ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか   作:ラブコメは正義マン

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思っていたよりも長くなった4話です。

ベル君と士郎君視点を行ったり来たりします読みづらかったらすみません


正義の味方と白兎

 

ベルを追いかけ、バベルの地下へ。

今は扉の前。この扉の先はダンジョンが広がっている。

本来、ダンジョンは恩恵を受けた冒険者たちが入る場所だ。

何の恩恵も受けていない俺が入るのは自殺行為に等しい。

それでも、入らない選択肢はない。

死線は何度も超えてきた。

自身に眠る27の魔術回路に魔力を流す。

 

「───投影(トレース)開始(オン)

 

俺が投影したのは錬鉄の夫婦剣。

陰剣莫耶、陽剣干将。

同時に、違和感。

この剣は、俺が投影するにあたって最も負担が少ない名剣だ。

しかし、今の投影は普段より多くの魔力を持っていかれていた。

 

「なんだ?この違和感は…」

 

思えば投影をしたのは2週間ぶりの出来事であった。

久々の投影で少し腕がなまっていたのだろうか。

脳裏に浮かぶ疑念。

──いや、それよりも。

今はベルを連れ戻すことが最優先だ。

思考のスイッチを切り替えた俺はダンジョンの中へと向かった。

 

 

 

 

 

 

ダンジョンの中は、思いのほか静かであった。

入った瞬間にモンスターに襲われることも警戒していたが、入って10分。

未だモンスターとは遭遇しないでいた。

 

「本当にモンスターなんているのか?」

 

周囲を見渡してみる。

周囲はわずかな明かりしかなく、薄暗い。

何があっても問題ないよう、注意深く周囲を観察する。

目を凝らしてよく見れば、足元に何かが大量に転がっていることに気が付いた。

 

「これは…魔石?」

 

魔石。

モンスターを討伐することで得られる魔力を帯びた鉱石だったか。

これが転がっているということはすでに誰かが倒した後だったらしい。

魔力を帯びた石と聞いて思い出すのは赤いペンダント。

この世界に来た時に一緒に持っていたそれを取り出す。

すると、ほんのわずかだがペンダントに魔力が宿ったような気がした。

少し気になるが、今はそんなことどうでもいい。

冒険者たちはこれで収入を得ているはず。

それがここまで落ちているのは不可解だ。

もう一度よく見てみれば、魔石が道のようになっているのに気が付く。

これを追っていけば、追いつけるかもしれない。

ベルへの道しるべを発見した俺は魔石をたどって歩みを進めることにした。

 

 

 

 

 

 

ダンジョンは階層が分かれている。

俺が今いる場所は「上層」と呼ばれる場所だ。

大半の駆け出し冒険者はここで命を落とすと聞く。

しかし、今俺がいるのは6層。

上層の中でも真ん中あたりの場所だ。

本来、駆け出しが一人で向かうにはあまりにも無謀な階層である。

 

「どこかで入れ違ったか?」

 

ベルを探すこと30分。

魔石をたどってここまで来たが、未だベルは見つからない。

ダンジョン内は薄暗く、道も分かれているため、すでに地上へ帰った可能性がある。

そもそもダンジョンには入っていないんじゃないだろうか。

いや,もしかするとすでに…。

様々な可能性が頭に浮かぶ。

最悪のケースを想定したその瞬間、

 

「ハアアアアアッ!!!」

 

道の奥から声が聞こえた。

遅れて、何かが崩れ去るような音。

誰かが戦っている。

音のした方へ走る。

道を抜け、広間に出た。

音の原因をその目でとらえる。

そこには、大量のモンスターに囲まれたベル・クラネルの姿があった。

生きている。そう安心したのもつかの間。

モンスターは一斉にベルへと襲い掛かる。

それを見た俺は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスターに囲まれながら、僕は戦っていた。

取り囲んでいる影のようなモンスターはウォーシャドウ。

6階層から出現する、「新米殺し」の異名を持ったモンスターだ。

長い両腕の指先はナイフのようになっており、容易く冒険者の体を引き裂く。

本来ならば絶体絶命の状況だが、撤退はしない。

僕の心は怒りで満ちていた。

 

 

 

──強くなりたい。

その一心でナイフを振るう。

この怒りはモンスターへ向けられたものではない。

弱い自分自身へと向けられたものだ。

──強くなりたい。

広間を駆ける。

もっと強く、もっと早く。

憧れの人(アイズヴァレンシュタイン)の強さはこんなものではない。

──強くなりたい。もっと強く、もっと!

