ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか 作:ラブコメは正義マン
ー追記2026/01/18ー
表現に納得がいかなかったため、後半の一部展開を一度カットしました。
魔剣から放たれた炎が、士郎を呑み込んだ。
熱と光が視界を埋め尽くし、次の瞬間、彼の姿は炎の中へと消えた。
その隙をついて、リリはその場を離れた。
小さな体を霧へ溶け込ませるように、彼女の姿はやがて見えなくなった。
「士郎!無事!?」
異変を察したベルが、反射的に士郎へ駆け寄り、容態を確認する。
少し気を失ってはいるが、その体に目立った外傷はない。
レッグホルスターから
だが──その瞬間を狙うように、霧の奥から矢が放たれる。
矢は正確に、ベルのレッグホルスターを射抜いていた。
獲物を捉えた矢が、射手の元へと舞い戻っていく。
その軌跡を追い、ベルは射手の正体を見た。
「──リリ?」
矢が戻った先に立っていたのは──リリルカ・アーデ。
オークの包囲網を強引に突破し、ベルたちを見下ろすように、高所からこちらを見据えていた。
「ベル様も士郎様も、お人よしすぎます。
そんなんじゃ、足元をすくわれてしまいますよ??
──こんなふうに」
その手には、ベルが何よりも大切にしているヘスティアナイフが、無造作に握られていた。
その価値を量るかのように、リリは手の中のナイフを弄ぶ。
柄から引き抜かれた刀身には、冒険者なら誰もが憧れる武器の証──ヘファイストス・ファミリアの刻印が、はっきりと刻まれていた。
それを確かめると、リリは静かにナイフを収め、この場を離れようとした。
「リリ……何が狙いなの?」
ベルの声が、その背中を引き留める。
彼女は足を止め、振り返ると、大きくため息を吐いてみせた。
「……状況が呑み込めていないんですか?
いいですか?私はわるーい盗人なんです。
私の狙いは最初から……この武器だけ。
これさえあれば、リリは自由に──」
ベルを嘲るように、自身の目的を語るリリ。
だがその言葉は、どこか自分自身に言い聞かせているようでもあって──
「だったら!なんでそんな顔をするんだよ!!!」
「──ッ!!」
堪えていた感情が抑えられなくなり、ベルが叫ぶ。
嘲るような態度を装っていた彼女の表情はその一言で崩れ、押し殺していた感情が滲むように、悲痛に歪んだ。
同時、これ以上ここにはいられないとでも言うように、リリは逃げるようにその場を後にした。
「リリ──!!」
『グオオオオオオ!』
追いかけようとしたベルの前に、オークの群れが立ち塞がる。
このままでは、リリを見失ってしまう。
最悪の可能性が、ベルの脳裏をよぎった──その瞬間。
「ベルッ!!」
意識を取り戻した士郎。
即座に状況を把握し、ベルへと言葉を投げかけた。
「ここは俺に任せてリリを追ってくれ!
お前の
「それじゃ、士郎は……
──分かった。ここは任せるよ」
仲間を置いていくことに一瞬ためらったベルだったが、士郎の表情を見て、その迷いはすぐに晴れた。
──何があってもリリの味方でいる。
それが、ベルと士郎が交わした約束だった。
なら、ここで立ち止まっているわけにはいかない。
「ベルこそ、リリを頼む。
──十秒後だ。
俺が道を切り開く。それと同時に突っ込め」
「──了解」
二人の間に、もはや言葉による確認は必要ない。
ベルはその指示を受けると同時、いつでも飛び出せるよう身体を低く構える。
「──
士郎を中心に魔力が集まっていく。
その手に現れたのは、いつも使っている剣ではなく──弓。
だが、その弓につがえられているのは──魔剣だった。
「──基本骨子、変更」
一節の詠唱。
さらに魔力を注ぎ込まれた魔剣は、その形状を歪めながら変化し、やがて一本の矢へと姿を変える。
引き絞られる弦。
限界を超えた魔力に耐えきれなくなった魔剣が、軋みを上げた、その瞬間──
「──体は、剣でできている」
──空気を引き裂く音とともに、矢は放たれた。
直後、先ほどとは比べものにならないほどの炎が、視界を埋め尽くす。
『グ、ァ──……ッ!!』
炎に焼かれたオークたちは、声を上げることすら許されなかった。
包囲網の中に、わずかな空白が生まれる。
その瞬間、ベルは駆け出した。
獲物が逃げていくのを目にしたオークたちは、それを許すまいと武器を振り上げ──
「──
『──ッ…ッ──!!』
──突如飛来した無数の剣が、オークの魔石をそのまま打ち抜く。
力を失った武器が、地面に鈍く転がる。
オークたちは一瞬、何が起きたのか理解できずに硬直する。
その隙に、ベルは包囲網を突破した。
ベルの突破を確認した士郎。
だが背後には、まだ迫るオークの影があった。
リリが仕掛けた撒き餌に導かれ、どこからともなく群がるオークたち。
(包囲を突破するには……まだしばらく時間がかかりそうか)
わずかな苛立ちとともに、剣を構えた士郎。
──そこに、一人の人影が霧の中から舞い降り、オークの群れを切り裂いた。
***
──ダンジョン、十階層。
(今の音……何……?)
