その恐怖は彼らにとっても歓迎すべき栄養なのだ
だからそれらを恐れてはならぬ。情を深めてはならぬ
その認識が彼らをより強大にさせるのだから 大社書房新社
長老「はぇ^そうだったんかぁ・・・(感嘆)」
目を開くとそこは見渡す限りの血だまりであった。そこには生あるものは何者もなく、吸い込む空気すら鉄を鼻に詰めているかのような鉄臭さが辺りを占めている。いくら、私が巫女として働いているとは言え、このようなことは滅多になかった。だが、私は自身の意思など関係ないように歩き出す。なぜなら、私はこれが夢だと分かっているからだ。そして目的地もすぐそこにある。
一歩踏み出すだけで跳ねる血潮を私の巫女装束はさらに赤く吸い込んでいき、絵の具を跳ねたかのように水玉模様へ彩っていく。ただ、粘ついてすぐ黒ずんでいくだけの違いだが。そんな憂鬱な気分とは裏腹に夢の私の足取りは軽く、スキップすら取りそうな足取りで目的地である彼岸花の花畑にたどり着く。
一面赤、紅で目が痛くなるほどであったがそんなものより私が探していた者はそこの中央部に倒れ伏していた。それは、いつものポーカーフェイスを苦し気に歪め怪異を祓う力すら失った哀れな師匠の姿があった。彼女は私を見やると情けなく眉を歪めあまつさえ命乞いすら始めたではないか。
「お願いっ!!私まだ死ねない!!あの娘を助け出すまで・・・!??」
「はぇ^すっごい無様…。これが神人の姿かの?」
今まで聞いたことのないような声色で私に怯え、首を垂れていつの間にか持っていたナイフを持つ私に対して命乞いを続ける師匠。それに対して私はどうにか押しとどめようといつものように自分の身体を止めようとするが、夢の私の身体の制御権はなかった。そして、そのナイフは私の精一杯の抵抗なぞ感じぬように重さを感じさせぬまま振り下ろされ、私の顔に血潮が広がった。そして楽しそうに私は笑いころげながら、花畑を切り裂いていく。師匠の命が零れ落ちて呼吸が止まるまでずっと続いていたのだ。
「はっ!??はぁ・・!!!はぁ!!!??」
「おう、目が覚めたか、ではワシはあちらで待っとるからな。婆さんや飯はまだかの???」
朝日が差し込みいつものように目が覚めるといつもの見慣れた自室の風景が目に入る。
そこの部屋には師匠はおらず、綺麗にたたまれた住人のいない布団が隅に置かれていた。恐る恐る布団を触って見るとまだ暖かさを残しており、先ほどまでそこにいたことがうかがえる。それに安堵して、ほぉっとため息をつくまでが最近の私の満足に取れてはいない目覚めとなっていた。
「ひどい隈ね。最近夜更かしでもしているのかしら?巫女にとって睡眠とは怪異から身を護るための体力を維持させるだけでなく、普段からの脳を休める時間として貴重な時間として・・・・」
「そうそう、それは彼女ちゃんが悪いよね。儂ならそんなこと言わないのに(適当)」
師匠は普段と同じように私が作った朝食に舌鼓を打ちながら、いかに睡眠を取ることが重要かといった保健体育でも講義しているのかと思わせる口ぶりで私にお説教を続けていた。無論、私だって以前と同じように惰眠を貪れるのであれば寝ていたいし、朝食も美味しくいただきたいが夢の師匠の死顔が思い起こされてどうにも普段通りとはいかないのだ。そもそも、師匠を殺せる者なんているわけがないと言えばその通りなのだが、そう簡単にはいかない事情があった。
