日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。   作:wakaba1890

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ヒトガタ?

ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 5月27日 午前 8 : 10 関東庁 召喚獣総合事案即応科棟。

 

夜の駐勤明けの汐留は時雨とSNSで話題になっているとある動画を見ていた。

 

「わぁお....これ、本物ですかね....」

 

「んぅ...どうでしょう.....フェイクでなければ寄生型っぽいですが....」

 

独立系SNSにてプチ話題になっているその動画は、どこかの牧場にて羊型召喚獣たちの中心で羊の頭か、お面?を被ったヒトが静かに佇んでいると言ったものであった。

 

そして動画の最後では、召喚式で見るような召喚印が展開しかけては消えると言う現象を繰り返した後、バッタリとそれらが止み撮影者らしき人物の方へと羊らが目を向けて、そこで映像は終了していた。

 

「「.....」」

 

「気持ち悪いですね。」

 

いいところでcmが入った後の嫌な感じを皆覚えていると、汐留は当然の感想を呟いた。

 

「...演出的にもフェイクっぽいですけど、なんか嫌な感じです...」

 

「....む、なんだ。」

 

「これ、どっちだと思います?」

 

廊下の掃除を終えて戻ってきた頭巾姿の玄道がまた下らん動画でも見ているのかと聞くと、彼女らは携帯の画面を見せた。

 

「!....ボスはどこだ?」

 

すると、玄道はいつもの興味なさげに息を小さく吐くのとは打って変わって、着ていた頭巾やエプロンを外してジャケットを着ながら才亮の所在を聞く。

 

「え、なんか....警視庁に行ってくるとか言ってました...」

 

「汐留、お前は武田と待機。時雨、準備しろ。」

 

「は、はい!」

 

「了解です。」

玄道は副科長としての的確な指示を命令し、才亮が持っているようなゴツい携帯を一瞥してテラツバメへと向かった。

 

事案発生を告げるサイレンはなしに、玄道らは千葉県 鴨川市の牧場へと向かった。

 

「・・なんか...全然、違いますね....」

 

『メェェェ....ップ』

『ウメェ....』

『ルメェェェル...』

 

SNSの動画からの事案であるのは明白であった。

ソレを踏まえ、携帯スライムで着地し髪型を整えて、いざ行かんとしていたが目の前に広がるのは気持ちの良い日光に温められたどかで平和な牧場であり、件の羊たちが数人の黒スーツの男と飼育員、警察官に誘導されている光景だった。

 

「.....」

 

一方、玄道は一切表情を変えずに緊張している面持ちで、こちらに気づいた警察官が青々とした芝生を駆けてこちらに向かってきているその様子も、やはり特段問題が起こってる空気を感じなかった。

 

「ふぅ....鴨川署の鴨下です。こちらへどうぞ」

透明なフルフェイスマスクを配られ、連れてかれてきたそこは先までのどかな牧場でのんびり駆けていた同種の羊型召喚獣たちの臓物が無惨に食い散らかっている様であった。

そして、召喚獣特有の習性からか、早贄のように引き抜かれた脊髄を支柱に少しかけた頭蓋がその中心に灯されているといった現場だった。

 

「....うわ...これ...」

 

悪魔崇拝的な何かしらの儀式を醸している様態に、時雨は顔を顰める。

 

「....」

 

「....玄道。どう思う」

 

「....その線は、拭いきれんな。」

 

ひと足さきに現場に来ていた才亮が、眉間にシワをよせている玄道に聞くと、彼の答えから芳しい状況ではないとわかった。

 

「...時雨、一旦出るぞ。」

 

「は、はい。」

 

隣にいる管理官のバッチをつけていない短髪の男としばらく話した才亮は、色々考えられる線を思案していた時雨を外に連れ出した。

 

ドアの中間に設置された簡易洗浄管を通って、クリアマスクをゴミ袋に捨てた彼は、羊たちを移送し終えた牧場の芝生へと向かい立ち止まった。

 

「「....」」

 

なんか相対してる立ち位置にてしばらく沈黙した後、裁量は浜風に身を任せながら口火を切ってきた。

 

「.....ふぅ...今回の件どう思う?」

 

「....野生の召喚獣にしては、雑すぎるというか....あんな食いかけで放置っていうのは無いでしょうし....人為的にしても、きな臭いです。」

 

考えられる要素を挙げてみても、どれもピンと来ずやはり宗教的な儀式を感じずにいられなかった。

 

「大体合ってるな...数年前になるが、関東庁の即応科が全滅したの覚えてるか?」

 

「っ....は、はい。」

 

それは、すぐに報道規制されて、ネットでは神格関連の事案にあってしまったと噂されていたものであった。

 

「あれは形而上召喚獣...通称ヒトガタの仕業だ。いや...あれに関しては、正確にはヒトガタの分体になるか」

 

「ヒト...ん?..えっとぉ...人と交配した召喚獣の子、でしょうか?」

 

三大タブーの一つとされる禁忌を犯したものから、生じたものがヒトガタとされると思った。

 

