魔力とはこの世に生を受けた者であれば普遍的に持つものであると同時に流動的な物であり、生きていくうえで必要不可欠ではあるが日々消費もしてしまうもの。また、魔力を溜めすぎでも身体にとっては酸素を過剰に蓄えるようなものであり、時には有害になってしまうこともある。そのため適度に体外に放出する必要があるのだが、その方法として一般的とされるのは魔法を行使することであった。
そして歴史上魔法を行使することは人のみならず。獣や他種族でも本能的に魔法を用いることが出来ており、誰しもが齎される恩恵を祖先から受け継いでいたのだ。その歴史の積み重ねを十全に使うべく彼らが進化を続けて行くのも当たり前のことであった。
その点人類はある程度他種族よりかは魔法への知識を蓄えており、日々魔法への研鑽を怠っていなかったが人体の中で魔力受体器が足りないのか他種族に比べて魔力量が少ないという欠点があっある。しかし、人は歩みを止めないもので魔力を体外へ放出することだけことは出来たとしても十全に扱えておらず、多く取りこぼしが生まれていたというのは魔法を習うものであるならば周知の事実であった。また、多くの賢者たちがその時代の支配者に命じられることや探求心などにより魔力を余すことなく使用するための度重なる実験や研究、口には出せないような非道な行いなどにも手を染めるも結局は物体に魔力を込める程度が限界でありそれらは身を結ぶことはなかった。しかし、ある時にとある大陸からたまたま流れ着いたとされるそれがまさしく世界を変えたのだ。その名は”遺物”かつて栄華を誇った文明の産物であり失われた時代の名残ともいわれるものであった。
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”グレイランド”
他大陸にて命題ともされる魔力効率に生きるものが頭を悩ませている中、この大陸に住まう者たちはそんなことより誰がこの大陸を支配するかの方が重要事項でもあった。
はるか昔よりこの大陸においては遺物がまれに産出されており、起動にも多く魔力を必要とするが起動することに成功できたとしたら国さえも興せるといわれるほど魔力伝導率は類を見ないほどであり、現状最大限効率的に魔力を使う方法は遺物ぐらいあった。また遺物があるためか生物にとって必要不可欠ともなっている魔力も多く大陸周辺を漂っており、影響は海域や空域にも及ぶ。そのためか、大陸を取り巻く海流は複雑怪奇な波を引き起こしており、他国家がこの大陸を訪れようとしても海域で藻屑になるか、激しい突風などで空域も突破することもままならないほど閉鎖的なものであった。閉鎖された大陸内では多種族が自身が住みやすい環境を広がるために血みどろの争いを続けながら生存競争を飽きずに続けており、他大陸より”乾かぬ大陸”とも言われるほどである。
現にとある他大陸覇権国家が先遣隊を船で送り出し、座礁はしたものの一部は大陸に上陸することは叶った。その後どうにか大陸中央部には”世界樹”があることまでは情報を共有したがその直後、潜んでいた魚人種に刈り取られてしまったようだ。不幸なのは先住民に刈られた先遣隊もそうだが、その報告を聞いていた王達は唐突な断末魔を謁見場で聞くことになり肝を冷やしたというのは有名な話でもあった。
これまでにも”グレイランド”では有翼種、魚人種、蜥蜴種、悪魔種など多くの種族が覇権を握っては奪われるを繰り返しており、最早全ての種が滅亡するまでこの戦いは続くものと思われていた。
しかし、ある時に運命の歯車が動いた。かつて魔力障害が生じる前に安寧を求めて大陸に移住してきたのは良いが、他種族の強大な身体能力や扱う魔法により森林の奥深くまで追いやられていた人類だったが、とある種族と平和を希求するために同調を深め合うことに成功したのだ。その後彼らは他種族にはない種族ならではの繫殖力、遺物への適応力、魔法への深い造詣などを発揮し、破竹の勢いで他種族を蹴散らしあっという間に大陸に覇を唱えたのであった。その種族は森人と言われており、木々を愛し、自然の代弁者と言わしめる温厚な種族と知られており、一般的にはエルフと言われていた。そして彼らはその勢いで融和を深めた上で連合国家を形成し、蔓延る他種族を駆逐し残る種族は人類とエルフのみとなっていたのだ。