 

 

 

「ハアアアアアッ!!!」

 

ナイフによって魔石を貫かれた影は崩れ落ちる。

倒した数はすでに覚えていない。

しかし、周囲を取り囲むモンスターは未だ健在。

生存は絶望的。それでも、覚悟は揺るがない。

再びナイフを構え、両足に力を籠める。

狙いは正面だ、狙うのは魔石…!

 

「行くぞ…!……っ!?」

 

狙いを定めたその瞬間、研ぎ澄まされた感覚がモンスターではない何かを捉える。

人間(ヒューマン)だ。

こちらへ向かっている。意識が一瞬そちらへ向く。

──その一瞬が命取り。

自身を取り囲んでいた影は示し合わせていたかのように同時に襲ってきた。

 

「くっ…」

 

正面から襲ってくる影の攻撃を身をよじって何とか躱す。

だが、次はない。

すでに眼前にはもう一体の影が迫っている。

──躱せない。

指先の刃が伸びてきている。

次に来る痛みをこらえようと歯を食いしばる。

 

 

しかし、その刃が僕へと届くことはなかった。

わずか数センチのところで影が崩れ落ちる。

その後ろには一人の人間が立っていた。

影は急に現れたその人を警戒したのか、動きを止めている。

 

「ケガはないか?」

「はい…大丈夫です…。あの、ありがとうございます」

 

他の冒険者だろう。

また、誰かに助けられてしまった。

1人で勝手に舞い上がって、期待して、またピンチになって、助けられる。

結局、僕は守られてばっかりだ。

僕なんかが強く……なれるわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルを殺さんと刃を伸ばす影へと莫耶を振り下ろす。

振り下ろした剣は容易く魔石を切り裂き、影が崩れ去る。

突如現れた俺を警戒してか、他の影は動きを止める。

それを見た俺は、ベルに声をかけた。

 

「ケガはないか?」

「はい…大丈夫です…。あの、ありがとうございます」

 

倒れた姿勢のまま俺を見上げるベル。

しかし、俺を見るその瞳はどこか遠くを見ているようだ。

 

「そっか、ならよかった」

 

影を警戒する。未だ動く気配はない。

早いとこベルを連れて離脱したいが彼は倒れたまま動かない。

 

「立てるか?」

「はい…何とか」

 

促されて立ち上がるベル。

見たところ傷を負っている様子はないようだがその動きは重い。

原因を探る。

周囲には散らばっている魔石。

状況から考えてベルが倒したものだろう。

その数は20を超えている。

このモンスターにおびえているわけではない。

ならば、なぜ彼は動かないのか。その時、酒場で聞いた狼人の言葉を思い出した。

トマト野郎。

アイズに救けられたベルは弱者だと罵られていた。

だからきっと、救けてもらうのは彼にとって重荷になってしまった。

 

 

 

それでも、彼を救けない選択肢はない。

目の前の誰かを見捨てることなんてできない。

それが俺の憧れた正義の味方なんだから。

 

 

──だが同時に、自分も救けられてここにいる。

だからこそ、

 

「頼みがある。救けてくれないか」

 

俺も救けを求める。

 

「飛び出したはいいが、実はこいつらの事を良く知らなくてさ。君の力を借りたい」

 

これは本音だ。

俺はこいつらについても、ダンジョンについても何も知らない。

このまま一人で安全に返れる保証もない。

無事に帰るためにも、ベルの力は必要だ。

 

ベルの顔を見る。

その顔は古い鏡を見ているようだった。

かつての自分。

衛宮切嗣に救けられ、その在り方に、正義の味方に憧れた。

そして自分が行く末を、その理想の果てにあるものを見た。

 

ひどい結末だった。

自分がいつかあの道を辿るなんて、想像もしたくない未来だ。

 

それでも、俺にとってあの日の出来事は救いだ。

救われたことを後悔したことなんかない。

救いが、誰かにとっての呪いであってほしくない──!

