日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
『青コーナー....優勝候補を次々と撃破!!甘いルックスに騙されるなー、俊敏性と膂力からなる棒術は一線級!!ネズミ型召喚獣...キコリぃぃぃ!!』
「キコリぃぃぃ!!」
「うちの召喚獣と番になってぇぇぇ!!」
「ネズミ型がチャンピオンになるんや!!」
一日にしてファンができたキコリは結構ノリノリで変色し、より頑強になった木の幹を空へと掲げて歓声に応える。
そして、会場が暗転し数秒の無音の後、登場口にライトが当たりロックバンドの音楽が鳴り響く。
『...続いて、赤コーナー。黒く染まった道着はこれまでの鍛錬の証。燃え盛り煮え激っている闘志は豪炎のように波打つ。立ちはだかるものは全て己が"武"のみで殴り屠る。猿型召喚獣.....ゴウキぃぃぃぃ!!!』
「うぉぉぉぉ!!!」
「ゴウキぃぃぃ!!!」
「かましたれぇぇ!!ゴウキぃ!!」
『ダークホース同士の決勝戦!!』
両者見合い、天井のライトに乗っかっている猫型召喚獣センコウは逃げるように尻尾の火花を落とした。
『レディー....ファイ!!』
合図と共に、互いに一直線に走り出す。
『....ッ!!』
『....キィ!!』
ーーーーーズゥゥン!!!
キコリの突きとゴウキの拳が衝突し、闘技場中にソニックブームのような衝撃が走る。
『『......』』
力が拮抗し、どっちが力負けするか、どちらが引くかをという状況に互いにニヤリと笑う。
『...ッ..ビィ!』
『...っ..ァ...』
根比になるかという所で、キコリはゴウキの拳に突いていた木の幹を離し、ゴウキの懐に入りトーナメント中一度も使わなかった拳を顎にお見舞いした。
『....?!...ぅ』
極端にウェイトに走らずに俊敏性と柔軟性を磨いてきたオールラウンダータイプのゴウキであったが、意識外からの攻撃にその柔軟性を発揮できずにモロに脳震盪を起こした。
『....ビィ!..』
ーーーダァン!!
情けなど敬意に欠ける行為などせずに、キコリは木の幹を足で拾い上げてガードを固めながら頭を抑えているゴウキへ木の幹を振り上げるが、寸前でゴウキはキコリもろとも地面に頭突きをした。
『!....(野郎...)』
『キィ...』
頭突きによって数メートル吹き飛ばされたキコリは、額に血を流しながら構えているゴウキに口角を上げた。
『....ビィ!...ビィ!ビビぃ!!』
『ィ...っ...キ....』
縮地で距離を一瞬で詰めて、キコリは袈裟斬り、一文字斬り、切り上げを喰らわすが、ゴウキはその太刀筋を見極めるように後ろに後退しながら受けては流してはいるが、着実に闘技場の端っこへと追い詰められていた。
『....ビビィ!』
そして、後ろは壁、前はキコリという位置まで来た辺りで、キコリは他太刀筋のフェイントを入れて突きをのど仏へと放つ。
『...!』
『...キィ』
『っ...』
しかし、それを読んでいたゴウキはしゃがんで交わし、壁に突き刺さった木の幹を取手に壁を伝ってキコリの背後へと回って蹴りを打ち込んだ。
『...?...キィっ!!』
ーーーーードラドラドラドラっ!!
