副団長「おほぉお!!!旨いもの!!暖かい寝床!!!さいこぉぉおおお!!!」
天国と地獄
亡骸となってしまった彼女を抱えて私は実家まで帰省をしていた。あの後、幼子のように壊れてしまった玩具を抱えてハラハラと涙を流し続けていたのを周囲の騎士や王はどう触れるべきか悩んでいたようだが周囲から事情を聞き、魔王を撃滅した鬼神の逆鱗に触れないか蒼白になった魔導士から提案があったのだ。
「国のために殉じた英雄をここではなくせめて生まれ育った場所で埋葬してあげましょう」と息も絶え絶えとなった一世一代の提案だった。その言葉に呆然としていた私ではあったが、こんな場所よりかはそれが最善かと思い至り腐敗防止のための魔法をかけて貰う。
謁見場では先ほどまでの喧騒は噓のように静まり返っており、もはや英雄を祝福するという雰囲気でもなくなってしまっていたが、そんなことは私にとってもどうでも良くなっていた。私が彼女を抱きかかえて進むごとに人波は割れ目を作り、道を作り出す。それは王でさえも例外ではなく、私が無言で通りすぎる真横で固唾を飲む音が聞こえる。その中でハッとした勇気ある近衛騎士の一人が「王を前にして無礼であろうが!!」と私に詰め寄ってきたが、その声で近衛騎士団長が無謀な騎士を制止するのを待たずに目の前の隙だらけな腹に蹴りを入れてやると、転がりながら血反吐を吐き散らかし謁見場を汚しながらうずくまり動かなくなってしまった。「神聖な王の御前を穢すなどそちらの方が無礼であろう」と言い残して私はその場を立ち去った。後ろから悲鳴や魔導士に治療を頼む声など聞こえてきたが残念だったな。もう私には失うものなぞないのだ。
人目を避けるように何日もかけて道場がある自宅へ彼女と共に戻ってきていた。その道中彼女の腐敗は進むことなく、私に最期の言葉を投げかけてきたそのままの姿を保っていた。そんな彼女を私が王都から凱旋してきたと門下生から聞いた父が帰ってくるのを自室にて彼女の身なりを自身の分も整えながら待っていた。今では街中でも魔王が討伐された事は大きく民衆に知れ渡っており、今まで休憩のため立ち寄った村々や町でも連日お祭り騒ぎのようだった。父はその中でも英雄の親族ということでもてはやされていたようで周りと酒を飲んでいたが、本来であれば王都で祝宴を受けていたはずの私がなにやら大きな荷物と一緒に帰ってきていると聞きにわかには信じられない様子で急いで戻ってきたようだ。
そこで私は酔いも覚めていない父に愛する者の亡骸を弔ってやりたいということを告げて、一緒に連れてきていた袋を開けてまるで眠っているだけのような彼女の顔を見せてやると今まで嬉しさや酒気で酔っていた紅潮した顔を一気に青ざめさせ唇を震わせて言葉にならない様子であった。急に亡骸を見せてしまったのは間違いだったのかもしれないが、父は元騎士でもあるということを幼き頃から知っており、戦場などで人の死に立ち会ったことなぞあるだろう、何をそんなに動揺しているのかと眉をひそめていると父は座っていた椅子から唐突に崩れ落ちたと同時に懺悔の言葉を吐き出した。「俺が、俺があいつを殺したのが悪いんだ」「だから、娘まで恨まないでくれ」「もういい加減解放してくれ」
その言葉を聞いた途端に私の直感がまた嫌なことが起こると大きな警戒と不安と共に胸中によぎったが泣き崩れた父は後悔と共に今までずっとためこんでいたのだろう。自身が友人を手にかけたこと、家計のためその友人が持ってきた呪物を密かに売り払ったこと、友人の後を追った友人の妻を何も言わずに見送ったこと。涙ながらに謝罪と懺悔を亡骸となった彼女へ頭を床にこすりつけて繰り返している。・・・ようやく事態を理解し始めた脳は私は父を制止すべきか言葉を考え出す前にたった一つの答えを導き出してしまった。
