ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか   作:ラブコメは正義マン

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ただの設定開示回というかダンまち本編との整合性を取るための話なのに中々まとまらず時間かかってしまいました...。
次回からまたストーリー進むんで許して下さい


ウラノス

──ギルド。

 

ミィシャの絶叫が木霊してしばらくして。

やっとの事で再起動した彼女は必要な書類を取ってくると言い残し、カウンターの奥へと姿を消した。

 

「────────」

 

これからダンジョンへ向かうであろう冒険者達を横目に見ながら時間を潰す。

特段やるべきことがあるわけでもなく。

かと言って、呼ばれるまで待つ以外に選択肢もない。

 

「衛宮士郎、だな」

 

突如として名前を呼ばれ、振り返る。

そこにいたのは、全身を黒衣で覆った人物だった。

 

「......誰だ」

 

一目で異質だと分かる装いに無意識に警戒が走る。

その声はどこかくぐもっていて、輪郭が曖昧だ。

人間のそれというより、何かを通して響いているような不自然さがある。

 

それでも、その口調には妙な落ち着きとかすかな優しさのようなものが混じっていた。

 

「そう警戒するな......私はフェルズ。

訳あって、君を呼びに来た」

 

「俺を?」

 

一瞬だけ、そのフードの奥が見えた気がした。

だが、そこにあったのが本当に人の顔だったのかは判然としない。

敵意や悪意は感じられない。

それでも、正体は掴めなかった。

 

「......ああ。

ギルドの主神──ウラノス様がお前をお呼びだ」

 

「ギルドの主神が?一体、俺に何の用だ」

 

「それは向こうに着いてからだ──着いてこい」

 

黒衣の人物は返答を待つ間もなく、踵を返して歩き出した。

あからさまにギルドの職員ではないその人物は、迷いなく歩みを進めていく。

 

──着いていくべきか。

堂々とギルド内に現れ名前まで名乗っている以上、少なくとも罠や敵対行動の類ではない。

要件は分からないがついて行く方が懸命だろう。

少しだけ間を置き、その背を追って歩き出す。

 

 

 

「──ここだ」

 

──ギルドの地下にこんな空間があったのか。

少し歩いた後、たどり着いたのはギルドの地下。

そこには、巨大な祭壇が静かに鎮座していた。

そして、その祭壇の上に座す一柱の神。

 

「お待たせしました、ウラノス様」

 

「ご苦労だった、フェルズ。下がってよい」

 

厳かな雰囲気は、個ではなく祭壇全体から滲み出ていた。

空間そのものが神気に満ちている、とでも言うべきか。

祭壇の上に座すその存在は動いていない。

ただそこにいるだけで、空気の質そのものが変わっていた。

あれが──ウラノス。

 

「さて......初めましてだな。衛宮士郎」

 

「あんたがウラノスか。

それで、こんな所に呼び出して何の用だ?」

 

「まぁそう急くな。ここにはもう一人呼んである」

 

「もう一人って──」

 

その問いを投げる前に、背後の扉が慌ただしく開いた。

 

「ウ、ウラノス様!お待たせいたしました!」

 

息を切らせながら駆け込んできたのは、ミィシャだった。

そして、その視線が俺を捉えた瞬間ぴたりと止まる。

 

「……って!あなたもいるんですか!?」

 

「?……俺も、ってどういう意味だ?」

 

少し困惑しながら問い返す。

どうやら、向こうも呼ばれた理由はわかっていないようだ。

 

「い、いやー……それはですね……!」

 

俺の問いにしどろもどろになりながら、ミィシャは視線を泳がせる。

先ほどまでの厳粛な空気との落差に、場の緊張がわずかに緩む。

 

「……落ち着け」

 

ウラノスの静かな一言だけが、場を軽く押さえ込んだ。

その言葉に、ミィシャは背筋を正す。

だが視線だけは、なお落ち着きなく揺れていた。

 

「全員揃ったな。......本題に入ろう」

 

一拍。

そして、ウラノスは視線を静かに据える。

 

「本題というのは他でもない──お前についてのことだ」

 

