「あっ……この海流、激しいッ!!! ボボボボボボ!! ボハァッ!! ブォーッ! ボホッ! ボホッ!」
かつてはこの乾かぬ大地には有翼種、魚人種、蜥蜴種、悪魔種が蠢くどころか草木の一本も生えておらずエルフや人類など誰もいないような緑も育たぬ荒れ果てた地であったのだ。魔力溜まりとなった大陸の周辺では時に激しい熱風が吹き荒れて地表を激しく削り飛ばし、またある時にはまるで魔力を帯びた雨は激しい痛みを伴い全てを押し流そうとしていく。そこに生まれる命どころか遺物でさえすべて平等にこの乾いた地で消えていく。それは今までと変わることなく、これからも同じ顛末を辿るはずであったのだ。
そしていつものようにたまたま風流に乗った種が大陸に落ちてきて、偶然にも巨大な遺物の隙間に入り込んだことで酸性雨とも言える雨の被害に遭わずに芽を開くことには成功したのだ。だが、それ以上の偶然は起こりえない。ここでは日は射すことはなく、溜まった雨溜まりにより根は今にも腐り落ちそうになる始末。この小さな芽もこれ以上成長することなく、大地の乾いた染みとなって消えていくのだろう。
だが、そこに奇妙な必然が訪れたのだ。その存在は”サウナ”ができる環境がないかを大陸中を練り歩く生命体がいたのだ。無論、こんな環境に資源も場所もあるはずがない。だが、その存在は諦めることはせず、挙句の果てには妥協を重ねて自然派サウナという境地に到達しようとしていたのだ。そんな彼女はようやく見つけた安全そうな水溜まりを見つけて歓喜すると同時に近くで鎮座している遺物に目を向けた。その遺物は座り込みような形をした人形のようなものであったが、人が数十人肩車したところでそれだけでは傾いた肩部分に手をかけることもままならないほど高く位置にあり、後世の賢者がいればそれを自立機動性魔導人形と名付けていただろう。だが、そんな彼女は物珍しさ的に遺物を見やっていたが、そんなことよりも遥かに重要なことがあったのだ。
それは、その遺物の下に潜り込むような本当に小さな芽、しかしそれは彼女がこの大陸中探しても見つかることはほぼなかった熱望していた緑の色であり、あわよくば芽が成長すればサウナ作りに使うことができるのではないかとしばらく小躍りをして偉大な発見に五体投地をして舐めまわすようにその芽をねめつける。彼女は精神的にも今までサウナに入ることが出来ず本当に疲れていたのであった。
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そう、それがこの大陸の本当の始まり。この時から小さな芽は守護者という気狂いを得て、外敵は彼女が払い、用意される比較的ましな環境で成長を続けていくことになる。時には雨風を守護者が岩を運んできて、防壁にする。またある時は水気が溜まりすぎないように簡単な水路を作るべく手ずから地を掘り進み、水はけも良くしたり、いつの間にか大陸の中でもある程度マシな環境に便乗するかのようにぽつぽつと緑が増えつつあったが、最初の芽が育つのに邪魔と判断したら間引いたりと彼女なりに精一杯やっていた。そんな彼女に報いるかのように少しずつではあるが、徐々に成長を続けていく芽は出会った時から早100年ほどで遺物を緑色に染め上げるまでとなり、ついには巨大な遺物を取り込むまでに成長を続けていくほどになったのだ。
その間にも、守護者は甲斐甲斐しく世話を続けていたが、彼女は外でいつの間にか生まれ育っていた種族や運よく入植してきた人類などには目も向けることはない。そんなストイックなまでに目的を遂行するために日々大樹を愛でているといつしか協力者が育っていた。それは自然と調和することに長けており、知らぬ間に生まれていたエルフという種族たち。彼らは一様に大陸において桁外れの魔力を秘めており、自然の申し子ともいわんばかりの大樹に畏れと敬愛を込めて周りを囲んで崇めていた。そんな彼らを大樹の頂上で見やりながら、育成者としてそろそろ楽をしたかった守護者は隠しせず裸体のまま彼らの前に姿を表して声を掛ける。