そこでようやく平和を享受できると信じていたはずの両種族であったが、いつからか彼らの心中には不信感が芽生え始めていたのだ。それはまるで小さな疑いが大きな疑心と化し芽から木が育つように時間をかけて不仲は育っていった。
最初は自然と調和しているはずのエルフが森でけがをした。それだけなら未熟な者の笑い話にもなるが、次に人類の村民が森近くで病にかかったとなると徐々に話は変わっていった。森林で住まうエルフが病にかからず人だけにかかる病の究明のため人類国家が森での調査行為を依頼するとエルフ達にすげなく断られる。ここでどちらかが折れればまだよかったのだが、自然を守ることが祖先たちから受け継いできた”世界樹”を守ることにつながると種族全体に使命づけられていたエルフ達と、いくら覇権を取ったとは言え、エルフとはあくまでも共存とした対象であるため事態究明に動かなければそれだけで人類は数を減らしていき国が崩れる要因となる人類国家。
そのためいつしか、彼らは互いを敵視することになり世界樹から齎される魔力を用いて森林にてゲリラを仕掛けるエルフ達、反撃を受けながらも病原菌の産地であろう森を焼き払うことでそれに乗じて彼らの活動圏を減らし始めた人類、さらにいつしか生まれ始めていた魔物どもというように
大陸には新たな戦争の火種が育ってしまい、気づいた時には全土に燃え広がってしまっていた。
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世界樹は大陸の中心で天まで届くほど高くそびえ立ち、この大陸で誰もその頂上には辿り着いたものはいないとされているほどであった。また、一般のエルフですら侵入を許されることはない聖域として長命種である彼らの幼き頃から厳しく言い伝えられており、それを破った者は種族追放処分など重い処分が下されるほどであった。
そんな聖域の地下奥深くにおいてある女が熱せられた空間に閉じこもっていた。女は苦し気ながらもその場を動こうとせず、あろうことか自らの意思でそこに長時間居座っていたのだ。そして、荒く息を吐きながら世界樹の葉という人類からしたら生涯お目にかかるかどうかと言われているものを葉っぱの束にした物体を体に打ち付けわずかにリラックスした表情を見せる。それがどれだけ罪深いのかはエルフにとっても神聖なる世界樹から齎された物は奉るべきものと認識しており祝い事の時だけ拝むことができるもの。また、ごく一部のエルフ達のみで形成される管理者たちにしか所持を許されないものとされる貴重な品をヴィヒタ*1にするだけでなくふんだんに用いて服を編んだ。終いにはあろうことか身に纏っていたのあった。
その異常事態は長命種たる彼らにとっても後輩を揶揄うネタともなっており、時折世代交代ということで世界樹を守護する崇高な使命を胸に抱き、初めて世界樹に入ったらエルフたちから薄着と思われる葉っぱスタイルのうろつく女があろうことか世界樹の葉を身にまとっているという異常を発見する。そこで不審者を取り押さえようとして逆に返り討ちにあうまでが後輩への厳しい洗礼として一般化しており、同時に彼女に決して手を出してはいけないことをとりわけ高くなったその選民思想の伸びた鼻をへし折るために有効活用されていた。
そんな不審者たる彼女はその後ヴィヒタを壁にかけ降ろしたのちに、汗だくになった世界樹の葉サウナハットを片手に持ちながら扉を開く。すぐさま、外で待機していた世話係がそのサウナハットを恭しく両手を掲げて頭の上で受け取りる。これは世話係が世話係として就任した時から変わらぬやり取りであり、世話係も誇らしげにサウナハットの汗を生み出した魔法での水で洗い流す。そして彼女は当たり前のようにそのままの格好で剝き出しになった世界樹の根っこを足取りもふらつくことなく踏みしめながら歩みを進めていき、その目と鼻の先には世話係にお願いをしておいた触れば冷たさを感じながらも我慢できるほどの適温に汲み分けた世界樹の泉にたどり着く。そこで彼女はすぐさま飛び込むのではなく、泉へ屈みながら丁寧に置いてあった器を泉に沈めるとそのまま自身の身体に振りかけ始める。世話係が思わず自身の身体に降りかかるのを想像して身をすくめるも彼女は何ともないように汗を流した後泉に身を沈めた。
