日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月9日午前9:30 神奈川県相模原市
「ぶぁぁ....あつ"い"...」
喉にじとりとひり付く湿気と初夏の熱波が漂う、相模原の奥地にて、何でも屋になりつつある即応科隊員、時雨千智と才亮勝馬は山道を徒歩で駆け上がっていた。
「.....っ」
「うぅ...はぁ...冷んやりぃ、ありがとうございます。」
見かねた彼は本来こういった使い方ではない、付いてきてもらったシゲモチの分体を彼女に渡す。
「後どれくらいだ?」
「あともうちょっとで着きますよ」
当該地域担当である定年間際の駐在警察官はシェルパみたいな動きで、スイスイと先へと向かいながら乱れのない声音で彼にそう返す。
「ふっぅ....才亮さんはなんでそんな平気なんですか?」
時雨はふと冷えてきた視界に、そういえばずっと黒のジャケットを着て汗もかかずにいられている彼を疑問に思った。
「イッタンモンメンが排熱してくれるからな、年中快適だ。」
「なっ....チートですよチート!」
「....お前なぁ」
寄生型というのは半分召喚獣みたいな扱いで、かなり制限のある生活をしないといけない中で、才亮は彼女の言い様にに頭を悩ませていた。
「....あそこがイノクサ村です。」
そうこうしていると今回の目的地である村を一望できる所に到着した。
「わぁーっ、理想の田舎生活って感じですね」
山間の田園風景に、名物の苔むした猪型召喚獣の飼育所、村の中心を流れる川、密で横のつながりが強い古くから続く共同体の空気が彼女に刺さったようだった。
「.....」
前情報聞いた上で、そんな感想になるのかよ...と才亮は横目で彼女を見る。
「ははははっ、移住して行きますか?」
「いえ、その....早期退職したら、検討します!」
「......」
上司を前にして、早期退職って...そんな俺無茶....うん、やはり心当たりはないな。と一度目を瞑ってゆっくりと田舎の空気とやらを肺に入れた。
「はいよ、持っていきな」
「嬢ちゃん!よくきたな!」
「あ、これさっき取れたばっかだから」
どうしても末っ子体質を醸し出しているのか、村に入ると時雨は腕いっぱいに野菜やら干し柿やらなんやらを貰い抱えていた。
「才亮さん、いい人ばかりですね!」
「ん...あぁ...」
両手が塞がっているのに器用に干し柿を頬張っている彼女をよそに、彼は視界に映る情報のインプットに集中しているせいで適当な相槌になっていた。
「なぁいいだろ?今夜だけでいいからヨォ」
「いや...まだ日が経ってないし」
「あぁん?新人が生いって..」
「!...おい」
「あぁ?...あんだよ....ひっ」
納屋の陰で言い寄られていた黒タンクトップを着たボーイッシュな女の間に入ると、管理官のそれも即応科特注の縁がバーガンディ色のバッチが目に入り男はそそくさとその場を離れた。
「っ...失礼します。」
残された明らかに気の強そうな見た目をしているボーイッシュ女と一瞬目が合うが、逃げられてしまった。
(....あの女どっかで..)
「才亮さん。ナンパですか?仕事中ですよ...ぁぐっ...カリッ..」
記憶の切れ端を索引できそうなところで、きゅうりに味噌をつけて口直ししている時雨にあらぬ注意をされる。
「....あぁ」
色々突っ込みたいところではあるが、そう見えてしまっていたのは確かだったため飲み込むと、これまで彼女にさせてきた無茶への後ろめたさは何故か薄くなり、無事にこれからの無茶に伸び代が生まれた。
「ーーー・・いやぁーヨォ来てくれましたわ。」
村長への挨拶に向かうと、茶髪ロングの若いというか色々とでかい女を侍らせた、アロハシャツを着た、妙に手先が綺麗なポニテ白髪ジジィこと村長と、暑さ対策のためか1mくらいの折りたたみの水風呂に浸かっているトカゲ型が居た。
「急な視察訪問になりまして、ご迷惑だと思いますが数日見回るだけなので」
「いやいや、管理官殿であればさぞお忙しいでしょう、短い期間ですが、ぜひゆっくりしていってください。」
「....どうぞ」
胸元が開いた際どいボディコンを着ている茶髪の女から、淹れたてのお茶をもらう。
「....どうも」
「わぁお、才亮さんの茶柱立ってますね」
「これは茶ではなく、これはウチの名産のイノクサ苔を一冬熟成させて煎ってるので絶品ですよ!良ければお見上げに持って行きますか?」
