ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか   作:ラブコメは正義マン

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前話のブラウニーに反響をいただけて嬉しいです。

あとがきでは「フレイヤが半ば悪ふざけで付けた二つ名」と書きましたが、逆に言えば半分はフレイヤが士郎をそういう存在として見ている、ということでもあります。
実際ダンまちにブラウニーという妖精がいるか定かではありませんが、そういう妖精族がいたってことで...。

さて、今話はタイトル通りヴェルフ登場回です


ヴェルフ・クロッゾ

──翌日。バベル

 

祝賀会の翌日。

ベルの装備を整えるため、共にバベルを訪れていた。

行き交う冒険者の波を避けながら歩くことしばし。

やがて、ヘファイストス・ファミリアのテナントへと辿り着く。

 

「じゃあ、僕はあっちを探してくるね」

 

「ああ」

 

ベルの目的は防具だ。

前の戦いで以前の装備は失われてしまった。

 

この店を訪れたのはただの買い替えではない。

ベルは、以前の防具とその製作者をとても気に入っていた。

だからこそ、新たな装備を探しに真っ先にここへ来たのだろう。

 

(それにしても......すごい数だな)

 

ベルと一度別れ、テナントを一人歩く。

並べられた武器の数々。

流石はヘファイストス・ファミリアと言うべきか。

どれも一定以上の品質を備えている。

だが、その中でも。

 

「......あれは」

 

一振りの剣が目に留まった。

飾られていたのは店の端。

決して目立つ場所ではない。

それでも、不思議と意識に引っ掛かった。

 

自然と足がそちらへ向かう。

手を伸ばし、その剣を手に取った。

 

「──同調(トレース)開始(オン)

 

創造の理念。

基本となる骨子。

構成された材質。

制作に及ぶ技術。

武器の情報が脳裏へ流れ込んで来る。

 

「......なるほど」

 

解析を終える。

使い手のことが考えられた良い剣だ。

 

当然、この店の武器も似た傾向はある。

名を上げたい。

認められたい。

そんな鍛冶師達の野心が見て取れる。

 

その中でも、この剣は違う。

野心も当然こもっているが、本質はそこではない。

さらにその奥に、一つの理念が感じられた。

どうやらこの剣を打った鍛冶師は随分と頑固らしい。

 

俺としてはそういう姿勢は嫌いではなく、むしろ──

 

「だから、なんでったってあんな隅っこに──!」

 

そこまで考えたところで、視線が自然と上がった。

店の奥で赤髪の男と店員が口論しているのが聞こえてくる。

 

話の内容から察するに、その男は鍛冶師なのだろう。

不満を口にしているようだが、怒鳴っているというほどではない。

自分の作ったものに対する扱いに納得がいっていない、といった様子か。

 

「......士郎、どうしたの?」

 

背後からベルの声がした。

振り返ると、ベルが小走りでこちらへ戻ってきていた。

 

「あっちで少し揉めてるみたいでな。

ベルはお目当ての装備が見つかったのか?」

 

「それが全然......」

 

ベルがっくりと肩を下ろしてうなだれる。

 

「店員に聞いてみたらどうだ?

丁度、話も終わったみたいだし」

 

言い争いはいつの間にか終わっていた。

赤髪の男が、カウンターから離れるようにこちらへと歩いてくる。

 

「────────」

 

一瞬、目が合う。

その瞬間、男の動きがぴたりと止まった。

視線だけがこちらへと向けられている。

 

「ヴェルフ・クロッゾさんの防具って......もうないのかな」

 

──続くように、ベルが小さく零した。

視線がゆっくりとベルへ移る。

 

それから、視線が一度こちらへ戻り──再びベルへ。

男は少しの間、そのまま言葉を失ったように動かない。

だが、やがて何かを確かめるように息を吐いた後。

 

「──はっ、はははっ!」

 

高らかな笑い声が響いた。

ひとしきり笑ったあと、男は息を整えるように咳払いをした。

そしてこちらを見たまま、口を開く。

 

「──お前達、ヴェルフ・クロッゾの作品をお探しか?」

 

「はい......そうですけど──」

 

口元にはまだ笑みが残ったまま。

男は軽く肩を揺らしながら、手元の荷を持ち上げ──

 

「それならあるぜ──ここにな!」

 

そのまま俺達へ、堂々と突き出した。

 

 

 

***

 

「まさか噂のリトルルーキーが俺の防具を買ってくれてたなんてなぁ!」

 

店内の喧騒を抜け、三人はバベルの外へと場所を移した。

近くのベンチに腰を下ろしたところで、

赤髪の男──ヴェルフ・クロッゾはベルの肩を叩きながら続ける。

 