彼女の鍛えられた肌にはかつて多くの戦線を切り抜けてきたその勲章とも言える傷跡が残されており、魔力で強化された世話係の視力でも伺うことができた。そんな傷跡だけでなく、鋼のように鍛えながらも脂肪の塊である2つのオモチが浮かんでいるのを見てはいけないと思いつつも指の隙間から見ているといつの間にか彼女の全身に無数の泡が付着し始めたではないか。
初めて世話係がそれを見たときには泉の中で水魔法が発生するかと早とちりして彼女を救出すべく着の身着のまま飛び込み、冷たさのあまり動けなくなったのを笑いながら引き上げられた恥ずかしい記憶を教えられた羽衣*2という現象のことを同時に思い出していた。そんな彼女ではあるが数十分あまり、泉に浸かっていたかと思えば息を吐出しながらしぶきを上げながら立ち上がり、今度は行く先を洞の外へ歩みを進めていく。その後ろを甲斐甲斐しくも世話係は付いていき、こぼれた水滴を風魔法を用いて水分を飛ばしていく。
それすらも当たり前のように彼女は声もかけず、ただ目の前の背もたれがついた寝そべることが出来る自作された世界樹の椅子に腰かける。そしてゆっくりと息を吐きながら目を閉じたではないか。一見すると快適な様子ではあるが、以前世話係は感想を聞いた時に「自身の血脈が絶え間なく鼓動を打ち、目を閉じると生じる瞬く閃光に焼かれながら歪む視界に身を任せる」*3などと聞いた。その常人の精神すら崩壊しそうな過酷な環境に身を置きなが心身を鍛えるだけでなく、あまつさえその一連の行動を複数回繰り返す必要があると聞いてからは再び目を開き木の洞を出るまで常に心配そうに見守っていたのだ。
その後数時間にも及ぶ、過酷な修行は続いた。ある時には魔力を込めるとエルフがとりわけ熱を苦手としているのもそうだが近づくだけで身も焦がすような熱を帯びる遺物に中から泉の水を守護者が振りかけて灼熱魔法とも言える苦行を耐える訓練を発生させる*4だけでは飽き足らず、さらに生じた熱を風魔法を得意とする世話係が扉の外から中に魔法を送り込み、その風は螺旋状に渦巻きながら対象へと容赦なくぶつかっていく。戦場で風魔法に長けた者が用いれば容易く鎧をも切断できるまでと言われているが、守護者は無抵抗に浴び続けて熱だけでなく魔法にも耐える修行を続けていたのだ。*5
そしてようやくひと段落ついた後は、世話係は世界樹の近くで防衛中の陣へ向かい、食事の準備を行うためにエルフ達が運営している陣の厨房へと足を運ぶ。その最中、兵士として陣に滞在する周りのエルフ達からは世話係という名誉ある役職をこなし、常に彼女に付き従っていることを尊敬する眼差しを多く浴びていた。
そもそも一見すると世界樹の葉を身にまとったり、兵士から尊敬を集めていたりと不審者極まりない人物ではあったが、世界樹を守護する戦力としてあまりあるものを持っており、かつては大陸において種族戦争が行った際にはほぼ最前線で絶え間なく暴れまわっていたとされていた。そんな彼女のことをエルフ達は敬意を込めて守護者と呼んでおり、約1000年前にエルフ達の祖先に肩入れした初めての人間ということで、人間であるが侮蔑の対象からは逃れていたのだ。
世話係はそんな視線に応えるのすら煩わしいように出来上がったものを守護者へ一刻も早く提供すべく来た道を早足で戻っていく。その最中も考えるのは過酷な修行をこなす数時間前も先陣を切って人の軍勢を撃退しただけでなく、押し寄せてくる魔物の群れの中心で暴れていた彼女の姿ばかりだったのだ。その後攻勢が一時的に休まりようやく休息できそうかと思えばすぐさままた戦場へと駆り出される自身が幼き頃から付き従ってきた守護者の姿。そんな守護者をサポートすべく、エルフは1000年ほど前から先祖代々から世話係を作り、今代で入れ替わってから120年は経つが7代目の世話係となる。
