日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月8日午前9:10 神奈川県横浜市 保土ヶ谷第二学校。
「どんな子が召喚されるかなー」
「猫型がいいよね。」
「熊型も良くない?」
「あぁーわかる。全身もふもふで包まれたいぃ」
学校の校庭にて、六月に誕生日を迎えた10歳の子供らが召喚式を行なっていた。
「...はい、では次の方。」
「は、はい!」
運転免許証を更新するときの警官のような流れ作業で淡々と行われていく中、当人たちはワクワクと不安の入り混じった高鳴りに踊らせていた。
「ナギ、ファイトー」
「う、うんっ」
先に召喚式を終えて、もふもふのモモンガ型の召喚獣と戯れあっている友達から応援をもらい、女の子は決心して一歩前へ進む。
「好きなタイミングで印に念を込めれば、召喚される形ね。」
「は、はい!」
召喚陣の前へと移動し、隣に控えている管理官の人から簡潔に手順を再確認される。
「....私たちがついているから、気張らなくても大丈夫だからね。」
「はい!!」
「...じゃあ、初めて大丈夫よ。」
緊張するのは仕方ないと思いつつも、控えている管理官や警察官らがグッドサインを彼女へと向けるが、固くなるのは当然であるものと受け入れた。
右肩に刻まれた炎のマークをした印に想いを込めると、光り輝き召喚陣と共鳴する。
視界が切り替わり、曇天の空の下、炎に包まれた剣山のように刺々しい山脈へと移る。
その山頂にて、後ろを向いている首から上を炎に包まれた犬型召喚獣を見つける。
ーーー・・この子が、私の召喚獣っ...
近づきそのお顔を覗き込もうとすると、その召喚獣の首にはもう二つの犬型召喚獣の頭が携われていた。
ーーーー・・っ....か、可愛いっ!!
眠そうな顔をしている二つ目の頭、ご機嫌で舌を出している三つ目の頭とどれも愛嬌のある顔で1召喚獣で三つ分の可愛さを包しているように見えた。
ーーーーボゥっ!!
目が覚めると、召喚陣の中には炎を纏った体長2m程の三つの頭を持った犬型召喚獣が佇んでおり、こちらを見下ろしていた。
「っ...あなたが、私の...」
『.....』
召喚主の女の子が鼻をすんすんしている犬型召喚獣へと手を伸ばすと、その召喚獣はゆっくりとその手に顔を伸ばした。
「?.....っ!ナギさんっ!!離れてっ!!」
立ち会っていた管理官は犬型の左右の頭が最小限の動きで屋上で控えている管理官と、校門で出入りを見守っている警察官を視認したのに嫌な予感が働き、召喚主を引き剥がす。
『っ....グガァぁぁぁ!!!』
中央の頭が纏っている緑白い炎を頭上へと吐き出すと、赤く染まった空から真紅の炎が降り始めた。
大雨の中、透明な薄緑色のスライムの傘の下、金髪の管理官は封鎖線を越えてドローンで校庭を空撮している中継車へ入る。
「即応科科長、才亮だ。...状況は?」
「生徒らの避難完了までに、管理官2名と警察官1名、及び彼らの召喚獣が死傷。」
「....封じ込めはよしとして、中に人は残っているか?」
召喚式を頻繁に行なっているため学校施設は扱えない召喚獣が召喚されても、召喚主との契約が完了していない召喚獣は学校内から出れないような印が組まれており、それらは問題なく機能していた。
「はい...2名程、点呼が取れていないそうです。」
「了解した...二手に...!!...こいつは何をやって...」
強力な召喚獣相手だと思っていた才亮は突入の手筈を整えようとしたその時、モニターに映る犬型の行動に目を奪われる。
三つの頭を持つ犬型召喚獣は三つに分裂し、分裂して間も無く他二匹の犬型は管理官と警察官、召喚獣の死体を炎の焦げ跡で拡張した召喚陣に並べ始めた。
『グぉぉぉぉぉんっ!!!』
ーーーーービリッ...ビリリィイ!!
三体の犬型が召喚陣を囲うようにして曇天の空へと咆哮を叫ぶと、落雷が召喚陣へと降り注ぎ、雨が完全に降り止む。
「....まずいな。」
「.....は?」ドローン操ってた椅子の人。
唯一人動で動かしていたドローンからの映像に映るのは、豪炎の立髪に全身に雷を帯電させたライオン型召喚獣が召喚陣に佇む姿であった。
「突入のタイミングは即応科が指揮する。汐留と時雨は避難遅れの生徒らの救出。俺と武田、ゴウキ、玄道は対象犬型召喚獣ミツアタマを捕獲する。」
「りょーかいです!」
「了解。」
「討伐許可は?」
「許可する。」
「よし来たっ!」
『キィぃ!』
できれば捕獲というのは全ての事案に言えることであるが、玄道からの確認に才亮は即答し、久しぶりの討伐許可に武田は俄然やる気を出していた。
『....ぐぁぁ....ガァっ!』
口から火炎を吐いてグラウンドに焦げ跡をつけて召喚陣を拡張している犬型の前に、金髪男と緑鱗のアーマーを着た男が現れる。
「....おい、ホットドック。飼い主はどうした?」
『.....』
ーーーービリィイィぃイィ!!!
