ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか 作:ラブコメは正義マン
あとがきに衛宮士郎のステイタス(Lv1終了時)も載せているので気が向いたらどうぞ
錯乱
──翌日。朝。ヘスティアホーム
一人になった室内でヘスティアは思考を巡らせていた。
その中心にあるのは──衛宮士郎のランクアップ。
ランクアップしたという事実。
それ自体は主神として非常に喜ばしい。
喜ばしい──のだが。
(まさか、フレイヤが関わってるなんてね......)
ヘスティアは昨夜、士郎のランクアップを行った後。
彼からも一連の出来事を聞いた。
そこで語られた内容は、断片ではなく一つの筋道として成立している。
──二人の成長に、神フレイヤが関与しているという事実。
士郎の不在と足止め。
ミノタウロスとの遭遇と討伐。
ベル・クラネルのランクアップ。
それらは、偶然ではなく意図された状況として成立している。
そして衛宮士郎のランクアップは、その流れの中で生じた副次的な結果に過ぎない。
(でも……よりにもよってあの猛者をけしかけるなんて)
公的な記録上、衛宮士郎は最近登録されたばかりのLv一の冒険者に過ぎない。
だというのに、その彼に対して都市最強の戦力が投入されている。
その事実が意味するものは単純ではない。
──フレイヤファミリアは衛宮士郎について、何らかの情報を保持している可能性が高い。
(あるいは......)
士郎がこの世界に来た経緯そのものに、何らかの関与がある可能性。
しかし同時に、その仮説は成立しきらない。
彼自身への直接的な干渉や接触が、あまりにも薄すぎる。
仮に関与しているのであれば、もっと明確な接点があるはず。
──にもかかわらず、それは存在しない。
(……やっぱり、おかしいよね)
ベル・クラネルのランクアップにフレイヤが関わっているのは間違いない。
しかし、衛宮士郎に関してはその意思が直接介入しているとは考えにくい。
同時に、彼について何かを知っていることは恐らく間違いないのだが、その正体までは見えてこない。
(明後日には神会もあるし……今はここまでかな)
現状では、その答えに繋がる材料は足りない。
そう判断し、ヘスティアは一度思考を区切る。
(……さて、次は)
未解決の疑問を胸の奥に残したまま、意識を切り替える。
昨晩写した、衛宮士郎のステイタスを手に取った。
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衛宮士郎──Lv.2
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
【魔法】
・投影魔術
詠唱文:〈
精神力マインドを消費し、自身の世界にある武装を投影可能。
カテゴリ「剣」の武装を投影する際、消費
・固有結界【無限の剣製】
詠唱文:<使用者の意思に応じて変化>
自身の心を形とし、世界として顕現させる。
使用時、継続的に
【スキル】
・【正義の味方】
誰かを護る戦闘時、全アビリティに高補正。
護る対象の人数に応じて効果上昇。
また、意志の強さに比例し精神異常を無効化。
【発展アビリティ】
・守護者 I
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(改めて見ると……とんでもない力だ)
ランクアップと共に新たに現れたもの。 いや、もともと彼の中に在ったものか。
固有結界──【無限の剣製】
心象風景を現実へと押し出し、世界そのものを書き換える魔法。
規格外、というほかない。
世界を書き換える魔法だなんて、もはや神の領域にも等しい。
それを一個人が扱えるというのだから、驚きを通り越して呆れ返るしかない。
それに加えて、未知の発展アビリティである【守護者】。
名前は聞いたことがないし、効果についてももちろん不明。
しかも、勝手に習得しているというおまけ付きだ。
だが、それを彼に伝えたところ、
「そうか......」
と、ただ一言呟くのみで終わった。
だがそれは、興味がないというより受け入れているような言葉だった。
(……まあ、士郎くんだし、大きな問題は無いか)
総じて、衛宮士郎という人間はまだヘスティアにとっても未知の部分が多く残っている。
それでも、これまで見てきた在り方から一つだけ言えることがあるとすれば。
──正しいことのために力を使う。
そんな確信が、ヘスティアにはあった。
***
──同時刻。ギルド。
昨晩のランクアップを経て。 俺たちは、その報告のためにギルドへ来ていた。
「じゃあ、僕はエイナさんのところに行ってくるよ」
「ああ、また後でな」
ベルと別れ、自分もカウンターへ向かう。
朝のギルドはすでに冒険者で賑わっていて、いつもの喧騒が流れていた。
「ミィシャー、いるかー?」
窓口に立ち、その奥へと声をかける。
探し主は俺の担当アドバイザー、ミィシャ・フロット。
声をかけて少しして、呆れた様子で姿を現した。
「いるかー?じゃないわよ全く......それで、今日はなんの要件ですか?」
ジロリ、と。 恨みを含んだような視線が突き刺さる。
彼女とは冒険者登録をしたその日以降、ろくに話す機会もなかったはずだが──
(気に障るようなこと、したか?)
