日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月11日午前5:30 関東庁 即応科棟 屋上。
「....スゥゥ」
前日の潮の匂いがスーツに残る中、夜の駐勤が終わりに迫る金髪の男は体幹と肩、首周りを解し、四股を踏んで腸腰筋を伸ばしていた。
「そろそろけ?」
「あぁ、勘が戻ってきたか?」
ゼンマイ式の時計の針を確認しながら、才亮は最近はずっとゴウキと組み手で仕上がっている武田にそう投げかける。
「のぉ、わしゃの召喚獣以来じゃけ」
三重の山奥で、無尽蔵に実戦を重ねたあの時の思い出に想いを馳せていた。
ーーーキィィ
「あぁ...いや、それは...はい。申し訳ない...ぅ...とにかく明日話そう。じゃあ切るぞ。」
高まってきた中で、屋上の扉から現れた玄道は大きな体を縮こませながら電話越しに何か詰められており、こちらの視線に気がついた彼は切る手前で背筋を伸ばして様態を整えた。
「...問題ないか?」
「ぁ...ゴホンッ..あぁ、問題ない。」
才亮がそう聞くと玄道は気を整えていつもの調子で応える。
「のぉ、汐留の方がよか?」
「いや、あいつは優しすぎる。それにまだ場数も足りてない。」
武田が玄道の様子に怪訝さを示し、不本意ながら代わりの者を挙げてみるが、意外にも才亮の感触は良くなかった。
「ボンボンって言いたいんか?」
「多少は....起因しているな。」
遠回しな言い方に直接聞くと、才亮は否定はしなかった。
「ボス。そろそろか?」
感覚が研ぎ澄まされてきている玄道は目を瞑りながら、彼にそう聞く。
「あぁ....」
ーーーーーピピっピピっ
『俺だ。』
『陽動は成功した!おいっ、マジで俺のこと最後まで面倒見てくれるんだろうな"ぁ"?』
『あぁ、そういう契約だからな。まぁ、俺が生きていればの話になるが』
ドンパチやっている音を背景にシェイプは負担の大きい役回りを引き受けた報酬について再度確認すると、才亮は契約条項下部の小ちゃい米印に書いてあった事を呟く。
「はぁっ?!勝ち確の見込みがあるからやらせたんじゃねぇのかよ?!」
「おい貸せ!才亮っ、相手は召喚獣の域を超えてる。既に2体手持ちがやられた、やるんだな!?」
話が違うと今更ながらごねるが、今はそれどころではなく、シェイプの後ろで追っ手を牽制していた伏見は、独立愚連隊の隊長である彼に最終確認をする。
『あぁ....前哨戦と行こう。』
彼がそういうと、ツキヨノは満月へと向かい体の紋章に光を巡らせ、それらの月光は彼らへと降り注いで満月へと吸い込まれた。
ーーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 7月11日午前5:35 山梨県甲州市 秩父多摩甲斐国立公園
『....』
複眼が頭中に蠢いているソレは手持ちの傀儡召喚獣が18体やられたのを確認し、向かってきた蛇型と昆虫型を喰いながら仕込んでいた召喚獣を呼び寄せようとするが、何かに阻まれて呼び寄せられず、空間ごと何かに囲われているであろうと月夜を見上げる。
ーーーーファァァ
すると、月の光に包まれた何かが20m先地点に降り注ぎ、厄介な召喚獣を持った人間、裏切り者、奇妙な術を使う者らと入れ替わるように金色の人間と髪を結った人間、そして緑鱗を纏った人間がその中から現る。
「....っ!」
「...ほぉ、あいつが」
「スゥゥ...」
金髪の人間と目があうが、既に配備していた召喚獣らが彼らとの間に埋まる。
「結構いるな、野生はゼロか」
「うむ、結界で絞れた方であるな」
虫型や昆虫型、小型の召喚獣らが弾幕となって彼らへ一斉に向かうが、彼の糸や武田の居合いで軽くあしらわれる。
『ズノォォォ!!』
そして、上空から滑空し、一角が生えた鳥竜型召喚獣がライフル回転をして彼らに突っ込む。
「....ぬんっ!!」
玄道は彼らの前に出て、緑盾をもって鳥竜型を地面に叩き潰した。
『ォ...ッア!!』
ーーーードごぉぉぉんん!!
