ダンジョンに正義の味方がいるのは間違っているだろうか 作:ラブコメは正義マン
いつも読んでくださっている皆様方、本当にありがとうございます
ギルド
──翌日、朝。
豊穣の女主人。
「よし……こんなもんかな」
簡単に部屋を見渡し、掃除を終えた俺は、そのまま部屋を後にする。
この世界に来てから世話になっていたこの部屋とも、今日でお別れだ。
思えば、ここに転がり込んでから、まだ二週間ほどしか経っていない。
それでも、不思議と長く過ごしたような気がしていた。
ベルたちが帰ったあと、俺はミアに昨日の出来事を話した。
ヘスティア・ファミリアに入ること。
これからは冒険者としてやっていくつもりだということ。
それを聞いたミアの反応は、実にあっさりしたものだった。
「行く宛てが見つかったのかい。なら、とっとと出ていきな」
ぶっきらぼうで、突き放すような言葉。
けれど、不思議と冷たさは感じなかった。
短い付き合いではあるが──あれは、あの人なりの激励なのだと分かる。
二週間ほどの縁だが、それくらいのことは、さすがに察せるようになっていた。
「シロウさん」
店を出ようとしたところで、背後から呼び止められる。
「ミア母さんから聞きました。冒険者になるそうですね」
振り返ると、そこに立っていたのはリューだった。
この世界で、俺が最初に出会ったエルフの少女。
「ああ。やることができたんでな」
短くそう答えると、彼女は小さく目を細めた。
どうやら、わざわざ見送りに来てくれたらしい。
思い返せば、彼女には最初から助けられてばかりだ。
その感謝を、伝えておくべきだろう。
「ありがとう。リューには、何度も助けられた」
この世界のこと。
オラリオのこと。
右も左も分からなかった俺に、必要なことを一つずつ教えてくれた。
──この街で、最初に“居場所”をくれた一人。
俺の言葉に、リューは一瞬目を丸くした。
やがて意味を理解したのか、少しだけ顔を逸らして口を開く。
「……分かっているとは思いますが、冒険者とは危険な職業です。
ダンジョンでは、くれぐれもご注意を。
──それと…これを」
そう言って、リューは背後から包みを取り出した。
中に収められていたのは、白を基調とした袴だった。
「これは……?」
「極東と呼ばれる地から取り寄せたものです。
あなたの話を聞く限り、文化が似ているようでしたので。
ダンジョンへ潜るのならば、それを身に着けた方が良いでしょう」
手に取った袴からは、微かだが確かな力を感じる。
俺の世界で言うなら──魔術礼装。
そんな言葉が、自然と脳裏に浮かんだ。
「……ありがとう。
大事に使わせてもらう」
「感謝なら、私ではなく皆へ伝えてください」
そう前置きしてから、リューは静かに続ける。
「それは、この店の全員からの──貴方への贈り物です」
その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
短い滞在だったはずなのに、確かに俺はここで受け入れられていた。
「おーい!!待つニャ、赤髪ー!!」
少ししんみりとした空気を切り裂くように、底抜けに明るい声が響いた。
「お前がいなくなったら、ミャーが掃除サボれなくなるのニャ!
