ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか 作:ラブコメは正義マン
空いた時間に頑張って書いていきますが、士郎といろんなキャラの絡みを書きたいので、ストーリーのテンポはゆっくり目です。
もうちょっとしたら私がダンまちにハマるきっかけになったあの回が来るから、皆さんそこまで耐えてくれ.....
「ヴァレンシュタインさんは、どうして僕たちを探していたんですか?」
場所を移し、少し落ち着きを取り戻したベルは、テーブル越しに向かい合うアイズへと問いかけた。
彼女がベルたちを探していた理由を尋ねられ、少し言いづらそうに視線を伏せてから、やがて、その口を開いた。
「──あの日。
私達がミノタウロスを逃がしたせいで君のことをいっぱい傷つけてしまったから。
ずっと謝りたくて……ごめんなさい」
──それは、謝罪の言葉だった。
そう告げると同時に、アイズの頭が下げられる。
憧れの人に頭を下げられ、動揺するベル。
だがすぐに立ち上がると、慌てて同じように頭を下げ返し言った。
「違うんです!
ヴァレンシュタインさんは、僕を助けてくれた命の恩人で!
というか、悪いのは助けてもらったのに逃げ出した僕の方で!
だから、ごめんなさい!」
顔を上げたアイズの視界には、自分以上に深く頭を下げ、必死に感謝を伝えるベルの姿が映っていた。
嫌われていなかったのだと知り、彼女はほんの少し口元を緩める。
それを見たベルも顔を上げ、その微笑みに気づいた瞬間、頬を赤く染めた。
「そうだな。
あの日も、助けられたのは俺達の方だ。
だから、改めてお礼を言わせてくれ。
──ありがとな」
ベルに続いて、士郎もまた、彼女へと頭を下げる。
「できることなら、何かお礼をさせて欲しいんだが⋯」
「お礼⋯⋯⋯⋯」
顔を上げ、そう切り出す士郎。
その言葉に、アイズは少し考える素振りを見せる。
やがて、頼み事を決めた彼女は、静かに口を開いた。
「じゃあ、一つ聞かせて。
──彼は、どうやってそこまで強くなったの?」
──それは、ベルの強さへの興味からくる問いだった。
冒険者となって、まだ一ヶ月ほどのベル。
それにもかかわらず、彼はすでに十階層へ到達できるほどの実力を身につけている。
はっきり言って、冒険者の中では異常な成長速度だ。
だが、当の本人は、その評価を大げさだとばかりに否定する。
「強いって⋯⋯そんなことないです。
目標には全然届かないし、戦い方だって素人同然で⋯⋯」
「戦い方⋯⋯あなたが教えてるんじゃないの?」
そこまで聞いたところで、アイズは士郎へと視線を向けた。
オークから助けた時に見た彼はとても落ち着いていて、戦うことに慣れた様子だった。
ならば当然、彼がベルに戦い方を教えているものだと思っていたのだが──。
「ああ。教えるのはからきしでな⋯⋯」
「⋯⋯そっか」
──アイズの予想は外れていた。
衛宮士郎の扱う投影魔術は、一般的なソレとは性質が異なる。
投影した武器と共に、その担い手の経験までも再現できてしまうため、彼の戦い方は感覚に頼る部分が大きい。
結果として、人に教えるにはあまり向いていない戦闘スタイルなのだった。
当然ながら、そんな事情まで知る由もないアイズ。
彼女は少し考えるように視線を落とし、やがてベルを見つめて口を開いた。
「……戦い方。よかったら──私が教えようか?」
──翌日。早朝、オラリオ市壁上。
