日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
一方、その頃、昼間、才亮にナンパされてたボーイッシュ女が先導に、膨れた腹を抱えながら時雨はトイレへと向かっていた。
「あの...まだですか?」
「ん..あぁ、この辺の筈なのだけど....」
食堂のトイレは空いてなかったため、離れのトイレへと案内してくれて助かるには助かるのだが、一向につきそうになかった。
「....もしかして..」
「違う。それは断じて違う!」
街頭もない黒い道の中で、ライトを揺らしていたため迷ったのか聞こうとすると、気の弱そうだった先の様子から見た目通りの圧で彼女に迫った。
「っ...ちょ、わかりましたから...もぅ、漏れちゃうじゃないですか....」
「あっ、すまない。」
括約筋を締めて耐えたが勢い的に結構危なかった時雨は、とりあえずは彼女を信じてみることにすると、彼女はまた元の調子に戻った。
(...1分、あと1分でつかなかったら、この人に見張ってもらってその辺でしよ)
『なぁっ....んぅぅぅ...』
「あ、クゥさんおはよう...っ..」
『なぁっ』
とはいえそろそろ本当にやばい所であったため、その事態を想定していると、ようやく涼しい時間帯になったことで出てきたクゥさんは体の長ーく伸ばし終えて直ぐに森の中の方へと飛び出した。
「え、クゥさん?!」
時雨はなんの脈絡もなく行ったクゥさんを反射的に追いにいった。
「あっ...そっちにはっ」
「.....クゥさっ....ん?」
ボーイッシュ女の声を無視して、森の中に折っていくと、結局使わず仕舞いだった感じの防空壕らしきところに着き、クゥさんの尻尾がその中に入っていくのを視認した。
「クゥさーん、帰りますよー...」
まだ宴会の場酔いが後ずさっているせいか、時雨はズカズカとその中に入っていく。
「っ...よく見えないな」
月明かりにかろうじて照らされていた入り口付近の先は暗闇で、生乾きのような匂いが漂い鼻をつぐみながらライトをつけた。
「....ぇ」
すると、防空壕内にびっしりと四方に卵がひっついており、その奥には黄色い目をした何かがこちらを見つめていた。
「いっ...」
「...っ!」
深く息継ぎをして金切り声を上げようとしたところで、ボーイッシュ女に口を塞がれ、洞窟から引き摺り出される。
「あと、もうちょいだってのに...邪魔しやがって...」
「んっ..んぅぅう!」(訳:漏れる!!漏れるからァァ!!!)
完全に背を取られて羽交い締めにされている彼女は抵抗を最小限に、抑えられた口で必死の主張をしていた。
「野郎っ...一度落とすか....っ?!」
抵抗が激しくなって来たため、やむなしに時雨の首に手をかけて気絶させようとすると、体がピタリと止まってしまった。
「.....おい」
(はぁ?!いつの間に)
気配も音も一切前触れもなく現れた金髪の男に彼女は目を見開く。
「っ...かはっ....才亮さん見張っててくださいっ」
「ん...あ、あぁ」
息を吸って呼吸を整えた時雨は彼に断って茂みの方へと向かった。
「さて、お前はどこのどいつ....」
「っ...ふぅ...はぁ...んっ」
イッタンモンメンの糸で体の隅々まで調べていると、こしょばゆいのかボーイッシュ女は際どい声を出して身を捩る。
「ん...っ、隠すなら中か...」
「っ!...わかった、言うからこっち向け」
演技の可能性もあったため完無視して調査を続けられ、意図しないくすぐり攻撃と何食わぬ顔でとんでもない事を言い始めた金髪に彼女は観念した。
「....ぁ」
「!....麻取か」
彼女の方を向くと、彼女は口を開けておりNARCOTICSAGENTと書かれたバッジが舌上に置かれていた。
「....くそ...バレたらどうしてくれたんだよ」
糸を解かれた彼女は手首の触りながら、潜入任務の頓挫を懸案する。
「こちらも言えたことじゃないが、互いの情報保全性の弊害だろ、まぁ...メリットの方が大きいが...」
「ぐ....致し方ない部分もあるか...」
お互い後々のいざこざを防ぐために、その辺で落とし所を設けた。
「ふぅ....で、一応、味方で良いんですよね、私は関東庁即応科隊員の時雨 千智です。」
ギリギリ間に合った時雨はスッキリした顔で、管理官手帳を見せてから彼女に手を差し出す。
「....っ」
「....時雨。お前、手洗ったのか?」
「なっ、ちゃんとウェットティッシュで入念に拭きましたよ!失礼ですねっ」
彼女が一瞬ためらったのを見かねた才亮は時雨にそう聞くと、食い気味に否定してプンスカしていた。
「ふっ....私は厚生労働省麻薬取締局の鳥養レイカだ。金髪の方は?」