「分かったようなら良いわ。そうしたら私は仕事があるから社に向かうわ。貴女はいつものように修行をしていなさい。私の仕事が終わったら合流しましょう。・・・??えぇ、勿論貴女も一緒よ?ふふっ。貴女のような可愛い女の子を置いていくわけないじゃない。」
「息を吐くように儂を口説くな。まったくこんなすけこましに誰が育てたのか…。親の顔が見てみたい!!!あっ、もう死んでおったな、じゃあ今の無しね。」
師匠は私に今日のスケジュールを伝えた後、楽し気に
「最近の師匠は怪異に取りつかれている。何とかしないと。」と改めて現実を認識すべく声に出してはみたが、実際どうすればいいのかと頭を抱えて唸り声を上げながら空箱を睨みつける。いつからか分からないがいつの間にかあの空箱を師匠が持って来てからは師匠は虚を見ながらナニカに話しかけるヤバイ奴になってしまったのだ。そして、師匠が楽し気にし始めてから同じ時ぐらいに私のあの夢の惨劇はほぼ毎夜のようにお送りされてしまい、いまでは一人でいると夢の中の師匠の命乞いまで聞こえてくるようだ。そんな精神的に負担が続けば眠気など吹き飛ぶし、最近はなるべく眠れるように限界まで身体を疲れさせる訓練を続けている。そのおかげか少しは怪異に対して儀式時間も縮まったし、両親には心配をかけてはいるが実際に成果は出ているのだ。だが、いい加減師匠を何とかしなければ私の身が持たないだけでなく、師匠が大社で白い目で見られるだけならまだしも怪異に取りつかれていることが露呈すれば大社より師匠ごと祓われてしまうだろう。そのため、私は今日も訓練を行いながら策がないか頭をひねるのが日課となっていた。
「へぇーっ。君があの炎神の弟子なんだ??それにしてはなんだか弱っちそうだね??手加減でもしてるの???」
「屋上へ行こうぜ…久しぶりに…キレちまったよ…(サラリーマン風)」
訓練場で休んでいると目の前で口を開くなり失礼な人物。先ほどまでまでの私の訓練を見ていたのか、物珍し気に私を見やっていたが彼女の中で格差付けが終わったのかやや小馬鹿にした態度でもあった。その口を詰めてやろうかと思うが、そう簡単にはいかない事情もあった。
それはこの人物が大社でも著名な神人でもあり、放たれる雷は私の拳より早く私を黒ずみの焦げにするだろうというのもあるが、一番重要なことは彼女はあの炎神の終生のライバルと普段から公言していることや、任務の達成率でも競うべく力を入れているだけではない。あの師匠の友人ということなのだ。
そもそも師匠に友人がいたのかということに関して師匠から最初に聞いた時は驚きを隠せなかったし、繰り返し聞き返したが、師匠はこともないように「友人かどうかは分からないけど、彼女が友人になろうと言ってきたのだから友人でいいんじゃないかしら」とLINEもメールアドレスも交換してない癖に言ったのだ。あまりにも現代的ではないし、現に雷神様は疲れている私に遠慮もせずせわしなく師匠の近況を聞いてくる。それで良く友人を名乗れるなと言いたいが、怒らせるとどうせろくなことがないだろうとあえてぼかした言い方を続けていた。しばらくのらりくらりと話しているとふと思い至る。そうだ、雷神様に協力してもらえれば師匠に憑りつくほどの怪異を祓えるのではないかと。
「はぁ!!!??炎神に!??ありえないでしょ???君の見間違いとかじゃない??