「いや...その線はない。あったとしても代償が大きすぎて扱えないしな...」

 

「....でしたら、神格の部類でしょうか?」

 

だんだんと絞れていく中で、いい具合に思考の枷が外れてきた時雨は淡々と考えられる節を挙げる。

 

「部分的にはそうだ。正確には、行き切った進化の先に、知性を獲得し言語野が発達するとヒトガタに進化し、文明をも築ける形而上召喚獣。通称ヒトガタだ。」

 

「......ぇ、なななな..なんで!こ、こんな情報教えるんですかっ?!」

今、彼女が知ってしまった情報は、西側諸国があらゆる代償を払ってでも手にしたい情報であった。

 

「即応科棟は情報が少ない中、神格事案に初動で向かう事もあるからな、即応科と一部に限り共有されている。」

 

「....ん、じゃあ...私一生即応科ですか?!」

 

「そうとも限らない....が、管理官としてなら即応科よりももっとキツイ所なら行けるな」

 

さも経験してきたように、彼は遠く青い空を見上げながらそう呟く。

 

「うぅ.....そ、そんなぁ....ん....え、いや...今回のって....」

 

わざわざ特級情報を短く伝えた辺り、時雨の肌艶の良い顔から血の気が引いていく。

 

「あぁ、今回の事案はヒトガタの視野に入ってる。」

 

「いやぁぁぁあっー!!」

 

のどかな牧場で、女の悲痛の叫びがこだまする。

 

しかし、話はそこで終わらない。

 

「.....京都、伏見。百鬼夜行。」

 

そのワードは、歴史の教科書にも登場しており、同様にかなり考察や学説が行き交っている事案であり、彼女もその辺りには雑多な見聞があった。

 

「...ん、んん???...いや、それって...指揮系の召喚獣のせいじゃ...」

 

ーーー京都伏見百鬼夜行。日本国・国史98ページ抜粋。

京都・伏見地域において勃発した、召喚獣の大群による大規模な都市騒乱事件。「指揮系」に分類される特殊な個体が、周辺域の「野生召喚獣」らを統率して市街地へと侵攻したことに端を発する。

この大規模な侵攻により、伏見一帯の都市機能は一時的に麻痺し、完全な動乱状態へと陥った。暴走した召喚獣群による被害は三日三晩にわたって続いたが、事態の収拾にあたった召喚獣管理官らで構成された討伐隊により指揮個体が撃退された事で群れは瓦解。事態は収束を見るに至った。

 

「こいつが京都伏見百鬼夜行の発端人。ヒトガタ召喚獣、ヒャッキヤオウだ。」

 

「っ......ぁ....は?」

 

神格関連だと思い反射的に目を覆うが、流石にそこまではしないと時雨は恐る恐る指間から彼が出したホログラムを見ると、それは明らかに召喚獣という次元から数段上のものであった。

 

年は20代そこら、瞳の色は紫と白?と左右異なり、髪色は真っ白で風に吹かれてオールバックに、身に纏っている下半身の服飾は白く澄んでおり、天衣のようなレースを何層にも重ねたものであり、豪円に燃える五重塔の頂上で紫や青、赤と多様な色を発しながら靡いていた。

そして、明らかに進化の臨界点を超えた蛇型、牛型、虫型の召喚獣が彼の周りを囲っており、顔ははっきりとは見えなかった。

 

「...えっと..本当に、召喚獣なんですか?」

 

佇まいやその情景からも、ヒトガタの存在を知らなければホログラムに映るソレは寄生型で自身の力を底上げした上で、強めの召喚獣を複数扱っているトップクラスの管理官か、宮内庁関連の人と言っても遜色なかった。

 

「あぁ、間違いない。」

 

「っ...しかし」

 

彼が嘘をつくわけないは承知の上であるが、彼女からしたらやはり暴走した管理官やその辺の方がしっくりきていた。

その辺りを察した才亮はジャケットを半分脱いで、右腕にがんじ絡めにされているイッタンモンメンをゆっくりと外す。

 

「....っ!!」

彼の右腕にはどす黒い稲妻が走ったかのようなクレーターが蠢いており、ゆっくりと確かに拍動し、イッタンモンメンを外した途端にソレは静かに彼の道へと幹を伸ばしていた。

 

「....確かだ。俺は確かにヤツと相対し、支払いきれない代償を担わされた。」

長く外したらまずいのか、彼は直ぐにイッタンモンメンで右腕を巻き直す。

 

「っ....まだ、生きてるんですか...それは..」

 

教科書で明言は避けてはいるものの、その時代トップクラスの管理官、そして宮内庁らで構成された討伐隊が本気になった時点で仕留めた事は言うまでもないと思っていたが、才亮の証言から彼らを持ってしても仕留めきれなかった事に愕然としていた。

 

「あぁ、ヒャッキヤオウは京都・伏見百鬼夜行の続きを....日本を、世界を召喚獣の国にしようとしている。」

 

「......はい?」

 

淡々とそう言う彼を前に、時雨は一周回って冷静になっていた。

 

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