日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
テラツバメに乗って到着した先は、羊騒動の牧場からそう遠くない廃墟となった旅館であった。
「ーー・・っと...ここですか?」
「あぁ、既に数体の召喚獣がいる。時雨は俺の後ろにいろ。」
「え、ぁ...はい。...って、ぁ」
ーーーズンっ!....ズズン!!ズン!
やっぱりこういう時の才亮は頼りになるなぁ、と思いながら言われて通りにしていると、汐留はシェイプシフターの風貌に擬態してサラッと旅館に入ると鈍い音が数発鳴った後、エントランスからひょこっと顔を出して手招きした。
(あれ...汐留さんも結構好戦的...)
なんとなく自分らが邪魔にならないように汐留に先鋒任せた方が良いといった意図が見え、武田とガチンコになりかけた事に妙に腑に落ちていた。
そこから先へ進み、向かってくるネズミ型召喚獣や猪型召喚獣を屠った先には、いかにもな古びたエレベーターがあり、それに乗って地下へと向かった。
「「....」」
「...ふふ...ふんふふーん...ふふん...」
妙に頭に残るBGMが鳴っているエレベーターに乗っていると、そのリズムが気に入ったのか時雨は鼻歌を口ずさむ。
「...時雨」
テラツバメに乗りながら、ずっと応援と武田の催促をしていた時雨であったが、いざ現場に着くと良い具合に力が抜けていたといえども、彼は今の日本の最大の脅威に準ずる事案で、そのマイペースさを諌めずにいられなかった。
「あっちの世界って、音楽とかあるんですかね。」
「あー、シェイプシフターさんが標準ならありそうですね。」
「さん付けかよ...」
「うーん、まぁ...スライムは皆シゲモチさんの親戚みたいなものなので」
今も微妙な立ち位置にいるそいつを敬称で呼んでいるのに苦言を呟くが、一番近くでシェイプシフターを観察していた汐留の感想はそう無理を言っているわけではなかった。
「才亮さんはあっちの世界に音楽とかあると思います?」
呼び名はともかくとして、時雨は彼にも意見を聞こうとした。
「....ある。...だろうな」
一目見たヒトガタが身に纏っていた装飾品、装衣、言葉の端々から感じる底なしの知性。
「別ベクトルで発展した...この世界以上の文明も...」
無いという方が難しく、そして計り知れない脅威を呟く。
ーーーーチーン
「....罠だな」
「はい、罠ですね。」
最下層へと到着しエレベーターの扉が開くと、海の中へと続くガラス張りの一本道の先にてドアが開いており、数十体の召喚獣の気配から待ち伏せを即察知した。
が、まだ体があったまっていた時雨と汐留がマッチョなネズミ型、犬型、陸鳥型の召喚獣らを屠ると、奥から聞き覚えのある男が現れた。
「女2人に2分持たないか」
背丈と声音から辛うじてわかったが、鴨川牧場の帽子を被った男は皮を剥がれた新人飼育員だった。
「なっ...」
「.....」
「っ...死体か...」
時雨は目を見開き口を抑え、汐留は静かに怒りを滲ませ、才亮は当人ではないと看破した。
そして、微かな電灯から見える男の後ろのガラスケースには、召喚獣ではないモノが三つ入っていた。
「助けてーっ!!」
「....管理官っ!!」
「ままぁ....」
「っ...子供...」
汐留の空気が変わり新人飼育員の方へ向かおうとするが、才亮がそれを腕で制する。
「汐留。何人行ける?」
「っ....爆破規模の最悪を見積もって、5人です。」
表面上だけでも冷静さを戻した汐留はシゲモチさんでの救出人数について言及した。
「わかった、子供らを連れて...地上へ行けっ!!」
ーーーーードンっ!!
『っ...!!』
黒いグローブを身につけた才亮は縮地とイッタンモンメンで一気に距離を詰めて、気色悪い見た目になっている新人飼育員を地面に殴り倒した。
「....皆さん、こちらに来れますか?抱えますよ。」
「...うん」
その隙に、汐留は子供らの方へ駆け寄りガラスケースを叩き割って、10歳程の子供らを3人抱えてその場を後にする。
ーーーー残り5分です。速やかに地上へ上がり避難を完了してください。
「っ...才亮さんは?!」
「さっさと仕留めて終わらす。」
「っ...はい!」
爆破5分前のアナウンスと警報音の中、エレベーターへ向かう汐留らを見送り時雨は残った才亮へ投げかけると、イッタンモンメンでがんじがらめになっている新人飼育員を見つめながらそう言って時雨を行かせた。
ーーーズゴンっ!!
