ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか 作:ラブコメは正義マン
みんなありがとうっ!
「──っ!!」
意識を取り戻した士郎は、弾かれるように跳ね起きた。
周囲を見渡すが、既に猛者の姿は無い。
周囲の安全を確認すると、今度は自身の身体へゆっくりと視線を落とす。
(生き......てる?)
気を失う直前。 士郎は脳裏に焼き付いた最後の光景を思い返す。
最後の一撃は剣ごと打ち砕かれ、その胴体は撃ち抜かれたはずだった。
だが、身体のどこを見渡しても、そのような傷は見当たらない。
(俺には何か埋め込まれてるって遠坂が言ってたっけ......)
士郎とセイバーを繋いでいた縁。
それはかつて切嗣が遺した聖遺物──
所有者に絶対的な不死性をもたらすとされる最強の守護。
だが、セイバーとの縁が切れて以降、その力が発揮されたことは一度もなかった。
(だめだ......さっぱり分からん)
この不可解な現象に少し頭を悩ませたものの、結論は出ず。
思考を切り替え、ベルと合流すべく足を進めた。
***
「──士郎!!」
捜索を始めてしばらくして。
静まり返った通路に響いた声に足を止める。
視線を向けた先。 こちらへ駆け寄ってくる少年の姿が映る。
──ベルだ。
その後ろには、リリの姿もあった。
「ベル!リリ!無事でよかった」
「うん。士郎も無事で良かったよ」
全身は傷だらけでありながら。
それでもベルは、安堵したように笑みを浮かべていた。
そして、その手には──討ち取ったモンスターのドロップアイテムが握られている。
「勝ったんだな」
「──士郎達のおかげだよ。
僕一人だったら、きっと負けてたと思う」
ベルが何を見て。
何を越えたのか。
その全てを俺は知らない。
だが──。
姿を見た瞬間、直感的に理解した。
時間にして一時間にも満たない程の、僅かの別離。
されど、その短い時間の中で。
ベル・クラネルという冒険者は、確かに一つ先の領域へと踏み込んでいた。
──悔しいけど、アイツの言う通りだった。
猛者の言葉が頭をよぎる。
ベルを護る。 その考え自体が間違いだったとは思わない。
だが俺は、危険だと切り捨て。
無茶だと決めつけて。
戦うことすら止めようとしていた。
──英雄を目指すこの少年の隣で、共に戦う道を選ぼうとしなかった。
「ベル」
「......?どうしたの、士郎?」
短い沈黙の後。
「悪かった」
頭を下げる。
突然の謝罪に、ベルは困惑したように目を瞬かせる。
そんなベルを前に。 俺は胸の内を、包み隠さず言葉にしていく。
「俺は、一人で背負おうとした。 一人で戦おうとした。
……お前を、信じてやれなかった」
「そんなこと......」
「だから、これからは一緒に戦う。
何があっても、決して一人で戦おうなんてしない」
その言葉には、強い決意があった。
それは何かを変えようとする覚悟ではなく。
一度見失いかけたものを、もう二度と違えないという意志。
ベルには、そんな覚悟がはっきりと伝わっていた。
「うん。
僕も、士郎に追いつけるくらい──もっと強くなるよ」
その言葉に、俺は小さく笑みを零した。
それだけで十分だ。
もう、これ以上言葉を交わさずとも。 互いに抱えているものは、きっと伝わっている。
静かな空気が流れる。
──その時だった。
「──オホンッ!」
今まで黙っていたリリが、これ見よがしに咳払いをする。
「お二人共、リリのことを忘れてませんか?」
……ものすごく不機嫌そうだった。
「あー悪い、リリ。
決して忘れてたわけじゃ──」
「そ、そうそう!
ちゃんとリリのことも──」
募る弁明に、リリはますます機嫌を悪くしていく。
その様子に焦った俺達は、更に言葉を重ねた。
「リリ、これに関しては俺が間違ってたんだ!
だから、まずはベルに謝るべきであって──」
「ご、ごめんってリリ!
でも、僕も士郎が無事かどうか頭がいっぱいで──」
「──っ!」
そして、その言葉を皮切りに。
ついに、リリの不満が言葉になって溢れた。
「それを言ったらベル様もです!!
