ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか 作:ラブコメは正義マン
友人がコミケに参加するのをきっかけに始めた二次創作ですが、ここまで見てくださる方がいるとは予想しておらず、非常に驚いています。
毎度のことながら、評価・感想・お気に入りしてくださっている皆様、本当にありがとうございます。
ヘスティアは、ベルのステイタスを更新していた。
その動きは、普段のようなゆったりとしたものではない。
額に汗を浮かべながら、必死に一つ一つのステイタスを書き換えていく。
アビリティを一つ更新するたび、ヘスティアの口から小さく息が漏れた。
驚異的な成長を見せるベルのステイタスに心底驚かされながらも、ヘスティアは手を止めない。
そうして、時間にして百六十七秒。
ヘスティアは、全てのステイタスを更新し終える。
──アビリティ上昇、合計六百オーバー。
駆け出しの冒険者であることを差し引いても、常軌を逸したステイタスの伸びだ。
それを見て、ヘスティアは「これならいける」と確信した。
「ベル君、行けるかい?」
「はい、神様!」
言葉を聞くと同時に、ベルは立ち上がった。
その背中はまっすぐに伸びていて、これから始まる戦いへの恐怖を微塵も感じさせない。
それに呼応するかのように、ヘスティアナイフもまた、その輝きを増し始めた。
「いいかい?そのナイフが、僕が、君を勝たせてみせる。
だから、見せてくれよ。君のすごさを!!!」
ヘスティアが背中を押す。
直後、弾丸のようにその場から飛び出すベル。
最初に視界に入ったのは、自身たちを護り続けてくれていた士郎の姿だった。
肩で息をし、ひざは笑っている。
剣は、今にも彼の手の中から零れ落ちそうだ。
誰の目にも、限界が近いことは明らかだった。
──それでも、倒れない。
世界に拒絶されてもなお、彼は戦い続けている。
──ベルを護るため、それだけの理由で、彼は立っている。
「士郎さんっ!!」
その姿を見たベルは叫ぶ。
その声には、感謝と心配、そして胸を締めつけるほどの焦燥が入り混じっていた。
ベルの声を聞き、振り返る士郎。二人の視線が交錯する。
ベルの姿を見た士郎は安心させるように少し笑い、告げた。
「ああ、俺は大丈夫だ。それより、今は俺よりアイツを倒すのが先だろ?」
士郎に促され、ベルは視線を奥へと向ける。
視界に入るのはシルバーバック。
獲物が自ら飛び込んできたことを喜ぶように、ベルへと飛び掛かる。
──だが、遅い。
シルバーバックが飛び掛かるより疾く、ベルは動き出していた。
「はぁっ──!!」
ベルは、すれ違いざまにナイフを振るう。
そのナイフは、易々とシルバーバックの右腕を切り落とした。
「グォッ─!?」
よもや抵抗されるとは思っていなかったシルバーバック。
短い悲鳴を上げ、失った片腕を、存在しないはずのそれを、振り回そうとする。
その隙を、ベルは見逃さない。
「遅い──!」
再び距離を詰め、ベルはシルバーバックの体を切り裂いていく。
眼にも止まらぬ速さで繰り出される斬撃に、片腕を失ったその敵はもはや追いつけない。
──それでも、ベル・クラネルは止まらない。
一つ、また一つと重ねられる斬撃は更に速度を増していく。
繰り出された斬撃が二十を超える頃。
最期の抵抗として胸元を護っていた手が剥がれ落ち、急所がむき出しとなった。
そこへ狙いを定めたベルは、最高速度のまま飛び込んだ。
「うおおおおおおっ!!」
漆黒のナイフが突き刺さる。
魔石を貫かれたシルバーバックは力なく横たわり、崩れ落ちた。
瞬間、それを見ていたダイダロス通りの住民が大きく声を上げる。
──それはまるで、新たな英雄の誕生を祝福しているようだった。
***
「すごい……!すごいよ!ベル君!!」
その光景を見届けたボクは、自身の象徴ともいえるツインテールをぶんぶん揺らしながら飛び回っていた。
「ああ、まさか本当に倒しちまうとはな。これは、俺が助けるまでもなかったか」
そして、その戦いの終わりを見届けていた者は、もう一人。
魔力を使い果たし、床へ座り込んでいる衛宮士郎だ。
彼に、助けてくれたお礼を伝えなくては。
「そんなことはないぜ、士郎君。君がいなかったら、僕たちは今頃アイツに捕まってた。ボクとベル君を助けてくれて、本当にありがとう」
「そういってもらえるのは嬉しいんだが……助けに飛び出てきたのにこのザマじゃあな」
視線を落とし、自嘲気味に笑う士郎君。
その体に目立った外傷はない。
だが、魔法を使い過ぎた反動か、まともに力が入っていないのが見て取れた。
ボクたちのために、相当な無茶をしたようだ。
「立てるかい?」
「ああ、悪い」
ボクが伸ばした手を、掴んだ士郎君。
その瞬間、ある一つの違和感を感じ取った。
