ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか 作:ラブコメは正義マン
今話でロキは士郎のことを忘れていますが、
酒が入っていた時に少し話しただけの相手なんてそんなに覚えてないよねって事でお願いします。
──
それは定期的に開かれる、神々による会合。
酒宴。
情報交換。
他派閥への牽制。
彼らが出席する目的は様々だ。
だが、大半の神々の狙いは別にある。
ランクアップした子供達へ贈る──二つ名の襲名。
独特な感性によって名付けられるそれは、時として冒険者達を絶望させる。
あまりにも痛々しい名を付けられることも珍しくないからだ。
故に、ランクアップした眷属を持つ主神は神会へ参加する。
自らの子供を、神々の悪ノリという脅威から守る為に。
(神会......初めて来たなぁ......)
あと十分もすれば神会が始まる。
僅かな緊張を抱えながら、ヘスティアは席に腰掛けていた。
その時──
「あら、ヘスティアじゃない」
「......フレイヤ」
白銀の美貌を携えた女神が姿を現す。
ミノタウロスの一件。
そして、オッタル。
脳裏を過る疑念に、ヘスティアは僅かに目を細めた。
「聞いたわ。貴方の眷属達、ランクアップしたのでしょう?」
「ああ。誰かさんのおかげでね」
僅かに嫌味を滲ませながら返す。
「──あら、何のことかしら?」
だが、ここで問い詰めたところで結果は見えていた。
あのフレイヤが素直に認めるはずもなく。
証拠もない以上、しらを切られて終わりだ。
互いに言葉を止める。
余裕の笑みを浮かべるフレイヤに対し、ヘスティアは警戒を隠さない。
やがて、その様子を見たフレイヤがくすりと笑った。
「安心して頂戴。しばらくは、何もしないから」
そう言い残し、フレイヤは踵を返す。
その声音はどこまでも穏やかだった。
(しばらくは......か)
その言葉を素直に信用できるほど、楽観的ではない。
フレイヤの背を見送りながら小さく息を吐く。
いつかは分からない。
だが、そのうちまた似たようなことを仕掛けてくるだろう。
──いや、もしかすると。それ以上のことさえも。
だが、
「お前らー! そろそろ始めるでー!」
響き渡る声と共に、会場の空気が切り替わった。
神会の始まりだ。
ひとまずフレイヤへの警戒は頭の隅へと追いやり、神会に集中する。
──自身の可愛い眷属たちへ、決して変な二つ名が付けられることのないように。
神々の喧騒が響く中、会合は滞りなく進んでいく。
二つ名の襲名に歓声が上がり、
時には──
「タケんとこの子は──【絶+影】に決定!!」
「──うわあああぁぁぁぁあ!!」
悲鳴が響きながらも時間は過ぎていった。
そして──
「最後ぉ! ヘスティア・ファミリアの......衛宮士郎とベル・クラネル!!」
「「「最速ランクアップ兎来たぁぁあ!!!」」」
遂に最後の二つ名命名。
ヘスティア・ファミリアの番が訪れる。
注目の的は──
その二つ名命名に、会場は一際大きな盛り上がりを見せる。
だが──
「──盛り上がっとるところ悪いけど、ちょい待ちぃや」
それに待ったをかける声があった。
ざわり、と会場が揺れる。
神々の視線が、一斉に声の主へ向けられた。
その人物は──ロキ。
「いやな? 別にケチつけたい訳やないんやけど」
軽い口調。
だが、その瞳は笑っていない。
「ヘスティアんとこの二人、流石にちょぉっとおかしないか?」
「片やミノタウロスを倒して最速のランクアップ」
ベル・クラネル。
その名は既に都市全体へ広まっている。
ミノタウロス撃破。
そして、世界最速のランクアップ。
ここ数日の間、神々の間でもその話題で持ち切りだった。
「......百歩譲って、ベル・クラネルの方は認めるとしてもや」
ロキは頬杖をついたまま、僅かに眉を寄せる。
納得は行っていないが、そこに記された功績自体には現実味があったからだ。
ここで何を言おうと、それが覆ることもなければ、覆す意味もない。
故に──
ロキが本当に気にしているのは、もう一人の方だった。
「問題は──衛宮士郎。コイツの方や」
ロキの視線が、ヘスティアへ向けられる。
場の空気が僅かに張り詰めた。
「記録に残っとるんは、"五年前にオラリオ外で恩恵を授かり、主神の命で一月前まで都市外で活動。オラリオへ来訪した後は、ヘスティア・ファミリアへ改宗し冒険者となった。そして数日前にランクアップ"......たったそれだけや」
ヘスティアが僅かに息を飲む。
帰ってきた士郎から事情は聞いていた。
