ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか   作:ラブコメは正義マン

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前話には多くの反響をいただきました。
この関係性については評価が分かれる部分だと思います。
それでも、これがこの物語における一つの答えです。


贋作

 

──その光景が頭から離れなかった

 

物心ついた時から、彼の人生は鉄と炎と共に在った。

祖父に鍛冶を教わってからもう何年経つだろうか。

 

──鉄の声を聞き。

──鉄の響きに耳を貸し。

──槌に想いを乗せる。

 

祖父の言葉が頭に響く。

一族と決別した今でさえ、この言葉だけは忘れることがない。

 

──否。

それは、長い年月の中で鍛え上げられたもの。

打ち、鍛え、叩き上げられた信念。

まさしく鍛冶の如く形を成した、“在り方”だった。

 

──その熱を頼りに。

ヴェルフ・クロッゾは、ただ歩み続けてきた。

 

キィン──────!

 

鉄を打つ。

甲高い音だけが工房に響いた。

そこには彼以外誰の姿もない。

ただ、鉄だけが彼の意思に応えている。

 

キィン──────!

 

もはや数え切れぬほど繰り返した動作。

力は繊細に。

速度は一定に。

狙いは正確に。

振り下ろされる槌は狙い通りに鉄を打つ。

──はずだった。

 

ギィン──────!

 

「──っ......」

 

僅かに手元が狂う。

苦々しく表情が歪んだ。

鉄は打ち手の意思に応える。

ならばこの歪みは紛れもなく──彼自身のものだ。

 

「─────」

 

小さく息を吐いた後、槌を下ろす。

炉の火が静かに熱を失っていく。

工房の明かりは、すでに夕闇に溶けていた。

 

「......もう、こんな時間か」

 

窓を開ければ、辺りは既に日が落ちていた。

夜の静けさが炉の熱を帯びた身体を冷ましていく。

気づけば、工房の外の影に腰を下ろしていた。

 

(......どうしても、分かんねぇ)

 

目を閉じる。

夜風が頬を撫でていく中。

瞼の裏に焼き付いたあの光景が蘇る。

 

最初に目を奪われたのは二振りの剣。

構造は素直で癖がない。

強度は実戦基準を満たしている。

切れ味も過不足ない。

戦場で必要とされる性能がすべて揃っていた。

一見すれば、それは十分に“実用的な業物”の範疇に収まる剣。

だが──

 

『──投影(トレース)開始(オン)

 

その言葉と同時に、剣は消失した。

形も、気配も、痕跡すらも残さずに

まるで──この世界には存在しなかったかのように。

 

(あれがあいつの“魔法”ってのは分かる。

......けど、あれは紛れもなく──本物だった)

 

──鍛冶師としての直感がそう告げる。

剣の構造も。

構成された材質も。

作り上げられた技術でさえも。

鍛え上げられた“本物の剣”そのものだ。

 

だが、そこで矛盾が生じている。

 

作られた剣であるならば、あの完成度にはならない。

完成された剣であるならば、あのように消えるはずがない。

あの剣は確かに"存在"していた。

にも関わらず、使用者の意思に呼応してその姿を消した。

 

(......ふざけろ、出鱈目なんてもんじゃねぇ)

 

剣を自在に生み出す魔法。

そう言ってしまえば、一応の説明はつく。

 

(......いや、違う)

 

あの魔法は、そもそも剣という枠組みにすら当てはまっているのか。

次の瞬間には弓が現れた。

だが、それにつがえられた“それ”は──剣として成立していた。

 

(剣のまま、別の形で成立しているだと?)

 

形が変わっても、それは剣のままだった。

矢として放たれるものが、剣としての構造を保ったまま存在している。

常識が噛み合わない。

まるで盤外からルールそのものごとひっくり返されたように。

そのすべてが、ヴェルフの認識を上回っていた。

 

(......冗談じゃねえ)

 

理解の範疇を超えている。

これ以上考えても答えが出る類のものじゃない。

それに夜も更けている。

今日はもう切り上げるべきだ。

おもむろに立ち上がり、ホームへと足を向ける。

 

(──そういやアイツ、矢を撃つ直前にも何か言ってたな)

 

歩みの中でふと違和感が浮かぶ。

あの矢が放たれる直前。

衛宮士郎は確かに何かを呟いていた。

 

