ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか   作:ラブコメは正義マン

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前話でピンチになっていたところを助けられたベル君ですが、士郎が来て気を取られることがなければ、原作通りウォーシャドウには勝てていました。何たるマッチポンプであろうか。

そんなこんなでウォーシャドウとの戦闘は全カットな第5話、始まります。


怪物祭

──早朝。ヘスティアファミリア本拠地(ホーム)

 

ここは、町はずれにある教会の隠し部屋。

ボクとベル君、ヘスティアファミリアの本拠地だ。

ベル君の背中に刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)を、指先でなぞる。

ステータスの更新。

冒険で得た経験値(エクセリア)を、冒険者自身に反映させるための儀式。

 

「……あれ?」

 

思わず声が漏れた。

 

「どうかしましたか? 神様」

「う、ううん。何でもないよ、ベル君」

 

ベル君の成長が早いことは、主神であるボクが一番よく分かっている。

でも──これは。

異常、と言っていい。

昨晩、ベル君はボロボロの体で帰ってきた。

ただ事じゃない経験をしたのは明らかだ。

それでも、この上昇幅は説明がつかない。

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

原因は、きっとこのスキル。

思いの丈に応じて効果が跳ね上がる、早熟のスキル。

……気に入らない。

とても、気に入らない。

ベル君の想い人に対する感情が、そのまま力になるなんて。

一体、ヴァレン何某のどこがそんなにいいというのか。

ボクという女神がいながら!

内心で悪態をつきつつ、指を進める。

その途中で、ふと、動きが止まった。

 

「ベル君……昨日、何か特別なこと、あった?」

 

昨晩のベル君の表情を思い出す。

どこか晴れやかで、まるで大切な何かを掴んだような顔。

 

「神様。僕、強くなりたいです」

 

その言葉が、胸に残っている。

願いであり、決意。

できることなら、叶えてあげたい。

たとえ気に食わないスキルが原因でも、ベル君に必要な力なら──

そう思っていた。

 

「実は昨日、ダンジョンで救けてもらったんです。おかげで、大事なことを思い出しました」

 

「……え?」

 

頭が、止まる。

救けてもらった?

また?

誰に?

ヴァレン何某だけでは飽き足らず、次は誰だい……?

 

「あの、神様……?」

 

視線を向けてくるベル君。

返事はしない。

黙々と、ステータスの更新を進める。

 

「あの……もしかして、怒ってます?」

 

耐えきれず、叫んだ。

 

「ベル君の浮気者っ!」

「なんでっ!?」

 

ぷい、と顔をそらす。

そのままステータスの更新を終えるまで、沈黙の時間は続いた。

 

 

 

──なお、ヘスティアは一つ、盛大な誤解をしていた。

【憧憬一途】に続き、新たに発現した【英雄願望(アルゴ・ノゥト)】。

それもまた、別の女の影響だと思い込んでしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

***

──同日。豊穣の女主人。

昼の営業が始まる少し前、店内にはまだ静けさが残っていた。

ベルはカウンターの前で背筋を伸ばし、深く頭を下げる。

 

「すみませんでした!昨日はお金を払わず出ていったどころか、危ないところまで助けていただいて!!これっ、お勘定です!!」

「わざわざ払いに来るとは感心じゃないか。まあ、払いに来なければこっちから行くところだったがね。」

 

ミアの言葉を思い浮かべたのか、ベルの肩が小さく跳ねる。

そのままもう一度、勢いよく頭を下げた。

 

「もう謝らないでください。戻ってきてもらえて、私は嬉しいです」

 

声をかけられ、ベルは恐る恐る顔を上げる。

視界に入ったのは、柔らかく微笑むシルの姿だった。

 

「今日もダンジョンへ行かれるんでしょう?これ、もらってください」

「いや、そんな…」

 

差し出された包みと、それを見るベルの視線が行き来する。

ここまで世話になるわけにはいかない——理性はそう告げていた。

けれど、シルの手は引かれたまま下がらない。

 

「ダメ……ですか?」

 

わずかに赤くなった頬。

見上げるような視線。

ベルは一瞬だけ抵抗し、そして観念した。

──敗北(ノックアウト)

差し出されたお弁当を、両手で受け取る。

満足そうに微笑んだシルは、そのまま仕事へ戻っていった。

入れ替わるように、店の奥から一人の男が姿を現す。

 