突如鳴り響いた轟音に、アイズは足を止めた。
彼の担当アドバイザーであるエイナに頼まれ、アイズはベルを探している最中だった。
音のした方へ振り返り、視線を凝らす。
そこには、目的の人物──ベルともう一つ、アイズも知る顔があった。
(あれは……ベルと、酒場にいた人……?)
オークの包囲を突破し、上階層へと続く階段へ駆け出すベル。
その背中を追おうとしたアイズだったが、オークに囲まれたもう一人の青年を視界に捉え、足を止めた。
(囲まれてる……助けなきゃ)
Lv6の超人的な身体能力で群れの中へ躍り込み、アイズは剣を抜く。
次の瞬間、オークたちは次々と薙ぎ払われていった。
彼女にとって、この階層のモンスターなど、相手にすらならない。
ものの数瞬のうちに、オークの群れは跡形もなく消え去った。
「剣姫……」
自身を救った人物を見据え、士郎は思わず呟く。
その姿は自身が契約し、ともに戦ったサーヴァント──セイバーを思い出させる。
仲間であるベルが憧れていることもあり、彼女に少し興味を持っていた士郎。
しかし、今は状況が状況だった。
「すまない、助かった。
──だけど、今は仲間がピンチなんだ。
お礼はまた今度させてくれ」
そう礼だけを残し、士郎はすぐさまベルの後を追って駆け出していった。
静まり返った十階層に、アイズだけが取り残される。
「あなたも、逃げちゃうの?」
ぽつりと漏れた小さな声。
──またしても助けた相手に背を向けられ、アイズは誰にも知られぬまま、少しだけ傷ついていた。
***
──ダンジョン、七階層。
「リリ!いたら返事をしてくれ!」
名前を呼びながら、ダンジョンを駆けまわる。
──リリは言っていた。
ダンジョンから安全に帰るなら、他の冒険者が通った道を辿るといい、と。
なら、ドロップアイテムや魔石を目印に辿っていけば必ず追いつけるはず。
そう考えながら走り続けた通路の先で、声が聞こえた。
「あのガキ、やっぱたんまりため込んでやがったぜ……
──お前は!」
視線が合った瞬間、怒気を隠そうともしない声とともに、男がこちらへ歩み寄ってくる。
先日、リリを狙っていた──あの男だった。
その手には、宝石や金貨といった戦利品が無造作に握られている。
聞こえた会話の内容からして、恐らく──
「ちょうどいい!てめえにもムカついてたんだ。
有り金全部落として──!!」
「──リリはどこだ」
苛立ちのまま力任せに振り下ろされる剣。
技術も何も込められていないソレを、こちらも剣で受け止めた。
次の瞬間、相手の剣は呆気なく砕け散る。
「……は──?」
「──答えろ。リリはどこにいる?」
武器を失った男に、間を置かず問いかける。
咄嗟の出来事に呆然としていた男だったが、やがて状況を理解したのか、じりじりと後ずさりして距離を取った。
だが、その顔から怒りが消えることはない。
そして懐へと手を伸ばし──つい先ほど目にした魔剣を取り出して、振りかざした。
「直撃だぜこのバカが!! 偉そうに指図してんじゃ──!?」
言い終えるより早く、拳が男の顔面を捉えた。
完全に芯を食った一撃に、男の体は数メートル先まで吹き飛ばされる。
多少体は痛むが、気に留めるほどのものでもない。
「早く答えろ。リリはどこだ」
三度、問いかける。
もはや男の表情に怒りはなく──そこに浮かんでいるのは、露骨な恐怖だった。
「ヒィッ!?
お、俺たちがあいつと別れたのはその角を曲がった先の広間だ!
い、いい、今頃、キラーアントにでも喰われてるだろうよ!!」
「そうか」
居場所は分かった。
なら、これ以上ここに用はない。
即座に踵を返し、走り出す。
背後で男が何か喚いていたが──今は聞く余裕がない。
角を曲がり、いくつかの通路を抜けた先。
辿り着いた一つの広間で、俺が目にしたのは──
無数に転がるキラーアントの亡骸と、
ベルにしがみつき、泣きじゃくるリリの姿だった。
救えたか?救えましたか?救えたといってくれ。
士郎の怒りの描写が難しく、苦戦しています。
唯一言峰が真に士郎の怒りを引き出せる....のかな??
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