よくそんなんで今まで生きてこれたね???」
「おいおいおい」「死ぬわアイツ」
口を開けば出るわ、出るわ私への疑念や炎神への深い信頼など。やっぱり一発ぐらい殴っても許されるのではないかと思い始めたが、今ではこの喋る失礼は怪異への武器となるのだ。手荒に扱って臍を曲げられでもしたら面倒だと思い、苦笑いをしながら私の家へ案内をする。いつものように私の訓練が終わった後は一度家へ戻り、そこで師匠を待つのが一連の流れだった。そして、雷神様を部屋へ通した後はまた師匠の干された下着を興味深く見つめながら鼻息を荒くしているのをこっそりと写真に納めてかなり熱いお茶を提供した。舌を触れさせた途端に「あっづづ!!!」と雷神の名に違わぬ非難の雨荒らしだったが、師匠はいつもこの温度で飲んでいると伝えると大人しくフーフーしながら飲み始めた。なんだ案外可愛いらしいところもあるじゃないかと思いつつ、さらに無音カメラでその姿を撮りためていく。そんなことをしていると玄関から物音がしているではないか。ようやく師匠が帰ってきたと思い、目を向けるとそこには目がくぼみ堕ちた怒りながら師匠の首を絞めるような姿をした怪異が師匠に覆いかぶさっているではないか。
「っッ!!!????」
「なんじゃこりゃあああ!!!???ってまーた炎神くんが怒ってるのぉ・・・。」
「君、休日とかに他にやることないのかの??(心配)」
思わず立ち上がった瞬間に、机に置いていたお茶が2つとも零れてしまい驚きながら雷神様も悲鳴を上げる。「あっづづぃいい!!!」とその辺にあった布切れでお茶をふき取っていく雷神様の姿。あっ、それ師匠のパンツと思いつつもなんだそんなことかと改めて師匠を見やるといつの間にか師匠の後ろの怪異は姿を消しており、あまり変わらない表情で転げまわる雷神様を不思議そうに見ている師匠の姿はあまりにも不気味さを感じるほど何も異常はないと伝えてくるようであった。
「ねぇ、アレ。君も見たよね。かなりやばい奴だよ。あれを無傷で何とかできるか私も正直分からない。・・・疑ってごめん。」
「いくらなんでもパンツを使うお前の方がヤバいじゃろ・・・。(ドン引き)」
師匠はまだ仕事の続きがあるとかで私に今日の訓練は中止であることを伝えた後は大社に戻っていき、落ち着きを取り戻した雷神様はしおらし気に私に謝罪をしてきた。この人謝れるんだと驚きを隠せないでいると、雷神様もその反応を自身の発言によるものと解釈してくれたのか悩まし気にため息をつく。その後続けざまにあんなのは見たことがない。あのガリガリに瘦せた老人のような姿は餓鬼の部類なのかと続けざまに思考の海に沈みはじめた。黙っていれば師匠と同じように美麗な表情で何も知らなければ見入っていたかもしれない。だが、そこではなく私はとある言葉に引っ掛かりを覚えた。
「私には老人のように見えなかったんですが」
「そりゃなぁ。あれ焼け焦げた怪異を模したみたいなもんじゃし。あれ、もしかして悪霊では・・・???」
その後、雷神様は私の言葉に何か思い当たることがあったのか、大社に戻りなにか情報がないか探してくると言い残して、雷のように窓からとてつもない速度で飛び出していった。だが、私の部屋は無傷とは行かなかった。置いてあった書類は吹き飛ぶわ、踏み込んだ影響なのかいつの間にか畳には焦げた跡が残されるわで私が喫煙でもして焦がしたと思われたらどうしてくれるんだと証拠としてカメラに残しておく。そして掃除を続けていくと、身体がようやく疲れを思い出してくれたのか眠気を訴え始め、瞼が重くなり欠伸も何度か続けざまにあった。私はすこしだけも進展があることを祈りつつあの悪夢を見ないようにお願いをしてせめてもの抵抗として師匠の使っているハンカチを握りしめて布団に入る。そこで目の前は暗くなり、意識は遠のいていった。
