日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月1日午後18:10 関東庁 即応科棟 内務室。
『ーーー・・夜のニュースです。国民的朝ドラのヒロインを務めた女優の朝倉シオンさんが、本日、都内在住の一般男性との離婚を電撃発表しました。当人同士の話し合いからお互いの価値観が....』
「うわーほんとに離婚するんですね」
「時雨。お前、退勤したんじゃなかったのか?」
内務室のソファーで寛ぎながら、テレビを見ていた時雨はなんか疲れている様子の玄道にそう聞かれる。
「はいしましたよ。忘れ物取りに来ただけです。」
「...そ、そうか」
退勤した後でも即応科棟に来てはいけない規則などないため、玄道はそれ以上追求はせずに内務室の掛け軸側に置かれたアクリルケースの掃除を始めた。
すると、内務室の扉が開き才亮と汐留が入ってきた。
「...スゥ、ん...まだ居たのか」
「...あ、お疲れ様です。...え、それ持ってきたんですか?!」
『んなぁ!』
「っ...ツゥ、また取られた....」
才亮が持っていたボーリング球くらいの金の卵が目に入ると、クゥさんがどこからともなく現れて掻っ攫っていった。
「イッタンモンメンさんで持ってるのに何で取られるんですか...」
『....っ..』
汐留がそういうとイッタンモンメンがしゅんとして彼の裾の中へと戻ってしまう。
「猫の手ってやつだろう。」
「いや、意味わからないですよ。」
料理で使う猫の手という比喩が手を切らずに。から糸を切らずにへと拡張したことで抜き手が機能していると真面目な顔で彼はそう言うが、汐留は納得がいってなかった。
「それより、ボス。途中まで戦闘不能と聞いた。問題ないのか?」
「....あぁ」
玄道が一度掃除の手を止めてそう聞くと、才亮はポケットに手を入れたまま相槌をする。
「幻術、夢喰い系の能力ですかね....」
「カワキガがそれっぽかったですけど、特殊なデバフは受けた感じはありませんでしたね。」
透明なタンクに乗って水タバコを吸っていた召喚獣がそれに該当しそうであったが、空気中の湿気と副流煙で軽いデバフのみならず何ならバフを受けていたくらいで、幻術系の効用なら同じ空気を吸っていた自分たちも受けていないとおかしかった。
「限定的に恐れているものやトラウマを刺激した。とかか?」
「あー、卵持ち歩いてましたもんね。それがトリガーに」
「「「.....」」」
半端に使われた卵が彼のものと認識されて、召喚主の卵と共鳴して機能したというのは考えられたが、才亮がそんなものに手間取ったというのは些か信じられず彼らから嘘やんみたいな視線を受けた。
「...何だよ。」
「ボスに怖いもんなんぞあるのか?」
「.....まぁな。」
彼は時雨を一瞥し、窓の方を向いてそう呟きながらポケットの中の携帯灰皿のボタンを閉めた。
「?」
「スゥ...ほら、駐勤じゃないやつらは帰った帰った」
不思議そうにこちらを見る時雨の視線に耐えきれずに才亮は帰らせ音頭を取る。
「え、まだお話ししたいですー」
「私は今日も駐勤でも...」
「いいから帰った帰った」
「....はい。」
「...うぅ、けちぃ。行きますよクゥさん。」
『んな』
おしゃべり大好き女たちはイッタンモンメンでまとめられて締め出されていった。
「...スゥ」
才亮は扉を背に小さく息は吐きサラッと取り返していた金の卵にうつる自分を見つめる。
「最近、卵続きだったな。どれも扱いに困るもんばかりだ....」
「あぁ、全くだ。」
才亮は玄道が拭き掃除を終えピカピカになったアクリルケース内に鎮座する召喚獣の卵と、手持ちの金の卵を写し鏡にする。
「....武田は」
「っ...あいつらは寝ている。」
そういえばと武田の様子を聞くと、玄道の顰めっ面に大体を察した。
「今日は俺も駐勤に入る。が、それまで時間あるし、何か美味いもんでも食いに行くか」
「!....あぁ」
彼からの飴は辛抱強い彼に効いている疲労に効果覿面であった。
ーーーーバタンっ
扉が閉まり先まで騒がしかった内務室は静寂に沈む中、アクリルケース内の召喚獣の卵に微細なひびが入る。
ーーー....ピキッ
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月2日午前0:30 関東庁 即応科棟 内務室。
ーーーーーぷるるるっ...ぴっ
『..俺だ』
ツキヨノに骨付き肉を焼き終えて、一緒に朝夜食を食べていると才亮のゴツい携帯に電話がかかる。
『...あぁ....ん....間違いないか?』
『あぁ、獅子堂につけていた召喚獣をやられた時に取れたデータを現像したが、こいつは...』
10億円の当てた大学生に密かに追尾させていた虫型召喚獣サツハネから受信したデータから、便利屋の百地はしゃがれた声で結論を出す。
『ヒトガタの可能性が高い。それも、看破周波数をクリアした人皮を使ってる。』
『...わかった。』
既存の人皮への対策として微弱な周波数で人皮を機能不全にする周波数が既に対策済みであることに、わかってはいても彼は目を細めた。
『才亮。気をつけろよ。おそらく、あいつらはもう既に深く潜ってる。関東庁の中にも...』
『その辺は対処済みだ。また掛け直す。』
『....そうか、とにかく用心しろ。お前も無敵じゃないからな』
「....あぁ。」
古くからの知り合いというのは妙に勘が働くのか、今日の失態を言い当てられているように感じて、ついそっけなくなってしまう。
ーーーーピッ
「ツキヨノ」
『クルゥ..』
ちょうど食べ終えたツキヨノを呼び寄せて、ツキヨノの後頭部の花にイッタンモンメンの糸を紡ぐ。
ツキヨノの瞳越しに送られてきた現像写真とこれまでのヒトガタ事案の関連資料、人皮の研究資料らを照らし合わせ、赤く光るヒトガタに目星をつけて立ち上がり体を伸ばす。
「んぅー....よし、そろそろ狩るか」
「ほぅ、いよいよ本戦か....激るのぉ」
月下、夜に同化する深度で瞑想に耽っていた武田が降りてきて、彼と共に夜に浮かぶ月に強者を思った。