日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
「ふっ...ふぁっははははっ!あいつの言った通りだ....」
ジメジメとした夏の始まり香る夜、家の離れの倉庫内にて、青年は胡散臭い本を机に置き頭を抱えた。
『コッ...ケ.....コケェぇぇぇ!!』
「これで世界はわいのものや!!」
点滅する光に包まれた召喚獣を目の前にして、歓喜の叫びを上げた。
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月1日午前9:15 関東庁 即応科棟内務室。
『・・国民的朝ドラのヒロインを務めた女優の朝倉シオンさんが、本日未明、都内在住の一般男性との結婚を電撃発表しました。所属事務所によりますと...」
「へぁー推しと結婚ですか、夢がありますねー」
クゥさんのブラッシングをしながら見ていたニュースに、時雨はぼんやりと感想を呟いた。
「時雨さんは推しいるんですか?」
「はい!生まれてこの方、クゥさん推しです!」
『..んな?』
汐留はコーヒー片手にそう聞くと、時雨はブラッシングで気持ちよくなっていたクゥさんに顔を近づけて汐留の方へと一緒に顔を向ける。
「...ふふっ、私と一緒ですね。」
『b!』
後輩の可愛い反応に、汐留はシゲモチさんに視線を流すとシゲモチさんはグッドサインを示し、彼らの思いも同じであった。
「玄道さんの推しは誰です?」
そして、時雨は窓ガラスの拭き掃除を終えた、手縫いの黄色いクマさんエプロンを着ている玄道にも同じ質問を向けた。
「む...推しか、うぅーむ。妻だな。」
「え...結婚してたんですか?!」
彼は生真面目に一考しそう答えると、初情報に時雨は驚きを隠せなかった。
「あー、そういえば言ってませんでしたか」
ーーーーズシっ!
「うむ、聞かれてないからな。」
顎に手を添えている汐留がそういうと、玄道はゴム手袋を外しながらそう呟く。
ーーーードンっ!!
「え、でも....指輪。」
思い返してみても結構人の指先や細部を見て覚えている時雨は、何回かしか見てなくとも指輪をしてない彼を鮮明に覚えていた。
「っ...妻に許しを得た上で、外している。」
「な...なるほど...奥さんってどんな人..」
その指摘に眉間に皺を寄せた彼から、その件で一悶着あった様子が窺え、それもあってかどういう人なのかが気になり聞こうとした。
ーーーズっ..ドドドンっ!!
「って...ちょっと...朝からうるさい!!」
その時、汐留は窓を開けて、即応科棟側の開けたところで一生組み手をしている武田とゴウキを注意した。
「かかっ!後で相手してやるから待っとれ!!」
『キキィー!』
「....スゥ」
話の通じなさに溜飲を下げた汐留は窓を閉めて、ソファーに沈み込み朝ドラ女優結婚で盛り上がっているテレビの音量を下げると、内務室のドアが開いた。
「おっ、丁度いいな。バッジは付けてるな...よし。」
「え、はい。おはようございます。」
「あぁ、早速だが時雨、汐留。行くぞ。玄道は...あいつらを見といてくれ、ヒートアップしたらこれを使え」
「うむ」
テレビを一瞥し、皆揃っているのを確認した才亮は朝から熱い戦いをしている武田らをちらっとみて、玄道にまたし作品っぽい円形の筒っぽいものを渡した。
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月1日午前10:10 東京都渋谷区 シルフィード渋谷プレジデンス最上階。
都内のタワマン最上階にて、世界一幸せな筈の一般男性は朝から強制大食い大会に勤しんでいた。
「はい、あぁーん。」
「うっ..ぷ、朝からカツ丼と焼肉って」
「何?嫌なの?」
「違っそういう意味じゃ...うぅっ」
(くぅ...ウッソだろ....こんなの全然想像してたのと違うじゃないか!)
次々と焼かれて皿に盛り付けられる肉を口に詰められている男は彼女の圧に負けて、腹15分目を突破する。
「ふふっ...美味しい?」
「ん...ふぁい」
(毎日こんなんばっかで、夜はそんな気にもなれないし..)
表面は笑顔を保ちつつも、内心ではこの苦しみに見合ったリターンを経験すらできていない事につらつらと愚痴を吐く。
「よろしい。まだまだあるからね。」
「っ...」
(まずい...このままだとセブンみたいな死に方になってしまう!うぅ...無料ほど怖いものはないってこの事か....)