(確か──)

 

 

I am the bone of my sword(体は剣でできている)

 

 

(体は剣でできている、だったか)

 

その言葉の意味は掴めない。

だが、魔法とは己の在り方を示す。

 

だからだろうか。

理屈では納得できないはずなのに。

──不思議と、それを拒絶する気にはなれなかった。

 

 

 

 

***

──翌日。

 

昨夜は結局、あまり眠れなかった。

いつもより少し重たい身体を引きずりながら、約束の場所へ向かう。

先に来ていた二人の姿が見えた。

ベルと──衛宮士郎だ。

 

「よう、ベル......それに衛宮も」

 

ベルには、特に引っかかるものもなく声をかけた。

パーティとして。

ただそれだけの挨拶だ。

 

だが、士郎に向けた言葉だけは。

まるで鞘に納めた剣が僅かに引っ掛かるように、どこか噛み合わなかった。

 

「......リリスケはどうした?」

 

「リリは下宿先の都合でお休みだって」

 

妙な居心地の悪さに思わず話題を逸らす。

彼女とのやり取りは噛み合いこそ悪かった。

それでも今は、あのやり取りの方がまだ落ち着いていられる。

 

「だから今日の探索は中止にしようと思うんだけど......ヴェルフ?」

 

「......ああ、悪い」

 

投げられたベルの言葉に、返事が遅れた。

意識の一部がまだ離れない。

言葉が遅れて頭に入ってくる。

 

(探索は中止、か。)

 

その言葉にどこか安心した自分がいた。

探索は中止。

それで話は終わるはずだった。

それで済む。

そう、思った。

 

──だというのに。

胸の奥が妙にざわついていた。

 

打ち損ねた鉄を前にしているような。

あるいは、打ち損ねたまま炉を離れたような。

言い表しようのないその気持ちだけが、ずっと燻っている。

 

一度炉を落とせば同じ熱は戻らない。

打ち直す機会だって、そう何度もあるもんじゃない。

鉄は待ってくれない。

熱を失えばそれまでだ。

 

(......いいのか、それで)

 

 

 

胸の奥で燻る熱は、確かに別の色も帯びていた。

鍛冶師なら、熱を見誤るな。

鉄は熱いうちに打て。

なら、槌を振るうべき時は──

 

「......ベル、それに......衛宮。少しだけでいい。

少しだけ、ダンジョンに潜れねぇか?」

 

その言葉は、驚くほど自然に口からこぼれた。

胸のわだかまりは消えていない。

それでも。

熱だけは、静かに強くなっていた。

 

 

 

***

 

──ダンジョン、七階層。

 

壁に囲まれた通路は妙に静かだった。

足音だけがやけに大きく響き、胸の奥で燻り続ける熱を掻き立てる。

 

「......この辺でいいか」

 

少し広めの広間に出たところで、歩みを止める。

出した声は僅かに震えていた。

 

──ここで引き返せばまだ間に合う。

鼓動が早鐘を打つ。

理性は警鐘を告げている。

得体の知れない深淵を覗き込む時も、こんな気分になるのかもしれない。

 

だが──この熱から視線を逸らすつもりはもう、ない。

 

そして。

衛宮士郎を、見た。

 

「衛宮、昨日の話の続きだ」

 

「──お前の剣を、もう一度見せてくれ」

 

視線は逸らさず真っ直ぐに。

恐怖は消えていない。

得体の知れなさもそのままだ。

だが、それ以上に。

──この熱に、嘘は吐けなかった。

 

「俺のか?」

 

一瞬だけ不思議そうな顔をした。

だが、それ以上は何も聞かない。

 

「ああ、もちろんいいぞ」

 

理由を尋ねることもなく、衛宮は頷いた。

 

「じゃあ──投影(トレース)開始(オン)

 

その一言と共に、空気が揺れた。

そして次の瞬間には、そこに“在った”。

双剣はまるで、最初からそこにあったかのように。

 

(まただ......)

