日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
「・・...キメラ召喚獣の元は、寄生型召喚獣の部類か、宿主の形質を受け継ぎ食物連鎖の上の方へ、ヤゴにカニ...川魚...ネズミ...猪....人間。牧場社員の白鳥甫(23歳)を殺して、成り代わった。」
場所は関東庁即応科棟地下2階、臨時取調室。
今回の事案は事案も事案のため緘口令が引かれており、厄介がられているわけではないが関東庁庁官でも扱いに困っている即応科の棟は打ってつけの場所であった。
『.....』
才亮が調査書を読み上げるが、杉山の召喚獣ケロンボノの結界に縛られているソレは黙秘を続ける。
「兎角、なんなんだこれは」
数ヶ月もの間誰にもバレずに来られていた、完全に人間に化けられる脈動している人皮の一部を机の上に置く。
『....』
「鑑識の結果を盗み見たが、新人飼育員のDNAと合致し、汗や血流、新陳対処も確認できた。だが、人皮との意思疎通は出来ず。自意識がないのがせめてもの救いか....」
才亮は23歳の青年の無念に無機質な分厚いコンクリの天井を見上げる。
「...え、やばくないですか?あれ」
「...あぁ」
マジックミラー越しに見ている玄道と時雨はその人皮の脅威度に感嘆していた。
「まぁ、これに関しては問題はない。」
が、才亮らはそこまでの脅威とは思っていなかった。
「っ?」
スライムは僅かに困惑した様子を漏らす。
「....自害用の薬をなぜ使わなかった?」
『...っ!...(ん、今の今まで幻覚を..)』
制圧される寸前、確かに体外に排出して溶かして隠滅した筈のそれを何故目の前の男が知っているのかと動揺した様子が漏れる。
「いや、幻覚ではない。」
『は?』
スライム(仮)は思っていることが全て筒抜けであるとわかり、間抜けな声が出てしまった。
「そろそろいいか、解除しろ。」
『っ!...くそが...人間の手駒になりやがって...』
後ろに控えていた杉山にそう指示すると、スライムを捕縛している結界に付与された任意認識阻害は解除され、ずっと後ろにいた汐留にスライム特有の微弱の電磁波を通じてABテストも交えて全部読まれていたのを理解した。
「お前は順当に、半永久的に実験室詰めになるがどうする?」
『っぅ...他に選択肢があるのかよ』
「あぁ、お前が懸念しているのを保障した上で太陽の下で、寝食も確約された所なら用意できる。」
『.....見返りは?』
じっくりと間を空けた上で、スライムは余力を残す必要がなくなったと踏み、爽やかイケメンの人間の姿になってじっと閉じていた目を片方だけ開ける。
「知っている事を全て話せ。」
『.....いいぜ、何を聞きたい?』
「まずは、お前の名前だ。」
『...ははっ、俺の名前はシェイプシフター。お前らが探しているヒトガタの手駒の一つだ。』
人間特有かその律儀さに少し気持ちよさを感じた彼は選択した。
「っ....」
確証を確かに得た才亮は僅かに目を見開き、抑えていた何かが取調室に張り詰める。
『....(ヒィ...こっちに付いといて正解だぜ)』
「才亮。こっちに引き渡すまで時間ないぞ。」
すでにこの件に関して上層部同士の合議真っ最中であり、一度、警察から独立している公共安全保障局に引き継がれるのが大筋であったため、杉山はそんなのしてる暇ないぞと急がせる。
「あぁ、わかってる。」
諌められた才亮はゆっくりと目を閉じて開き、シェイプシフターに赴く。
『.....』
殺されることはなくとも、些か命の保障が完全ではないのを直感しながら、無言で立ち竦む才亮を前に顔を伏せる。
「シェイプシフター。ヒトガタは生きているのか?」
『...生きてる。ただ、まだ自由に動ける状態じゃない。』
才亮の凍てつくような冷たく重い声に、彼のみならずマジックミラー越しで聞いている玄道らにも畏怖を与える。
「解呪に時間を要してるか...」