だから、絶対に死ぬニャ!!」
「アーニャ……」
いつもの調子で騒ぐアーニャを、リューがやんわりと諌める。
「シロウさんは、これからヘスティア・ファミリア所属になるのです。
ここに居続けるわけでは……」
そのやり取りを見て、思わず苦笑する。
この光景を目にする機会が減るのかと思うと、少しだけ胸が寂しくなった。
だから、俺はそう口にする。
「人手が足りない時は、いつでも呼んでくれ。
すぐに駆けつける」
その言葉に、リューは呆れたように目を細める。
──まだ働くつもりか。
そんな視線が、痛いほど伝わってきた。
だが、やがてその表情は和らぎ、少しだけはにかんだような笑顔を浮かべて、言った。
「はい。貴方ほどの
「じゃあ、行ってきます」
「「行ってらっしゃい(ニャ)」」
二人の声を背に受け、俺はその場を後にする。
振り返らず、ただ前を向いて──歩き出した。
向かう先は、俺の新たな
***
──同日、ヘスティア・ファミリア
「いらっしゃい士郎君!今日からここが君のファミリアだ!」
「士郎さん!いらっしゃいませ!」
豊穣の女主人を後にした士郎が辿り着いたのは、
街の外れにひっそりと佇む──ヘスティア・ファミリアの本拠地だった。
建物の正体は、打ち捨てられた廃教会。
年季の入った外観を前に、士郎は思わず視線を巡らせる。
(……まさか、神父なんて居ないだろうな)
士郎の脳裏をよぎったのは、聖杯戦争の監督役にして、やたらと麻婆豆腐を愛する神父の姿だった。
「さぁ、こっちですよ」
ベルに促されるまま、士郎は教会の中へと足を踏み入れる。
静まり返った礼拝堂を抜け、さらに奥へ。
そして、その地下へと案内された。
そこは、石造りの小さな空間だった。
簡素ではあるが、雨風はしのげる造りになっている。
どこか土蔵を思わせる閉じた空気に、士郎は内心ほっと息をついた。
「少し狭いけど、三人くらいなら平気さ! ただ、君の分のベッドとかがまだないんだけど……」
ヘスティアの言葉に、士郎は部屋を見渡す。
確かに、最低限の生活用品は揃っているが──“一人分”足りない。
だが、彼は特に気にした様子もなく肩をすくめた。
「ああ、それなら問題ない。──
短い詠唱とともに、空気が震えた。
何もなかった床の上に、次々と形を持った物が現れていく。
簡素なベッド、机、椅子。
どれも新品ではないが、確かな実用性を感じさせる“完成品”だった。
「……す、すごい……」
思わず漏れたベルの声が、静かな地下室に響く。
剣を生み出す魔法も衝撃的だったが、
こうして日用品までも創り出すその在り方は、
かの
その様子を横目に、ヘスティアは腕を組んで言う。
「君の魔法、便利すぎないかい? 剣だけならともかく、そんなものまで作れるなんて……」
その言葉に、士郎は苦笑して返した。
「そんなに万能なもんじゃないぞ? 作れるのは、俺が構造を理解してる物だけだ。それも全部──贋作だ」
「……士郎さんが作れない物なんてあるんですか?」
ベルの問いに、士郎は少しだけ間を置く。
「そうだな。──例えば、ソレとか」
士郎が指を指した先にあったのは、
ベルの腰に下げられたヘスティアナイフ。
ベルのためだけの武器。
その言葉を聞いて、ベルは無意識のうちに自分の腰元へと視線を落とした。
そこにあるのは、今も変わらず彼の傍に在り続けるナイフ。
(分かってはいたけど……とんでもないものを貰っちゃったな、僕)
ナイフを見つめるその瞳には、もっと強くなりたいという決意と、
それを託してくれた主神への、静かな感謝が宿っていた。
「っと、こんなもんでいいか」
そう言って、士郎は投影を終える。
改めて周囲を見渡せば、床には彼が生み出した生活用品が並び、
それだけでなく──壁に走っていた細かなヒビ割れまでもが、
いつの間にか修復されていた。
その様子を見たヘスティアは、
「......キミ、間違いなく神から引っ張りだこだよ」
と複雑な感情が入り交じった顔で言うのだった。
それからしばらくして。
身支度を整えたベルと士郎は、教会を後にする。
「士郎さん、一緒に行きましょう」
「ああ、案内は任せた」
士郎の冒険者登録。
そのために向かう先は、
迷宮都市オラリオの冒険者が集う場所──ギルド。
士郎のオラリオの冒険者としての物語が、動き始める──
***
──同日、昼
冒険者ギルド。
「はぁ~~~~……」
机に積み上げられた資料を整理しながら、深いため息を吐く。
片づけても片づけても、資料の山は一向に低くならない。
どうしてこれほどまでに冒険者は後を絶たないのだろうか。
毎日、命を賭してダンジョンへ潜る彼らの心情には、どうしても共感できなかった。
「すみませ~ん。冒険者登録をしたいんですけど……」
またも私たちの仕事を増やす存在が一人増えた。
正直なところ、対応に出向きたくはない。
しかし、それではさすがに職務放棄だ。
重たい足取りのまま、声のした方へと向かう。
「はーい、少々お待ちくださーい。……お待たせしまし……た…」
カウンターへ向かうと、そこにはつい最近見覚えのある顔があった。
昨日、モンスターが脱走したと聞き、勢いよく飛び出していった彼だ。
さっき、彼は何と言ったのか。冒険者登録?