よく磨かれた陶器に淹れられたお茶に手をつけずに、和室にロック系のポスターが貼っていたり、掛け軸の側にはギターが刀みたいな飾り方されていたりなどそれ以外に気がとられていると、村長がテレフォンショッピングを始めた。
「えぇ!?良いんですか?是非是非!」
「持ち帰ったら贈賄になるからダメだ。」
隣にいるヨイショする女のアナウンサーみたいに貰おうとしていた時雨であったが、彼に堰き止められる。
「うっ...そうでした...っ!美味しいですね後味スッキリで。普通に買うのは大丈夫です...よね?」
「定価なら問題ない。」
ややこしい管理官採用試験でも出た事を失念していた彼女は、気を取り直すようにお茶を飲むと気に入ったらしく普通に買うことになった。
それから、再犯率0%を誇る更生村にて元受刑者らの一日の作業を順々に見回ることとなった。
「ん、あーっ...農作業は早朝から暑くなり始める昼前に殆ど終わちゃってるから、みんな今から飯だよ。」
が、日陰で水分補給をしていた側頭部にウサギのタトゥーを入れているモヒカン男へ行くと、村の食堂へ同行した。
「では、頂きます。」
「「「「「いただきます!」」」」」
ムショ上がりが多いからか妙に一体感のある号令が食堂に響き渡った。
「っうま!給食のカレーだ」
使っている器も相まってか懐かしく安心する甘口のカレーであった。
「へへっ、美味いだろ。湧き水使ってるから喉越しが違うぜ」
「ほんとだー、いくらでも食べれますね」
「ほら、福神漬けも食ってくれ」
「イノクサウィンナーもうまいよ!」
「あ、どうもありがとうございますっ」
とろみも絶妙で後味も良くもう半分も食べてしまっていた彼女の食べっぷりに、耳ピアス女や口ピアスタトゥー男などからオカズなどを貰い、管理官大学校時代の食堂を思い出していた。
「ん、あれ...才亮さんは?」
「あー、金髪のにぃちゃんは腹減ってないって日陰でタバコ吸いにいってたぜ」
「そうですか...」
確かに気味が悪いくらい良い人ばかりで、普通に田舎の空気と健全な労働で性根がゆっくりと真っ当になっていくっていうだけだとそう思いたかった彼女であったが、いつも以上に一歩引いている才亮の結局一回も手をつけなかった茶の陶器の冷たさが手に残っていた。
一方、食堂裏の離れにある田舎のバス停待合室のような喫煙所へと行った先には、ヤンキー座りをした金髪リーゼントの先客がいた。
「っ!...っぅ、管理官か...」
スーツの男が現れたため条件反射で身構えたが、赤い縁の管理官バッチから少なくとも検挙されることはないと安堵していた。
「悪いな...っ...スゥ...」
空気の澄んだ涼しい所で気分よく吸っていた所を邪魔したのを短く謝って、慣れた手つきでタバコを加えて火をつけた。
「「.....」」
喫煙者のマナーからか、初めの数分はただニコチンで体を蝕む時間に浸っていた。
「ここは長いのか?」
「!...まぁな、年少手前でここに送り込まれた。」
同じ髪色で同じ銘柄のタバコを吸っているためか謎の一体感の中で、聞かれたため金髪リーゼントは少し呆気に取られつつも素直に答えた。
「そうか」
「...何したか聞かねぇのか?」
嫌々近づいてくる大人たちと同じように不躾に質問をしてくる大人かと思っていたが、彼はその限りではなかった。
「....まぁ、それぞれ事情があるからな。」
「っ....そうかよ。」
驚いた様子で少し目を見開いたが、こういう大人もいるのかと適度な距離感に金髪リーゼントは心地よさを感じていた。
ーーーパキッ
「...っ」
『ヒィー...っ』
「...どこにでもいるなこいつ」
トタン板で出来た天井に何かが落ちる音に驚くと、恐らくさっき見た村長の召喚獣の子供であろう子トカゲがずり落ちてきた。
「そこら中にいるぜ、そいつ。」
「この辺は天敵が少ないのか...」
金髪リーゼントあヤンキー座りっていうかただのうんこ座りのままぶっきらぼうにそう答えると、センサーを張っていても気配的にもそんなに強い召喚獣はおらず、居てもすばしっこそうな昆虫型に原生生物くらいであることから彼はボソリとそう呟く。
「あー、二つ山越えた先にえらいおっかない召喚獣がいるらしいぜ、そのせいで電子機器も使えねぇでな」
「そうか」
「あ、そいや管理官だっけか、てか熱くて重くないのか?その服って」
その辺は事前に知っていたための端的な相槌に普通に親戚のにぃちゃんと話している気分になっていた金髪リーゼントは、浅そうで深いことを聞いてきた。
「....こいつのお陰でなんとかやって来れてる。」