「リトルルーキー。

お前は二度も俺の防具を買いに来てくれた。

つまりもうお前は俺の顧客だ......違うか?」

 

その声色はどこかわざとらしく。

大袈裟に周囲に聞こえるように発せられたものだった。

 

「ええと......はい?」

 

ベルは突然の勢いに少し戸惑いながらも、こくりと頷いた。

だが、それを皮切りに周囲の気配がわずかに変わった。

僅かに悔しさを滲ませながら、その場から人が引いていく。

周囲の気配が完全に途切れ、その場には三人だけが残った。

 

「今のは......」

 

「ちょっとした縄張り争いみたいなもんだ。

気にしないでくれ」

 

──彼らを遠巻きに見ていたのは、いずれもヴェルフの同業である鍛冶師たちだった。

 

「それより、本題だが──俺と専属契約を結ぶ気はないか?

お前の武器でも防具でも、なんでも俺が作ってやる」

 

「──是非お願いします!」

 

あまりに迷いのない即答に、ヴェルフは一瞬だけ言葉を失った。

だが次の瞬間、堪えきれないとばかりに吹き出す。

ひとしきり笑った後、照れ隠しのように頬を掻いた。

 

「全く......鍛冶師冥利に尽きるってもんだ」

 

そう言って表情を戻したヴェルフは、不意に士郎へと視線を向けた。

そして、どこか惜しむような笑みで口を開く。

 

「これでお前も顧客だったら、文句なしだったんだがな」

 

「生憎剣は間に合ってるんでな。

けど、あれはいい剣だった」

 

「はっ、そりゃ残念だ。

ま、俺の剣を手に取ってくれただけでも十分だな」

 

士郎の忖度のない評価を受け、それ以上この話を続けることはなかった。

ヴェルフは一つ頷くと、改めてベルへ向き直る。

 

「それで、契約の件なんだが──その前に一つ、俺の頼みを聞いてくれないか?」

 

「頼み、ですか?」

 

「ああ」

 

ヴェルフは口の端を吊り上げた。

 

「俺を──お前らのパーティに入れてくれ」

 

 

***

 

──翌日。ダンジョン十一階層。

 

ヴェルフと専属契約の話を交わした翌日。

彼の依頼に応える形で、ベルたちは臨時のパーティとして十一階層へと足を運んでいた。

 

「悪いな、昨日の今日でこんな所まで付き合わせちまってよ」

 

「大丈夫ですよ。

それに、『鍛冶』のアビリティのためなら、僕も無関係じゃありませんし」

 

「......大事な話なら、リリにも一言通していただきたかったものですけど」

 

ヴェルフの依頼。

それは『鍛冶』のアビリティを取得するまでの間、臨時でパーティを組むというものだった。

対してリリは口を尖らせ、小さく不満を零す。

事前に説明がなかったことへの小さな抗議だ。

 

「そんな固いこと言うなよ、リリスケ?」

 

「ですから、リリスケって呼ばないでくださいっ!」

 

ヴェルフの軽口に、リリは即座に言い返す。

やり取りとしては軽いものだが、互いの噛み合いは絶妙にズレたまま。

 

「ごめんね、リリ。

でも僕、このヴェルフ・クロッゾさんの防具を気に入ってるんだ」

 

ベルが間に入り、仲裁するように言葉を添える。

だが、"クロッゾ"という単語を聞いた瞬間、リリの目の色が変わった。

動きが止まり、明らかな驚きが浮かぶ。

 

「──今、クロッゾと言いましたか!?

あの没落した魔剣鍛冶師の!?」

 

「「クロッゾ?」」

 

「お二人とも、知らないんですか!?」

 

その単語に聞き覚えの無いベルと士郎の声が重なる。

リリだけが、この場で唯一その単語の意味を理解していた。

信じられないものを見るようにヴェルフへ視線を向ける。

 

「......ま、その話はいいじゃねぇか。

それより──お出ましだ」

 

僅かに気まずそうな表情を浮かべた後。

ヴェルフはリリから視線を外し、剣を抜き構えた。

気配はすでに近く──地面からモンスターがぞろぞろと湧いて出る。

士郎、ベル、リリもそれに反応し、それぞれ戦闘態勢へ移った。

 

「......随分と数が多いな」

 

オーク、インプ、ハードアーマード。

湧き出す勢いは止まらず、気づけばベルたちを取り囲む形になっている。

 

「オークは任せろ。

アイツなら、俺の腕でも当てられる」

 

ヴェルフが一歩踏み出し、前方の群れを睨みつける。

その背後で、

 

「では、リリも微力ながら援護します。

ベル様と士郎様は向こう側をお願いします」

 

「うん、分かった」

 

「了解。そっちも、危なくなったらすぐに呼んでくれ」

 