「・・・私は・・・仇の娘・・・ということか・・・?」
そう理解した途端に口の中に込み上げる酸味、嘔気、彼女を穢さないようにどうにか体ごと捻り、何もない空間へあの後からろくに飯もとっていないため胃液をぶちまけてしまった。今では吐き出すことなぞなくなっていたが、騎士になり立ての頃に激しい扱きと共に限界を迎えたときに嘔吐してしまったことはあった。確かあの時は口では面白がるようにしていたが、彼女が優しく介抱をしてくれたとおぼろげに思い出した途端にさらにまた嘔気と激しい頭痛に襲われさらに吐出し続ける。辺りは吐しゃ物により臭気と狂ったように懺悔を続ける父、そして情けなく私も床にうずくまる私と彼女には見せることのできない醜態を晒していた。そして今までろくに休憩も取らずに突き進んできた身体の代償を払うように騒ぎを聞きつけて駆け込んできた母の姿を見やりながら意識を失う前に思ったことは彼女が最期に言い残した言葉の意味についてだった。
あれから数日が経ち、父は正気を取り戻したがいまだに私の元には近づいては来ず道場も開いてはいるが、日々やつれていく父に門下生や母はしきりに心配をして何があったかを聞いてきた。それに対して私は何も知らない素振りを見せて受け答えをしているが、実のところ私の顔色もろくなものではなく私も心配されて体調を確認されているのだろう。しかし、そんな周囲からの暖かな想いも今や余計なものとしてしかとらえられずにいた。そんな些細なことよりも、私は彼女の遺言について考えを働かせることの方が大事だったのだ。
彼女の言う一番とはどういう意味だったのか。これでお前が一番だということは彼女がいなくなることで私が実質国で一番の騎士になるということか、それとも仇である私が真実を知ったときに一番苦しむということなのか。いくら考えを巡らせても答えは出ることはない。腐敗することを知らない彼女の肉体を抱きしめて問いかけてみても答えを返してくれることはもうないのだ。それを認識するたびに込み上げる吐き気や溢れ出す涙に狂いそうになり、何度自死しようか考えてみたがそれは叶うことはなかった。行う勇気がなかったというわけではない、あの後彼女とよく試合をしていた森で穴を掘った後彼女と一緒に何日か土の中に埋まってみたり、木々の下で胸に剣を突き立てようとしたところ、剣が折れたのだ。無論鎧なぞ着ているわけがない。衣類だけを貫通し私の肌に傷をつけることすらなかったのだ。明らかな異常ではあったが、なんとなくではあるが彼女を看取った後から不思議な万能感は身体にみなぎっており戦後の直後で馬もほぼいなかったため使わずに王都から走るだけで王都から戻ってこられたのもその証左であった。これは彼女が残した呪いとでも言うのだろうか、しかし、彼女が残したものであるならばそれも良いかと受け入れ始めていた中でとある来客が私のもとにあった。それはあれから戦後の処理などを任されていた魔導士であり、戦中も良く私に協力してくれて非常に助かっていたあの娘だった。そんな魔導士ちゃんは私の前に座りながら、横目で亡骸である副団長を見やりながら何度か手櫛で髪を整えたり、何度か深呼吸をしたりと忙しない様子であり、用事がないなら早く帰ってくれと言いたいところであったが一応腐敗の魔法を使用してくれたため感謝の念を込めて彼女へ優しく要件を問いただすと背筋を伸ばして彼女は口にしたのだ。
「腐敗の魔法は永遠ではありません。副団長を早く弔って差し上げないと時期に腐りだすでしょう。」
それから私はひどくうろたえてどうにか繰り返し魔法をかけてもらえないか、金なら団長時代に貯めたものを全額支払うなど交渉してみたが、その交渉を聞いていた魔導士ちゃんは苦し気にとじていた瞼を開くと今度は私の視線から目をそらすことなくその魔法は一回きりであり、今後誰に頼んでも結果は同じであること、理論的な魔術理論から不可能であることを知恵おくれな生徒に説明するように何度も丁寧に説明をしてくれた。しかし、そんな講義よりも私は愛する者が離れて行ってしまうという現実に恐怖を隠せずにいると、彼女は優しく私の手を取り諭すように言った。