思い当たる節は浮かばない。
まあ、機嫌の悪い日もあるだろう。
(……遠坂も、朝は割とあんな感じだしな)
下手につついて余計に機嫌を損ねることもない。
そう思い直し、要件を伝えるべく口を開いた。
「ああ。昨日ランクアップしたんで、その報告に──」
「──今、なんて言いました?」
言いかけたところで、口を挟まれた。
先程まで細められていた目が、今は大きく見開かれている。
──何かおかしいことでも言ったか?俺。
「いや、だから昨日ランクアップを──」
「......あーランクアップですね!
いいですよねー!ランクアップ!」
またも口を挟まれた。
──まさか、冗談だと思われたか?
とにかく、このままじゃ埒が明かない。
懐からヘスティアに渡されたステイタスの写しを取り出し、そのまま差し出す。
ミィシャはステイタスを一瞥すると、ため息混じりにそれを受け取った。
「──ほら、ちゃんとランクアップしてるだろ?」
「はいはい、ランクアップランクアップ……」
......話が噛み合わない。
口を挟む暇さえなく、半ば独り言のように言葉を重ねる。
その内容を理解しようとしているのか、していないのかすら曖昧なまま、ただ言葉だけが流れ続けていた。
「───────────」
だがやがて、それが唐突に途切れた。
顔を伏せ、小さく肩を震わせ始める。
(……?)
「あの……ミィシャ?大丈夫か?」
「本当に……」
ぼそりと、か細い声。
そして──
「本当になんなんですかあなたはぁぁぁ!!!」
ミィシャの絶叫が、ギルドの空気を大きく揺らした。
***
──数分後。
人気のない資料室で、ミィシャ・フロットは小さく息を吐いた。
(剣姫ですら一年かかった記録を一ヶ月って……。
一体、何をすればそんなことになるのよ……)
ギルドの奥にある資料室。
先ほどのランクアップ報告に関する書類をまとめるため、彼女はここに戻っていた。
(あいつに関する資料は確かこの辺りに……あれ?)
それにもかかわらず、通常ならすぐに見つかるはずのものが、そこには存在していなかった。
もう一度、棚を確認する。
だが、何度探しても彼に関する記録だけが抜け落ちている。
(もしかして……無くした?)
血の気が引いていく。
担当冒険者の書類を紛失するという行為。
それは、ギルドの職員としては致命的な失態に等しい。
万が一、ステイタスなどの情報が外部に流出すれば、ファミリアや冒険者からの糾弾は避けられない。
何度探せど、見つからないまま時間だけが過ぎていく。
(どこ……どこに……)
その焦りが形になりかけた、その瞬間だった。
「ミィシャ・フロット!
ミィシャ・フロットはいるか!?」
「ひぃっ!?」
急に響いたその声に、思わず肩が跳ねる。
「おお、ここにいたか.....
いいか、ミィシャ......落ち着いて聞いてくれ」
(まさか......バレた?)
喉の奥がひくりと震え、呼吸が一瞬だけ詰まる。
この問題が表面化すれば、怒られるどころの話ではない。
職員としての信用も、立場も、一瞬で崩れかねない。
(……いや、最悪の場合──)
クビ、という単語が頭をよぎる。
だが、自分を呼ぶその声はどこか硬く、怒気というよりは困惑に近かった。
普段この手の呼び出しを伝える側の職員も、明らかに慣れていない様子を滲ませている。
「はい……」
息を飲む。
次の言葉を待つ、そのわずかな間がやけに長く感じられた。
──そうして告げられたのは、ミィシャ自身も予想だにしない一言だった。
「ウラノス様が──お前をお呼びだ」
久々のミィシャ登場です。
途中でミィシャに渡したステイタスは、ランクアップに伴ってヘスティアが用意したLv以外の情報を載せていない証明書のようなものだと思ってください。
以下、士郎のLv1最終アビリティです
衛宮士郎──Lv.1
力:D 569
耐久:C 647
器用:C 601
敏捷:D 511
魔力:B 746
固有結界の詠唱は全部載せると長いのであのような形に。
詠唱自体はいつものやつですので悪しからず。
評価・お気に入り・感想いつもありがとうございます。
次回もまた読んでくださると嬉しいです。