当初は唐突な不審者に対して困惑や最近見かけた人間という種族であることを看破されたときは危うく魔法の的となるところであったが、大きな地響きと共にその瞬間、大きく大樹が揺れた。ざわざわと枝葉は揺れざわめき、まばらに落ちてくる枝はエルフの頭大ほどあり、どうにか皆後方へと下がり天からの落し物を躱していく。その様を目撃してしまったエルフ達は大樹の怒りを買ったとばかりに不審者などお構いなく大樹へ向けて祈りを捧げ始めたではないか。
その現象は魔法を使用することに長けた彼らが外敵を排除しようと一斉に魔力を展開させたことで取り込まれていた遺物がわずかに反応しただけであり、守護者はまた動いてるよと意外にも繊細な遺物に呆れを隠せないでいる。だが、そんな彼女の呆れ顔はエルフ達には映らない。今は目の前にある存在に祈りを捧げることの方が重要事項であり、それと同時に恐慌に陥ることもなくあるがままに大樹を見やる不審者のことを防人と認識を改めたのであった。
そこから大樹は育つにつれて、戦乱の勢いは激しさを増していく。それまで守護者は一切戦闘行為に加担することはなく、ひたすらに大樹の中に潜り込んで何かを作っている。エルフ達も”世界樹”と名付けた尊き存在を守護しながら世界樹を切り開くような行為に多少なりとも不満を覚えることはあったが、実際に口にする者はいなかった。なぜなら、本当にエルフ達が戦線を押されて世界樹の根本付近まで有翼種の軍勢が攻めてきた際に、彼女は何のこともないように成人したエルフほどある世界樹の落ちた枝を槍のように振りかぶって次々と串刺しにしていったからだ。その手腕から打ち出される木槍は相手軍勢の恐慌を招き、それを隙としてみたエルフが風魔法を用いて相手軍勢を地に叩きつけることで有翼種の軍勢はあっという間に崩壊した。そのような経緯もあれば、守護者は本当に窮地の時に力を貸してくださる世界樹の申し子と彼らには映っており、彼女に対しても世界樹と同様の敬意を抱くにあたったのであった。
だが、そんな彼女の評判は戦乱と同じように激しく乱高下を続けていくことになる。彼女が普段から世界樹の葉しか身にまとわずにあろうエルフの陣中を練り歩くだけでなく、贈り物と言って満足気にエルフに世界樹の葉を渡すために声をかけるなど。奇妙な行動もそうだが、あろうことかいつの間にかに世界樹の洞に”サウナ”なるものを作り勝手に修練場にしていたのは長命種たる彼らの中でも多く目を剥いた。すぐさま物申そうとした時には押し寄せてきていた外敵を怪我無く排除する様を見届けていた彼らは彼女への印象を固定させることができずにいた。
多くのエルフ達は守護者の助言もあり、最近協力関係となった人間と彼女を比べてしまっていたというのも要因であった。人間は彼女のように早く動けないし、木々を愛することもせずに木を削り出して家屋を作る。そんな人間達を彼女の出来損ないとして侮蔑した態度をあからさまに出すことはしないものの守護者の顔を立ててどうにか戦陣を共にしていたし、人間もいつの間にかエルフ達に潜り込んでいた同胞はなぜか大いにエルフ達からの信頼を勝ち取ってはいるが、こちらにそれを還元することも口出しすることもしないでおり、こちらを裏切った者と認識をされてはいたがそのあまりある身体能力はエルフ達からの魔法を用いられた実験体か何かなのかと推測される始末であった。
しかしながら、そんなあやふやな守護者との境界線を決定的に定める事態が発生したのだ。それは人がエルフ達が病を振りまいたとして、こちらに牙を剝いてきたことであった。そこから一度は平和を勝ち取るために協力しあった種族たちは、最終的にな大陸の覇者を決めることになりそこからは世界樹の守護者でもあるが人間であるという変えられぬ事実は楔のようにエルフ達の心中に打ち込まれ、心から信頼していたのはもはや代々続いていた守護者の世話係ぐらいであった。
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そんな彼女は生気を失ったような表情で、戦闘行為の処理をすべく警備が少なくなった世界樹をの中を歩いていた。それは、いつも守護者が警備(露出徘徊)をする道のりであったが、前方に守護者はいない。彼女から先程告げられた言葉は想像以上に世話係に残響していたのだ。一歩踏み出すだけで頭の中で繰り返される「もう起こさないでくれ」という彼女の言葉。それは彼女の嘆願なのか、呪詛なのか、もはやいつものように考えを纏めることすらままならない。