「もう彼女を眠らせてあげましょう。これからは立ち直るまで私が貴女のお手伝いをします」
その後私は魔導士ちゃんと共に埋まっていたこともある穴の前に副団長たる彼女を連れてきていた。当初、ここに彼女と共に埋まっていたことを説明するとやや引いた様子ではあったが、「わ、わたしも一緒に埋まりましょうか?」と私の手を取りながら問いかけてきた。それに対して私は無我の境地で悟りを開けたのか遠慮しておく旨を伝えて固辞した。魔導士ちゃんは多少残念そうに土を魔法を使って私が掘った穴よりさらに深く穴を掘り、最後に私が彼女を穴の底に彼女を横たえたまましばし彼女の顔を見つめる。もう2度とあのニヤニヤとした笑みをもう見ることはないのだと、また涙がこぼれそうになったが悲しみや後悔をすべてを飲み込み、最後の別れの口付けをした後に私が跳躍して穴の底から飛び出してきたのを確認した魔導士ちゃんはもう誰も彼女を穢すことができないよう深く穴を魔法で埋め立てたのであった。
そして、自身の思い上がりではなければ感じた好意を向けてきていた目の前にいる彼女に対しても「すまないが、これから先私は彼女だけを愛し続ける。君の気持ちの答えることはできない」と言い伝えると苦笑しながら魔導士ちゃんは「そんなの最初から分かってましたよ。つい魔が差して言い寄ってみたけれど、貴女に好かれようにも彼女には勝てないみたいですから」とため息ながらそれでも騎士として活躍していた私に対して尊敬の念を抱いており、協力したいという意思を魔法理論を講義するよりも熱心に語ってくれたのだ。その延々と続く口ぶりに対して私がボーっとし始めるとしゃべりすぎたことに気が付いた魔導士ちゃんは顔を赤らめて先に街へ戻ると言って私を一人にしてくれた。本当に諦めてくれたのか疑問に感じたが、あれでも魔導士ちゃんは私のことを気遣い、そして彼女へ別れを告げられるように一人にしてくれたのだ。その配慮に感謝しつつ想い馳せる彼女との記憶の数々。どれもが今生において忘れることはなく、どれもが鮮明に思い出すことができる。そして、彼女を看取った際に生じたものは万能感だけでなく、彼女の私に対する幼き頃からの思いやりやそのあたたかな想いも幸か不幸か気を失った後身体を休めることでようやく思い出すことができたのだ。
それさえあれば私は彼女の言葉通り、一番になってやろうではないか。手始めに魔族の残党狩りを行うのは決定事項であるが、彼女をあのようにした奴らへのお礼参りはまだ済んでいないし王にもいろいろ物申したいことがある。やられたらやり返す。100倍返しだと道化を気取るようにおどけていつも私に言っていた彼女のように強くあろうと決めた。それらを成し、私がやりたいことをやり遂げるまでは彼女に会うことはできないだろうし、あってもあのニヤニヤとした顔で馬鹿にされるのは間違いないだろう。そんな彼女へと目の前にある墓標に向けて敬愛ととびきりの愛情を込めて誓うように告げたのであった。
「お前が一番だよ」
「王国崩壊RTA 1年3カ月17日」
なお、この後功績を盾にして周辺国家に王が魔族と癒着していたことをばらすし、残虐行為に加担していた騎士どもを左遷送り、貴族どもの刺客も馬鹿げた経験値により人類どころか魔族より数段上に進化した騎士ちゃんにボロカスにされて送りかえされます。国家反逆罪?裁けるものなら裁いてみろを地で行きます。
そしてやりたいことを全部やったら枕元に不審者が立ち、謎のプレゼントBOXが置かれたそうな。