「....っ!」
それも束の間、右脇腹にずっしりと思い一撃を食らいマウントしていた体勢から数メートルほど押し除けられた。
『...っ、よしっと。次は心臓を狙おうね。』
『コゥ!』
体を無理やり圧縮してイッタンモンメンから逃れた皮剥新人飼育員は、収縮した剥き出しの筋肉をほぐしながら、先の打撃の正体である召喚獣:ブロンズシャコを肩へと乗せた。
「...つぅ、そいつが白鳥甫の召喚獣か」
『白鳥甫。海洋召喚獣を持ちながら畜産系の仕事に興味があった故、高齢の両親を心配し実家からも近く、海沿いの鴨川の牧場へ就職。家族と召喚獣思いの良い青年だ。』
「....生きてるのか」
死体だと思っていたが、その口振りと継承期間の狭さから召喚獣を従えている時点でその可能性があった。
『ははははははっ......どうだろうね。』
軽快に笑っていた中、一転して無表情でありながらも右目から血の涙が流れていた。
「っ...待ってろ。すぐに助ける。」
『良い気概だ。流石管理官...!』
ーーーズドンっ!!
「っ...ぐ..」
ノーモーションで肩に乗っていたブロンズシャコを投げて来られ、才亮は左腕でそれを受け流したが、受けた左腕は腫れ上がり鈍痛が骨をついばむ。
『...コゥ!!』
「...っ」
踵を返して、再度地面を殴り加速し突っ込んでくるブロンズシャコの方へイッタンモンメンで受け流す姿勢を取り、今度はイッタンモンメンの表層を削られつつも受け流した。
『...っ!!』
が、間合いに入っていた新人飼育員が振りかぶった右ストレートを才亮へと撃ち抜く。
「っ...!」
『っ...コウ!』
黒グローブで衝撃を吸収し、掴んだ右拳を起点に蹴り飛ばそうとするが、復帰したブロンズシャコが天井を足場に彼の頭へと打ち込んでくる。
「...ツゥ...っ」
『...ん"っ!!』
ギリギリでイッタンモンメンで衝撃を吸収するが、視線が上がった隙に新人飼育員が頭突きをお見舞いする。
「っ....野郎...」
額に垂れる返り血の生温かさを感じながら、彼は頭突きの反作用を元に距離を取った新人飼育員を睨む。
『硬いところと、そうでない所があるね。リソースに限りがあるのかな?』
「っ...」
『コゥ..シャ!!コウコゥ!』
『はははっ、気持ちはわかるよ。』
見切られ始めたブロンズシャコは最小のイッタンモンメンの白布で簡単に受け流され、新人飼育員の肩へと戻って不満げに文句を言っていた。
ーーーーー残り3分です。
その間にも時計の針は進み続ける。
「...(操作しているのは海洋系か)」
残り時間が危険水域に入り中、才亮は冷たく海洋系召喚獣の可能性を見据えていた。
『....君も余裕そうだね。水深的にまず生き残れるわけないんだけど』
『..コゥ!』
ーーーパリンッ!...ミシッ...ミシミシ...
「....」
爆破時間を待たずして新人飼育員はブロンズシャコにガラスを割らせ、海水が室内に流入するが、才亮は眉粒一つも動かさない。
『...まぁ、いいや。管理官は一人でも多く潰さないとだし』
『コゥ...!』
互いの態度に嫌気がさしたところで、新人飼育員はブロンズシャコを胸元に添えて展開し、フルアーマー化した。
「っ!....」
『よし、そろそろ勝負つけようか』
半寄生型への分岐進化を成功させている辺り、彼らもまた召喚獣研究が行くところまで言っているのだと理解し、緒を締め直し向かい合う。
「....あぁ....!!」
『...っ!!』
ーーーーズドゥゥン!!