「おいゴラァ!!炎神!!畳焦げてんじゃねぇか!!敷金帰ってこなくなるじゃろうが!!!!(憤怒)」
目を開くとそこは見渡す限りの血だまりであった。そこには生あるものは何者もなく、吸い込む空気すら鉄を鼻に詰めているかのような鉄臭さが辺りを占めている。また、この景色なのかと落ち込むがどうやらいつもとは違うらしい。なぜだか分からないが、歩いていると何かの気配を感じるのだ。一歩踏みだすと生暖かいナニカが私の肩を撫でるように通り過ぎていくようなぞわぞわする 感覚。それだけではない、それらは私を嘲笑うかのように踏みだすごとに老若男女の歪んだ笑い声が頭の奥で響いてくる。それらに対して燃えるような怒りを覚え始めた、どうして私だけ。どうしてお前たちがここにいるのだ、ここは私の夢の中なんだぞと歩みはいつしか踏みしめるものに代わり、同調するかのように血だまりはボコボコと沸き上がる。そして目的地である彼岸花の花畑は燃え広がっており、その中央部にはいつものように命乞いを続ける師匠の姿。それを目にしたこの元凶ともいえる人物に私はかつてないほどの怒りを覚えて手に持っていたナイフを突き刺そうと大きく振りかぶった。
そこで目に入ったのは握りしめられていたせいかシワシワとなっていたが、師匠のいつも使っているハンカチであり、思い起こされるのは私が怪我をした時にはそれを使って手当もしてくれる師匠の姿。たとえ夢だとしても私はなんてことをしようとしていたのか。後悔と共に力なく手放されたナイフは血だまりに沈み姿を消していく。そして、夢の師匠に声をかけようとよろよろと近づくも何かに毛躓き師匠の前で転んでしまう。どうにか立ち上がろうとするも、いつの間にか立ち上がっていた師匠は私にゆっくりと顔を近づけて忌々し気に呟いた。
「あともう少しだったのに」
「やることが炎神の癖にねちっこいのぉ・・・。わざわざ夢を通す意味ってあるのかと二度手間では??」
顔に激しく当たる寒気と共に目を覚ますと、冷や汗をかいていた身体が冷えないようにおおきなタオルケットで巻かれており雷神様にお姫様抱っこをされながら移動をしていた。驚きのあまり声を出せないでいると、かつてないほど真剣な表情をした雷神様が私に気がついたようだ。だが、そのまま止まるのも惜しいと言わんばかりに私に聞こえるように大声で端的に説明をする。
「急いでるんだっ!!!このままじゃ大社で怪異が暴れるだけじゃないっ!!!炎神も死ぬッ!!!」
「桂ぁ!!今何キロ!!??(鳥人間コンテスト風)」
厳かな儀式以外で足を踏み入れることなどほとんどない大社。私が訪れることは早々ないだろうと考えていたが、それは現実味のない形で実現した。そこでは今まで見たこともない怪異の群れ達。それらは楽し気に炎を囲み犠牲となった巫女や職員をなげこんでいく。
火の中 火の中 こちらへおいで アナタはだあれ ワタシはク○ク○ ○尺様 逃げなきゃ 逃げなきゃ つかまえろ アナタはだあれ ワタシはコ○○バコ オニサン
所々では未だに応戦をする巫女や傷付き倒れ伏す巫女や召喚獣達。そしてその抵抗すら児戯に等しいいわんばかりに燃えていく大社の一部。いままで見たことがない怪異達との抗争の姿だった。
「大社は間違えたんだっ!!!炎神に壊させたあの祠はただ怪異共を封じていただけじゃない!!」
「八熱地獄の入口だったんだよ!!!入口が開いてしまったんだ!!!」
「お前あの祠壊したんか!??(再放送)」
