ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか   作:ラブコメは正義マン

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いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

前話でヴェルフ登場と予告しておりましたが、今回は酒場回のみとなりました。
次回こそは出すんで何卒お許しください



異名

──同日。豊穣の女主人

 

二人のランクアップ祝いを兼ねて。

ベル、リリ、士郎は豊穣の女主人を訪れていた。

店内には普段と変わらぬ賑わいが広がっている。

 

「リトルルーキー......ってどう思う?」

 

「うーん......普通?」

 

「だよねぇ......」

 

リリの正直な感想に、ベルが小さく肩を落とす。

最速ランクアップ。

世界記録更新。

神会で大いに盛り上がった割には、当の二つ名は妙に無難だった。

 

「もっとこう......格好いいのを想像してたんだけどなぁ」

 

「私はいいと思いますよ?【リトルルーキー】」

 

聞き慣れた声に振り返る。

料理と酒を載せた盆を手にしたリューとシルが、こちらへ歩いて来ていた。

 

「ランクアップおめでとうございます。

クラネルさん、士郎さん」

 

「リューさん、シルさん。

ありがとうございます。」

 

ベルがぺこりと頭を下げる。

その素直な反応に、シルは満足そうに微笑んだ。

そして──

 

シルの視線が士郎へ向けられた。

何かを思い出したようににこりと笑い、

 

「士郎さんも──」

 

一拍の間を置いて。

 

「......いえ。

【ブラウニー】さんも、ランクアップおめでとうございます!」

 

「......」

 

花のような笑顔でそう告げた。

満面の笑みで祝福するシルに対し、士郎はどこか釈然としない表情を浮かべる。

そんな彼の反応が面白かったのか、少女ははくすりと笑う。

 

「せっかく人がお祝いしているというのに、なんですか? その顔は」

 

「いや......別に悪いわけじゃないんだが、その呼び方はやめてくれ」

 

「えー? 素敵じゃないですか?」

 

シルは楽しげに首をかしげる。

そして、間を置かずに言葉を重ねた。

 

「ブラウニーって妖精さんの名前でしょう?

優しくて働き者で、私はぴったりだと思うけどなぁ」

 

「......ぼ、僕もそう思うよ!士郎!」

 

「ははは......」

 

ベルの必死なフォローも虚しく、士郎は力なく笑うしかなかった。

そのやり取りを見ていたリューが、静かに口を開く。

 

「シル、話は程々に。

料理が冷めてしまいます」

 

リューの淡々とした声が割って入った。

その一言で、場の空気が自然と切り替わる。

 

「ごめんなさい、リュー」

 

シルは小さく肩をすくめた。

 

「......反応が面白くて、ついね?」

 

ウインクをしながらそう言うと、料理へと手を伸ばした。

皿が次々とテーブルへ並べられていく。

そうして、料理が全て並べられた後。

 

──二人は自然な様子で空いている席へ腰を下ろした。

 

「......おふたりはここにいていいんですか?」

 

リリがどこか不満気な声を漏らした。

パーティ水入らずの祝賀会に思わぬ顔ぶれが増えている。

 

ベル達の友人とはいえ、少しばかり落ち着かない。

そう思う一方で無下に追い出すような真似もできない。

結局のところ、その感情はちょっとした縄張り意識のようなものだ。

 

それをわかっているためか、リューも特に意に介さず言葉を返す。

 

「ミア母さんが気を利かせてくれました。

後、金を使えとの事です」

 

「はは......ミアらしいな」

 

客として来たならば金を使え、と。

実にミアらしい考えに、士郎は苦笑混じりに頷く。

 

「──皆さーん!準備はいいですかー?」

 

そうこうしているうちに、シルが軽やかにジョッキを手に取った。

それに続くように、次々と手が伸びる。

そして──

 

「それじゃあ──」

 

「「「「「乾杯っ!」」」」」

 

カランッと心地いい音と共に、グラスが交わされる。

そうして、祝賀会が幕を開けた──!

 

 

 

***

 

しばらくの間、店内は笑い声と料理の香りに満ちていた。

祝宴らしい賑わいの中。

ジョッキを傾けながら、ふと隣の会話に耳を傾ける。

 

「では、皆さんは今後、中層へ向かわれるのですか?」

 

その言葉は、リューから発せられたものだった。

 

──中層。

ダンジョンは下へ行くほどその危険度を増していく。

特に中層以降は第三級冒険者──Lv2以上の実力を持つ者でなければ、安易に足を踏み入れることすら許されない領域だ。

 

「はい」

 

その問いに、ベルは小さく頷いた。

 

「早ければ来週辺りには下りようかと思っています。

エイナさんの許可が降りればですけど……」

 

「それがいいでしょう」

 

リューは短く肯定する。

そして、料理へ伸ばしかけていた手を止めた。

琥珀色の瞳が俺達へ向けられる。

 

「あなたがたの実力であれば、中層へ挑むこと自体に問題はありません」

 

中層でも遅れを取ることはないと。

そう前置きした上で、リューは静かに続ける。

 

「ですが──環境は大きく変わります」

 

「モンスターの量も、質も。

上層とはまるで勝手が違う」

 

「ダンジョンは何があるか分かりません。

最大限の準備を整えて向かうことをおすすめします」

 

その声色は穏やかなままでありながら、確かな重みを感じさせられた。

 

「そうですね......装備も壊れちゃいましたし」

 

ベルは困ったように笑った。

ミノタウロスとの戦闘以来、ベルの装備は壊れたままだ。

 

「明日にでも見に行こうかな……」

 

そう零しながら、料理を口へ運ぶ。

その手取りはどこか軽やかだった。

次の冒険が待ち遠しくて仕方ないのだろう。

本人は無自覚なのか、口元も僅かに緩んでいる。

そこへ、

 

「随分とご機嫌じゃねぇか?