しかし、それでも守護者は世話係と比べて年下であるのだ。話がおかしいかもしれないが、守護者の寿命は長命種たる彼女たちと同様ではなく、平均的な人間の寿命と同じであった。そして普通の人間とは違うのはその畏れを抱かれるまでの戦闘力だけなのだ。
ではどうやってその寿命問題を解決したかと言えば、話は簡単であり魔法材料を用いた飲食物を摂取することで限りなく身体機能を低下させることで彼女は必要な時以外は眠りに就いていたのだ。よって、前回目覚めたときは120年前の魔物によるスタンビートによって世界樹が侵攻されそうになった折にエルフ達だけでは対処できないと判断されて、管理者の命令の下世話係が眠っていた彼女を起こして殲滅してもらった経緯がある。その後いつもと同じように修行をした後はすぐ眠りへと就いた。無論、守護者はこれらの非道的扱いに対しても不平不満を一切エルフに伝えることなく、今まで職務に従事していた。それらの鍛え上げられた鋼のような肉体と絶対に意思を曲げない志の強さから他エルフ達だけでなく、敵対する人間国家からも直接的な戦闘行為を避けるようにと伝達されているのを守護者は知らない。目覚めたときには知っている人間はほとんどおらず、エルフ達も遠巻きに見つめるだけなのだから。すぐそばにいるのはいつも世話係として付き従う彼女のみであった。
今ならよく先代達の苦しみが分かる。彼女は守護者が食事を取った後、安らかに眠りにつくのを見届けると一度自室へ戻り苦悩のため息を今までにないほど長く吐いた。これが相手がただの人間であるならば、侮蔑の視線でも向けて命令を聞かせればいいだろう、仮にエルフだったとしても世界樹を守る使命の下であれば、血反吐を吐こうとも全うしようとするだろう。
しかしながら守護者は自身にとっては因縁深い相手であり、自身が幼き頃から次代の世話係として育成を修了した後に初めてお会いした守護者はこちらにふいと目をやると話も早々に灼熱の修行に戻ってしまった。そこから先は目に見える彼女は常に誰かのために傷付きながら戦っていた。敵陣に囲まれようとも、魔法の雨嵐が吹き荒れ生存すら危ういようなそんな状況の中でも弱音は聞こえなかった。さらに戦闘行為が終わってもさらに自身を痛めつけるような過酷な修行に身を置いており、そんな憧れとも言える英雄を自分たちの良いように利用しているという罪悪感がただひたすらに自身の心中を刃となって突き刺すのだ。
だから、長命種たるエルフにおいても世話係の入れ替わりは早く、先代も先々代も任命直後は喜び勇んで世話係を全うすると言っていたのにも関わらず、最終的には泣きながら戦場へと出ようとする守護者の身体を引き留めるのだ。酷い時には眠っている守護者ごと大陸外へ脱出しようとした者もいたようだが、あえなく捕まったと聞いている。それからどうなったかは知らないが、私以外の世話係は姿を消した。それが答えなのだろう。だから、私は心を無にしてどうにか今までやり過ごしてきたのだ。だが、それもそろそろ限界が近づいてきている。
今回の戦場はとりわけひどく、相手はついに遺物まで持ち込んで来てこちらの防衛陣を突破しようとするだけでなく、魔物の群れまで多方向から押し寄せてきていたのだ。今まで、このような事例は今までになく、エルフ達は当初過激派の攻撃により相手軍勢に対して歩みを抑えることができたが、彼らが討ち取られるとその後は転がるように劣勢になった。どうにか残存兵力で善戦するもどんどん世界樹まで押し込められている。他の森から救援も来てはいたがこのままでは持ちこたえられず陥落してしまうのかと決死の覚悟で玉砕しようとした兵士もいた中で、誰が起こしたのか守護者が目覚めたのだ。誰が、いつの間になどと悩む暇もなく、彼女は戦場へと躍り出た。
