バグやメンテナンスが日常的に発生するゲームみたいな世界の雑談掲示板 作:くず
昔、俺は猫を飼っていた。
名前はみけざぶろう。名前の通り三毛猫で……俺がそう呼ぶと、決まってプイッと顔を背けるのがお約束だった。どうやら、みけざぶろうは飼い主の俺が名付けたその名前に気に入ってない様だった。他の呼び方には、反応していたから間違い無い。
それが悔しくて、俺は意地でも絶対みけざぶろうと呼んでやろう。そう思って、それからずっとそう呼んでいた。
「……くっそ、何処行ったんだ?」
その日も、俺は家から出て行ってしまったみけざぶろうを探していた。時々みけざぶろうはその呼び方があまりにも嫌過ぎて、家から脱走する事がある。友人にも言われたっけ、その呼び方やめた方が良いって。でも俺はもう止まれなかった。何年もそう呼んでいたのに、今更辞められる筈が無かった。
「おーいみけざぶろう〜」
いつもなら放っておいても、いつの間にか帰って布団に潜っているのだが。その日は雨が強く叩きつけていたし、夜だった。それで心配で俺は雨の中、夜の街を一人で歩いていた。雨音が小さな音を掻き消し。車が暗闇を照らし、過ぎ去っていくがてら水を弾いて行く。
気温が下がり、体も冷え込んできた。身を縮こませながら俺は注意深く周りを見渡しながら、歩く。時折、最悪な事態が浮かんでは振り払いつつ。そして、どれぐらい歩いただろう?細かい事は分からないが、暫くしてみけざぶろうを見つける事に成功した。
「ほら、家に帰ろう」
しゃがんで目線を合わせ、傘で濡れないようにしながら顎の下に触れる。ゆっくりと撫でてやると、気持ち良さそうな顔をし始めた。やれやれ、世話が掛かる。本当に。
「はっくしゅん。……ほら、行くぞみけざぶろう」
「にゃー!!」
露骨に嫌そうな顔をして、俺が近づくと離れていく。よっぽどこのみけざぶろうと言う名前が嫌いらしい。じりじりと近付いた途端、反対側の歩道まで逃げて行ってしまった。そして、そこを動かずじっと俺を見ている。まるで謝罪しろって言ってるみたいだ。
「だぁ、分かったよ。もうみけざぶろうって呼ばない。だから、戻って来い。俺明日も仕事だし……まぁどうでも良いんだけどさそんなの」
一瞬、スマホを見てしまった。今何時かな?と雑念を抱いて飼い猫から目を逸らしてしまった。
そのせいで全てに気付くのが遅れた。
車が通りすぎ、最後に聞こえたのが小さな鳴き声。そして、グシャッと言う思わず耳を塞ぎたくなるような音。そして、動かなくなった三毛猫の姿。その姿は数年経った今もなお、鮮明に思い出せる。
「はぁ……」
どうでも良い、全てが。自分が猫になったと言う奇妙な事実も俺にとっては些細な事だった。それでも一応現代人らしく、ネットで情報を調べてみるテイを取ってみる。それが人間らしい気がしたから。
「俺だけじゃなくて国内でこうなってるのか」
集めた情報を口に出してみる。でも、現実味は湧かなかった。訳が分からん。ただ、きっとこれもたまに起こるバグによる事件だろう。流石に自分の身に降りかかるのは、初めてだけど。だとしたら、誰かがなんとかするだろ。俺は何も出来ない。目の前の飼い猫すら守れなかったんだから。
「俺は、無力な一般市民です。別に反乱を起こそうとか思ってないので。だから何処かへ行ってくれませんか?」
自室の扉付近で、こちらの動きを逐一記録する人物に。俺はそう声を掛けた。
「そう言う訳には行かない。例え、それが本心だとしてもそれを証明させるのは難しい。それにもし証明出来たとしても、監視を解く事は出来ない」
「そうですか……」