 

たった一言で形をなした剣。

焼きの入り方。

重心の収まり。

刃の通り。

それは以前見た時と寸分違わなかった。

 

──だからこそ、ありえない。

 

同じ鉄を同じ槌で打ったとしても、二度と同じ剣は生まれない。

それが鍛冶というものだ。

故に、これは鍛冶ではない。

別の得体の知れない“何か”だ。

 

「少し、借りてもいいか?」

 

「構わない」

 

衛宮士郎から双剣を受け取る。

冷たい鋼の感触、手に馴染むこの重さ。

魔法で作られたものとは到底思えない。

 

「......これ、ほんとに魔法なのか」

 

「そうだけど.....そんなに珍しいか?」

 

(珍しいとかそんな次元の話じゃねぇぞ......)

 

確かめるように振るう。

空気を裂く音は淀みがない。

伝わる感触には癖がない。

振るう刃には歪みもない。

その手応えはあまりにも“完成された剣”だった。

 

「一つ、試していいか」

 

「別に構わないが、何をするんだ?」

 

「俺の魔法をこいつに試したい」

 

「えっ!?ヴェルフさん、魔法を使えるんですか!?」

 

「お?言ってなかったっけか?」

 

──ウィル・オ・ウィスプ。

対象の魔法を暴発させる対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)

これが本当に魔法でできた剣なら、魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こし砕け去るだろう。

自ら武器を破壊するなど、鍛冶師として、彼としてありえない行為。

だが──

 

(壊れねぇ......だろうな)

 

それは予測ではなく、既に確信に近かった。

 

「そういうことなら構わない。

好きに使ってくれ」

 

「悪ぃな......少し、離れといてくれ」

 

【燃え尽きろ、外法の技】

 

【ウィル・オ・ウィスプ】

 

放たれた魔法が双剣へと触れる。

その瞬間。

僅かに。

ほんの僅かに結び目が解けたような感覚だけが残る。

だが、それ以上は何も起こらない。

 

(やっぱり、こいつはここに"剣"として存在してやがる)

 

「確かに、こいつは魔法だ。けどそれだけじゃねぇ。

確かにここに存在していやがる。一体どういう理屈だ?」

 

一度大きく息を吐き、衛宮士郎に向き直る。

だが、その問いに返ってきた答えは。

彼の予想を遥かに超えたものだった。

 

「理屈で説明するのは難しいんだが......

俺は何も、剣を作っている訳じゃない」

 

「......は?」

 

理解が追いつかない。

目の前の男は、今まさに剣を生み出した。

鍛えた訳でもなく。

鋳造した訳でもない。

だが確かに剣はそこに在った。

その事実を前にして。

 

「作ってないって......じゃあ、これは一体なんなんだよ?」

 

声が少し荒くなった。

頭の中で何かが軋むような音がした。

ならば、これはどこから来たものか。

今手にしていたこの剣は、一体何だ。

完成された形は何を意味するというのか。

 

「そういうことなら──見せた方が早いかもな」

 

一度、思考がそこで完全に止まった。

言葉の意味が頭の中で何度も反芻される。

 

(見せる?何をだ?この状況で何を見せるっていうんだ?)

 

「俺の剣製ってのは、剣を作るんじゃない」

 

これから何が起こるかは分からない。

ただ、とんでもないことが起こるであろう予感。

それだけが。

──胸の奥の熱を最高潮へと押し上げていた。

 

「自分の心を、形にすることだけだ──」

 

 

 

***

 

衛宮士郎を中心に、魔力が静かに高まっていく。

濃密で、重い魔力が空間そのものを支配し始めた。

思わず右手を構え、反射的に魔法を放とうとして──止まる。

紡がれる詠唱は、魔法を発動するための言葉というより。

まるで自らに言い聞かせる戒めのようで。

 

気づけば息を殺し、その言葉に聞き入っていた。

意味はまだ理解できない。

ただ、その声に込められた重みだけが、胸の奥に響き続けていた。

そして、静かな決意を帯びた声が最後に紡がれた。

 

 

 

──刹那、視界が炎に染まった。

 

次に目を開けたとき、そこはもう見知ったダンジョンの広間ではなかった。

荒れ果てた大地。

赤く焼けた空。

異様な光景だった。

 

だが、本当に異様だったのは──

地面に突き刺さる、おびただしいほどの剣の群れ。

 

十や二十などという数ではない。

視界の果てまで。

まるで墓標のように。

無数の剣が大地を埋め尽くしていた。

 

「なんだ......こりゃ」

 

「──俺の世界だ」

 

「......これが、お前の世界、だと?」

 

