日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
『続いて、準々決勝。無傷の超新星!!キコリvs半ゴースト型召喚獣エンブ!!』
キコリこと武田は脱力して硬質化した木の幹を地面に垂らし、青白い炎を纏いながら冷たい白い息を吐いているゴースト型召喚獣馬骨エンブと睨み合う。
『レディー...ファイっ!!』
『....ビィ!!』
ーーーースカっ
『ヒィン....!』
『...っ』
突きの一閃は蒼い炎の先の骨を捉えたが手応えはなく、蒼い炎を破裂させてキコリを闘技場の隅へと吹き飛ばした。
「わざとですか?」
『ビービィ(うるせぇ)』
寸前で木の幹を振って衝撃と熱を最小限に抑えた武田は、汐留の煽りに悪態をつく。
『....!....!』
その間にも、エンブは足踏みをしながら纏っている炎を増幅させ続けていた。
「何か策でもありますか?」
『キコーリ!(押し通る!)』
「ワンパターンですね...」
彼女の返答を待たずして、彼は真正面からエンブへと突き進む。
『...ヒヒィーン!...!...?!』
『ビィ!ビィ!!ビィ!!!』
蒼炎は燃え盛り、風来に乗り全方面から蒼き斬撃となって武田に降りかかるが、タイプ相性など関係なしに純粋な木の幹を振り回す風圧のみで跳ね除け、距離を一気に詰める。
『....っ...ヒィーン!!』
2馬身まで詰められたエンブは蒼炎を盛って距離を取らせようとしたが、キコリは消えていた。
『....?....??...ヒンっ?!』
炎の総量を回復し、防御を固められたと思ったエンブは馬の視野で闘技場全体を見回すが、猿型が攻撃の起点として使った頭上のライトにもおらず消し炭にしてしまったのかとまで思った、その時腹部に思い衝撃が走り、闘技場の上空へと挙げられた。
『....ビィ!!』
直前で穴を掘ってエンブの足下へと潜っていた武田は、空に打ち上げられ身動きができないエンブを見上げながらゆっくりとバッターボックスに入り、構えてスイングをした。
『....ヒィン?!』
『.....!』
武田はスイングの風圧で骨だけになったエンブの中心を木の幹で貫き、コアとなっている人魂のようなゴーストを捉えて木の幹を天へと突き上げる。
『....しょ....準々決勝!勝者はキコリ!!!』
『『『うぉぉぉおおおお!!!』』』
「....らしくて好きです。まぁ...ドヤ顔が癇に障りますが」
今日一の歓声と熱狂が渦巻く闘技場内で、しゃがんでいる状態でシゲモチに圧縮されて無理やり変装している状態でもなお、我が道を征く彼の背中へ畏敬と戯言を呟いた。
『・・勝者はキコリ!!勝者はキコリです!!』
控室内にて、闘技場という特殊な環境下での試合という実戦。テレビ越しにキコリこと武田のパフォーマンスを目の当たりにし、ゴウキは今までに感じた事のない熱と妙な動悸を感じていた。
(震え...恐れているのか?...いや、これは..)
ーーーくかっ!勝ち越してみぃや!
(....そうか、こいつが新たな好敵手か)
筋肉の痙攣と手の震えを抑えながら、久しく感じていなかったあの感覚を想起した。
「君には山籠り修行より、こっちの方が良さそうだ。」
これまでの様子から、ゴウキの主の役として赴いてきた、ジーパンに白シャツの爽やか男子大学生に化けている鳥型分体は暫くぶりに口を開いて遠回しに闘技場に残るのを勧めた。
『キィ...それはお前と、門の向こうのやつを倒してからだ。』
「....」
滅多に訪問者が来ない神社の門番として、日向ごっこをしながらのんびり居眠りしたり、他の者らと酒盛りして世間話をするその日々を邪魔されかねないと、その静かな苛立ちがゴウキの胴体を白羽となってふわりと通る。
『!...っ』
こちらを嘲笑うかのように命の寸前をふわりと通った胴体に手を当てると、何も危害は与えられていなかった事に胸を撫で下ろす。
「ホッホォー....まぁ、いいさ。来れるところまで来ればいい。」
『.....』
完全に人間に化けている中で鳥型の名残りを僅かに漏らした鳥型分体の投げかけを背に、ゴウキはテーピングを撒き直して闘技場へと向かった。
一方、武田らの控室内では、変装シゲモチを解いてもらって水分補給とストレッチを行なっていた。
「....優勝したら、一生キコリを演じる必要があるかもですね。」
「なっ!?」
ぼそっと言われたその文言に、彼は動きを止めて眉間に皺を寄せながら彼女の方を向いた。
「まぁ、既に目をつけられますし。仮に人間だったってバレたら運営組織に報復されかねませんし」
「!...報復か」
時雨などであれば卒倒しそうな単語なのだが、それを聞いた武田はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「なんで乗り気なんですか...」
「近頃、玄にぃも手合わせしてくれんくなったからなぁ....新人女相手にしろ、猫っころに邪魔されそうやしん、科長はたまに相手してくれんが忙しいのぉ、そこで丁度良い手合わせ相手が欲っけ」
「....スイッチ入った玄道さんだと、手合わせが終わらないでしょう。その辺分かってて遠慮してるんですよ。というか、千智ちゃんを手合わせ相手に数えないでください。」
右眉を上げながら珍しく悩みを漏らす武田に対し、彼女はつけていたサングラスを外し眉間を解しながら各々の事情を説明した。
「うーむ、悩ましい。」
「いや、あんたがだよ。」
度々議題に上がる武田の相手を誰にするか問題。はもって彼以上に周りが頭を悩ましていた。
そんな中、決勝戦前のレスト時間中、実況席のバックステージにて、金ピカスーツを着た男や黒スーツの男、バニーガールの格好をしている女らが揉めていた。
「おいおい、どうすんだよ....」
「エンブが優勝するって話じゃなかったのか?!」
「だから、偽物でいいって言ったのにぃ!!」
ーーーーパァンっ!
「「「.....」」」
「ともかく、今更すり替える事は組織の信頼失墜になる。だからそれは無し。」
準決勝で八百長が失敗し、各々文句を言い散らかしていたが、低身長の黒髪ツインテールバニーガールが持っていた紙袋を割って鎮まらせ、これからの方針を固めた。
「じゃあ、どうするんだよ。あの卵自体誰かに渡す用じゃないんだぜ?」
「優勝者から買えばいい話。今回の番狂せで過去最高収益。孵化する前に言い値に答えても十分取り返せる。」
低身長バニーはビール瓶が入っていたケースを足場にして、テーブルに上がって皆に中心に立って方策を話した。
「キコリならともかく、ゴウキが勝ったらどうする?ゴウキの主を調べたが、SNSアカウントもなし、戸籍も何も確認できなかった。透明人間だぜ、こいつぁ」
襟足長めのパンク系の椅子の人は短い時間の中、調べきっても掴みどころのないゴウキの主を訝しんでいた。
「その時は実力行使。闘技場の地下に呼び出して、封殺するだけ。」
自信満々にそう答える低身長バニーであったが、彼女らは誰を相手にしてそんな事を言っているのか分かっていなかった。