いつからだろうか、エルフ達は守護者を戦力として狩りだすことに抵抗がなくなっていたのは。
世界樹の危機というよりかはエルフ達では手こずりそうな戦闘で眠る彼女を叩き起こしては再び過酷な修行を終えたのを見届けるのを繰り返していたのは。
対人間に対して効率的に対処できるからと言って、過激派でもあるエルフ達から戦陣参戦の要望が起こり始めていたのは。
そのどれもが、守護者にとって何一つメリットはなく、いつしか彼女をエルフ達の便利な殺戮の人形のように扱っていたという事実は彼女の今まで見たことない不満気な表情を見れば彼女が内心どれだけエルフ達に対して怒りを覚えていたのかを物語っていた。
幽鬼のように彼女に付き従って歩いていたルートはいつしかとある扉を前にして歩みを止めたのだ。そこは”管理者”達が集う議会場、そこは世話係なぞ許可がない限り入ることはできないが、特例においては許されていた。その特例とは、世話係がこれ以上業務の継続が難しいと判断された場合であった。
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何十人と収容することはできるはずの広々とした空間には変わらず5人の管理者たるエルフ達が座っていた。だが、いつもとは違うのは、彼女達に見覚えがある。顔も隠しておらず、どのエルフも美麗な表情を一様に悲嘆に暮れさせる表情は見覚えもあった。そう、それは今の自身と同じように深い後悔を隠さずに今でも全身を焼き尽くされるような苦しみ続けている彼女たちは紛れもなく先代、先々代などの歴任の世話係だったのだ。
同じような酷い顔をした入室者に気が付いた管理者の一人が席に掛けるよう7代目世話係に促し、彼女は驚きにしばし固まっていたがまるで人形のようにぎこちなく椅子に座った。無理もないだろう、歴代の世話係は始めてこちら側に来てから始めて我々の顔を拝むのだ。そしてそれが歴代の世話係であることは、もはや最初期のエルフにしか知られておらず彼女達も我々の同志であった。用意された世界樹の葉を煮出した紅茶を彼女の前に用意して、恐る恐ると彼女はそれを口に含む。だが、彼女はそれを初めて飲むわけではないようであり、それもそうだろう。歴代の世話係はあの守護者から世界樹の葉をいくらでももらえたり、食事を共にしたりとそれこそ親兄弟よりも近い位置で常に側にいるのだ。未経験ということはないはずだ。
だが、それが守護者を思い起こさせる呼び水となったのか、世話係はうつむいたまま紅茶の入った器をゆっくりと机に降ろしてから、握りしめた拳からは血が出るほど強く握りしめ、感情を伴った熱い雫は次々と机に零れ落ちた。
「どうしてとか、なんでとかはどうでもいいんです。ただ、私は彼女に報いたいんです」
「今まで、苦しみ抜いてきたあの人のこと いつでもやめることなんてできたのにただこの世界樹のために地獄を味わってきたあのひと」
「ただあの人を楽にしてあげたい。今なら何でもできます。人類を滅ぼしてこいとか、彼女を便利な道具扱いをしている一部のエルフとか、それでも足りなければ私自身の命をも捧げても構いません。」
しゃくり上げながら訴える彼女の姿は、かつての管理者たちにとって過去が映し出されている。その場にいる彼女たちは何度も守護者の安寧を求めてエルフには似つかわしいともされるが感情を大にして心の底から叫んだのだ。だが、今までは戦乱にある中では、他エルフに封殺されていたり
人間が攻めてきたりと本当の賛成を得られることはなかったのだ。だから、彼女たちは管理者として潜り込み、エルフ達の動向を左右できるように暗躍していたのだ。
その準備も長い時間をかけた、穏健派のエルフ達を抱き込んだり、最初期のエルフ達を説得、過激派のエルフ達をリストアップ、厭戦の雰囲気をエルフのみならず敵対していた人間たちに流風するように情報提供者として管理者を一人送り込む、そして先ほどの戦闘行為において一連の集大成は実り、両陣営の膿ともいえる過激派の武官や戦争賛成派などは纏めて吹き飛んだ。ここからは最後の仕事が残っている。