......あの時、リリを遠ざけたじゃないですか。」
「────────」
リリの声が、静かな通路に反響する。
共に戦うと誓ったはずのその場で。
自分の存在だけが、当然のように抜け落ちていたこと。
それが、どうしても納得できなかった。
「リリも、お二人を心配してたんです」
静かな通路に、その声だけが落ちた。
「リリはサポーターです。
ベル様たちのように、前に出て戦うことはできません。
士郎様達と同じファミリアでもありません。」
淡々と事実を述べているようで。
その声には様々な感情が入り交じっていた。
不安。
劣等感。
そして──置いていかれることへの寂しさ。
「それでも......リリ達はパーティじゃないですか。
リリの事も── ちゃんと仲間に入れてください」
その声は、僅かに震えていた。
「リリ......ごめん。
僕も、間違ってた──」
「俺もだ。
リリのことも、ちゃんと見れてなかった。悪い──」
「「リリも、僕(俺)達の仲間だ」」
その言葉を聞いて、リリは小さく息を吐いた。
張り詰めていたものが、ふっと緩む。
「別に、分かってくださればいいんです。
リリも、感情的になってしまい申し訳ございませんでした」
張り詰めていた空気は、もうそこにはなかった。
互いに言いたいことは、すべて言い尽くしている。
不思議と、心地のいい静けさだけが残っていた。
「そろそろ、地上へ戻りましょうか」
「そうだな。
そろそろ──」
ふと、隣へ視線を向ける。
そこには、何やら嬉しそうに笑っているベルがいた。
「......何か、嬉しそうだな?」
「士郎......うん。
こんな時だけど、嬉しかったんだ。
リリが、僕たちのことを仲間って言ってくれて」
「──〜〜〜〜〜っ!!」
その言葉に、リリは慌てて顔を伏せた。 見れば、耳まで真っ赤に染まっている。
「べっ、別にヘスティア様にお二人の事を頼まれているだけです!!決して、リリは心配なんてしてません──!」
落ち着こうとすればするほど言葉は早口になり、かえって動揺が露わになっていく。
「ええ!心配なんてしてませんとも!
さぁ!モンスターが湧く前に帰りますよ!!」
半ばヤケクソになりながら、リリが駆け出した。
その背を見て、俺達は顔を見合わせる。
そして、それぞれ静かにその後を追った。
***
──同日。夜。ヘスティアファミリアホーム。
「終わったぜ、ベル君。
──おめでとう、ランクアップだ」
「ランクアップ......」
ステイタスの更新を終えて、うつ伏せになっているベルにヘスティアは告げる。
少しの間。
その言葉の意味を噛みしめるように、ベルは動かなかった。
「まぁ、そんなすぐに実感は湧かないだろうけどね。
でも、ちゃんと強くなってるはずだぜ」
ベルがゆっくりと顔を上げる。
その表情を見た瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「次は士郎くんだね......よし」
「ああ、頼む」
慣れた手つきでステイタスを更新しながら、先の話を思い返す。
(ミノタウロスに遭遇したって聞いた時は驚いたけど......。まさか倒しちゃうなんてね)
──ああ、本当に。
ここまで来たんだなって、思ってしまう。
一ヶ月と少し前。
まさか、あの日自分の下を訪ねてきた少年がここまで大きくなるなんて。
(あの時、来てくれたのがキミでよかったよ)
嬉しくて。
誇らしくて。
......でも。
ほんの少しだけ、面白くない。
彼をここまで連れてきたもの。
それは、彼自身の努力に他ならない。
だが、その“きっかけ”となったのは──
(おのれヴァレン某......!
ベル君は僕のものなんだからな!)
ぶつぶつと悪態を吐きながら、半ば機械的にステイタスを更新していく。
手は止まらないまま、頭の中だけが少し別のことを考えていた。
気づけば──すべての更新は終わっていた。
傍らにある用紙には、もう一人の眷属のステイタスが記録されている。
突っ伏したままの士郎へ、その紙を渡しながら。
──まるで何事でもないように、ヘスティアは告げる。
「はい、士郎くんも終わったぜ。 ベル君に続いてランクアップさ」
「ああ、ありがとう」
(ん?僕......今なんて言った?)
ベル君のことを考えすぎて、口が滑ったのかな。
ランクアップなんて、そんな簡単に──
「士郎君……それ──」
言いかけて、視線が自然と紙へ落ちる。
「ん?何か間違いでも──」
自身が更新したステイタスへ目を向ける。
──数値が、視界に入った瞬間。
思考が一度、止まった。
(……え?)
衛宮士郎──Lv二
その紙には、確かにそう記されていた。
前話を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
多くの反響をいただき、とても嬉しいです。
これからも更新していきますので、気が向いたときにでも読んでもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。
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