──まさか、ないない。
浮かび上がった疑問を、私は即座に否定する。
だって、冒険者でもないのにモンスターを追いかける命知らずなんているわけ……
「あの~……冒険者登録を…」
──聞き間違いではなかった。
どうやら冒険者になりたいらしい。
……いや、恩恵そのものはオラリオ以外でも受けられる。
なら、都市外からやってきた腕の立つ人物なのかもしれない。
そうだ、きっとそうに違いない。
そう結論づけ、私は目の前で困った表情を浮かべる彼へと声をかけた。
「すみません。お待たせしました。
冒険者登録ですね。ここに氏名とファミリアの記入をお願いします」
冒険者登録は、驚くほど簡単なものだった。
オラリオでは、都市の内外を問わず、毎日のように冒険者が増えていく。
その一人ひとりに時間をかけてなどいられない。
──そして、増えるのと同じくらいの数が、日々姿を消していく。
だからこそ、冒険者登録において煩雑な書類は、あまり必要とされないのだった。
「これでいいか?」
言葉とともに差し出された書類に目を通す。
名前は……衛宮士郎。
──珍しい名前だ。極東の生まれだろうか。
その響きにわずかに興味を引かれつつ、私は視線を下へと滑らせた。
だがそこには、名前の珍しさなど一瞬で意識の外へ追いやる情報が記されていた。
「……ヘスティアファミリア?」
「ああ、確かにヘスティアファミリアだが、どうかしたのか?」
そのファミリアの名前を聞いて、思い出すのはギルドで共に働く同僚(エイナ)。
それと、同僚の担当冒険者であるベルクラネル。
彼もヘスティアファミリアに所属していたはずだ。
──しかし、問題が一つ。
そのファミリアの団員は、彼一人だけだったはずだ。
そこまで考えた瞬間、嫌な予感が脳裏に浮かんだ。
それを確認すべく、口を開く。
「失礼ですが、恩恵を受けたのはいつ頃ですか?」
「恩恵?昨日もらったばかりだよ」
嫌な予感は、あっさりと的中してしまった。
彼は昨日、初めて恩恵を受けたばかりらしい。
いや、待てよ。
昨日ということは、つまり……。
──もう嫌だ。続きを聞きたくない。
そう思う心とは裏腹に、口は勝手に動いていた。
「昨日……具体的には……?」
「昨日の夜だな。ヘスティアとは、昨日出会ったばっかりだ」
ぴしり、と時が止まったような気がした。
恩恵を受けたのは、昨日の夜。
──つまり、あの時彼はまだ恩恵を受けていなかったわけで。
──それを、みすみす彼に伝える原因を作ったのは?
そこまで考えたところで、思考がぷつりと途切れる。
「ばっ」
「ば?」
「バカですかあなたはぁぁぁぁぁぁ!!!」
そうして、ギルド全体に響き渡る声で、私──ミィシャ・フロットは思わず絶叫していた。
リューが渡した袴のデザインはFGOの千子村正第三再臨のものを想像してください
次回、サポーターなあの子が出てきます。お楽しみに