首輪を境目に首から上は緑白い炎に包まれ、表情は分からずとも犬型は距離を保ったままじっくりとこちらを観察したのち、学校の貯水棟からこちらを見下していた炎と雷を纏ったライオン型へと合図をしたのか、豪炎に焼かれた悪辣な雷が彼らへ降り注ぐ。
しかし、才亮の糸がアース線の役割をし、玄道のアーマーを通してほぼノーダメージに抑えた。
「おいおい、挨拶もなしかよ。」
ーーーーーシンッ...
金髪の男が涼しい顔で顎を触ると、着弾のその一瞬まで認識できない黒矢がその両召喚獣を射抜く。
『...!』
『...コッ?!』
第二校舎の屋上から影に隠れて射抜いた矢は、犬型には纏っている炎によって弾かれたが、ライオン型の方は肩の辺りに命中した。
「...犬っころの方は自動迎撃か...む」
『....イコぅっ...』
放った矢の感触に口角をへの字にしていると、ライオン型は雷に乗って瞬間移動し、武田を炎に包まれた右爪で切り裂こうとするが、ライオン型は背に伝う寒気に振り返る。
『...キィィィ!!』
『ブゥぅぅ?!』
ーーーーードごぉぉぉん!!
遠距離攻撃手が真っ先に狙われるのを見越していたゴウキが完璧に背中を取っており、踵落としをお見舞いし、屋上に数メートルのクレーターにめり込んだ。
「....さて、やるか。ホットドック。」
『.....っ』
玄道が少し前に出て、才亮は携帯槍を展開させて三つの頭を持つ犬型の方へと歩みを進めると、犬型はニヤリと笑ると体を蠢かせて背骨や肋骨が隆起し始めた。
「!....」
「む」
『『『....』』』
彼らが距離を取ると、蠢いていた体がぴたりと止まり犬型は三つに分裂した。
「数に....っ!」
『...!』
数的有利を作るためと思ったがそれは半分正解で、リーダーっぽい緑白い炎に頭を包まれている犬型は炎を鋭利にさせて両端の分裂した個体の首を刎ねて、拡張した召喚陣へとそれらを置いた。
「....させるかっ!!」
『....っ...グォォぉぉんっ!!』
自身の分裂体を生贄に召喚しようとしていたのは明白だったため、携帯槍を犬型へと投擲するが緑白い炎の奥の深淵の瞳を貫通して校舎の壁に突き刺さり、再び咆哮を上げた。
『『『ピギィぃぃぃぃ!!』』』
数百の群集型の丸っこい毛がもさっとした召喚獣が召喚され、その積み重なった鳴き声は校舎の方へと入っていき、3分の2程は武田と才亮らの方へと分散展開していった。
『汐留、そっちに群集型が行く。能力は不明。』
『了解....」
「...ぐ、群集型?!」
才亮が汐留に連絡を入れると、汐留は既に廊下いっぱいに押し寄せてきていた群衆型を前にしていた。
『『『ピキィー!』』』
「いやぁぁぁぁ!!!」
完全にロックオンされて追われている最中、時雨は群衆型後に残る高音の叫び声に負けず劣らずの叫び声を上げながら階段の方へと駆ける。
「時雨さん。こいつらは....おそらく数的に軽いデバフ系です。」
「本当ですか?!」
「まぁ、数の多さ的に条件が揃えば大技を出力できるくらいはありそうですが」
「いやぁぁぁ!!虫型ですか?!虫型ですか?!」
廊下に入って来れている数だけでは即効の脅威ではないと彼女は言うが、時雨にとって重要なのはそこではなく、大事なことであるため2回聞いた。
「いえ、虫型ではないです。にしても....」
汐留が確認する限りでは虫型特有の節足感はなく鼻と口が雑食系に寄っていたためその線はなく、彼女は彼女でそれよりもその数の多さに引っかかっていた。
「汐留さん!下ですか?!」
「はい....煙幕張るので、足音立てずに下の階へ」
「はい...っ!」
時雨が階段に差し掛かったところで壁走りをして下の階へと降りたのを確認し、汐留は懐から煙玉出して煙幕を張った。
『ピキッ?!』
小集団を統率しているであろう群集型のリーダー個体が煙幕に困惑するとその動揺は他の個体にも影響し、一瞬動きを止めた。
『ぴぃっ!!』
その中で、シゲモチさんの分身が階段を上へと駆ける音を頼りにリーダー個体は上の階へと向かった。
『!』
「....スゥ」
ホストのシゲモチさんが上手くいったよ!というグッドサインを汐留に送ると、汐留は逃げ込んだ視聴覚室の重いドアを背に一度息を吐いた。
「時雨さん...?」
「....」
群集型が学校内に飽和するまでそう時間がない中で、次の行動を告げようとしたが、時雨は防音室のブラックミラーの方を向いていた。
「...誰かいますね。」
「...生徒ですか?」
突然、何もないところを見つめる猫のような様相で彼女がそういうと、汐留は犬型があらかじめ配置した他召喚獣という可能性を考えていた。
「見てきます。」
「私が開けますので、二次援護をお願いします。」
「わかりました。」
ギアがひとつ上がった時雨を後ろに控えさせて、汐留はシゲモチさん越しに防音室の扉を開けた。
ーーーーキィ..