ここには剣以外、何もない。

人も、生き物も、風の音すらもない。

ただ、果てしなく続く荒野と、無数の剣だけが静かに突き立っている。

 

「ああ、俺は剣を作るんじゃない。

無限に剣を内包した世界を作る。

それだけが、俺に許された魔術だ」

 

「じゃあ、お前が使っていたあの剣も......」

 

「この世界から零れ落ちたものだ」

 

言葉を失った。

見渡す限りの剣。

その一本一本が異なる形を持ち。

異なる歴史を背負い。

異なる使い手の手を渡ってきたことが分かる。

 

どこかの王が振るったのであろう剣があった。

決して砕けることのないであろう、絶世の名剣があった。

獲物を逃がさないであろう、血に飢えた魔剣があった。

 

その中で──かつて自身が打った、一振の剣があった。

クロッゾの魔剣ではない。

あの日。

衛宮士郎が店の隅で手に取り、じっと見つめていた剣。

自分が鍛え、想いを込めた、紛れもない自分の作品だった。

 

「なんで、これが、ここに」

 

「ここにあるものは、全て贋作だ」

 

「────────」

 

「この世界は、俺が見た剣を記録している」

 

「構造も、材質も、積み重ねられた工程も。

一度見た剣なら再現できる」

 

言葉が出なかった。

何年もかけて積み上げるものを。

何度も失敗を重ねて辿り着くものを。

目の前の男は、見ただけで辿り着くと言った。

理解できるはずがない。

理解したくもない。

 

だから昨日から、ずっと引っ掛かっていたのだ。

誰かの力も、想いも、積み上げてきたものも。

その過程だけを抜き去り、完成した形を現出させる在り方。

過程も、積み重ねも、自分の手を経ていないまま成立する“結果”。

それは自身が忌み嫌っていた──あの魔剣と、同じ匂いがした。

 

「そんなの──」

 

認められるか、と。

喉元まで出かかった。

 

否定するための理屈はいくらでもあった。

否定すべきだ、と理性は叫んでいた。

この在り方は積み重ねを踏みにじるものだ。

認めていいはずがない。

“鍛冶師”としての自分が、それを否定していた。

 

──それなのに。

“ヴェルフ・クロッゾ”としての自分は、どうしても否定できなかった。

 

 

I am the bone of my sword(体は剣でできている)

 

 

言葉が頭の中で反響する。

意味はまだ掴めない。

だがそれは、ただの詠唱や言葉の類ではないと、心のどこかで理解し始めていた。

剣を生むための言葉ではない。

剣というものに、自分自身を重ねるための言葉。

 

──その瞬間だった。

さっきまで“贋作”という言葉で括られていたものが、別の輪郭を持ち始める。

剣の群れは誰かの模倣ではなく。

誰かの到達点の複製でもない。

それはもっと単純で、もっと異常だ。

 

認められないはずなのに。

認めたくないはずなのに。

なぜ、拒絶出来なかったのか。

その答えを、言葉にすることはできなかった。

 

ただ一つだけ、確かなものがあった。

目の前の男は。

借り物だと言いながら、その全てを自分のものとして背負っていた。

 

つまりこの世界は。

この剣は。

──衛宮士郎そのものだ。

 

だからだ。

どれだけ理解できなくても。

どれだけ歪に見えても。

その力は、自身ではない誰かのために振るわれていた。

その在り方だけは、否定できなかった。

 

(体は剣でできている、か)

 

ようやく、その言葉の意味が腑に落ちた。

文字通り、コイツは剣そのものだ。

それが例え、誰かの借り物であろうとも。

誰かの為に在る剣を、どうして否定することができよう。

 

「──悪い。そろそろ、限界だ」

 

不意に、衛宮士郎が言い放った。

見れば、視界の端で世界そのものが軋むように歪み始めている。

無数に突き立っていた剣が砂のように崩れていく。

 

(.....消える、のか)

 

それを見て、ほんの僅かに──惜しいと思ってしまった。

未知の世界だった。

未知の剣があった。

それから目を離せなかった。

 

(.....ああ、クソッ.....認めるしかねぇ)

 

躍起になって否定したかったのは、その在り方だった。

借り物の力であろうと、振るわれる先があるのならば。

そんなものを認めるわけにはいかなかった。

 

──認めてしまえば。

自身が忌み嫌っていた、魔剣にまで繋がってしまう気がしていた。

 

だが。

今見たものはそれとは違っていた。

 

魔剣を肯定するわけじゃない。

それでも、今まで拒絶していた在り方の中に。

一つだけ、目を逸らせない形があった。

 

 

 

ただ、それだけの事だ。

 

 

 

***

──夜。ヘファイストス・ファミリア、ホーム。

 

キィン──────!