そう叫びながら、雷鳴を纏わせ次々と怪異を貫いていく雷神様は怪異どもの宴を終わらせんと奮闘を続けている。そしてそれに触発されて無事だった他の巫女や負傷者も集まりだし、防壁を形成したりとサポートに徹する様子も見られ始めた。そのかいもあり、どうにか目の前から群れを一掃することはできたが、大社の奥ではあまりにも重いナニカを感じている。師匠はこの先にいて、いままで師匠に憑りついていたナニカがこの事態を引き起こしたのだ。間違いないだろう。雷神様も同様の考えなのか生存者は負傷者は下がるように告げて、戦力となり得るものを負傷者の護衛以外を招集する。私も足手まといになるかとおもったが、師匠を助け出す。この気持ちに間違いなく、雷神様に申し出ると呆れ顔をした。
「なんのために君を連れてきてたと思ってるの??これで逃げ帰るなんて言ったら私は死体でも連れてあるくことになってたよ」
「物騒じゃのう・・・。こやつ怪異と変わらないのでは??(汎推理)」
そのような扱いを受けるいわれはないが、その覚悟を持って精鋭の集団に混じり奥へと進んでいく。進むにつれて夢の中と同じように鉄の臭いと有機物が焦げる臭いも鼻に突き抜けてきており、つられて目から涙も出てくる。そう咳き込みをすると、雷神様も集団に向けて口に布を当てて声を発する。
「煙を吸うな!!服で口を覆うか、ハンカチなどの布で口をふさげ!!」
「お前ついにやりおったな…。それ、あやつの下着じゃろ。お前、もしかしてあいつのこと好きなのか?(青春)」
勇ましく皆の前に先導し高らかに告げる雷神様だが、私は見たぞ。雷神様の口にあたっているその布は師匠のパンツだろ。お茶をふき取った後、懐に入れていたな?そして今まで忘れていたが、ハンカチの代わりに取り出したものに一瞬驚き私の方を見たのを見逃さなかった。だが、私が気づかないフリをしたし、集団も気づいた者はいないようだ。ふぅと雷神様は安堵した様子もあるが、終わったら師匠の前で問い詰めてやるから覚悟しろと心に刻んでおくと、開けた空間に出た。
そこは奇妙なほど静まり返っており、火も中央部を恐れているのか距離が離れており、そこにはあの目がくぼみ堕ちた怒りながら怒鳴るような仕草をした怪異を無言で見やる師匠の姿があった。だが、どうやら私以外にもその姿は見えているようだが口々に放たれるの恐慌であった。
「なんだ!!来るな!!??」「いや、このっ!!どこから来たの!!」「呪滅呪滅!!!!」「あんなデカいの見たことはない・・・!!」「イヒヒッツクゲゲゲル」「あづいあづぃいいい!!!」「死ぬ死ぬ死ぬいやいやいやいいあ」
「すっごい喧騒・・・・テーマパークに来たみたいだぜ テンション上がるなぁ~(昼飯の流儀)」
集団は規律を失い逃げ惑う。さらにこの場を離れようとするもいつの間にか近づいてきていた怪異共に連れ去られていく。彼らはどうなってしまうのかは入口付近でみたとおりになるだろう。それよりも目の前の脅威に対応しなければならない。信じたくはなかったが、この炎はおそらく師匠の力によるものだろう。それはこの尽きぬ炎であり、大社を焼け落とそうとしている産物。しかしながら、どうすれば良いのかと雷神様を見ると彼女は憎々し気に話し出す。
「あれは、かつて炎神の故郷を焼き尽くしたと言われる恐ろしい怪異、地獄の炎の一部とも言われている。」
「一度開いた蓋を閉じる方法はなかった。なら、今はその火の出元を封じるしかない」
「これが怪異を封じると言われる幻魔刀」
「これで彼女を刺すんだ。君が終わらせるんだ」
「というか、お前炎神じゃね???もうやめよ!!!儂とてTS後なのにこれ以上はキャラかぶりになるじゃろ!?マンネリ展開に見えるぞ!!」