腰あたりへ確かに打ち込んだゴウキであったが、骨や筋繊維が砕き破裂する感触はなく違和感を感じつつも、木の幹を抜き取ったキコリへガトリング砲のように拳を連撃した。
『....っ!!!』
とめどなく降りかかる重いパンチにキコリは木の幹で受け流し続けるが、加速し続ける蓮撃に木の幹はミシミシと悲鳴を上げる。
「うぉぉぉっ!!」
「決めきれっ!!」
「押せ押せ!!」
ゴウキ推しの観客らが押せ押せ状態のゴウキを後押しし、会場全体が負けそうだった所を持ち直したゴウキを応援していた。
「あー勝ちましたね。」
「あぁ」
「意外と考えますね。意外と」
『甘いな』
ただ、この闘技場内の黒髪オールバック、黒髪ショートボブ、ドレッド男の3人と一鳥は武田の勝利を確信していた。
ーーーースパンっ
その次の瞬間、ゴウキの右腕は歪ながらも、蓮撃によって精錬され木刀と成った木の幹に切り落とされた。
『!..キ..』
ゴウキは一瞬、切り落とされた右腕に意識をとられたが、構わず残った左拳を放とうとした。しかし、既に首筋に木刀が添えられていた。
『....ビィ』
『....っ...キ..』
鳥型を除けば久々の敗北に、ゴウキは寂しさが悔しさに溶けている感覚を感じながら、振りかぶった左拳を地面へと付けようとした。
「....Bプランでいいか。」
その様子を傍観していた鳥型分体はボソリとそう呟き、ゴウキの胴体へ白羽を送った。
『っ!...キィ....ギィィ...』
しなだれたゴウキの毛並みは再び立髪し、彼が纏う空気が歪む。
「ん....キコリ!下がれ!!」
『ビィ?....!?』
汐留がそう叫ぶとゴウキをドーム状に囲ってシゲモチさんが展開する。
ーーーーービバぁぁぁぁんっ!!
急速にエネルギーが収縮して発散した衝撃でシゲモチさんは闘技場中に飛散した。一方、観客たちへの被害は最小限に抑えられたが、地下闘技場を支える天井の柱に大きなヒビが入った。
『ビィビィ.....通常進化じゃねぇな...こりゃぁ」
そして、土煙が晴れる中、爆心地に最も近かったキコリは中身の武田が半分程あらわになっていた。
『んん?!!?ななななんと!キコリは召喚獣ではなく、人間が変装していま...ん....あの人どこかで...』
実況司会者はその様子を逃すことなどなく、どこか見覚えのある人だとマイクすると、巨大モニター上で映し出されたその姿に観客たちは血の気を奪われた。
「っ!!ヤベェ!サムライ管理官だ!!」
「え、誰それ?!」
「いいから逃げるぞ!!絶対、他の管理官もいるぞ!!」
「うっそだろっ?!」
一斉検挙を恐れた観客たちは各々召喚獣を召喚し、非常階段へと一目散に向かって蜘蛛の子散らすように逃げ始めた。
「...時雨、ほか潜入員らとの避難誘導を任せた。」
「うぇ?!ぁ...はい!え、才亮さんは?!」
カップに残っていた氷を口に流し込んだ才亮は時雨に笛を渡し、管理官の研修期間で見覚えのある誘導用の笛だったためすぐに状況を飲み込んだ。
「卵を確保してくる。上で落ち合おう。」
「了解!」
短く指示を与え、飛散したシゲモチを回収しながら天井を支える柱を補強している汐留を一瞥し、実況席の上に掲げられている卵の方へと向かった。
『....キィ....ギィ...』
「.....」
一方、闘技場では、肩で息をしながら右腕を白い何かで繋ぎ合わせているゴウキと武田が向かい合う。
『....ギィぃぃい!!』
「...っ..!..しっ...」
数段早く重く成ったゴウキの蓮撃を、木刀で最小限の動きで受け流す。
『...んギィ!!』
ーーーーピキッ....ミシミシ...
ーーーーズドぉぉん!!
見かねたゴウキは上段蹴りを放ち、武田は木刀でそれを受けるが流しきれずに壁に打ち付けられた。
「ぬっ!....ぅ...(...木刀が持たんか)」
『ギィ!!』
「!!....っ」
壁に挟まれた追撃についには木刀が破裂し、振りかぶった右拳が顔面へと向かった最中、その声を聞き逃さなかった。
「....武田、受け取れ!!」
ーーーードゥン!!