リトルルーキーさんよぉ」

 

吐き捨てるような声が割り込んだ。

顔を上げれば、数人の冒険者がこちらの卓を囲むように立っていた。

その中の一人が、不機嫌さを隠そうともせず前へ出る。

 

「つい最近ランクアップしてもう中層だぁ?

美人な店員二人も侍らせて、いいご身分だなぁ!」

 

妬みを隠そうともしない声で男は続ける。

そう思ってしまうのも無理はない。

ベルのランクアップは前例のない快挙だ。

長い年月を掛けてようやく辿り着く者も少なくない。

同じ冒険者として、面白くないと感じるのも理解できる。

だが、その矛先を向けるのは間違っている。

 

「あの──」

 

「失せなさい」

 

ベルが声を上げるより早く、リューが静かに言葉を落とした。

その声音からは、先程までの穏やかさはすでに消えている。

 

「彼は私の友人です。

蔑むことは許しません」

 

「──────────」

 

一瞬、男の言葉が詰まる。

リューから返されるとは思っていなかったのだろう。

 

「まぁまぁ妖精さんよぉ......こんなガキより俺達の方が──」

 

それでも、男は止まらなかった。

一歩踏み出し、リューへと手を伸ばす。

 

──マズい。

 

「悪いことは言わない。

その辺にしておいた方が──」

 

「どいつもこいつも、見下しやがっ──ぐわぁぁぁっ!」

 

......遅かったか。

忠告も虚しく、男は悲鳴を上げて崩れ落ちた。

リューは伸ばされた手を持っていたジョッキごと軽くいなすように絡め取る。

次の瞬間にはその腕が逆に捻り上げられていた。

 

「モルドぉ!?」

 

男の仲間達が一斉に声を上げた。

倒れたモルドへと、仲間が慌てて駆け寄る。

状態を確かめるように覗き込み──次の瞬間、顔色が変わった。

 

「おいッ!」

 

視線が一斉にリューへと向いた。

そして今にも襲いかかろうと身を屈める。

 

「テメェッ!!よくも──」

 

──その瞬間。

カウンターから轟音が鳴り響いた。

酒場中の視線がその発生源へと吸い寄せられる。

見れば、カウンターは粉々に砕けている。

そして──

 

「店で騒ぐんじゃないよこのアホンダラァ!!」

 

ミアの怒声が、酒場の空気を一気に押し潰した。

男達へと視線を戻せば、先程までの威勢はもう無かった。

冒険者たちは顔を引きつらせ、互いに視線を交わしている。

 

「お、おい……!」

 

「やべぇ、マジで帰るぞ……!」

 

誰からともなく、足が後ずさる。

それが合図になったように、一斉に踵を返した。

扉が乱暴に開かれ、逃げるように店を飛び出そうとする。

その背中へ、

 

「バカタレェ!!ツケはきかないよ!!」

 

「「「ヒィィィィィィィッッ!?」」」

 

更なる怒号が飛んだ。

悲鳴と財布だけを残し、男達は転がるように店を出ていく。

そして、酒場に静寂が戻った。

 

「……えっと」

 

ベルは呆気にとられたまま、扉と床の財布を交互に見ている。

一方でリューは何事もなかったかのように席へ戻り、静かにグラスへ手を伸ばしていた。

 

「あれくらいはよくあることです」

 

「ですよねぇ」

 

シルは楽しそうに笑い、同意するように頷く。

リリもまた、ため息混じりに肩をすくめた。

 

「まったく......これだから冒険者は」

 

その言葉に、ベルだけが目を瞬かせる。

周囲の反応を見比べるように視線を動かし、少し遅れて状況を理解したようだった。

そして、何かを思い出したようにこちらを見て、恐る恐る口を開いた。

 

「あの......士郎、僕が逃げた時って──」

 

その声には、少しだけ躊躇いが混じっていた。

ミアの反応を思い出したのだろう。

食い逃げという行為に対する、あの容赦のなさを。

 

「ああ、あの時は......」

 

記憶を辿る。

ベルを追いかけ、食い逃げの件を回収しようとしたこと。

だが結局、事情が事情だったせいで、そのまま代金も受け取らずに戻ってきたこと。

そして、

 

『なんのために追いかけさせたんだい!』

 

──ミアの拳骨が飛んできたのも、セットで思い出した。

 

「......何も無かったぞ」

 

「絶対何かあったよね!?」

 

「あれはもう過ぎた話だ。

今更気にする必要は無い」

 

「急に立ち上がってどうしたの?......士郎!?」

 

そう言いながらも、体は自然とカウンターへ向いていた。

あれはもう過ぎたことだと。

そう頭では理解しているのに、体は止まらない。

ここで過ごした経験が、それを許さなかった。

なぜなら──

 

「......ちょっと、カウンター直してくる」

 

「士郎ぉぉぉぉぉ!!」

 

──ミアの機嫌を損ねてはならない。

それがこの酒場において、唯一にして絶対のルールだからだ。




毎度の事ながら、評価・感想・お気に入りありがとうございます。
感想については可能な範囲でお返事させていただいておりますが、今後の展開に関わる内容についてはお答えできない場合があります。
その点は物語の中でお見せできればと思いますので、気長にお付き合いいただければ幸いです。
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