ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか   作:ラブコメは正義マン

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※前話を読み返して突っ込まれそうだったのでここで捕捉
前話でヘスティアが【英霊願望】の発現を別の女の影響だと勘違いしていた通り、士郎の姿を見ていません。
士郎がベルを背負って送り届けたのは地上まででその先はベルが自身の足で帰ったと思ってください。





ヘスティア・ナイフ

「───投影(トレース)開始(オン)

 

シルバーバックに追われるボク達の前に、一人の人間(ヒューマン)の男が躍り出た。

 

「士郎さん!?」

 

突然の出来事にベル君が声を上げる。

ベル君が士郎と呼ぶ彼。

その手には二振りの剣が握られていた。

 

最近まで友人(ヘファイストス)の下にいたからこそ分かる。

あの剣は、きっととんでもない業物だ。

その姿に見覚えはないが第一級冒険者だろうか。

──助かった。そう思ったのも束の間、

 

「なっ……!?」

 

士郎の手から剣が崩れ去った。

彼も想定外の出来事だったようで動揺している。

攻撃する術を無くした彼に、シルバーバックの拳が迫っていた。

 

「くっ……投影開始(トレースオン)──!」

 

短く言葉を発した後、伸ばされる手へと男は飛び込む。

そして、彼の手にはまた同じ剣が現れる。

 

「ハァッ……!」

 

──二対の剣が振り下ろされる。

男が繰り出した一撃は、シルバーバックの手首に巻き付いた鎖を捉え、拳の軌道を大きくずらす。

その後、男の剣は──

またも、音もなく崩れ去った。

 

どうやらあの武器は魔法によって作られたものらしい。

だが、作り出したそばから、跡形もなく消滅していく。

それは、先ほどのベル君の武器のように、武器そのものが限界を迎えたからではない。

 

──まるで、世界そのものが拒絶しているかのように。

彼の手から、武器が崩れ去っていく。

二度にわたる武器の崩壊を目の当たりにした士郎は唖然としている。

そこへ、体勢を立て直したシルバーバックが拳を振り下ろしていた──!

 

 

 

 

***

──神々が下界を訪れるよりもはるか昔。

人々はすでに、ダンジョンへ潜っていた。

その中に、英雄と呼ばれる者たちがいる。

彼らは神々の恩恵もないまま、ダンジョンを攻略していく。

だが、ダンジョンを完全に攻略することはできなかった。

 

──それは、人の限界。

どれほど優れた者であろうと、人である以上、越えられない壁がある。

英雄と呼ばれた彼らの雄姿は、冒険譚として現在まで語り継がれている。

だが、それはあくまで「人の物語」にすぎなかった。

 

時は経ち、神々が下界へと降り立った。

神々は眷属へ恩恵を与え、人々に大きな成長をもたらす。

まさしく、神々がもたらした奇跡。

そうして強大な力を得た人々が、再び目指した先は───ダンジョン。

かつての英雄が成し遂げることのできなかった偉業を果たさんと、人はダンジョンへと潜るのだった。

 

そうして、現在に至るまで人々とダンジョンの戦いは続いている。

その間、およそ千年。

いつしか人々にとって、神々から恩恵を受けることが力を得る手段となり、

ダンジョンへ挑むための前提となった。

それ即ち、人が神々の恩恵無くして超常の力を有することはできないことの証明。

それこそが、人と神々が千年かけて生み出した下界の魔術基盤(ルール)

 

──だが、ここに例外が一人。

衛宮士郎の投影魔術は、ただの投影魔術ではない。

それは、彼自身の内に宿る固有結界を由来とする、彼にのみ許された魔術だった。

固有結界とは、自身の心を具現化し、世界として顕現させる大魔術。

そこに世界が存在するのならば、そこにもう一つの魔術基盤(ルール)が存在するのも、また道理。

衛宮士郎は、自身の持つ魔術基盤を行使し、魔術を扱うことを可能としていた。

 

本来、固有結界を持つ者の魔術が、外部の魔術基盤から干渉を受けることはない。

──だが、ここは神代。

神々によって千年もの時をかけて作られた魔術基盤は、少しずつ、しかし確実に、衛宮士郎の魔術を侵食していた。

 

 

 

 

***

「危ないっ!!」

 

とっさに、ベルは士郎の体を引き寄せた。

直後、士郎めがけて振り下ろされていた腕が、すんでのところで彼をかすめ、地面へと叩きつけられる。その衝撃で、二人の体は後方へと吹き飛ばされた。

 