『ギィぃ?!』
ーーーーズドぉぉん!!
飛散したシゲモチを経由して武田の方へと届いたそれを振るうと、ゴウキは十数メートル程吹き飛ばされた。
「んぅーむ、馴染まんな。」
武田は携帯槍を肩に担ぎながら、不服そうに口を曲げていた。
「・・ぁ...あんだあれ?!」
他方で、トンズラする支度をしていた運営者らは暴走状態のゴウキに生身で戦っているゴウキたちの攻防に目を奪われていた。
「おいっ!そんなもんいいから早く逃げるぞ!」
「あ、あぁ...」
「うぅ...捕まりたくねぇよ...っ」
「ん、お、おいっ...大丈夫か?...っ」
低身長バニーが急かすと呆気に取られていた者らが支度を再開するが、ドミノ倒し的に気絶していき皆が気絶すると、ドアがゆっくりと開いた。
「.....」
スタスタとゆっくりと歩く爽やか大学生はテーブル上のアタッシュケースを開けて、アクリル板で保護されている卵を持ち上げる。
「一体、どこで手に入れたんだか」
彼はその辺はまだ自分が考えることではないと踵を返し、外へ出てこいつらが使おうとした隠し通路へと向かう。
しかし、黒髪オールバックの繋ぎを着た男に阻まれる。
「....運営の...人間?....じゃないな。」
新人飼育員くらいの年齢に見えたため、若すぎると思いその線を無くしたが、才亮は相手はもっとヤバイ存在だと瞬時に理解した。
「....ん、おかしいな。」
爽やか大学生こと鳥型分体はいつもなら相手がどんな召喚獣を持っていて、どれくらいの格を持っているのかが測れるのだが、目をしぱしぱさせながら目の前の男を怪訝そうに見ていた。
「和歌山の...鬪雞神社、それも支社..いや別荘か...」
黒髪が根本から金髪へと変遷していきながら、彼の右眼内には金の線が幾何学的な沿線となって渦巻き表出する。
「あれれ....同業者...なら、わかるはずだが....」
身元を看破された辺りで同じムジナを疑ったが、どうにも一方通行な点に引っかかっていた。
「そんなのはいい。その卵を渡してくれ」
「なぜ私がタダでお前に渡す必要がある?」
不躾な要求に鳥型分体は淡々と聞きながらも、その言葉には若干の苛つきが帯びていた。
「出所を調べるために必要だからな」
「それはこちらでも出来る。」
「...そも、その卵は関東圏での領分だ。持ち出すのは神格協定違反だろう?」
「......」
ニュアンス的に卵の出所自体が鬪雞神社でないとわかり、彼は神格同士の協定を引き合い出すと鳥型分体は黙り込んだ。
「「.....」」
ーーーー崩落の可能性があります。闘技場内の皆様は速やかに指示に従い、落ち着いて地上へ避難してください。
警報音と避難のアナウンスが流れる中でも、金髪の男の瞳の中では金の糸が幾何学的に絡み合って天文のようにゆっくりと動いていた。
「スゥ....見返りは?」
長引けば長引くほど不利になるのを察した鳥型分体は小さく息を吐き、薄目で気だるそうに彼へと投げかける。
「そちらの"思惑"を上申しない。」
「...何を担保に」
目の前の金髪男がこちらの卵を追ってきた意図を、どこまで手繰り寄せているか、寄せたのか、わからない中、鳥型分体は小さく息を吐き控えていた白羽を収めて、最悪を想定し妥協点を探った。
「フェアにこちらの糸をお前に縛る。そしたらそっちの羽を埋め込めろ。」
「!....あぁ、契りを受け入れる。」
今まで数える程度しか認識されなかった、不可視の白羽すらも看破されたのに目を見開き、鳥型分体は短く首肯すると、警報音がより短い間隔で鳴り響く。
ーーーーーピィィィ・ピーポーピーポーピーポー