「ヤッベ....ケツデカすぎだろ...」
「おいっ、俺のけつ触るなよ」
「わ、悪い.....つい」
その先にいたのは召喚獣などではなく、防音室に置き忘れられていたノートパソコンで大人な動画に夢中になっていたエロガキだった。
「「......」」
彼らを前にして、戦闘前の空気だった彼女たちはフレーメン猫になっていた。
「な、なぁ....今度はこっちみようぜ」
「お前っ、当たり前だろう!」
「握り潰されたくなければ、その辺にしておきなさい。」
おすすめ動画へとカーソルを合わせて、妙な友情を育んでいる彼ら顔の間に冷たい笑顔が現れる。
「うぁぅ?!」
「はぁっ?!」
いきなり現れた色白のクール美人に彼らは股間を押さえながら後ろに退いた。
「今、召喚式で召喚された召喚獣が暴れているので避難しないとです。」
周りに男が多かった時雨は地べたに尻餅ついている彼らの目線に合わせて屈んで、簡潔に伝えた。
「は?!やばいじゃん、俺たち...ってぇ...なにすんだよ」
「....校舎内には群集型がひしめき合ってるので、もっとやばいです。」
「....ぁ」
「やっばぁ...」
状況がわかっているようでわかっていないエロガキのおでこにデコピンをして、汐留は張り付いた笑顔でそう伝えるとメガネの方のエロガキの顔色が真っ青になった。
「時雨さん。クゥさんで学校外へ飛べますか?」
「いえ、その...自信ないです。」
「?...玄道さんの時はできていたと聞きましたが」
とりあえず大人しくなったエロガキを差し置いて、汐留はこの状況を打破できるであろう時雨へそう聞くが、シェイプシフターとの戦いで確かにクゥさんの深淵で玄道を後ろに引かせた彼女の反応は芳しくなかった。
「あれは比較的短距離ではあったので....一応、パスは通しましたけど100m以上離れている所だと...」
「最悪は?」
「深淵の中に飲み込まれて見失います。時々、物とか無くすので、人も同じかと...」
時雨が言おうとしているリスクを聞くと、思った以上にハイリスクであった。
「時雨さん、そんなの自分に...」
「あ、私の場合はクゥさんとの繋がりが強いので、どんなに底落ちしても、すぐに引き上げてくれます。」
「....」
底落ちという単語は深い暗闇の中に落ちることの根源的な恐怖を逆撫でいており、今回は使えないというのには十分過ぎていた。
次の策として、汐留は全力で学校の外へと突っ走る算段をシュミレーションしている中、真っ青になっているメガネのエロガキを励ましているエロガキが目に入る。
「....あなた達、召喚獣出せます?」
「え...あ、はい」
「まぁ...一応。」
『.....』
『ニィ!!』
学校内での許可無き召喚は御法度ではあるが、視聴覚室でこんなことしていた彼らは何の躊躇いもなく召喚すると、メガネの方が体長30cmくらいの真っ白いトンボのような召喚獣ツノヤンマ、そしてもう一方がまだまだ進化前のちょっと刺々しいワニ型召喚獣ウニーであった。
「.....」
「むぅ...」
「はぁ....俺のウニーは人懐っこ過ぎて戦闘には向かねぇし、能力も柔い棘飛ばすくらいだぜ」
「そうだよ、僕のツノヤンマも透明になれる位だし」
人中嗅ぎをしている時雨とそっと目を逸らした汐留を前に、エロガキらは一瞬期待されたことにため息をつく。
「ん...今なんと?」
「えっ、透明になれる位....」
汐留の整った顔がメガネのエロガキの顔に迫り、頬を赤く染めながら答える。
「....これは、行けるかもですね。」
視聴覚室の締め切ったカーテンの隙間から向かいの校舎と駐車場のの先にある網のフェンスまでの道のりが一直線である事に着眼した。