日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
『っ..ッ...カッ....』
亀型は火口を足場に霜で結合した口をバリバリと音を立てて大きく開けると、火打ち石のような火花が鳴り始める。
「!...いきなりかよっ」
才亮が博士を抱えたまま、岩場が密集している汐留の方へと走りバリケード上になっているシゲモチの影に隠れる。
『カッ...カァぁぁぁぁ!!!』
すると、亀型は首を蛇行させながら口から液体窒素を圧縮したビームを洞窟内に無差別に吐き出す。
ーーーービリっ...バリバリバリバリ...
大体の焦点を見つけた亀型は密集した岩影に窒素ビームを集中させて、軌道を上へと逸らそうとしているシゲモチ防壁を彼らに到達するギリギリまで貫通する。
「っ...才亮さん!」
「時雨、博士を先に逃がせ。後は俺らが...」
「ワシも手伝おう。」
取り敢えず狭い洞窟内での身動き取りやすくするために、博士とクゥさんが出張ってくるかわからない時雨を煙玉を使って遮蔽物がない出口の方へと逃がそうとするが、博士が出張ってきた。
「いいから...ここはっ」
『カッ....っ...クカぁぁ』
博士を無理にでも先に行かせようとすると、寸前まで来ていた窒素ビームが止み、亀型の方を向くと雲のような羊毛っぽいものがが顔中にまとわりつき、窒素ビームをキャンセルさせられていた。
「!」
「紹介しよう。ワシの召喚獣モックルンだ!」
『モクゥ!』
「「「....」」」
お前の仕業かと博士の方を向くと、博士の横からふわふわモコモコの召喚獣が現れ、そのゆるキャワと今の状況のミスマッチさに気を取られ黙ってしまった。
「かっ...可愛いぃいい...このまま枕にして夢から覚めたいぃ」
『モッ...クゥゥ...』
こんな状況でも、いやだからなのか年収30億は狙えそうな可愛さに時雨はモックルンを鷲掴みにして頬擦りすると、モックルンは驚きつつも気持ちよさそうな顔を浮かべた。
「そうじゃろうそうじゃろう、徹夜明けのモックルン枕の上で寝るのは格別っ...っと、行かん行かん、モックルン。火口には何があった?」
『クルン!』
「やはりか....」
こちらもマイペースな博士は気を取り直して、モックルンからの情報を得ると腑に落ちた様子で、文脈から大体を察した才亮は苦い顔を浮かべる。
「え、なんです?」
「火口には卵がある。そのせいでかなり殺気立ってるから、逃げようにも出口の場所が悪い。」
「っ....一応、深淵で」
才亮がそう言うと、最悪を想定して時雨が退避案を提案する。
「それは最後の手段だ。使う時は俺が指示する。いいな?」
「っ...は、はい。」
彼女の責任ではなく、使う時はあくまで才亮の責任として使うことを明言したが、時雨は唇をかみながら首肯する。
「む、なんじゃ深淵って」
「あーテレポートみたいなものですが、彼女以外の場合はワンチャン暗闇に飲まれるってやつです」
「ファッ?!ギャンブル過ぎじゃ!」
それじゃマグマと飲み込まれるのと同じじゃん!と博士が言っている間に、モックルンのふもっふ妨害が跳ね除けられ始めた。
「才亮さん。糸で釣れませんか?」
「....重すぎてひっくり返せん。」
すでに糸でマーキングしているであろうと、汐留がそう聞くが亀型の重心の低さと膨大な質量からそれは厳しかった。
「ならっ....・・ーーーー」
そんな中、時雨はとある策を挙げる。
「ーーーー・・....本気か?」
「はい、犬型の時も似たようなことしましたし」
少し驚いた様子の才亮がそう聞くと、彼女は少しずれた点を説明する。
「いえ、その...クゥさんまだ起きてませんよね?」
「んー...まぁ、大丈夫です。」
汐留の問いかけに、片目をつぶってクゥさんが寝ているのを確認した時雨はそれでも大丈夫であると言い切った。
「はぁ?正気か?」
「えぇ、まぁ...即応科はいつも成り行き任せなので」
博士がそういうと時雨はすっかり頭即応科となった様子で、ガンギマリの眼で当然のようにそういった。
「っ...!」
「ふっ...わかった。やるぞ」
「っ...はい!」
汐留は彼女の成長に寂しさ混じりの顔を浮かべ、才亮は順調に適応進化しつつある彼女の背中に手を当てると、仲間を信頼し切っているまっすぐな彼女の目は既に亀型へと向いていた。
『ーーーー・・っ....カッ...カッ...』
レーザーの貫通跡が残る岩を補強しつつも、それ以外に特に動きがない中、亀型は体内の液体窒素が満タンになったのを確認して、再度点火しようとする。
『...ッ!...カッ...カッ...カァァ!!?ァァァァ!!』
すると、洞窟内を充満させるには不十分な煙幕が張られ、岩影と出口を隠すには十分で、亀型は逃すまいと出口の方へと窒素ビームを放つが、煙幕が晴れた出口には誰も居らず視線を動かすと、前から真っ直ぐ駆け走ってている人間が目に入り、その方へと窒素ビームを向き直す。
「....っ!」
『んな』
視界が白い気体一色になった途端、首筋を伝うもふもふ尻尾の感触と共に視界が亀型を写して切り替わる。
『ァァァ!?』
「もぉぉぉ!ギリギリまで寝てるんですからぁぁ!!」
『ァァ?!ァァ?!!』
何やら騒ぎながらも直進してきている女に窒素ビームを当てようとするが、黒い何かに飲まれては捉えられず、また先に顔周りに付き纏ってきた白い何かが彼女を包んでは射線をずらされ、女は距離として10m辺りまで詰めて来ていた。
窒素ビームの射線が緩み、曲線味を煽いでいる中、金髪の男とスライム女はその隙を逃さなかった。
『...ッァァ?!』
ーーーー....ヒュッ
一瞬、重心が後ろにズレるのを感じた亀型は空気を切り裂く音と共に、甲羅の付け根に二足のわらじがメリ込み、上体が後ろに反れそうになる。
「っ!...っぅ...らァァァ!!」
「ぅ...倒れろォォ!!」
『グァァ!!!ァァア!!』
ぐらっと重心が踵へと行った感触はあったが、亀型は窒素ビームを天井へ突き上げながら、仰向けに倒そうとする金髪の男らに負けずと甲羅を軋ませて前へと屈もうとする。
『ァァ!?』
「スゥゥ....ドラァァ!!」
すると眼下にゆっくりと息を吐いて正体している女が目に入り、女の黒グローブから破裂するような衝撃が放たれ、亀型の窒素ビームは尽きる。
『ァァ...グァ....ぅ....』
ーーーードォォンン
亀型は火口の縁に仰向けに倒れ気絶した。
「...シッ...!」
ーーーーバァァン!!