「あ、士郎さん!!昨日は危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました!!あなたがいなかったら、僕は今頃……」

 

言葉と同時に、昨日の光景が脳裏によみがえる。

ウォーシャドウの群れを倒した後、力尽きて立てなくなった自分。

無言で背負われ、揺れる視界の先にあった背中。

 

「昨日も言ったけど、別にいいって。無事でよかったよ」

 

士郎は軽く肩をすくめ、気負いのない笑みを浮かべる。

その表情に、ベルの胸の奥が少しだけ温かくなった。

一通り礼を述べ終えたところで、低く張りのある声が割り込む。

 

「士郎とシルには感謝しときな。あたしも含め、血の気の多い連中があんたを許したのは、アイツらのおかげだからね。」

「そうでしたか……」

 

ベルは視線を落とす。

握った拳に、わずかに力がこもった。

 

「冒険者なんてかっこつけるだけ無駄な職業さ。最初のうちは生きることに必死になっていればいいんだよ。」

 

その声に、ベルの肩がぴくりと動く。

ゆっくりと顔を上げると、そこには先ほどまでの迷いはなかった。

 

「みじめだろうが、笑われようが、生きて帰ってきたやつが勝ち組なのさ。」

 

言葉が、一つずつ胸に落ちていく。

 

「あたしにここまで言わせたんだ。簡単にくたばったら承知しないからね!」

 

背中を押され、半ば押し出されるように店の外へ。

 

「さあ、行った行った!店の営業の邪魔になるよ!」

「はい!行ってきます!!」

 

返事と同時に、ベルは駆け出した。

振り返らず、前だけを見て。

その背中は、見送られる子供のようでありながら、確かに前を向いていた。

 

 

 

 

 

***

──数日後。昼、豊穣の女主人。

普段から神と冒険者たちでにぎわっているオラリオだが、今日は一段と騒がしい。

店の外からも、人の声や足音が途切れなく聞こえてくる。

近くにいたリューに、何気なく声をかける。

 

「なあ、今日はいつもより騒がしいけど、何かあるのか?」

「ああ、それは怪物祭(モンスターフィリア)があるからでしょう。」

「モンスターフィリア?」

「はい。年に一度、ガネーシャファミリアが行っている祭りです。闘技場を一日占有し、ダンジョンから連れてきたモンスターを、観客の前で調教しています。簡単に言えば、見せ物ですね」

 

──なるほど、そういうものがあるのか。

 

 

「興味がおありですか?」

 

こちらを覗きこんでくるリュー。

視線が合い、思わず逸らした。

だが、異世界の祭りか。少し興味はある。

 

「良かったら、少し見て回ってきてはいかがでしょうか。祭りのおかげで今は少し空いていますし、何とかなるでしょう」

「いいのか?」

「はい。ミア母さんには私から事情を説明しておきます」

 

リューが俺に気を遣ってくれているのが分かった。

素直に、お言葉に甘えることにする。

 

「じゃあ、少しだけ。夕方までには戻ってくる。」

 

見送ってくれるリューに背を向け、店を後にした。

向かう先は闘技場。

異世界の祭りに、ほんの少しだけ期待をしながら──

しかし、その期待はすぐに裏切られることになる。

 

 

 

──闘技場付近

 

店を出て一時間ほどたった頃、街は一段と騒がしくなっていた。

だが──

 

「祭りだから……って訳でもなさそうだな」

 

この喧騒はただ浮かれているだけではない。

どこか張り詰めたような空気だ。

嫌な予感。

それが、はっきりと形を持ち始めたそのときだった。

ふと、近くで二人の女性が言葉を交わしているのが耳に入る。

 

「ガネーシャファミリアの人が言ってた!西ゲートでモンスターが逃げたんだって!」

 

 

思わず、足を止めた。

反射的に声が出た。

 

「それは本当か?」

「キャッ!?」

 

びくっと肩を震わせ、二人の女性がこちらを振り返る。

突然声をかけられたことに驚いたのだろう。

どうやら聞かれてはいけない話だったらしい。

二人は声を落とし、ひそひそと言葉を交わす。

 

「ちょっとミィシャ!聞こえちゃってるじゃない!パニックになったらどうするのよ!」

「ごっごめんてば!そんなに怒らないでよ~!」

 