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世界樹の根本には遺物が埋め込まれていることを知っているのは、守護者以外には管理者や最初期のエルフ達のみであり、そこに管理者達の姿はあった。薄暗くも神聖なる泉は僅かに差し込む陽の光を反射して、煌めいており幻想的な光景を生み出していた。
だが、そこに煌めくものは魔力が見えるエルフ達からすれば恐ろしい物が目に映る。そこは取り入れれば過剰とも言える魔力のたまり場となっており、人間が踏み込もうモノならば全身の魔力受容体が破裂してすぐさま死に至るだろう。それはエルフ達にとっても例外ではなく、生存本能から今すぐこの場を離れるよう激しく動悸すら感じる。それでも、彼女達には引けない理由があったのだ。
「この魔力溜まりは1000年もの長い間、大陸中の亡くなった生き物の血を吸い込みここまで悪化してしまった」
「気が付いた時にはもう私たちだけでは対処することは出来ずにいたんだよねぇ」
「それでも守護者様に相談した時にはまるでそれも自然の滅びだというように任せるとおっしゃっられたのだ」
「魔力溜まりは魔物を寄せ付ける餌場ともなる。だから、この世界樹は遅かれ早かれもう限界が来ていたのよ」
「愚かな人間たちは森を原因としてたみたいだけど、本当は彼らも原因の一環でもあり、この終わらぬ戦いが世界樹を腐らせていたんだよ。・・・私たちも同罪だけどな。」
「そして、この世界樹がなくなることでこの大陸における魔力溜まりが解消されて、今よりは環境が良くなるはずってことですか。」
彼らは事態を飲み込めずにいた新しく同志となった世話係に対して丁寧に説明を続けていく。これから彼女達がやろうとしていることはエルフ達にとっても禁忌でもあり、畏れ多くも世界樹を破壊することであった。だが、もはや時間は残されていない。先ほどの戦争で更なる血が流れたことで今にも暴発しそうなほど魔力溜まりは妖しく煌めきを繰り返していたのだ。
無論、穏健派しか残らなくした両陣営には世界樹の脅威を予め説明だけはしておいたが、積極的な妨害がないことは諸手を上げて賛成というわけではない。あくまでもやむを得ないという認識であるという両陣営の駆け引きが行われていたのを察していた。
管理者たちは徐々にこみ上げてくる魔力溜まりによる熱を前に、その薄い衣服の下では汗を滴らせて魔力を込めていく。それに伴って、泉はボコボコと音を立てて苦しむように泡立ちはじめとりわけ熱に弱いエルフ達では耐えることなぞできぬはずだった。だが、管理者の二人ほどが水魔法を行使して、正常な泡を彼女らの体にまとわりつかせていく。
その泡はかつてとある現象を見た彼女達が発案した
この苦しみなぞ守護者が受けてきたものに比べれば可愛いものだろう。彼女達は執念深く、魔力を溜めることを続け、ついには後は放つだけとなったのだ。だが、物事は上手くいかないものだ。
根に取り込まれていた大きな異物が多大な魔力に反応して起動してしまったのだ。今まで座り込んでいた遺物は立ち上がろうと動くたびに世界樹の悲鳴と同じように天井から土塊が落ちてくる。それをどうにか避ける彼女達であったが、貯めていた魔力は飛散してしまい、突如の外敵に対処すべく風魔法をぶつけるもまるで効いていない様子であった。無理もないだろう、これはエルフ達も知らなかったが、魔力を弾く作用をもった魔導人形であり魔法を主体武器としたエルフ達にとってはどうあがいても敵う相手ではなかったのだ。そこからは、逃げ回る羽虫を踏み潰そうとでもいうのか、地響きと共に踏み込む度に貼り廻った根を平にしながらエルフ達を追いかけ始めた。
もはや、絶望しかない表情でどうにか回避を続ける彼女達であったが、それにも限界がくる。
7代目世話係が精神的疲労や肉体な疲労などもあり、たまたま根に毛躓いてしまったのだ。