まだ朝日は顔を出しておらず、街は静寂に包まれていた。
街の外縁にそびえ立つ城壁の上に、三つの人影が並んでいる。
ベルと士郎、そしてアイズ。
ベルは、アイズから戦い方を教わるために。
士郎は、日課の鍛錬ついでにベルを見守るために。
それぞれの目的を胸に、人気の少ないこの場所を訪れていた。
「ヴァレンシュタインさん……よろしくお願いします!」
まさかアイズから直接教えを受けられる機会に恵まれるとは思っていなかったベルは、早朝とは思えないほど意欲に満ちていた。
勢いよく頭を下げるその全身からは、やる気が溢れ出ている。
そんな彼に、さらに幸運が舞い込むことになる。
「──アイズ」
「え?」
「アイズでいいよ。みんなそう呼ぶから」
──それは、彼女を名前で呼ぶ許可だった。
憧れの人から告げられ、ベルの胸が跳ねる。
嬉しさと恥ずかしさが入り混じり、しばらく言葉が出てこなかったが──
やがて意を決し、ようやくその名前を口にする覚悟が固まった。
「……じゃあ、ア、アイズさん。
僕は、これから何をすれば……」
「……どうしよっか」
そうして勇気を振り絞った言葉は、あまりにもあっさりと肩透かしを食らった。
──戦い方を教える。
そう提案したアイズだったが、実のところ、具体的に何を教えるかまでは考えていなかった。
それもそのはず。
彼女の目的の半分は、ベルの異常な成長速度の理由を探ることにある。
特訓を口実に、その秘密に触れ、できることなら自分自身の成長の糸口も掴もうとしていたのだ。
だが、このままではベルもアイズも何も得られない。
少し考えた末、アイズはまず、ベルの現状を確かめることにした。
「キミは、何の武器を使うの?」
「えっと、ナイフを……」
「……ちょっと構えてみて」
「はい……こう、ですか」
言われるがままナイフを取り出して構えるベル。
そんな彼をじっくりと観察していくアイズ。
「少し、素振りをしてみて」
構えをひと通り確認すると、今度はそう指示を出した。
ベルはうなずき、右から左へ、上から下へ。
様々な軌道で、確かめるようにナイフを振るっていく。
「キミは、ナイフしか使わないの?」
「それは……どういう……」
素振りも一通り確認し終えたところで、アイズから新たな問いが投げかけられる。
意図を測りかねたベルは、思わず戸惑いの表情を浮かべた。
だが、続く言葉を聞き、その真意を理解することになる。
「私の知ってる人たちは、みんな体術も使うから……。
ちょっと貸してみて──こう?それとも……」
ベルからナイフを受け取ると、アイズはいくつか構えを試してみせた。
だが、ナイフの扱いなれていないせいか、その動きはどこかぎこちない。
「あの……ナイフは──」
構えを伝えようと、一歩踏み出すベル。
しかしその瞬間、感覚を掴んだらしいアイズが、確かめるように回し蹴りを放った。
鋭く振り抜かれた一撃は、あまりにも絶妙なタイミングで、ベルの側頭部を捉えてしまう。
ノーガードのまま蹴りを喰らったベルは、そのまま向かいの壁へと吹き飛んでいった。
「あ──」
「なんかすごい音がしたけど大丈──ベル!?」
音を聞きつけて戻ってきた士郎が目にしたのは、壁にめり込む勢いで倒れているベルと、それを見て慌てふためくアイズの姿だった。
その光景だけで状況を察した士郎は、ひとまずベルのもとへ駆け寄り、回復薬を振りかける。
(この娘……相当天然なんじゃないか?)