──それは、予感だった。
脳裏には先の光景がよみがえる。
彼が魔法によって生み出した剣が、崩れ落ちていく。
それはまるで、世界から拒絶されているようだと思った。
そして、今も手に残るこの感覚。
間違いない。この子はきっと──
「士郎君、キミはまさか……」
「神様―――!!」
「ベル君っ!?」
その違和感の正体を確かめようとした瞬間、ベル君が飛び込んできた。
その姿が、先ほどまで戦っていた彼と同一人物とは思えず、思わず笑ってしまう。
シルバーバックを倒し、この場の誰よりもはしゃいでるベル君は、少年のようでとても可愛らしい。
……って、違う違う。今は士郎君に聞くことがあるんだった。
あれ……何だったっけ……士郎君に……聞く……ことが……
「神様っ!?」
その言葉を最後に、僕は意識を失った。
***
──同時刻、ダイダロス通り
「とてもよかったわ……ベル」
ベル達から少し離れた民家の屋根の上。
一人の神が、宝物を見るようにベルを眺めている。
神の名はフレイヤ。
モンスターを街へと解き放ち、今回の騒動を引き起こした張本人であった。
「それにしても……」
ふと、その視線が士郎へと移る。
「彼、あんな力を持っていたのね…」
フレイヤの脳裏には、投影を行う士郎の姿が焼き付いていた。
だが、フレイヤは衛宮士郎に興味を持っているわけではない。
士郎を見るその視線には、驚き、困惑、そして微かな苛立ちが入り混じっている。
「このままベルの邪魔をされたら鬱陶しいわ。少し、考える必要があるわね」
そう言い残し、フレイヤは音もなくその場を後にした。
***
──同日、夜、豊穣の女主人。
シルバーバックを倒した後、急に倒れてしまったヘスティア。
それを見た俺たちは、すぐさまヘスティアを抱え、豊穣の女主人の自室へと運び込んだ。
それからしばらくして、ヘスティアが目を覚ました。
「うーん……ベル君?ここは?」
「士郎さんが借りている、豊穣の女主人の一室です」
キョロキョロとあたりを見回すヘスティアへ、あれからの事を説明するベル。
やがて、事情を説明し終えたベルは、ヘスティアに問いかける。
「それで、神様はいったい何があったんですか?数日間、姿も見えませんでしたし……」
「あー……倒れたのはきっと過労だね」
「過労?じゃが丸君のバイト、ですか?」
「違うよっ!?……本当は話す気、なかったんだけどさ」
観念したヘスティアは、ここ数日の自身の事情を説明し始めた。
ヘファイストスの下で三十時間もの間、土下座をしていたこと。
ベルが握るヘスティアナイフのこと。
──ずっと、ベルの力になってあげたいと思っていたこと。
その話を聞いたベルは、目から涙を流しながらヘスティアを抱きしめる。
その姿はまるで本物の親子のようで、俺にはまぶしく見えた。
やがて、ベルが泣き止み、室内が静けさを取り戻した頃。
ヘスティアは俺に向き直り、問いを投げかけた。
「さて、士郎君。少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
その姿は、少女のような見た目とは裏腹に、確かに“神”としての威厳を宿している。
ヘスティアが俺に聞きたいことは、恐らく──俺自身のことだ。
そんな確信を抱きながら、俺はヘスティアの眼を見て頷く。
「ありがとう。──率直に問おう。君は……何者だい?君は、ボクとベル君を助けてくれた。悪い奴だなんて思ってない。でも、何か引っかかるんだ。だって君は──」
「神の恩恵を、受けていないだろう?」
そう告げるヘスティア。
その言葉は問いの形をしていながら、確信を帯びていた。
これはただの確認だ。だからこそ、
「ああ、そうだ。俺は神の恩恵を受けていない。」
目をそらさず、ヘスティアの言葉を肯定する。
その言葉を聞いたベルは、驚き、疑問を口に出す。
「士郎さんが、神の恩恵を受けていない……?でも士郎さんは……だって、魔法を……」
「そう、そこなんだよ、ベル君。彼は僕たちの恩恵を持っていないにも関わらず、魔法を使っている。本来、ヒューマンじゃあり得ないことだ。しかも、その魔法もひどく不安定ときた。だからこそ、神として問おう。士郎君、君は何者だい?」
その視線はまっすぐと俺を見据える。
「神々に嘘は通じない。」と、リューは言っていた。
ここで嘘を吐いても、即座にバレて不信感を募らせるだけだ。
それに、この二人に嘘を吐く必要もない。
疾うに彼らの事は信用している。だから、
「少し長くなる。……それでも、聞いてくれるか?」
「「もちろんさ(です)」」
おかしいな、予想ではすでにもっと進んでいるはずなのにまだ一巻の内容だと......
書いてたらいろいろと話が膨らんで長くなっちゃうことってあるよね。
次回、一章が終わります(予定)