「俺は即応科科長の才亮勝馬。よろしくな」
いつも関わっている人とは違う空気に緊張感が少し解けた彼女は才亮の方に手を差し出し、握手を交わした。
「っ...あんたが才亮か...」
「え、有名人なんですか?」
鳥養が驚いた様子を表すると、時雨は未だ底が知れない彼の評判を知ろうと彼女にそう聞く。
「まぁな、ほぼ全滅した即応科を数ヶ月で立て直したとか、何度か準神格を完封したとか」
「うぇ?!え、そうなんですか?!」
前半は大体知っていた内容ではあったが、後半は初耳であった。
「他とも連携し、手札を揃えて入念に準備対策した上での捕獲だ。俺だけの力じゃない」
「へぇー....でも...」
「話はその辺に、こちらの任務はイノクサがオーストラリアで流行ってる薬物の調合に使われていた事から、この村に潜入調査。そっちは?」
時雨の聞きたがりが長引きそうになった所で、鳥養が話を切って本題へと入った。
「こっちは再犯率0%に何が関与しているか調査するための先遣隊だ。まずはさっきの洞窟のトカゲらとイノクサについて教えてくれ」
「私も最近知ったが洞窟のは村長の繁殖場だ。一応繁殖届も出しているのは確認されている、気味悪いが商用でもなく種の保全のためにあそこで繁殖させているらしい。まっこときもいがな」
「あー...だから、目が合っても何もされなかったんですね...」
普通の召喚獣であれば自分の巣に部外者が現れれば、総攻撃されてもおかしくないが、おそらく村人が維持点検するために行き来している故に人慣れしているのが起因しているようだった。
「あぁ、イノクサについては効用としてはほとんど大麻に近い、多幸感に感覚過敏、そして中毒性としてはタバコよりは低く、肝なのが使用者の召喚獣にも作用するってところだ。」
「....呪術系か」
召喚獣にもといった点から、彼は眉間に皺を寄せる。
「その線もある、実際この村では古くから催事やまじないに使っていたそうだ。」
「イノクサと何かが作用して、人格矯正、あるいは...擬似的に洗脳か」
「っ!....え、だとしたらやばくないですか?早く応援を呼んで...」
洗脳事案であれば警察、消防、管理官が連携して動いて二次災害を防ぐ必要があり、とてもこの人数で太刀打ちする事案ではなかった。
「洗脳、催眠、成り代わり、傀儡化。それぞれ狙った効用を発動する条件は各々異なる。条件もわからずにその中で一斉捜査してみろ、捜査員全員が敵になるぞ」
「っ....」
犬型の際の、生贄召喚の燃料にならないために即応科メンバーだけで行った時もそうで合ったが、今回最小人数で行く必要性が十分にあり、鳥養がそう言うと時雨は警察、管理官らとその召喚獣らが敵に寝返った時の憧憬に青ざめていた。
「取り敢えず、その条件を突き止めるまで抜き打ち調査は延長か....」
「え、そんな...疑似洗脳なんて聞いたら、気張りっぱなしですよぉ...それだったら玄道さんとかの方が」
先まで田舎の暖かさに気が緩んでいた彼女は、肩肘を張りながら自分の適正に合ってない案件だと不満を呟く。
「...才亮。私の邪魔するなよ?今日みたいに」
「ん...あれは....」
ーーーーぼとんっ...
『...んなぁ!』
目に付いた訳を話そうとすると、木の上から子トカゲがぼとんっと落ち、クゥさんが待ってましたとそれを食らう。
「あっ、さっき歯ブラシしたばかりでしょー」
『ぁむ....んんぁ』
口いっぱいに頬張って咀嚼しながら彼女に抱えられ、爆速で食ったクゥさんは口の中を見せて美味しく食べたよ。というアピールをする。
『....ピチャー』
「.....」
そして岩陰からも現れた子供のトカゲ型の焦点が合わない目と合い、才亮は苦虫を潰した顔をする。
「しっかし...爬虫類は好きになれん。」
「えーよく見たら可愛くないですか?」
ふいっと顔を逸らすと、時雨がその子トカゲを持って彼へと向ける。
「その可愛いのをお前の召喚獣が食ったんだぞ、お前どういう感情なんだ...」
「まぁまぁ、それはそれですし」
鳥養がそう言うと彼女は意外と自然の摂理に関してはカラッとしていた。
「....おい、お前とこの新人大物だな。」
「まぁな」
鳥養は不満を呟いては案外引きずらずに溌剌としている彼女を褒めると、才亮は誇らしげに鳥養に目配せした。
「ずっと思ってたんですが、この子達ってイモリじゃないんですか?よく見ると水かきっぽいものありますし....」
マイペースな彼女は木の上からまた落ちてきたトカゲ型を手に持って彼らに水かきのあたりを見せる。
「...イモリ?」
「はい、お昼の時も日陰っていうよりかは湿気のあるところで休んでましたし」
「なら...両生類...っ」
ーーーー大人特有の取り繕いが、気質に癒着したみたいな?