未だ慌てたまま固まっているアイズを見て、士郎はそんな感想を抱くのだった。
***
「……ごめん」
少しして目を覚ましたベルは、特訓を再開した。
だが、アイズも人に教えるのは苦手らしく、なかなかうまくいかない。
あれから数十分ほど経ったが、未だに特訓らしい特訓とは言い難い状況だ。
──このままではマズイ。
ベルが何もつかむことができないまま、時間だけが過ぎてしまう。
何か打開策はないか──そう考えたとき、アイズの姿を見て、士郎はかつて自分に剣を教えてくれた人物のことを思い出した。
そうだ、俺はセイバーと──
「……提案なんだが──模擬戦をするっていうのはどうだ?」
その言葉に、アイズははっと目を見開いた。
次の瞬間、何かを思いついたように立ち上がる。
「模擬戦……それだ」
鞘から剣を引き抜き──剣をすぐ側の壁に立てかけた。
そして、空になった鞘を手に取り、そのまま構える。
──その瞬間、彼女の纏う雰囲気が一変した。
先ほどまでの落ち込んでいた少女から一転、強者の風格を漂わせ始める。
「──っ!」
ベルもそれに気づいたのか、立ち上がり、反射的にナイフを構えた。
「うん……それでいいよ。
やっぱり、私は上手に教えられないだろうから──これが一番いい」
──彼女が、一歩踏み出した。
たった一歩、それだけでベルは気圧されたように動けなくなってしまう。
「これから私と戦う中で、いろんなことを感じて欲しい。
それがきっと──君の力になる」
──彼女が、さらに一歩踏み出す。
あと一歩で、間合いに入られてしまう。
危険を察知したベルは、硬直していた体を無理やり動かし、アイズを迎え撃とうと構えた。
だが──
「──行くよ」
「ぐっ!?」
──その守りを、アイズは容易く突破する。
手加減が加えられているのは間違いない。
それでも、今のベルに見切るには難しいほどの速度だ。
体勢を崩したベルへ、アイズは続けざまに武器を振るっていく。
「痛みを怖がっちゃダメ。
視界は広く。死角は作らない。
相手の動きを読んで、常に反撃の意識を持って」
その言葉に重なるように、武器が振るわれる。
肩、腕、脚。
ベルの体の至るところに、打撃の痕が刻まれていった。
──それでも、ベルは倒れない
この時間の一秒一秒を無駄にしないように、懸命にアイズへ喰らいついてく。
やがて、限界を迎えたベルが地に崩れ落ちるまで、この模擬戦は続いた。
「技とか……駆け引き。
そういうのが今のキミには足りない。
だから、これから私の動きを読んで対応できるようになって」
「はい!」
模擬戦を終えたベルは、少し休憩を挟みながら、アイズから助言を受けていた。
彼女曰く、この世界の冒険者は、恩恵に頼りすぎてしまうケースが多いらしい。
その結果、基礎的な地力が伸び悩む者も少なくないのだという。
(恩恵を受けても、十全に扱えるかは本人次第……ってことか)
「あの……」
ふと、アイズの視線がこちらへ向けられた。
ベルのために時間を使ってもらうつもりで特訓は辞退していたのだが、どうやら俺のことも気にかけてくれているらしい。
「あなたはいいの?」
その申し出はありがたいが、今はベルにこそ時間を使ってほしい。
──少しでも早く憧れにたどり着けるように。
「さっきも言ったけど、俺よりベルに修行を──」
「──士郎。
僕からもお願いしていいかな?」
だが、その言葉を遮ったのはベルだった。
「技と駆け引き。
士郎なら、僕よりずっと上手くこなせるだろうから。
だから、参考にしたいなー……なんて」
見上げてくるその瞳は、ただひたむきに強さを求めている。
──ここまで言われてしまっては、断る方が無粋というものだ。
「──分かった。
参考になるかは分からないが、やるだけやってみる。
アイズ、頼めるか?」
「もちろん……全力で来て」
──全力で、か。
立ち上がった俺は、干将莫耶を投影する。
相手が彼女なら不要だろうが、刃はあらかじめ落としてある。
彼女は初めて目にする魔法に、小さく目を見開いた。
「魔法に、剣……
あなた、アーチャーじゃ……ないの?」
「アーチャー?
……ああ、あの時はちょっとな。
本業はこっちだ」
「……そっか」
俺の答えに納得したのか、彼女は構えを取った。
その一連の動作は流れるようにスムーズで隙がない。
──今の俺の実力じゃ、一発入れることすら叶わないだろう。
だが、そんなことは先刻承知だ。
元々、敵いっこないセイバーと鍛錬を重ねてきたのだから。
これくらいなんてことはない。
「──行くぞ」
久しぶりの感覚に身を任せ、俺は彼女へ一歩踏み込んだ──
???「また私以外に剣を教わるのですね、シロウ」
アイズの目的の半分はベルの秘密を探るため。
もう半分には純粋に善意と、ほんのわずかに士郎への興味があります。