視線が合う。

その瞬間、空気がわずかに重さを増した気がした。

その視線は俺を見ているというより、何かを測っているように感じられる。

 

「───────」

 

数秒の沈黙。

長くも短くもないその間、ただ“見定められている”という感覚だけが残っていた。

やがてその沈黙が終わり、ウラノスが口を開く。

 

「......衛宮士郎。いや──異邦の魔術師と呼ぶべきか」

 

その言葉に、一瞬だけ思考が止まる。

──異邦の魔術師、と言ったのか。

俺が別の世界から来たことはヘスティアやリューしか知らないはず。

だが、確かに今。目の前の存在はそれを“知って”いた。

 

「お前はこのオラリオに突如として現れた存在だ」

 

断定。

 

「神の恩恵を持たぬまま魔法を行使し──」

 

また一つ、事実を重ねるように。

 

「本来あり得ぬ現象すら引き起こしている」

 

まるで観測記録を読み上げるかのように、淡々と。

 

「世界の法則すら歪める力を持つ者よ」

 

この世界の理から外れた存在。

そこに在ること自体が矛盾であるもの。

そう、はっきりと言い切った上で──

 

「問おう──お前は一体何者だ」

 

俺は何者か、と。

その問いだけが、静かに残った。

 

 

***

 

「俺は──ただの人間だ」

 

「......ただの人間、か」

 

ウラノスの問いに、衛宮士郎は迷いなく答えた。

何者でもない。

衛宮切嗣に憧れ、正義の味方を目指す──それだけの人間だと。

静かに、ウラノスが言葉を続ける。

 

「お前は何者でもないと在りながら、それでも誰かを救おうとしている」

 

「己よりも他者を優先し、そのために傷つくことすら厭わない」

 

「……その在り方を、人は偽善と呼ぶだろう」

 

ウラノスは、そんな彼の在り方を偽善と突きつける。

だが、衛宮士郎はそんなものはもう何度も突きつけられている。

そしてそれは。

彼がかつて何度も向き合い、それでも捨てなかったものだ。

 

「……ああ、それでも構わない」

 

ゆっくりと、ウラノスの瞳を真っ直ぐ見据える。

 

「偽善者だろうがなんだろうが構わない。

俺が抱いたこの願いは決して──間違いなんかじゃない」

 

「────────」

 

しばしの沈黙。

だが、その静寂には先程までの探るような色はなかった。

 

「……なるほど」

 

「ならば、お前は異物ではあっても、“災厄”ではないらしい」

 

「────────」

 

「あ、あのー……」

 

張り詰めていた空気の中で、恐る恐るというように手が上がった。

視線が集まった瞬間、ミィシャの肩がびくりと跳ねる。

 

「その……さっきから何の話をしてるんですか?」

 

「異物とか災厄とか、正直ぜんっぜんついていけてないんですけど!?」

 

それは当然の反応だった。

当の士郎も状況の全てを理解しているわけじゃない。

ましてや、何も知らされていないミィシャなら尚更そういう反応になるだろう。

 

「無理もない。

ミィシャ、お前がここに呼ばれた理由もそこにある」

 

それが自分に向けられた言葉だと理解した瞬間、表情が強張る。

叱責か。

あるいは、業務上の重大な報告か。

思い当たる節に視線が落ち着かなく揺れていた。

 

「──衛宮士郎は、本来この世界に存在しない人間だ」

 

「......はい?」

 

予想していた言葉とかけ離れすぎて、ミィシャの思考が止まる。

理解が追いつかないまま、視線だけが士郎へ向いた。

 

士郎は一瞬だけウラノスを見る。

まるで“話しても構わないか”と確認するように。

ウラノスは何も言わない。

ただ静かに肯定するように目を閉じた。

 

「......俺は、別の世界から来た」

 

静かに、士郎が口を開く。

魔術が存在し、人ならざる怪物や“英雄”と呼ばれる存在が実在する世界。

士郎自身もまた、そんな世界で命のやり取りを生き延びてきた。

そうして全てが終わった後の魔術実験の最中に──

 

「──気づけばこのオラリオへと辿り着いていた。」

 