彼女の愛情表現が美味しいものをひたすら食わせるという中で、逃げ場のないこの状況に男は絶句したが、どんな人にでも手を差し伸ばされるものであった。
ーーーーピーンポーン。
「僕出る!!...はーい、どちら様」
『召喚獣管理官の才亮です。少し早く到着しましたが、よろしいでしょうか?』
「はい大丈夫です!」
失念していた助け船に彼は一瞬で一階の専用エレベーターのロックを解除した。
一方、緩やかに階数を上がっている静音エレベーター内にて、時雨は独り言のように呟く。
「ここの最上階っていくらするんでしょうかね...」
「10億行かないですね。建築菌のアップグレード版でしょうし」
「あー、セカンドハウス税の増税で値下がったのか。」
「え、狙ってたんですか?」
「ん、まぁ...」
妙に知ってそうな才亮にそう聞くと珍しくはぐらかしている様子だった。
「愛人でも連れ込む予定でしたか?」
「え、才亮さんも結婚してたんですか?!」
「はぁ....お前らな、俺は今までもこれからも独身だよ。」
ーーーー...チーン。
汐留がからかいを投げると時雨にも着火し、階数のランプが満たされていくのを眺めながら才亮が悲しいことを呟くと最上階に到着した鐘の音が鳴った。
「あら、玄関口はこっちじゃなさそうですね。」
「あぁ、確か右だ。」
「...普通に電撃結婚くらいあるんじゃないですか?」
ドアが開くとそこは玄関口ではなく、彼らの後ろを付いていきながら時雨がそう聞いた。
「マネージャーからの通報で洗脳催眠系の可能性から、俺らが来てる。」
「うぇ?!なんで今言うんですかっ?」
「気を引き締めるためだ。」
「ぐぬっ...はい。すみません。」
顔だけ少し彼女の方を向けて彼がそう言うと、朝ドラ女優に会えることに少々浮かれていた時雨の特性を理解したマネジメントに納得せざるおえなかった。
「....バッジは付けたな?入ったら、ドアノブにも物にも触れるな。あと、話すのは俺だけで、話しかけられても何も返さなくて良い。質問は?」
「「.....」」
「よし...(さて、どんな野郎か...)」
才亮の締まった空気が浸透した彼女らを確認した彼はインターホンを再度押した。
「ラブラブだもんねー!」
「ねー!」
しかし、目の前の夫婦は新婚ホヤホヤで予想とは離れた光景だった。
「「....」」
「お時間頂き感謝します。今回はそちらの召喚獣の変異疑惑の払拭が完了した事と、いくつかの書類記入をお願いしに参りました。こことここにサインをお願いします。」
何かいいたげな時雨をよそに才亮は捏造した口実をこなすために淡々と事務的にこなした。
「はい、わかりました。...っと....ですね。とにかく何もなかっただけでも良かったです。」
「むぅ、みーたん帰ってきたら私との時間少なくならない?」
軽く目を通すだけでサインを完了した彼は書類を才亮へと返すと、朝ドラ女優が彼の腕をガッチリとホールドしながら上目遣いで甘撫で声を囁く。
「そんな事ないよぉ、仕事も在宅になったからずっと一緒にいられるよ」
「.....どうかなぁ」
「ぅ....」萎縮している。
顔はニコニコしつつも酷く冷たい声音に、彼は表情を強張らせていた。
「....その首に下げているのは?」
「あー....これは...お守りみたいなものです。」
才亮はそんな彼らの関係よりも彼が首に下げている半金半黒の卵について聞くと、彼は一拍置いてそう答えた。
「なるほど、今回は時間を頂きありがとうございます。後は管理園に赴いて頂ければ引き渡し可能です。また何かありましたら連絡ください。では」
「あぁーいえ、こちらこそ。すみません」
「....こちらこそ?」
彼の言い草に眉を顰めた彼女の少々ドスの効いた声を背に、書類を確認してあっさり引き上げた才亮は玄関の外に出ると、最上階から見える渋谷の景色をツマミにココアシガーを口に咥えた。
「....??」
時間にして5分かかっていない中で、一仕事終えたみたいな雰囲気を出していた彼に時雨は口を開けていた。
「ん...食うか?」
「え、いいんですか?いただきまーす。うぅん、素朴な味」
欲しそうにしていると見られた彼女は快活にココアシガーを受け取って、ニコニコしながらボリボリと食べた。
「....そうやって食べるの召喚獣以外で初めて見ました。」
「た...大変、美味しゅうございました。」
「どういう取り繕い方だよ...」
豪快な食べ方に少し感心している汐留に彼女は淑やかさで誤魔化していた。
「そっそれより、何を待ってるんですか?もう用なんて....」
「!...っ」
時雨がそう聞くと彼は玄関扉の方を指差し、耳を澄ませてみろというジェスチャーをした。
「ん....!?」
ーーーオメェのせいでバツ一つついちまったじゃねぇか"よ"っ!!
ーーーなっ、くっ、苦しい...!
ーーーオイ!!逃げんじゃねぇよ"ぉ"!!
ガッツリ揉めている様子で、足音がどんどんこっちに近づいてきていた。
「...それ返してぇぇ!!」
すると、玄関扉から現れたのは朝ドラ女優にヘッドロックを決められながら才亮の方へと手を伸ばしている彼であった。
「ん、これのことか?」
才亮は拳を平行に差し出して掌を下へと開くと、イッタンモンメンの糸で吊るされた半金半黒の卵を見せる。
「え!?いつの間に」
時雨は彼の手癖の悪さに感嘆していた。
「で、これは何なんだ?」
「それは....ちょっ..まっ......願いを叶える卵だ。」
朝ドラ女優に関節を決められ始めながらも答えた。
「そりゃたいそうなもんだな。出所は?」
「...おっ...くぅ...ふぅ、ありがとう。願い箱っていうhirokki-で見て、免許証を添付して願いを呟いて...」
流石に邪魔になってきたため、汐留が淡々と仕留めにきている朝ドラ女優を引き剥がすと彼は手続き内容まで話した。
「違う。どうやって受け取った?」
「っ...いや...それが、寝て起きたら首にぶら下がってた。それにポストカードが枕元にあって、注意書きで常に身につけておけ。と。」
両手をフリーにして彼を見下ろす才亮に気圧されて、彼は早口ながら正確に説明をした。
「代償はないのか?」
「そこまでは...わからないです。申し訳ない...っ...あ、ちょっ!?」
その後、朝ドラ女優を離して、早々に話を切り上げて警察に引き継いだ。
そして、屋上からテラツバメを呼び寄せている最中、....まずいな。と才亮がボソリと呟いたのを聞いた時雨らはもう一段階気を引き締め直し、十億円当てた大学生宅へと向かった。