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彼女が指揮する陣の先の方では辺りは歩兵隊 騎馬隊 弓兵隊 魔法隊 遺物隊とそうそうたる軍勢が構えており、指揮官は距離が離れていてもそれでも遠近感覚をつかみきれない世界樹を前にして緊張と高揚を感じていた。かつてここまで世界樹に近づいたのは統合戦争以来であり、彼女の何代も前の曾祖父が先陣を切って森奥深くまで浸透した時ぐらいであろう。それほどまで長く、人類にとって遠い一歩であったがようやく宿願が果たされる時がきたのだ。かつてからエルフ達が散布したと思われる病原菌を除去するためには使い手だけでなく、その媒介させると思われる森林を焼き払うことは合理的思考でもあり、大陸の外から来た魔導士の助言もありようやく遺物を起動させてここまで攻め進んだのであった。
そして、ようやく今まで手こずらされてきたエルフ達を追い詰める時が来たと兵士共も今まで受けてきた屈辱や怒りをぶつけようと武器を地に付けては離したりとせわしなく続けているようだ。無理もないだろう私でさえそうなのだからと、陣の兵士たちからよく見えるところに護衛と副官を連れて風魔法での音声拡散でさらに檄を飛ばす。
「諸君!!今や奴らとの融和は崩れ去り、敵は卑怯にも森へ隠れ潜むだけでなく我らから守るべき民草を傷付けようと毒を持ち出したのだ!!」
「諸君!!なぜこのような非道を許して置けようか!!!正義の刃たる君たちであればそのような行いは看過できないはずだ!!!そんな奴らに平和の礎でもある世界樹を渡しておいて良いだろうか!!」
徐々に私の演技にも熱が入り、身振り手振りを大げさに振り、兵士たちに一瞬背中を見せた際に駄目押しとばかりに副官にアイコンタクトを行い、手筈通り火炎魔法を用いるように命令する。その直後轟音を立てながら遺物から灼熱の塊が森へ向けて発射された。
その直後から辺りは燃え広がっていき、わが軍勢の行き先を阻むことないようにはるか遠方の方からエルフ達がこちらへ逃げてくるように逃げ場を閉ざしていった。
「見よ!!!これが我々人類に許された灼熱の砲だ!!!罪深き者どもへ自らの罪業を知らしめる遺物でもある!!!これは我々の勝利を約束される祝砲でもあるのだ!!!」
傍から聞いていれば正義だとか祝砲だとか何を言っているのかと思うのだが、そんな理論的な物はこの場にはいらない。ただ私は彼らの高揚という導火線に火をつけるのが仕事だ。そのようにして拵えられた遺物による攻勢は続けざまに繰り返され、相手の戦陣に大きな損害を与えただろう。
それを確信したであろう兵士たちは歓声を上げて今か今かと獲物どもが森から逃げ出してくるのかも待ち構えている。世界樹にあると言われる遺物の山や神聖なる泉、万物を癒すとされる世界樹の葉など情報提供者から多く獲物があることは聞いており、王国も何か一つでも持ち帰るように勅令があったのだ。そのためかいつもよりも多くの武官を引き連れており、万が一も許されないだろう。
さぁ、最初のエルフは誰だ?高名な奴がいれば捕まえればついでに金になるかもしれない。そうして皮算用をしているとついに一つの人影が急いでこちらに駆けてくるではないか、しかも水遊びでもしていたのかやたらと薄着であり、葉のような衣服に身を包んで武器すら持っていないではないかと思わず同情すら覚えるほどの浅ましい姿ではあった。徐々に陣に近づいてくるそれを鼻で笑いながら、副官が魔法部隊に召喚獣を先行させるよう指示を出そうとしていたのを止める。そして著名なエルフではないこともすぐさま見えたため、魔力の無駄にならないように護衛の弓兵に命じて狙撃させることにした。
すぐさま引き絞られた弦は矢を弾き、鎧ですら貫通するような速さと衝撃を持って奴の頭に直撃したと同時に、横にいた弓兵が倒れ伏したではないか。見ると弓兵の腕から夥しいほどの血が流れだしており、苦痛と衝撃のあまり気を失っているようだ。すぐさま副官と共に伏せたが、それに間に合わなかった護衛の何人かは同じ末路をだどることになった。狙撃を警戒して、エルフどもが近寄れない様にしていたが、どこかに漏れがあったのかと頭中の地図を展開するもそのポイントには兵士たちがいるのが見えており、こちらの惨状にはまだ気がついていないようだ。ならどこから攻撃を受けたのかと思考を回転させ考えていると、副官が震える声でとある存在を導き出したのだ。