続けざまに、自らの経験についても語る。

聖杯戦争と呼ばれる殺し合い。

そして、自身が歩んできた在り方を。

 

更にオラリオへ来てからの出来事も。

ヘスティアファミリアへ加入したこと。

ダンジョンへ潜り、冒険者として生きていること。

猛者との戦いや、ランクアップに至るまでの経緯も含めて。

 

「────────」

 

「元の世界に帰る方法は......今のところは分からない」

 

ミィシャの表情が引き攣る。

冗談だと笑い飛ばすには、士郎の声音はあまりにも真剣だった。

そして何より──

 

「彼の言葉に偽りはない」

 

神であるウラノスがそう断言した。

 

ミィシャの脳裏に、あの日の光景が過る。

事情を聞いた瞬間、目の前の青年は迷うことなく飛び出していった。

未知の世界。

未知の脅威。

それでも一切怯むことなく。

あの時感じたのは、恐怖を押し潰すような強い意志と気迫だった。

 

──ああ、この人はそういう人だったんだ、と。

そういう世界を生き抜いて来たのだと。

そんな納得が胸に落ちた。

 

「──本来であれば、静観を続けるつもりだった」

 

沈黙を裂いて、ウラノスがそう告げる。

 

「異世界から来た存在であろうと、

オラリオへ害を為さぬ限り、干渉する理由にはならん」

 

例え違う世界の人間であったとしても。

オラリオへ害をもたらさない限り、それは干渉すべき理由にはならない。

ならば、彼が危惧しているものは別にある。

 

「だが、お前はあまりにも特異だった」

 

「もしお前が何の力も持たぬ只人であったなら。

ここまで問題視することもなかっただろう」

 

神の恩恵を持たぬまま魔法を行使し、

世界の理すら侵食するような力を持つ。

加えて、世界最速のランクアップ。

──否が応でも、神々の目を引く。

 

「経歴も素性も不明な人間がわずか一ヶ月で偉業を果たした。

ならば、探られるのは必然だろう」

 

「そしていずれ、その正体は明るみに出る」

 

あくまでウラノスが危惧しているのは衛宮士郎という個人ではない。

異世界の存在が神々に知れ渡ること。

そして──

 

「その時──同じことを考える存在が現れないとは限らない」

 

「同じこと......というのは......」

 

「異世界へ干渉する手段を求めることだ」

 

それを再現しようとする者が現れることだった。

 

「でも……彼がここに来た理由は……」

 

恐る恐る、ミィシャが口を開く。

士郎自身、“魔術実験の最中にこの世界へ来た”と語っている。

ならば原因は彼自身にあるようにも思えた。

 

「それも断定はできん」

 

しかし、ウラノスは首を横に振る。

 

「それが切っ掛けである可能性はある」

 

士郎達が行っていたのは、単なる転移魔術ではない。

“世界そのものへ干渉する”ことを目的とした魔術実験だった。

凛はともかく、士郎の領分など遥かに超えている。

故に成功など、本来あり得ない。

 

「だが、仮にそうだとしても不可解な点が残る」

 

まして、それが意図した結果であるなら

──帰還の術が存在しないというのも不自然だ。

 

「──そして理屈はどうあれ、“世界を渡った者”はここに存在している」

 

だがウラノスにとって、原因の解明など後回しでいい。

問題は、“世界を越える”という現象が現実に起きてしまったことだった。

 

「ならば神々は考えるだろう。

──異世界へ干渉することは可能なのではないか、と。

世界を越える術。あるいは、異世界の存在をこちらへ招く方法をな」

 

その事実が知れ渡れば、必ず原因を究明しようとする者が現れる。

そしてもし、それが理論として成立し得るものであれば──

試そうとする神が現れないはずもない。

 

未知へ手を伸ばすことこそ、

彼らの性分なのだから。

 

「衛宮士郎」

 

ウラノスの視線が士郎へ向く。

 

「お前が善性を持つ存在だったのは、結果論に過ぎん」

 

「世界の理の外にある力を持つ者が、

必ずしもお前のようである保証はどこにもない」

 

「もし招かれた者が悪意を持つ存在であったなら──」

 