一方、汐留が補強した柱が辛うじて持ち堪えてはいるものの、天井が崩れ始め瓦礫が落下している中、闘技場では戦いは止まず、豪鬼は武田と熱戦を繰り広げていた。
「.....おらぁっ!!」
『!!....ンキィっ!!』
「っ....ドラァ!!」
『...かっ...ハァ!』
フルスイングした槍の衝撃を流さずに受けきったゴウキは槍を掴んで引き寄せ、右拳を武田の顔面に打ち込むが、武田はさっきから顔ばかり狙ってくるのを読み、避けて交差した腕越しにゴウキのボロボロの道着を掴み、一本背負いで地面に叩きつけた。
「汐留っ..シゲモチを寄越せ!!」
受け身も取れずに肺の中の空気が押し出されて、 生理的に怯んだ隙に武田は三角絞めで朦朧状態のゴウキを締め上げて、数十メートル離れた先の観客席の通路で、逃げ遅れを確認し終えた汐留へと声を上げる。
「っ...リョー...かい!!」
汐留は回収し終えたシゲモチさんをボール状にし、ワインドアップで大きく振りかぶり、中里のようにテイクバックを肩にめり込ませ地面に踏み込み、スナップを効かせてゴウキの方へと投げた。
ーーーーバッ!!
着弾する手前でゴウキの上半身を包むようにシゲモチが展開し密着した。
『っ....!...!!....』
気道は武田に締め上げられ、シゲモチが完全に空気を遮断。変異した時点で手札が揃うまでの持久戦へと持ち込まれて、消耗し切っていたゴウキは水のように掴みようのないシゲモチを掻きむしりながら気絶した。
「...仕留めましたか?!」
残ったシゲモチリソースで駆けつけた汐留は彼にあらぬことを聞く。
「殺しとらんわい。それよか....」
ーーーードーン..ドサドサ...
一難去ってなんとやらで、武田は傷病範囲をシゲモチさんに治癒してもらっているゴウキを傍に順調に天井が崩壊し通路が遮断していく様を眺めていた。
「...どうやって地上へ出るかのぉ...かかっ!!」
明らかに短期決戦向けのフォルムだったゴウキを前にして、持久戦に持ち込んだ時点で分かり切っていた事ではあったが、逃げる時間などは鼻から考えいなかった武田は明朗快活に笑っていた。
「なんでそんな陽気なんですか...」
武田を気にしつつ、逃げ遅れてる人を隈なく探していた汐留も分かってはいたが、今はそれよりも普通だったら大ピンチの状況を前にして笑っている彼を怪訝そうに横目で見ていた。
「ぁのぉー....シゲチぃがなんとかしてくれるやろう!...のぉ!」
『...b!』
武田がそういうとシゲモチさんはゴウキを治癒しながら、力強くグッドサインを示した。
「シゲモチさんまで....まぁ、どうとでもなりますけど...」
彼の戦闘後ハイがシゲモチにも移った所で、汐留は眉間を抑えたが彼の言い分は何も間違いではなかった。
その後、瓦礫の中、限られたスペース内で武田と二人っきりで気まずいかと思いきや、珍しい機会というのもあってか意外と弾んだ会話をしていると、すぐに救助されたのであった。
ちょこっと一間
瓦礫の中での会話内容:うまいスイーツについて
「食後の羊羹は外せんなぁ..」
「あー美味しいですよね。あれまとめ買いしてるんですか?」
「作れる数が限られてるらしいからのぉ、買える時に買っとる。」
「へぇー、食べちゃって良いんですか?私も千智ちゃんも結構な頻度で食べてますけど...」
「よかよか、良いものは皆で食うもんや」
「.....今度、まる福の羊羹買ってきますよ。」
「ほんとけ?!かかっ、瓦礫に埋まった甲斐があったわい。かかかっ!」
「ふっ....そうですね。」
二人っきりで話す機会などなかったため、こういった形でも親睦が深まったのは僥倖...というよりケガの冥利であった。