それを見やった魔導人形は足をくじいて動けない世話係へと近づいていく。それを阻止しようと他の管理者たちがありったけの魔法を駆使して魔導人形に浴びせかけていくが、それも世話係が近くにいるため本領発揮もできずに弾かれていく。それらを物ともせず、ついに目の前までやって来た魔導人形は大きな足を振り上げて始めた。管理者たちはどうにか魔力が尽きた中でこちら側に来ようとしているが、それももう間に合わないだろう。走馬灯のようにほぼ寝てばかりであったが、守護者と過ごした確かな日々を思い起こさせる。
こんなところで、諦めていい筈がないだろう。これは彼女の安寧を勝ち取るための戦いなのだ。
今まで恩恵にあずかってきた私が、世話係として最も近くで彼女の戦う姿を目にしていた存在が容易く諦めるなぞ認めるわけにはいかないのだ。口から咄嗟に突いて出たのか魔導人形に散々ぶつけて意味なぞなかった風魔法。エルフ達にとって慣れ親しんだ詠唱は一瞬で形を成し、世話係の身体を大きく跳ね飛ばしたのだ。これも、いつも守護者を傷付けることのないように威力を調整し続けた彼女ならではの
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そこに一つの轟音が魔導人形に叩きつけられ、魔導人形は大きくのけ反りたたらをふむ。偉業を成したその人物の着ていた貴族服はボロボロとなってしまい、最早下着しか見えておらず、むき出しの肌を恥ずかしげもなく晒していた。
「どうだぁ!!!これが我が先祖代々より継承されてきた由緒正しき灼熱の砲ッ!!!」
「エルフどもの秘密兵器なんぞどうってことないんだぞぉ!!!!」
「はははっ!!!指揮なぞやはり私に向いていなかったのだ!!!さあ、我が愛馬よスピアチャージをあのデカブツに喰らわせてやるぞぉおおおお!!!!」
そう叫ぶと延焼して燃え広がり始めた魔導人形に対して、重しとなる砲台を手放し鍛えられた槍を片手に彼女は獰猛な笑みを浮かべたまま愛馬と共に風となった。その勢いはエルフなぞ紙切れのように吹き飛ばし、鎧をきた兵士ですら恐怖に慄くことが分かるほどで、感情を持たぬ遺物でも質量の塊と化した全身全霊のスピアチャージにより後方にあった泉へと背を叩きつけたのだ。
最早戦況はひっくり返され、どうにか遺物は起き上がろうとするも魔力溜まりと化した泉の中では消化することはできず、むしろ火魔法の名残を受けてさらに燃え広がっていた。そして、いまでは世界樹の洞を包もうとしていたのだ。
そこには満身創痍となり、転がる管理者や、指揮官たち。各々やりたいことをやり遂げ、このまま炎魔法を行使されることで魔力溜まりの魔力を消費し世界樹を燃やし尽くすことで有終の美を遂げようとしていた。そこでは奇妙な友情すら生まれており、愛馬を労わる声や魔法行使への称賛、土壇場での判断力などここでなければ縁が続いていただろう。だが、もう出口まで火は燃え広がっており、逃げ場はない。逃げ道は吹き抜けとなりつつある上だけであるが、力を使い果たした彼女達は魔力を残されていない。救助なども望めず、この世界樹に残った人物は予め避難させていたこともありいないはずだった。
だが、最後と言わんばかりに土塊が落ちてきたと思えばもぞもぞと動き始めたではないか。まだ遺物が残っていたのかと最後の気力を振り絞って、風魔法を彼女たちが展開させると土塊は起き上がった。それは彼女達に見慣れた顔をしており、指揮官にとっては恐怖の対象として顔を引きつらせる。
その人物は各々を見やると不満気な表情を隠さずに座り込む一人を掴んだ。そのまま耳元まで口を近づけて何かをしゃべったかと思えば感極まる管理者の一人。それを思いっきり吹き抜けまで投げ飛ばしたではないか。その人物とは今まで騒動など気にもしていなかった守護者であった。
唐突に現れた守護者により困惑を隠せないでいた管理者たち、そもそも避難していなかったのかなどあるが、さらに両手で次々と管理者達を吹き抜けに向けて投げ飛ばすと同時に悲鳴を上げながら消えていく。そしてようやく我に帰ったのは愛馬ごと投げ飛ばされた指揮官が消えていくのを見やりながら守護者が優し気に最後に別れたときと同じように世話係へと語りかける。
「もう起こさないでくれ」