時雨が打ち込んだ右拳を正体に収めると、作戦成功の余韻に浸る暇もなく亀型が抑えていた火口が破裂して、洞窟内の気温が一気に上昇する。
「おいっ!!いつ噴火してもおかしくないぞ!!」
「っ....間に合うか...」
岩影からそう叫ぶ博士に、才亮は入り口に垂らしていた糸を巻き上げても噴火の速度に脱出が間に合うかわからず、仮に糸で皆をコーティングしても酸素量的にも溶岩をやり過ごせるか微妙なところであった。
「!....時雨さん。とにかく先に行って...」
「っ...それだと、みんなが...」
才亮の逡巡を察した汐留は安全に深淵で帰れる時雨にそういうが、彼女もまた迷っていた。
「...時雨。深淵の中では最大何日生きれる?」
「えっとぉ....三日くらいです。それ以上は私も分かりません」
才亮ができるだけ平静にそう聞くと、時雨は彼の質問の意図に覚悟を決めながら答えた。
「....時雨。これは科長命令だ....俺たちを....」
「っ....」
『グッ...グァぁ...っぁ』
彼女に深淵を使って地上へテレポートさせようとしたその時、側で気絶している亀型の呻き声が洞窟内に鳴り響く。
海底開発チームらは近くの中継地点の島に避難し終えて、海底洞窟底の火山に行ってきり戻ってきていない彼らを待っていた。
「...彼らはまだなのか?」
「はい...連絡がつきません」
金髪の管理官から連絡を受けていた責任者の男がそう聞くと、厳しい応えが返ってくる。
「っ....輸送召喚獣で救出に...」
「監督....間に合いません。」
海底火山の警報音が鳴り響くウェアラブル端末を抑えながら、重武装した輸送召喚獣で今からでも救出へ向かおうとするが、海底ドームから抗いようのない火柱が迫り上がってくる。
ーーーーーブバァァァァン!!!
厳しくも海底火山は海面を貫通して、噴火し掘削機械やコンテナなどの残骸が空中に溶解しながら飛び散る。
「「「....」」」
皆、自然と示し合わすかのように手向けとして、彼らへ敬礼を贈る。
ーーーー...ヒュゥゥ
「わぁぁぁ...逃げろ!!」
ーーーーどぉぉぉぉん!!
責務を完遂して皆の命を守った彼らへの黙祷の最中、噴火の中から刺々しい亀型の甲羅が飛来し島の海岸に着弾した。
「....は?召喚獣?」
「おい!近づくな!!」
一緒に逃げてきた召喚獣が先頭に亀型へと相対しながら、近づこうとしている人らを引き剥がす。
『....っ...がっ.....ガァっ?!』
掘削向けの召喚獣の打突を向けながら近づくと、亀型の大型召喚獣は苦しそうな表情で2m程のアメフトボールのような白い何かを吐き出した。
「....ん?卵...でもないな」
「結石とかか?」
「したら、なんで口からなんだよ」
ああでもないこうでもないと言っていると、その白い何かはするりと解かれた。
「....スゥ、なんとかなったな。」
「ふぅ...さいですね。」
「生きとる....わし生きとる!!」
すると、そこには黄緑色の液体に包まれた金髪の男と長髪の女、髭を蓄えた小太りのおじさんが現れた。
「....っ!信じてましたよ!!よかったです...本当によかったです...うぅ...」
「ふふっ...シゲモチさんもいましたので問題ないですよ。」
可愛い後輩に抱きつかれた汐留は彼女の頭を撫でながら、才亮に羨ましいですか?という視線を送る。
「!...ふっ...」
汐留のイタズラな視線に気付いた彼は、軽く笑って打ち上げられた亀型召喚獣の方へと赴く。
「あのぉ、この召喚獣は....」
「あー...話せば長くなるな。」
掘削召喚獣の打突を構えていた主は亀型のことを聞くが、金髪の男は酒のつまみとしてその話は取って置くことにした。
ちょこっと一間
「そもそも、わざわざ確認していかなくとも良いのでは?計画噴火の要件は満たしてますでしょうし...」
洞窟内を進む中、今更ながらではあるがもっともなことを言う。
「計画噴火するには、神格様に正確な情報と論拠を渡さないとだからな....あの方ら機械嫌いだし...」
「....Oh」
才亮がサラッと話した事は、ちょっとあまりに神聖な存在に近づき過ぎており、時雨の日本語は洞窟内に飛散した。