そう雷神様は刀を私に押し付けるように渡すと、辺りの連れ去られた巫女たちを追いかけて消えていく。ここで、私なのかと震える手で刀を構えてみる。刀なぞ握ったこともなくこれから行う現実が夢などではなく本当のことになるのかと足腰が震えていた。思わず先ほどまで握っていたハンカチも落としてしまったが拾う余裕すらない。一歩、一歩踏み出すごとに回りの音が消えていく。さっきまで遠くから聞こえていた悲鳴や怪異の笑い声もしない。だが、頭は恐ろしいほど冷静になっている。これですべての災いが終わるのだろう。失ったものはもう戻らないかもしれないが、これ以上失われることもないだろう。ならば今はやり遂げるしかない。もう私しかいない。代わりにやってくれるものは誰もいない。そう信じて私はようやく師匠の後ろ姿まで辿り着いた。
「なぁ、これって今更じゃけどあの娘っ子に目覚めさせるだけなのにスゴイ負担なのでは???儂ら要介護の状態じゃぞ??」
「えぇ、そうなの。あの娘はいつも私の食事を作ってくれるし掃除とかも任せきりになっているわね。でも、代わりに私はあの娘が立派に働けるように協力しているわ。これでもヤングケアらーとでもいうのかしら?」
「んんんぅう!!!話がかみ合わぬ!!!??誰かお客様の中に通訳の方はいらっしゃいますか!??」
これから私が行うことなど知らぬように楽し気に話す師匠の姿はいつもと同じように変わらぬものではあった。だが、変わらず師匠の話相手は見えないでいる。そうだ私が師匠を救いだすんだ。
そう覚悟を決めて夢と同じように刀を振り上げる。そして私はそれを思いっきり振り下ろした。
「ふーっ・・・!!!ふーっ!!!???」
激しく息を吸い込み、その苦しみに耐える。繰り返し行われるその行為に意味はないのかもしれない。ただその苦しみからではなく、目の前の現実が受け入れることを出来ていないからだ。
目の前には背中に突き刺さった刀。間違いなく私がやったものだ。そしてそれは痛みなど感じないように不思議そうに首を360度回転させて見やっている。
「ねぇ…。何してんの????私、炎神を刺せって言ったよね????」
「おおぅ、貞子といい勝負じゃのう。化け物同士勝手に戦え!!!」
そこには先ほどまで姿を消していた雷神様が首筋の筋肉を自らちぎる様にぶちぶちと音を立てさせながら私のことをねめつける。無論、私は刀を振り下ろした後は師匠の近くまで退避している。
どうやら夢の中と同じ行動を取らなくて正解だったようだ。直前で師匠がナニカと話しながら雷神様がいるであろう位置に指を指しているのを見ていなかったらそのまま刀を振り下ろしていたであろう。なにより、その声聞きなれぬ私を思いとどまらせたのだ。
「ぶっぶー。これではいけませんね(面接マニュアル)」
言われたようにハンカチを握りしめて深呼吸を繰り返すと辺りの風景がゆっくりと歪み変わっていく。そこはいつものように見慣れた血だまりの中。辺りは雷神様の怒りと同調するようにボコボコと噴き上がる。そして足元には燃えていく彼岸花の花々。それを師匠は踏みしめて雷神様に近づいていく。
「儂これ知っとる!!進研ゼミでやったやつじゃ!!!いい場面転換してんじゃないかよ!ラブライブだろ?(爆○問題)」
「彼岸花、多年生の球根植物で、花は6枚の花弁からなり草全体に強い毒を持っているわね。花言葉は独立 情熱 悲しい記憶 諦め」
「これ、毒です(猫猫風)」
忌々し気に師匠を睨みつける雷神様は動かない。刀の力は本物のようで彼女はその場に縫い付けられていた。
「彼岸花の別名には、曼珠沙華 死人花 地獄花、天蓋花、狐花 雷花」
「闇に惑いし哀れな影よ。人を傷つけ貶めて。罪に溺れし業の魂。いっぺん、死んでみる?(地獄少女風)」
つらつらとこの場にそぐわぬまま語りだす師匠の姿はあの異変が起きるまでの前までと変わらぬものであった。そして師匠は炎神の名に違わぬままに花畑を焼き尽くすと同時に目の前の雷神様の姿は薄れていき消えた。そして、私もようやくすべてが終わったことを悟り、ゆっくりと目を閉じる。そのまま私の目の前は暗くなっていった。