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気が付けば私達は燃え堕ちる世界樹の外で周囲を取り囲んでいた人間の軍勢やエルフ達の集団の中にいた。どうやら両陣営は過激派がいなくなったため睨み合いを止めて、話し合いをしようとしたら魔物どもが押し寄せてきたため連携して排除していたようだ。そして戦闘後に延焼を始めた世界樹に動揺していた最中、飛び出してきた私達を保護したという経緯がある。
目の前では世界樹は激しく燃え広がっているが、それと同時にため込まれた魔力溜まりも消えていく。そして信仰の対象でもあった世界樹がなくなったことで泣き叫ぶエルフやそれをなだめる最初期のエルフ、人間側も英雄伝を語りながら、巨大な遺物をエルフと共に討伐したなど得意げに語る指揮官にたいして、お前生きていたのかと信じられない面持ちでみやる王族など場は混乱に満ちていた。
次第に空は黒く曇り始めた。この大陸での世界樹がなくなったことでため込まれた魔力が荒れた空域にも干渉し優しく雨風を包み込み素肌にあたっても痛くもないし害にならない雨粒が頬に当たり始める。
一部では恵みの雨だとか、世界樹の祝福など言う声もあがっていたが、今の世話係にとっては守護者との決別のように感じられ、悲しみから枯れることのない涙で頬をいつまでも濡らし続けたのだ。
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はぁと長いため息をついてサウナ室からたたき出した彼女たちを思い出す。あろうことかサウナで衣類を着ていたり、挙句の果てには下着のままだとか、馬を連れ込んだ人物には目を剝いた。正装とも言える裸に近い人物はだれもいなかったのだ。どうして誰もこの世界樹の葉スタイルをとってくれないのかと悲しみすら覚えるが、軽く眉をしかめる程度であり、長らく鍛えられた表情筋は感情を窺い知ることは難しい。
しかしながら、散々暴れまわった彼女達はマナー違反であり、その場にいた歴代の世話係ちゃん達にはちゃんと伝えられていなかったお疲れ様という言葉と共に外へ出した。だって目覚めたときには別れの言葉もなく入れ替わっているなんて今回で7人目であったから一人を除いて集合していた私の方がビックリしたが。そして、いきなりサウナに入ると体がビックリしちゃうから、ちゃんと用意してくるんだよと贔屓目に見ても甘々な対応、あれほどの美人たちがいたのだから多少格好つけても許されるだろう。現に誰も怒りはしなかったし、皆涙ながらに今までありがとうございましたと言ってくれたのだから、私なりのサウナの流儀が彼女達へと伝わった事を確信した。自身が好きなことを好意的に見てくれる人物は快いものなのだ。
馬を乗りつけてきた下着の女と馬の尻を気持ち強めに揉んだ後はやや力を込めて退場させ、
今回で7人目の世話係ちゃんにも労いを忘れずに送り出した。全く、皆サウナに興味を持ってくれるのは良いが、まさか私が隠していた世界樹サウナ守護者ロボット君に気が付くとは油断ならない。これは私が一番に乗ろうと決めていたのは良いが、自身だけでは起動させることもできず困っていたのだ。だが、おあつらえ向きにロボット君は良い具合に蒸されており、その下にはすぐ泉がある。なんと徒歩3歩なのだ。これまでの億劫ながらわざわざ木の洞の外に出て外気浴していた自分にとってこれほどの好立地はサウナ愛好家にとって垂涎の的だがこれは私の特権なのだ。疲れた体をサウナで休ませてさらに目覚めたときにはまた運動をしてとこの繰り返される一連の流れを私は正直言ってとても気に入っていた。そう満足気にゴーレム君の中に入り込むと途中で中断された眠気がゆっくりと襲い掛かってきた。
・・・結局、”魔王”なんて見つからないけど、どうせまた起きたときには敵の軍勢がいるだろうし、その中に紛れ込んでいるといいなぁとなるべく楽をできることを祈りつつ目を閉じたのであった。
”魔王”とは姿形はその世界によって異なるのだ
その真贋は転生者にとっても分からぬものであり、その試練を乗り越えてこそ
ヴァルハラへ導かれる資格がある