召喚獣管理官期間のみならずこれまでの30年弱の道のりが走馬灯のように流れた末に、右腕に巻き付くイッタンモンメンを彼へ見せる。
「へぇー寄生型か、珍しいなぁ...寄生型ってどんな感じなんだ?」
「....可もあり、不可もあり?」
『....っ!』
「っ...悪い悪い」
自分のエンカウント率がおかしいだけで、興味がそそられるだけ珍しいものだよなと思いつつ、今一度イッタンモンメンについて考えて話してみると、イッタンモンメンからペシっと頬を叩かれる。
「っ...ははははっ、大体わかった。切っても切り離せねぇダチって事か.....羨ましいぜ」
恐らく素手でバイクに乗り続けてできるタコを親指で擦りながら、金髪リーゼントは寂しそうに最後にそう呟く。
「召喚獣は...って、没収されてんのか」
「あぁ、お前ら管理官に没収されてらぁよ。たはははははっ」
不躾な質問をしようとしたがここにきている時点であり、金髪リーゼントは陽気な笑い声を響かせていたが、先の寂しさは感じられなかった。
「...っと、飯の時間終わっちまう...っ....あんた名前は?」
気づけば割と時間が経っており、灰皿にタバコを擦り付けて食堂の方へとかけるが立ち止まって金髪の男の方を向く。
「才亮勝馬だ。」
「俺は小金小太郎。ここ出たら飯でも食いに行こうぜ!」
「...あぁ」
年下の裏表のない笑顔に弱い彼は日陰にいるせいか、金髪リーゼントの明るさを直視できなかった。
その後、イノクサの飼育施設へと向かい、施設内の見学が始まった。
「ーーー・・乾燥を防ぐためのミスト浴びを一日に3回行い、洗浄スライムと遊具型のスライムを使ったノンストレス環境を整えています。」
「はぇー」
「防護服とかつけなくて良いのか?」
「あー、その辺は問題ないですね。イノクサの常在菌はかなり強いので」
一応確認してみると、その辺は問題なさそうであった。
「へー、納豆菌みたいな感じなんですね。」
「そこまではいかないですが、一応善玉なので我々に付着しても問題ないです肌艶が良くなるくらいで。また、湿度が高くしてるのもそれらを繁殖しやすくさせるためです。」
「え?!お肌にも良いんですか!買います買います!」
「えっと、抽出した化粧品があるので、そちらを...」
「.....」
肌艶に敏感な彼女はイノクサごと買い取ろうとするが、困った様子の村人は最終品を勧めた一方で、才亮は納豆菌もそうであるが強力な菌が善玉であることに心底ホッとしていたのであった。
次に、イノクサの動線を誘導するために柵で区分けされた先へと向かうと、そこでは絶賛刈られ中のイノクサが居た。
『サぁー...』
「一定品質と長さに到達したら、両サイドから苔を下から背骨へと刈っていきます。」
スライムの上で気持ち良さそうな声を出しているイノクサは、背骨あたりから根っこが生えているらしい髪のように垂れている長い苔を刈られていた。
「これなら機械でやっても良さそうだな」
「人間が狩る方がストレスがかからないんですよね。それにお世話している人じゃないと刈らせてくれないんですよ。」
「贅沢なやつだな。」
『サァー?!』
何か言われたと思ったイノクサは不服そうに金髪男へ鼻を鳴らしていた。
そして最後に、刈った苔を焙煎させて個々に加工している施設へと向かった。
「ここでは焙煎させた苔を、粉末状に、または抽出し化粧品や錠剤に、あるいはそのまま抽出した液を瓶に詰めています。」
焙煎器が回転しているのを中心に、機械的にそれぞれの加工方法に適したラインに分岐して効率化されており、殆ど無人で運営されていた。
「これらの取引先としては、ブランド牛の飼料として畜産農家、健康食品会社や製薬会社、各卸売会社へと送られています。これまでで何か質問はありますか?」
「はい!具体的な健康効果はどんなのが?」
「抗酸化作用と高血圧予防、新陳代謝が上がり...」
「血液サラサラで腸内環境も良くなるって所か」
「はいその通りです。」
彼が大体の効用を推測すると、従業員の方が拍手していた。
「わぁおっ!一年分買いたいです!!」
「お前そんな金....っ」
ちょっとちょろすぎる時雨に才亮はツッコミを入れようとするが顔をふいっと逸らす。
「そうですよ、才亮さん。私ありますよ...たくさん」
そらした顔ににじり寄りながら、黒目の大きい時雨の瞳が彼を掴んで離さなかった。
ーーー時雨 千智
戦闘関連手当 累計:¥1,209,893
*戦闘回数及び、その危険度によって掛け値(1.0 ~ 100.0)が変わる。