「・・・不味い。あれは・・・まさか・・・守護者なのか・・・!?」
そう言われた途端に思い浮かぶエルフどもの中で最も注意するよう言われていた人類の裏切り者、長年にわたり数で勝りながらも世界樹まで浸透できなかった要因の一つとも言われていたもの。鍛えられた肉体は魔法を弾き、世界樹の加護なのか不死ともいえる化け物。すぐさま応戦するようどうにか声を振り絞って叫ぶと、奴は振りかぶった姿勢のまま何も思わぬ表情でこちらを見やるとすぐさま近くにいた歩兵から手にかけるべく我が陣の中に飛び込んだのだ。奮う拳から衝撃と共に紙くずのように兵士が吹き飛んでいく。馬は本能的恐怖で嘶き、馬上に乗せていた重りを跳ね除け逃げようとし、兵士たちは踏み潰されていく。魔法部隊は召喚獣を召喚させて自身の盾とするもあっという間に背後に周りこまれ術者から始末されて、終いには弓兵は同士討ちをはじめ、遺物も召喚獣の火炎魔法により誘爆しあっという間に陣は瓦解を始めたのだ。そして、逃げようとしていた副官も飛んできた遺物の破片により致命傷を受けて倒れ伏している。素人目に見てももう助かりはしないだろう。そして、ようやく私はここが自身の死に場所だと認識した時点でさらに誘爆した遺物によって意識を失ったのであった。
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その後、戦場はひどい有様であった。エルフも人類も攻撃に積極的になっていた高官や武官は多く亡くなり、あまつさえ魔物どもの襲撃も両方の陣営に重なったため互いに得るものもなく、失うばかりで幕を閉じた。これだけ傷つけば最早数十年では戦陣は開かれないだろうと、世話係として戦場に出たこともない私でも直感的に分かった。そして、それを内心守護者が戦争に参加させられなくてすむものとも一瞬考えてしまい、頭を振って邪念を取り払う。いけない、守護者のように職務に従事することだけを考えないと。そう無心になることを心掛けて、管理者たちに彼女が再び眠りについたことをするために兵士ですら入ることのできない、議会場に足を踏み入れた。
そこにいるのは姿や声なども隠蔽魔法により認識することは出来ず、1000年前からいるとされる5人のエルフ達。それぞれが私の報告に対して事細かに守護者の様子や言動を聞いてきたが、特に過酷な修行をしている様子を聞くとそれぞれが違った反応で悲嘆に暮れているのは見受けられたが、それを守護者に行わせている人物達が行っていると考えるとそれらも演技のように思えて他ならない。そんな管理者たちの報告を済ませたのちにようやく出て行こうと背を向けると、管理者たちの一人が深刻な様子で最後に問いかけてきたのだ。
「守護者は何回目の修行かしら」
そこは聞かれた通りに、答えると管理者たちはさらに悲し気な仕草でこちらへ「心を強く持ちなさい」とまさか励ましの言葉をかけてきた。今までそんなことなかったのに珍しいものだと思いながら、ようやく訪れた安寧を携えて守護者の元に戻ってきたのであった。そしていつものように守護者が眠っているのを見届けようと近づいた時に心臓が止まりそうになった。彼女が薄らと目を開けているではないか。あれだけの激しい戦闘の後にさらに過酷な修行を終えたのにどうして起きているのかあまりにも動揺して、息を吞む音が静寂であった周囲に響く。そうするとさらに彼女は顔をしかめてむっくりと起き上がったではないか。今まであのような表情は見たことがない、一体全体何が起こっているのか。かつてないほどの異常事態に頭が混乱して私は口をパクパクと開口させて何かを口走ろうとしているが言葉にならない。そして守護者から不満げに告げられたその言葉は私の辛うじて無事だった心中をズタズタに引き裂いたのだ。
「もう起こさないでくれ」
守護者「(整ったんだから)もう(次のセットまで)起こさないでくれ」