目の前の猫耳お姉さんは、そう言って何処からか加熱式煙草を加えた。
「正直面倒臭いのは此方も同じだ。だが、何もしなければ此方から危害を加える事は無い。少なくとも、私は。だがな」
顔を背けながら、煙を吐いて何処か幸せそうな顔をしながらそう言った。
どうやら、今俺に出来る事は何もしない事。それしか無い様だった。仕方無く、俺は椅子に丸まりしばし休憩を取る事にした。何もやる事が無いし、長期戦になるのなら体力が必要だろう。
「……前の飼い主が、毎日の様に吸っていたからどんな物だろうと思って吸ってみたが、成程これは中々悪く無いな」
「んんっ……!」
少し寝て、ゆっくり周りを見る。起きたら元の身体に戻って無いかな?と言う淡い期待を、変わらない視点が否定した。早く誰かなんとかしてくれないかなぁ。
「そろそろ腹減ったか?私は食事をしようと思うが、お前も食べるか?」
「ああ、そうですね」
机の上のコンビニのビニール袋からち⚪︎〜るを出し。封を開け、俺の元へ持って来て差し出した。
「……」
果たして、美味いのか。みけざぶろうは美味そうに食べていたが、と言うか今の俺は猫の物を食べても美味しいと思えるのか?
「どうだ?」
「うーん、かろうじてうっすいマグロと思わしき魚が口の中で泳いでますね。猫舌になれば食べられなくもない。むしろ、美味しいですね」
「ふむ、一応人用の食べ物も用意しといたが平気そうで何よりだ」
「なら最初から出してくれれば良いのに……」
君が猫用の食べ物を食べてみたかった様に、私も人用の食べ物を食べてみたかったんだと言う彼女の言葉に何も言えなくなってしまった。
沈黙の中、彼女は海鮮丼を袋の中から取り出し。お世辞にも綺麗とは言えない箸使いでそれを食べ始めた。
「あ?……また上は頭おかしい事を。自分の私情を此方に押し付ける気か。そうされるコッチの身にもなれって言うんだ」
食後にゴロゴロとカーペットでしていると。アイコス猫さんが換気扇で独り言を呟いていた。
「はぁ……やらなきゃいけないのか。君、ちょっと来てくれ」
「はい」
「これから私は、君に虐待をする。どうやら、私達のボスは君達人間の反応が気に食わないらしい」
「はぁ」
要は、もっと恐怖心を抱くと思ったのに。猫になって喜んでいる一部の人間達のせいで、偉い人……猫か。偉い猫の怒りを買ったらしく、そのせいで一部の人間に対して虐待をする事にしたらしい。
「私を悪く思うなよ」
そう言って、彼女は猫を抱えて風呂場まで移動した。湯船の中へと一旦置いた。これから何をするか分からない恐怖感を与える為である。その後、シャワーから触れればまるで極楽へと飛んでいってしまう様な熱さのお湯を出し。それを容赦無く、猫の身体全体に当たる様に掛ける。
「レポートには、熱湯を用いた虐待を行ったと書いておこう」
そうアイコス猫は独り言を呟くが、彼女の虐待に余念は無い。逃げ出さない様に猫の手足をがっちりと掴み、指の一本一本まで薬品を纏わせる。そこで彼が鳴こうが喚こうが、彼女は気にせず。表情一つ変えずに虐待を続ける。その後、もう一度熱湯を掛け体内の温度を上げ急な体温の上昇で苦しませた。
そして、その後は冷風を浴びせ。今度は体温を下げる。それから専用の飲料を飲ませ、自分の立場を分からせた後。の服を購入し。産まれたままの姿の猫に、無理矢理着替えさせ。その姿を勝手に撮影したり。
インターネットに本人の意思を尊重せず。勝手に加工し撮った写真を顔も名前も知らない人間達に、勝手にバラ撒いたりと彼女の恐ろしき虐待の魔の手はその後も止まる事を知らなかった。