ヒトガタから時折飛んでくる何かを避けながら雑魚を掃討し、ヒトガタの近くに控えていた残った3体の召喚獣、背に黒曜の装甲を背負ったカマキリ型召喚獣コクヨウ、ダイアモンドのような装甲を纏い、火山のような噴流から流れる炎に燃えた四つ足の地上竜型召喚獣フンヌ、そして頭に四つ足がついた召喚獣ヨツアシが彼らの前へと進む。
「でかいのは俺が」
「むぅ、カマキリは前もやったけんのぉ...」
「俺はあのキモいやつか...」
各々勝手に相手を決めている中、才亮は残った四つ足が相手になると若干嫌そうにしていた。
「ヒトガタはどうする?」
「先に勝った奴が戦う。」
「了解。」
「のぉ」
才亮が確認を取ると、武田がそう結を取ってひとしきり相手が決まった所で、四足頭から開戦の光線が才亮に直撃する。
『.....ピィィイ!!』
「っぅ...また光線系か」
咄嗟に展開した携帯盾の耐久値を3割持っていった相手を向きながら、記憶に新しい感覚に口角を上げる。
前回の犬型で戦ったカマキリ型とは異なり、額から人間で言う大臀筋の部分まで黒曜石のような装甲を背負っており、両刃を携えた鎌の黒腕は野太く頑強さを醸していた。
『.....』
互いに見合い、円のように回りながらゆっくりと間合いを詰め合う。
「今日はカマ公の気分やないんけどのぉ」
しかし、武田は臆せずに刀の頭に手を乗せて、相手に不足を感じていた。
『ピィィイ!』
ーーーヒュン
すると、四つ足頭の流れレーザーがコクヨウに直撃しそうになるが、紙のように薄く鋼のような光沢を帯びた羽がレーザーを跳ねて霧散させた。
『....』
「ほぉ、アップグレードか」
蚊でも払うかのように跳ね除けたコクヨウに、武田の見る目が一段階変速する。
「.....」
『.....』
あと数歩で互いに間合いに入る辺りで互いに足を止めると、先に動いたのは武田であった。
「....ッシ」
最速の居合いで逆袈裟斬りを居抜く。
胴体へと切り込まれる刀身にコクヨウは微動だもせずにただ突っ立ったままであった。
(.....)
ーーーーキンッ
既に空になっている武田は構わず、そのまま切り込み胴体へ到達する寸前に、四つの羽音と共にコクヨウの額の装甲に阻まれる。
「っ...」
『ッ!!』
地面に這うように屈んでいるコクヨウは交差させた両腕の刃を、ガラ空きになっている脇下目掛けて武田を両断するように射抜く。
「....ぬっ!!」
間合いからして避けようがなかったが、振り切った刀を後ろへと切り下げた勢いでそのまま距離を取った。
『.....』
初めからそれありきでないと回避できない避け方に、コクヨウは追撃をせずに彼の様子を観察する。
「のぉ...お陀仏になるところじゃった!かかかっ」
『....?!....!!』
確かに死線が見えていた中での、彼の剽軽な様子にコクヨウは困惑をすると同時に、どんな手を使ったかわからない髪を結った男を前に、手の内を見せれば見せる程不利になる事を直観的に理解し、前傾姿勢になって両腕の鎌を地面に突き刺して四つの羽をフルスロットルで靡かせる。
「...!」
その様子に髪を結った男はニヤリと不敵な顔を浮かべる。
『...ッ....!!』
四つ羽の推進力に両腕が軋み、それが最高潮に達した所で両腕の鎌を離し最高速度で直進し、一瞬で彼の間合いに入る。
『...!』
カウンターの構えをしていた彼に、コクヨウは左の刃をしならせて蛇行を描くように切り上げる。
「ッ...」
自分ですら軌道を測定できないランダムな刃線に、男はまたも最小の動きで鼻先スレスレで刃を見切る。
『...ッ!!』
関節を無視した無茶な蛇行剣撃で左腕をもげさせて、その陰から右の刃を切り上げる。
「!....シッ」
流石に武田はその攻撃に対して刀を射抜いて受ける。
間合いを詰め、選択肢を狭めて一刀しかない男の刃を切らせた。
『....シィッ!!』
コクヨウは胴体の肋骨辺りの気門から忍び刃を六刀を剣山のように展開して、男を串刺しにする。
『...?!』
が、しかし、串刺しにしたと思った男は半分に割れて視界が落下する。
「....傀儡ながら、見事な運びであった。」
武田は刹那の間にて慈愛と敬意に満ちた言葉を呟く。
「さらば...っ」
『....ッ...』
冷たい地面の感覚に敗北を悟ったコクヨウは、振り下ろされる美しい一刀に静かに目を閉じた。