「無事ですか!?士郎さん!」

「すまない、助かった。………ベルか?」

 

起き上がった士郎は、自分を救った相手の正体を、そこでようやく認識した。

白い髪、赤い瞳。見覚えのある、ひどく必死な表情。

数日前に助けたあの少年だ。

士郎は短く息を整え、視線だけで状況を確認する。

そして、静かに問いかけた。

 

「ベル。なんでお前はアイツに追われてるんだ?」

「狙われているのは僕じゃありません。狙われているのはきっと……」

 

ベルは一瞬だけ言葉を切り、ちらりとヘスティアへ視線を向けた。

 

「なるほど……狙いはあっちって訳か。ベル、彼女を連れて逃げられるか?」

「いえ、奴はどこまでも追ってきます。それに、これ以上逃げると街の被害が……」

 

いつの間にか、騒ぎを聞きつけた人々が周囲に集まり始めていた。

足を止めてしまったことが、ここにきて裏目に出る。

このまま逃げ続ければ、無関係な人間まで巻き込んでしまうだろう。

 

「なら、どうする?俺の武器も通用しない。君のそれも、もう使い物にならないだろう」

「それは……」

 

ベルは、手に残った武器の残骸へと視線を落とす。

士郎の剣すら通用しなかった相手だ。

──討伐は不可能。

その結論を打ち破るように、ヘスティアの声が割り込んだ。

 

「士郎くん……だったね。五分……いや、三分でいい。時間を稼ぐことはできるかい?」

「キミは……?」

「ボクはヘスティア。ベル君の主神さ。」

「ヘスティアか。それで、時間稼ぎだったな。できなくはないが……それで、どうする?」

 

ヘスティアは、時間稼ぎを士郎へと頼んだ。

そして彼女は、静かに視線をベルへと向ける。

その手には、青いケースが握られていた。

 

「ベル君、君がアイツを倒すんだ」

「……っ!?」

 

まさか自分の名前が呼ばれると思っていなかったベル。

 

「無理です。」

 

そう返そうとして、ヘスティアと視線が合った。

彼女がベルを見るその瞳には、確かな確信があった。

 

「ベル君、ここで君の【ステイタス】を更新する。きっと今の君の成長速度なら、アイツを上回っているはずさ」

「それでも……武器がありません。」

「──武器なら、ここにある」

 

ヘスティアは、手にしていたケースを開け、その中身をベルへと差し出す。

取り出されたのは、鞘に収まる漆黒のナイフ。

ナイフはベルの手と渡り、それに呼応するように、輝きを宿し始めた。

それを見た士郎は小さく息をのむ。

 

「これは、【神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)】。君だけの、君のための武器だ」

「神様……」

 

ベルの眼に、うっすらと涙が潤んだ。

大好きな主神からのプレゼント。

その想いに、期待に、応えないわけにはいかない。

 

「行けるね。ベル君」

「はい、神様」

 

短く言葉を交わす二人。

ベルの心には、もはや迷いはない。

その様子を見届け、士郎が声を上げた。

 

「分かった。そういうことなら時間稼ぎは任せてくれ。絶対に持ちこたえて見せる」

「士郎さん、お願いします」

「士郎君、頼んだぜ」

 

二人は士郎から距離をとり、近くの壁の裏へと身を隠す。

獲物を追うように、シルバーバックは動く。

その前に、またも衛宮士郎が立ちはだかった。

 

「悪いな、一人の少年がさ、今頑張ってるところなんだ。

だから──少しそこで待ってろ。」

 

三度、士郎は投影を行う。

今にも消えてしまいそうなその剣を、万全の気合で押しとどめた。

その様子を見たシルバーバックは、もはや士郎を脅威とは思っていない。

白銀の獣は、自らの獲物を狩らんと、跳躍のために体をかがめた。

──瞬間、士郎の手から剣が放たれる。

 

「ギャッ!?」

 

放たれた剣は、踏み込もうとしていたシルバーバックの足を正確に捉えた。

足に力を込めていたシルバーバックは、その力の行き所を失い、再び体勢を崩す。

 

「──悪いが付き合ってもらうぞ。俺の魔力が尽きるまでな」




評価、感想本当にありがとうございます。
数時間おきにチェックしてはニヤニヤしてます。
良ければ次回もみてください
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