記録の改竄。
その内容は──衛宮士郎という人間を、“五年前から活動していた人物”として扱うこと。
「五年間の経歴も、ランクアップした理由も......肝心な部分が何一つ見えてこん」
「流石に、不自然すぎへんか?」
ロキの瞳がヘスティアを射抜く。
嘘は許さない、と。
視線がそう告げていた。
「......士郎くんに関しては、都市外での活動期間が長かったからね」
ヘスティアはロキの視線を受け止めながら続ける。
「情報が追いついていないだけさ。
ランクアップだって、オラリオへ来て急に強くなった訳じゃない」
「元々都市外で経験を積んでいたんだ。
ダンジョンがその切っ掛けになっただけだよ」
あからさまな、用意された嘘。
だが、ロキにはそれを嘘だと断ずる証拠はない。
僅かな沈黙の後、ロキが低く吐き捨てる。
「......それで隠し通せると思っとるんか?」
その瞬間、会場の空気が僅かに軋んだ。
軽口混じりだったロキの声音から熱が消えている。
下手をすれば、このまま派閥同士の衝突にも発展しかねない。
そんな険悪さが場を包み始める。
「あら、別にいいじゃない」
だが、その空気を崩したのはフレイヤだった。
「自慢の眷属の記録を抜かれたのが、そんなに気に入らなかったのかしら?」
「......はぁ?」
「なんだー、ロキぃ?嫉妬は見苦しいぞー?」
「剣姫の記録が抜かれたんが悔しかったのかー?」
からかうような声が飛び始める。
フレイヤの一言によって、険悪になりかけていた場の空気が少しずつ緩み始めた。
衛宮士郎の経歴には不自然な点が多い。
だが、それを裏付ける証拠は何もない。
だからこそ──
フレイヤの口にした“嫉妬”という分かりやすい理由は、神々の空気を変えるには十分だった。
「確かに、彼の経歴には不透明な部分が多い」
穏やかな声音でフレイヤは続けた。
まるで、先程までの険悪な空気すら意に介していないかのように。
「けれど、ランクアップは事実。違うかしら?」
妖しく微笑みながら、フレイヤが言葉を重ねる。
「......別にそれはええっちゅうねん。ただ──」
「──そんなに彼の事情が知りたければ、元主神にでも聞いてみたらどう?」
ロキが反論しようとするが、もう遅い。
これ以上何を言おうと、“アイズ・ヴァレンシュタインの記録を抜かれた嫉妬”として解釈されてしまう。
故に──
もはや誰も、ロキの追及を真面目に聞こうとはしなかった。
完全に場の空気を掌握したフレイヤは、楽しげに目を細める。
「生憎、今回は不参加みたいだけど」
「............」
完全にフレイヤのペースだった。
追及の流れも、場の空気も、既にあちらへ握られている。
これ以上続けても意味はない。
忌々しげに舌打ちすると、ロキは席へ腰を下ろした。
「じゃあ改めて......彼らの命名に入りましょうか?」
「「「待ってましたァ!!!!」」」
(分からない......フレイヤは一体何を考えてるんだ......?)
助けられた。
少なくとも結果だけを見れば、そうなのだろう。
だが、ヘスティアにはそれが不気味で仕方なかった。
その隙に──
「まず......衛宮士郎なのだけど。
彼の二つ名には私から提案があるわ──」
フレイヤが妖しく微笑む。
そして、親しい友人へ悪戯でも仕掛けるかのように、その名を口にした。
その瞬間、男神達が色めき立つ。
「フレイヤの案だァ!!」
「採用採用!!」
「異議なしィ!!」
(いや待て待て待て待て!?)
困惑するヘスティアを置き去りにしたまま、
衛宮士郎の二つ名はあっという間に決定した。
絶妙に反応に困る名前に、ヘスティアの頬が引き攣る。
「「「次ー!!ベル・クラネルの二つ名行くぞー!!!」」」
だが、今はそれどころではない。
まだベルの命名が残っている。
ヘスティアは慌てて身を乗り出し──
(士郎君、ゴメン!!せめてベル君だけは......!)
「──ちょっと待ったァァァァァァァァ!!!」
愛する眷属の名誉を守るため。
大興奮の神々を相手にヘスティアは一人で立ち向かった。
士郎の二つ名は次回明かされます。
と言っても、フレイヤが半ば悪ふざけで命名したようなものになりますが。
【現状で士郎の事情を把握している人物について補足】
完全に把握しているのが
ヘスティア、ベル、リュー、ウラノス、フェルズ、ミィシャの六人
何となく事情があることは察しているのが
豊穣の女主人の店員達、フレイヤ
疑いの目を向けているのが
ロキ
となります
次回、やっとあの鍛冶師が出てきます。お楽しみに。