バリスタを構えながら、リリが言葉を飛ばす。

その言葉に合わせるように、二人はそれぞれの方向へと動きを切り替えた。

そうして自身の敵を見定め──

 

「皆──行くよっ!」

 

その声と同時に、ベルが地を蹴った。

以前よりも明らかに鋭い踏み込み。

ランクアップによって得た身体能力がそのまま加速に変わる。

 

『ギェェッ!』

 

振るわれたナイフが急所を貫く。

インプは断末魔だけを残し、灰へと崩れ落ちた。

 

『──グギャア!!』

 

その隣で、士郎も同時に踏み出していた。

彼もまた、ランクアップによる身体能力の向上によって。

引き出される経験に身体が確かに追いつき始めていた。

 

だが、まだそれは完全な一致ではない。

彼がこれまで積み上げてきた動きの“到達点”には隔たりが残る。

それでも以前と比べれば、その差は明らかに縮まっていた。

 

戦局は二人を中心に傾いていく。

いや──そもそも、そこに天秤など存在していなかった。

この階層のモンスターなど、もはや彼らの障害にすらならない。

 

ベルが地を駆け、士郎が切り伏せる。

取り囲んでいた敵は、瞬く間にその数を減らしていった。

 

「こいつで、最後だぁっ!」

 

『──オ゛オ゛ッ!』

 

ヴェルフの大剣がオークを薙ぐ。

そして最後の一体が倒れ伏し、ダンジョンに静けさが戻る。

 

 

 

「やっぱ、パーティってのはいいもんだなぁ!

あれだけのモンスター相手にも、こうして連携できんだから!

しっかし──」

 

ヴェルフは大剣を肩に担ぎ直した。

戦闘の手応えに満足そうな笑みを浮かべながら、

不意に視線が士郎の手元へ向けられた。

 

「......すげぇな、その双剣!

一体、どこの鍛冶師の作品だ?」

 

あれだけのモンスターを相手にしながら、士郎の双剣は未だ健在だった。

もちろん、それを振るう士郎の技量も見事なものだ。

だが鍛冶師であるヴェルフにとって、

それほどの業物を前に興味を抱かない方が難しかった。

 

「ああ、これは──」

 

「インファイトドラゴンだぁっ!!逃げろっ!」

 

突如として響いた叫び声。

次の瞬間、数人の冒険者たちがこちらへ雪崩れ込むように駆けてくる。

 

その視線の先にいたのは、全身を琥珀色の鱗で覆った竜。

名を──小竜(インファント・ドラゴン)

希少種であり、竜種故の高い戦闘能力を持つ。

階層主のいない上層における事実上のボスモンスターと、冒険者の間では有名だった。

 

「──っ!リリッ!」

 

竜が現れたその方向。

そこは不幸にも、転がった魔石を回収していたリリの方角だ。

ベルは仲間の危機を視認するなり、魔法を放とうと即座に右手を構えた。

 

──だがそれよりも早く、動き出していた者がいた。

 

「──投影開始」

 

赤い鍛冶師は瞠目する。

先程まで目にしていた剣が音もなく崩れていく。

まるで、元々その場には存在していなかったように。

士郎の手には新たな弓が握られていた。

 

(剣が......消えた?

いや、違う──今度は弓だと?)

 

突如として現れた弓。

だが、放たれる矢などどこにも存在していない。

──否。

再び士郎の手元に剣が現れる。

 

(剣!?それで何を──)

 

言葉が続かなかった。

彼が弓へつがえたのは矢ではない。

一本の剣だ。

その刀身が細く、鋭く形を変えていく。

 

士郎を中心に魔力が渦を巻く。

収束していくそれは静かでありながら、確かな圧を伴っていた。

そして──

 

「──I am the bone of my sword(体は剣でできている)

 

一節の詠唱の後、弦が鳴った。

解き放たれた剣は風を裂き、一筋の光となって駆ける。

直後。

インファント・ドラゴンの身体が大きく揺らぐ。

 

『ギ─────』

 

断末魔さえ最後まで続かない。

急所を貫かれた竜はその場に崩れ落ち、巨体は灰となって崩壊していった。

 

「リリッ!」

 

「だ、大丈夫です! リリは無事です!」」

 

仲間の無事を確認したベルは、安堵と共に息を吐く。

周囲の冒険者たちからも緊張が解けた気配が広がっていった。

そんな中──

 

(......ありえねぇ)

 

鍛冶師としての常識が、その光景を理解することを拒んでいた。




毎度の事ながら、評価・感想・お気に入りいつもありがとうございます。

読み返していて改めて思ったのですが、ヴェルフの加入って4巻なんですよね。
おかげで出てくるまでに割と時間がかかりました。
ヴェルフは士郎を見て何を思うのか...

次回「贋作」です
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