 

「昔は正義の味方に憧れてたんだ。」

 

気づけば、俺の口は動いていた。

 

「最初は、親父の受け売りだったんだ。事故で何もかも失って、自分だけが生き残った。そんなときに親父が助けてくれてさ。自分もそうなりたいって思ったんだ。」

 

自分の原点を、ベルに伝える。

 

「でも、実際はそうじゃなかった。自分だけが生き残ってしまった。だからこそ、自分は他に死んでいった人のためにも生きて、使命を全うしなきゃいけないって。いつしか、理想は呪いになってた。」

 

遠坂に言われた言葉を思い出す。

「もっと自分をもっと大事にしろ」ってアイツは俺を叱ってくれた。

 

「それでも、根底にあったのは願いだったんだ。誰かを救いたいって理想が間違いのはずがない。」

 

それに気づけたのは、他ならぬ自分を見たからだ。

誰かを救う。その行為が間違いだなんて言わせない。

 

「だから、俺は君を救ける。例えそれが偽善でも、自分が信じる正義のために」

 

俺はありのままの全てをベルに伝える。

ベルが弱いから救けるんじゃない。

俺がそうしたいから、救ける。

それが俺にとっての幸福でもあるから、手を伸ばす。

それが俺の目指す、正義の味方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立てるか?」

「はい…何とか」

 

声を聞いて立ち上がる。

そんな自分はみじめで、情けなくて、みっともない。

 

「そうか、ならよかった。」

 

そういってその人は影へと向き直る。

きっとその綺麗な剣で難なくこの影たちを倒してしまうんだろう。

だが、次に僕の耳に届いたのはそんな予想とは全く逆の言葉だった。

 

「頼みがある、救けてくれないか?」

 

その言葉を聞いて僕は耳を疑った。

助ける?なんで?僕よりもずっと強いのに?

 

「飛び出したはいいが、実はこいつらの事を良く知らなくてさ。君の力を借りたい」

 

そういって少し笑って見せる男。

1人でここまで来ておきながらそんなことがあり得るだろうか。

しかし、僕にはその人が嘘を言っているようには感じられなかった

でも、無理だ。

僕は弱いから、あなたを助けるなんてできない…

 

「無理です、僕なんかの力じゃ…」

 

こいつらを倒せない。そう言いかけたその時だった。

 

「昔は正義の味方に憧れてたんだ。」

 

どこか懐かしむような声で、その人は語りだす。

 

「最初は、親父の受け売りだったんだ。事故で何もかも失って、自分だけが生き残った。そんなときに親父が助けてくれてさ。自分もそうなりたいって思ったんだ。」

 

自分もかつては救われる存在だったと。

自分を救ったその人物に憧れたと。

 

「でも、実際はそうじゃなかった。自分だけが生き残ってしまった。だからこそ、自分は他に死んでいった人のためにも生きて、使命を全うしなきゃいけないって。いつしか、理想は呪いになってた。」

 

そうだ、見失っていた。

なんで忘れていたんだろう。

僕はあの人(アイズ・ヴァレンシュタイン)に憧れた。

 

「それでも、根底にあったのは願いだったんだ。誰かを救いたいって理想が間違いのはずがない。」

 

でも、僕の始まりはそこじゃない。

始まりは、おじいちゃんが読み聞かせてくれた冒険譚。

おじいちゃんは言っていた。

「英雄とは、常に敗者の中にいる」と

そうだ、僕は──

 

「だから、俺は君を救ける。例えそれが偽善でも、自分が信じる正義のために」

 

──拳を握りしめる。

一度すっからかんになった体にあらんばかりの力を籠める。

体が軽い、さっきまでの疲れが嘘のようだ。

もう一度、影を見据える。

さっきまで警戒していた様子だったが、どうやら我慢の限界らしい。

肌に突き刺さるような殺気を感じる。

だが、恐怖はない。

 

「後ろは任せてください。それと、アイツらはウォーシャドウ。指先から生えている刃はとても鋭くて危険です。注意してください。」

「了解。」

 

短い会話の後、限界を迎えたウォーシャドウたちが動き出す。

闘いの火ぶたが、ここに切られた。

 




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ひとえに読んでくださっている皆様のおかげでございます
本当にありがとうございます

恩恵なしでダンジョンに入っている士郎君ですが、メディアの使い魔にモップで意外と頑張れていたのでこの時点では投影魔術込みでLv1冒険者の上澄みくらいの強さはあると思いますねはい
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