驚く毎日です
見てくださってる皆様、本当にありがとうございます