ひそひそと話し続ける二人。

その空気を破るように、横から軽い調子の声が割り込んだ。

 

「なんや、儲け話かいな?」

「何かあったんですか?」

 

そこにいたのは、剣姫と、その主神であるロキだった。

オラリオ最強と名高いファミリア。その中核を担う存在が、偶然にもこの場に居合わせている。

 

「けっ剣姫!?」

「アイズヴァレンシュタイン…」

 

突然現れた存在に、二人は驚いている。

だが、すぐさま表情を引き締め、事情を説明しようと口を開く。

 

「はい。実は…」

 

言いかけたところで、その視線がこちらへ向けられる。

一瞬の逡巡。

──どうやら、俺に聞かせるつもりはないらしい。

だが、すでに聞いてしまった以上、黙って立ち去る気はない。

視線を外さずにいると、意図が伝わったのだろう。

エルフの女性が、静かに息を整えてから、語り始めた。

 

 

 

 

 

──二人の女性から事情を聞き終える頃には、俺の足はすでに動いていた。

こんな街中で犠牲が出るなんて、冗談じゃない!

街を駆ける。

その視界の奥に、一匹のモンスターを捉えた。

 

「アイツか──!」

 

だが、遠い。

このままではすぐに見失ってしまうだろう。

ならば、

 

「───解析(トレース)開始(オン)

 

近くの壁に手を突き、解析を行う。

同時に、またも違和感を覚えた。

魔術自体は正常に起動している。だが、魔力の消耗が異常なほど激しい。

いや、今はそんなことはいい。

解析に集中しろ。

街の構造が一気に流れ込んでくる。

そして、

 

「──見つけた。」

 

街に残る破壊痕。その先にヤツはいる。

手を放し、解析を終える。

少し重くなった体に鞭をうち、迷わず走り出した。

 

 

 

 

***

──ダイダロス通り

オラリオに存在するもう一つの迷宮ともいわれる、複雑な地形をした通りだ。

その中で、ベルはヘスティアを抱え走っていた。

背後には、二人を追う白銀の獣──野猿(シルバーバック)

 

「グオオオオオオオ!!」

 

台地が揺れるような咆哮を上げ、二人に迫ってくる。

逃げ続けること十数分、ヘスティアを抱えたままのベルの足は、限界を迎えつつあった。

──このままでは、逃げられない。

ベルの頭に、そんな予感がよぎった。

ならば、選択肢は一つ。

ベルは広場へ抜け、抱えていたヘスティアを降ろした。

 

「へ?ベル君…何を…?」

「少し待っていてください。あいつを、倒します」

 

振り返ったベルは武器を構え、敵を見据える。

相手は格上、今のベルでは敵わないことは明白。

──それでも、逃げない。

足を止めたベルに、白銀の獣は追いついた。

 

「グオオオオオオオ!!」

 

雄叫びを上げ、ベルを倒さんと手を伸ばすシルバーバック。

だが、その手がベルを捉えることはない。

伸ばされた手を、身をかがめて走りすりぬける。

 

「グオッ!?」

 

まさか躱されるとは思っていなかったのか、襲撃者は驚いたような声を上げた。

ベルはその隙をついて懐へ飛び込む。

そして、がら空きの胴体へと剣を突き刺した。

──だが

 

「くっ!?」

 

ピシィッ!と音を立て剣が砕ける。

それもそのはず。

ベルが持っていたのはギルドから駆け出し冒険者へと支給されたものだ。

本来、11階層あたりに存在しているモンスターに、通用するはずがない。

唯一の攻撃手段が砕けたのを見たベルは、すかさずシルバーバックから距離をとった。

 

──倒せない。

 

武器を持たないベルでは、もはや討伐は不可能。

だが、このまま逃げ切れる保証はない。

必死に打開策を考えるベル。

迫るシルバーバック。

そこへ、

 

「───投影(トレース)開始(オン)

 

ベルも知っている声が聞こえた。

 

 

 




士郎によって原作より少し早く【英雄願望】を発動したベル君
覚悟も決まっているのでシルバーバックにも臆せず立ち向かうことができましたが、武器が悪かった。(赤髪の鍛冶師がこっちを見ている.....)

評価、感想有難うございます。
良ければ次回も見てくださいね
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