「それは、オラリオの秩序そのものを揺るがしかねん」

 

「......それで、“災厄”か。ようやく合点がいった」

 

どこか納得したように、士郎が口を開く。

例え英霊であっても、人を救う者ばかりではない。

時に世界を滅ぼしかねない怪物すら、その座に至る。

故に、ウラノスの危惧は理解できた。

 

「そっちの事情はわかった。

でも、これからどうするって言うんだ」

 

言わんとすることは理解できる。

だが、それに対して士郎自身ができることがあるとは思えなかった。

 

「簡単な話だ。

──衛宮士郎に関する記録、その一部を書き換える」

 

まるで些事を処理するかのように、ウラノスは言い切った。

 

「幸い、お前の記録はまだ一月分程度しか存在しておらず、

それもこちらで既に処分済みだ」

 

「─────────」

 

その言葉で、ミィシャの脳裏に今朝の出来事が蘇る。

忽然と消えていた衛宮士郎の書類。

どれだけ探しても見つからなかった理由。

 

──最初から回収されていたのか。

同時に、胸の奥に張り付いていた緊張が僅かに緩む。

どうやら、自分がここへ呼ばれた理由は叱責ではなかったらしい。

 

(......よ、よかったぁ)

 

誰にも気づかれぬよう、

ミィシャはひっそりと安堵の息を漏らした。

しかし、その安堵は次の瞬間粉々に砕け散ることになる。

 

「記録の改竄についてはお前のアドバイザーである

──ミィシャ・フロットが担当する」

 

「......え゛」

 

自分でも予想していなかった声が漏れた。

思わず士郎へ視線を向ける。

だが、当の本人はまるで気づいていない。

そして──

 

(──私が呼ばれた理由ってこれかぁ......)

 

数秒ほど停止していたミィシャだったが、

やがてぎこちなく再起動するように顔を上げた。

神直々の命令とあっては、断る術など存在しない。

 

故に──

 

「......はい......任せてください......」

 

乾いた声でそう絞り出すのが精一杯だった。

 

 

***

 

それからしばらくして。

必要な説明と今後の方針を聞き終えた士郎達は、

地下祭壇を後にしようとしていた。

 

「......衛宮士郎」

 

去り際、ウラノスが声をかける。

 

「貴様は口裏を合わせてくれればそれで良い。

筋書きはこちらで用意する」

 

「わかった」

 

士郎は短く頷いた。

細かな理屈はともかく、

少なくとも自分を排除するつもりがないことだけは理解できたからだ。

 

そうして士郎とミィシャは地下を後にし、再びギルドへと戻っていく。

 

静寂だけが残された祭壇。

その空間で、不意に何もない場所が揺らいだ。

 

次の瞬間。

そこに現れたのは、黒衣を纏った魔導師──フェルズだった。

 

「……本当に良いのか、ウラノス」

 

万が一に備え、姿を消したまま待機していたのだろう。

フェルズは静かに問いかける。

 

「衛宮士郎を、ああも簡単に放置して」

 

「問題ない」

 

ウラノスは即答した。

 

「それはお前も理解しているはずだ、フェルズ」

 

「────────」

 

フェルズの脳裏に、先程の士郎の言葉が過る。

 

──偽善者だろうがなんだろうが構わない。

 

己の理想を、迷いなく言い切った瞳。

これまでの行動を見ても、

あの少年に危険性は感じられない。

 

むしろ──

 

「英雄の在り方だ。あれは」

 

ぽつりと、フェルズは呟く。

するとウラノスは、

どこか満足げに目を細めた。

 

「だろう?」

 

──だが。

ウラノスには、もう一つ懸念していることがあった。

衛宮士郎がオラリオへ現れた時期。

それとほぼ同時期に、一柱の神が姿を消している。

 

あまりにも出来すぎた偶然。

故にウラノスはまだ、

全てを楽観視してはいなかった。




戻ったミィシャにはエイナからベルのランクアップが伝えられます(無慈悲)
やったねミィシャ!仕事が増えるよ!
ウラノスと士郎の口裏合わせの内容は次回「神会」で明かされます。

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