普段大量に流し見にしている資料から索引されたモノと、これまでの情報が合致して、彼の金色掛かった眼が見開く。
「....で..どうします?共同作戦ってわけにも...?」
彼女がそういうと才亮から何故か黒グローブを渡され、鳥養は宴会会場の方へ向いて拳を鳴らす。
「鳥養。近接戦は?」
「あぁ、大好物だ。」
鳥養は彼の黒グローブを受け取り、手の感触を馴染ませながら舟こぎのように背筋と肩甲骨をほぐす。
「できるだけ殺すなよ。まだ助けられる。」
「話は後だ、時雨。後ろは頼んだぜ」
「うぇ...は、はっ..?!」
こちらに登ってきている元受刑者らへ相対すると、ジャケットを後ろから引っ張られる。
ーーーーピンっ!
そして、そのコンマ1秒後に先まで側にいた木々に何かが貫通し、数十センチの穴が開いていた。
「駐在っ!交渉もなしか!?」
時雨を岩の後ろに隠れさせてた才亮は駐在警官の右腕に寄生した、モスキート型召喚獣から細長い銃弾のようなものが放たれたのを視認し、岩の陰に隠れながら寄生型故に洗脳には患っていない駐在警官に話しかける。
「...っ」
彼にも権限があるのか、才亮の呼びかけを聞いた彼は右手を挙げて元受刑者らの突撃を静止させた。
「あぁ!村長からの命令でな、ただ、大人しく言いなり人形になってくれるならこっちも助かる!」
「警官としてのプライドもねぇのか?」
「プライド?俺をここに左遷したのは本庁のせいだ、そんなとこにプライドもクソもあるか」
「.....」
大体の経緯を理解した才亮は交渉の余地なしと見て、糸で形成したトラップを構築するための時間稼ぎをする。
「そんなことより、小金と仲良く話してたな?こいつがどうなっても良いのか?」
駐在警官は右腕に寄生しているモスキート型召喚獣をあうあう状態の金髪リーゼントの側頭部に突きつける。
「っ...わかったそっちに行く!!」
「ちょっ、才亮さんっ」
「ま・か・せ・ろ」
時雨は彼の右腕を掴んで引き止めるが、口パクでそういった彼は持っていた装備を全部置いていって、あっさりと下に降って駐在の方へと着く。
「妙に素直じゃねぇか、おい、ボディーチェックしろ」
「....っ...ゴツい携帯とメモ帳くらいです。」
「まじの丸腰じゃねぇか、ん...右手に何持ってんだ?見せろよ」
「いいのか?」
「あぁ?良いから見せろ!!」
彼は勿体ぶるようにそう聞くと、駐在警官は挑発されていると感じてモスキート型召喚獣の銃口を彼へも向ける。
「はいよ」
「ぐっ?!....はぁっ...」
ーーーーぐるぅっ...ギュインっ!
大人しく見せると、駐在は近くのカカシに引っ張られて失神し綺麗に磔にされた。
「っ...あばよ!とっつぁん!」
才亮はぶりぶり状態の小金を回収し、元いた地点にくくりつけていた糸を巻き上げて空を飛ぶ。
「ふははははっ!お前んとこの科長おもろい奴だな!」
「えぇ...全く...ん?」
『ぐらぁ...』
マトリの女がラスボスみたいな笑い方で彼女の肩を叩くと、遮蔽にしていた岩が少し盛り上がりずらして出てきたモグラ型召喚獣と目があった。
『....っ、グラぁ』
「え、ぁ...どうも...」
ーーーチッ...チッ....チッ...
軽い会釈と共にモグラ型からスイカサイズの黒い玉を受け取ると、火花のような音が中から聞こえた。
「ん?」
「おいっ!貸せ!!」
「え?」
ーーーーバァァァン!!!
突然のことに困惑していると、焦った様子のマトリの女がその玉を取って空へとシュートすると、夜空に爆炎が舞った。
「ファ?!」
ーーーーギュルルっ
「っと....駐在は制圧した。後は、あいつらを....」
「死んでもあいつらを殺せ。」
「「「ヒャッハァー!!」」」
才亮は糸を巻き戻して山上へと戻ると、おそらく洗脳はされていない村人が傀儡になっている元受刑者らに号令をすると、ヒャッハー集団へと変貌した元受刑者らは獣のようにこちらへ向かってきた。
「才亮さん!」
「できるだけ殺すな。集団を牽制しながら、召喚獣持ちの村人を倒すぞ」
時雨はポコポコと現れ始める穴ぼこに閃光弾やら煙玉を投げながら彼に指示を求めると、最も重要な事を初めに、チェーンソーみたいな昆虫型召喚獣チェーンクワガタ、葡萄のように爆弾を房のように纏っているマスコットっぽい召喚獣ボマブドウ、そして地中に潜っているモグラ型ウーバーラットを優先的に倒すことを明示した。
「了解!」
「あいよ。」
黒グローブを手のひらに突き合わせて、彼を先頭に向かってくる彼らとの戦いが始まる。