『....一体、お前ら何だ?この国は何と契約している?』
シェイプシフターは前髪をオールバックにしながら天を見上げ、細目で得体の知れない彼とこの国を見つめる。
「................さぁな」
「「....」」
国の根幹を揺るがしかねないその投げやりな質問に、この中で唯一ソレについて知ってるであろう才亮の答えを待ったが、不穏な沈黙と冷え切った返答だけで彼の不気味さは敵味方関係なく畏怖に満ちており、これ以上は耳に入れたくない時雨は目と耳をつぶっていた。
『.....まぁ...そのせいで、下っ端の俺らがこき使われてるってわけ。というか、悪いが俺の立場からじゃ大した情報はないぜ』
空気が一変した彼を前にして、一転して生き残るために口数が増え利用価値が下がる事まで口走ってしまう。
「続けろ」
『っ....俺が今回ここに来たのは敵情視察だ。皮が剥がれても総合的に対応できる俺が派遣された。』
「どこから」
『...っ、限られた幹部は召喚陣の向こう側から莫大なコストを払って自ら来る。俺の場合は野生からそいつらに寵愛された。』
「寵愛....契約か?」
『いや、もっと隷属的なものだ俺の場合は左肩に印を刻まれ、本来なら、あの小娘に負けた時点で印を起点に灰になる筈だった。』
「っ...」
何か気づいたらしい才亮は心当たりを視線で杉山の方へと流す。
「....あー」
『あ?あー...そいつの囲いか、はぁ...最後に助けられるとは...』
初めに結界から出れずに苦難していたシェイプシフターだったが、そのおかげもあって印を作動させる令が届かずに今も生きていられているのだと情緒に困っていたが、才亮は構わず質問を続ける。
「才亮さん。そろそろ...」
「あぁ....お前は牧場で何をしようとしていた?」
『段階的に職員に成り代わって、拠点作り。』
「そう...上手くいっていたはずだ。そんな中、何故逃げようとしていた?」
日本国政府が人皮を認知していない時点で、初動としては上々。にも関わらず、大層な陽動キメラ、おそらく付与されたであろう手持ちの召喚獣を使い切ってでも現場を引き上げる動機が謎であった。
『....スゥ、発端はキメラが妙な行動をし始めてからだ。制御反応はこっちが完全に握っている中、指示もしていないのに妙な儀式を始め、しまいには羊を喰い散らかし何かを呼び寄せようとし始めた。制御できない領域に行く前に逃げただけだ』
「.....」
「っ..」
才亮はシェイプシフターに視線を置いたまま、周辺視野で汐留がコクリとシェイプシフターが嘘をついていないのを確認した。
「スゥ....逃げた理由は他にもあるだろう?」
「.....どうだろうな」
他の動機を聞くが、急にもったいぶった言い方で微笑みながら杉山がいる左へ目線を流す。
「ーーーーーチクタク...チクタク...」
しばらくの沈黙の中、杉山の腕時計の音が取調室内に響き従順だったシェイプシフターはその秒針になぞる。
「時間ないぜ、定期連絡が遅れて1時間経ったら、中継地点は...ボーン!」
「中継地点はどこだ」
従順だったのは半分時間稼ぎ、そして半分は人間側に取り付く余地を設けるためであると、つかみどころのないこいつの態度に苛立つ間もなく短く詰問する。
「....海。」
「杉山。こいつを頼んだ。」
「あぁ」
飄々とその場所を言い放ったシェイプシフターを後にして、才亮は短く指示をして臨時取調室を出る。
「時雨、汐留。行くぞ。」
「...え?海って言ったって、どこへ」
「問題ない。付いて来い」
汐留の疑問はもっともであったが、既に目星はついているようだった。
「ちょ、あの!本部に連絡は!」
「その時間はない。俺らで対処する。」
「えぇぇぇぇー!?・・ーーー」
颯爽と即応科棟を出て、既に待機していたテラツバメに乗った才亮は人皮がどこまで浸透しているかわからない事もあり、才亮らは時雨の叫び声と共に中継地点へと向かった。