全身のバネを収縮させて発散させたシャコパンチと、イッタンモンメンで補強された左拳が激突する。
「...ぐっ....ぬぁっ!」
一時拮抗していたが、耐えきれず金髪の管理官がガラス張りの壁へと殴り飛ばされる。
「.....ツゥ...はぁ..はぁ...」
巻き付いていたイッタンモンメンの白絹が花びらのように空中を舞い、冷たい海水がスラックスを濡らし、粉砕されてミンチになった左腕に染みる。
『....何か奥の手があると思ったんだけど、杞憂かな?』
先までの余裕な態度から一転して、脱力し息を切らしている金髪の管理官を前に、新人飼育員はアーマーを解かぬままに右腕の鎧のような節を収縮し彼へと構える。
ーーーー残り2分です。
先の衝撃で海水の流入音は加速し、爆破まで2分を切った。
「....はぁ...っ...」
『何か言い残す事は?』
思ったよりも手応えのない相手にがっかりした新人飼育員はそちらの文化に合わせて、最後の余地を与えた。
「...ふぅ、この辺でいいか」
左腕はズタズタになりつつも、金髪の管理官は小さく息を吐いてぬるっと立ち上がった。
『...何っ?!...ぅ...』
予想外の行動に一瞬ギョッとし、準備万端であったシャコパンチを打とうとしたが既に体は動かせなくなっていた。
そして、才亮は海水が膝下くらいにまで浸っている中、飛び散ったイッタンモンメンの白い布や糸を回収しながらスタスタと歩き子供らが入っていたガラスケースの方へと向かった。
「.....まぁ...洗脳、催眠、乗り移り持ちがこんな所にいるわけないわな」
『っ!...!!』
と、縁の裏に風刺画で居そうな手乗りサイズのタコ型の召喚獣がおり、見つかってしまったと透明化が乱れながら、透明の水晶の後ろに隠れてキョロキョロと目を震わせていた。
『っ!....っっ!』
「....いや、何言ってるかわかんねぇよ」
タコ型の腹を右手で持ち上げると、足を合わせて命乞いしながら何かを説明している様子だったが、先までの流暢な会話は困難であった。
ーーーー残り1分です。
「...っと、そろそろか。」
警報音が増すが、彼は涼しい顔で新人飼育員を糸で補強して確保し、タコ型をイッタンモンメンで拘束する。
「....ん、これは一体...」
タコ型が大事そうに抱えていた一見何の変哲もない水晶を掴み、何気なく赤い電灯にその水晶を重ねる。
ーーーー谺イ縺励闍ヲ縺励謚ア縺阪◆縺??縺励∩縺溘
原子炉のようなエネルギー炉、空中に浮かぶ城、地下都市で寝ている何か、そして、管に繋がれ大樹の下で黄金の粉塵を浴びながら、青く燃える天体のようなモノや無機質な幾何学体がその男の周りを公転していた。
そして、顔を伏せていた紫瞳がこちらを捉える。
ーーーー....あぁ、お前か
「ーーーー・・っ?!...はぁ...っ....生きてたか...」
ギリギリのところで戻ってこれた才亮はあの時の感覚と同じものを感じ取り、探していた相手が確実に生きていることを再認識した。
『....っ!!』
すると、水晶から黒い触手が顕現しタコ型を捉えて持ち去ろうとする。
「っ...逃すか!!...っ...」
タコ型に繋いでいた糸を辿り、彼は右半身だけ水晶の中へと入って残った足で踏ん張って、糸の先を辿り急速に糸を巻くる。
『....!!』
イッタンモンメンの残ったリソースを全て注ぎ込むと触手?との綱引きにじわじわと競り勝ち始め、水晶から取り出そうと右半身を引く。
そんな中
いや、そんな中でも
彼はその声を聞き逃す事が出来なかった。
ーーー寒い..寒いよ...誰か...
「っ!!」
水晶内の寒くて暗い空間の中、わずかに一瞬だけ糸に伝ったその声の方へとリソースを全て注ぎ込んで糸を伸ばす。
「........捕まえた...っ!」
ーーーピキッ..
最大伸度ギリギリのところで手応えを感じたも束の間、水晶にヒビが入り始める。
「...っ、耐えてくれ!....っぅ!!」
これ以上無理をさせたくないが、強引に巻きを加速する。
「....っ...おじさん...だれ...っ....」
右腕を引っこ抜き10歳程度の男の子を回収し、片腕で抱っこをすると少なくとも人間に会った事で安心した彼は意識を失った。
ーーーーパリンッ....
そして、水晶はあっけなく割れてしまう。
「....っ」
爆破の揺れが大きくなる中、彼は割れた破片を回収し、男の子を抱えながらイッタンモンメンを全身に巻き付ける。
『....っ!』
水圧に耐え切れる状態を完了すると、ガラス張りの壁の外にはシゲモチさんがおり壁から離れろとジェスチャーを送る。
「・・...っ...すまない。」
その後、フルアーマー状態の新人飼育員と才亮らを回収し地上へと帰還する中、イッタンモンメンの中で、意識がない中でも震えが止まらない男の子を優しく撫でながら、自分の不甲斐なさに歯を食いしばった。
ちょこっと一間。
「....ふぅ...」
事後処理は才亮に任せ、関東庁に戻った汐留は駐勤残り数時間を消化するにあたっていた。
「...ふふ...ふんふふーん...ふふん...」
『ッ!...ッ!!』
つい口ずさんでしまったあのエレベーターでのBGMに、シゲモチさんはノリノリで踊り始めた。
「...ぁ....ふふっ、結構気に入りましたね。」
そういえば、シゲモチさんも割と音楽好きだったと、明るみを帯び始めた夜明け空を眺め実家に置きっぱなしのベースギターに思い耽っていた。