「ジャスト一分だ。――悪夢(ユメ)は見れたかよ?(奪還屋)」
朝目が覚めると、またいつものように隣の布団は既に空になっている。もう師匠達は目覚めているようだ。また朝食のメニューについてやんややんやと言っているのを思い浮かべるとげんなりし始める。大の大人たちが朝から目玉焼きになにをかけるのかで口論し合うのは恥ずかし行為だと思わないのかと呆れすら隠せなくなっていた。そのまま彼女達の横を通り過ぎて顔を洗い、改めて食卓に着くと雷神様が作った朝から湯通ししたソーセージや丁寧に出汁からとった味噌汁、そして口論の元になっている目玉焼きが出迎える。そして目の前にはいつものようにテレビの解説に茶々を入れる師匠と、あの後収穫など何もなかったようなショボショボした顔で家に来た雷神様。そして
今、一番大きな声で味噌汁は赤味噌が良いとのたまう少女然とした巫女の姿が目に入る。
「朝の占いに一体全体どれだけの価値があるのかしらね。大衆に向けての占星術をどれだけ簡単にしたところで視聴者の運命を代わりに決めようと目論むテレビ局の傲慢だと思うのよ。」
「いやいや、君さぁ。こんなもの一般向けなんだから目くじら立てることないでしょ。早く食べてよ。洗い物溜まると大変なんだからさ。」
「嫌じゃ、嫌じゃ!!白味噌など飲みとうない!!!儂の味噌汁舌は赤味噌に捧げているのに!!!」
あの後からなぜか住み着き始めた雷神様はまだしも、目覚めたときにはこの少女はいつの間にか現れており、あの夢の後から元々この家に住んでいたかのように振る舞い始めたのは目を剥いた。 トイレの位置や使っている洗剤の種類まで把握しているのはどこかに隠しカメラでもあるのかと家探ししてしまった私を許してほしい。
「ほーん。アルミホイルでも頭に巻いとくかの??5Gを防げるらしいぞ(適当)」
あれは結局、すべて夢だったということで良いのだろう。現に雷神様はこの場にいるし、師匠もいつものように振舞っている。そしてこの少女の素性は知れぬが、師匠と雷神様の眼の届くところで下手なこともできまい。なにより巫女の割には意外と現代カルチャーに適応しており、私とゲームセンターなどに繰り出すまで仲良くなったのだ。おかげで増えつつある戦利品はあの部屋の片隅にある空箱にしまわれつつある。だからまぁ、この少女を私の後輩として扱うことには異存はない。例えおばあちゃんと同じような言葉遣いをしていたり、時折狐の耳のようなものが生えていて師匠がそれを撫でつけている場面、そして空箱で人形に埋もれる幻魔刀など見ていないのだ。
「せんせーい、炎神くんが拗ねて刀の中に引きこもってまーす!!そこ天岩戸じゃねえんだぞ!!」
結局、人は自身の都合のいいところしか見ていないものだ。わざわざ、人のアラを見つけて指摘するなど時間の無駄だし、コスパが悪いとも思う。だから目くじらを立てて怪異に目をつけられる方が馬鹿らしいのだ。そう自身に整理をつけて目の前の同居人達の諍いを目にいれて少しヒネてしまった心持ちでいつものようにため息をつくのだ。
「本当に馬鹿ばっか」
「そりゃあそうじゃ(オーキド博士風)」
炎神「契約者ちゃんいっぱいちゅき♡」
長老「ちわー三河屋でーす」(プレゼントBOX郵送)
炎神「契約者ちゃん!どいてその女殺せない!!(憤怒)」
炎神「こうなったらあの怪異を祓うためにあの弟子を利用してあの女を刺させる練習をしよう。
そうとなったら夢に介入して、雷神にも化けてっと…。私がやるわけないじゃん。契約者ちゃんに嫌われちゃうし」
長老「ジュラル星人みたいなまわりくどさじゃな…。(呆れ)」