 

鉄を打つ。

甲高い音だけが工房に響いた。

そこには彼と、あと二人。

ベル・クラネルと──衛宮士郎の姿があった。

 

キィン──────!

 

もはや数え切れぬほど繰り返した動作。

力は繊細に。

速度は一定に。

狙いは正確に。

振り下ろされる槌は狙い通りに鉄を打ち。

二人はその様子を、ただ見続けていた。

 

キィン──────!

 

それでも、その槌は迷いなく鉄を打ち続ける。

意識はただ一つ、鋭く研ぎ澄まされていた。

祖父の槌を見上げていた時。

鍛冶神の業に心を奪われた時。

かつてファミリアに入った、あの時と同じように。

彼はただ、高みだけを見据えていた。

 

しばらく、鉄の音だけが響いていた。

そうして時間が経った頃。

 

「──出来た」

 

ついに、それは形になった。

ミノタウロスの角を素材とした短刀。

ベル・クラネルのために鍛え上げられた、新たな武器。

 

「凄い......」

 

「ああ、見事なもんだ」

 

「......お前に言われると、なんか複雑だな。色々と」

 

ヴェルフはその言葉に、僅かに顔を顰めた。

それが嫌味ではないこと、それくらいは分かっている。

むしろ、あれが本心であることも。

だからこそ、素直には受け取れなかった。

だが──

 

「言っただろ?

俺の剣は贋作だって」

 

「はぁ?今更何言って──」

 

ヴェルフはそこで、言葉を止めた。

そして、遅れて言葉の意味に気づいた。

 

(.....ああ、そうか)

 

この剣は、“誰かのもの”ではない。

誰かの模倣でも、誰かの延長でもない。

もし自分が打たなければ、この剣は存在しない。

だが、士郎自身もまた“同じ形”には辿り着けない。

 

だからこの剣は、どちらの側にも完全には属さない。

ただ──

確かにここに“生まれた”。

 

(なんだ、そんなことだったんじゃねぇか)

 

本物か借り物かなんて、最初からどうでもよかった。

誰かのために振るわれるなら、それでいい。

ただ──それでも。

自分の手で打てるものは、自分にしか打てない。

 

「──士郎」

 

「お前の“剣の世界”には、まだ上があるのか?」

 

士郎は、ほんの一瞬だけ言葉を探すように目を伏せる。

そして、どこか遠くを見るようにして──

 

「.....あるよ。俺でも、届かない剣がな」

 

「そうか」

 

ヴェルフは短く息を吐く。

届かない剣がある。

それはつまり、まだ上があるということだ。

それは落胆ではない。

むしろ胸の奥の熱が、さらに強く燃え上がるのを感じていた。

 

「上等だ。

お前の世界にも負けない剣を、俺は作ってやる」

 

その言葉を最後に、ヴェルフは短刀へと視線を落とした。

 

(次は、もっと上だ)

 

静かに息を吐くと、顔を上げる。

その顔にはもう、迷いはなかった。

 

「さて、コイツの名前を決めるか。

牛若丸......いや、ミノタウロスの短刀なら、ミノタン......」

 

「いやいやいや!絶対最初のでいいですって!?」

 

ベルの全力の制止に、ヴェルフは不満そうに眉をひそめた。

 

「そうか?分かりやすくていいだろ?」

 

「センスの問題です!センスの!」

 

わちゃわちゃと声が飛び交う。

士郎はそれを見て、少しだけ口元を緩める。

工房には鉄の匂いと、騒がしさだけが残っていた。




ヴェルフから見た衛宮士郎は、理解できる存在ではないと思います。
それでもなお、嫌うことはできない。そんな矛盾を孕んだ人物です。
ただし、エミヤや「壊れた幻想」のような在り方に対しては、別の結論になるでしょう。その差異こそが、この関係性の核心だと思っています。

次回「中層」です
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