日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 作:wakaba1890
一方、玄道は燃え盛るダイアモンド装甲を纏った四つ足の地上竜型召喚獣フンヌを前に、膝をついていた。
「...っ...はぁ....」
見た目にそぐわず俊敏で尚且つ重質量のフンヌの頑強な頭突きをもろに喰らい、吹き飛ばされた玄道は煙幕を使ってライオットシールドを展開し背中の鱗を解除して排熱を行う。
(....!...恐れているのか)
完全な上位互換で尚且つ、自らの弱点特攻の特性を持った相手に、身震いを感じる。
「いや...これは..」
突破口が思いついた訳ではなく、勝てる算段が見えているわけでもない。
「武者震いか」
それでも緑鱗を纏い直した彼は立ち上がって、緑盾を両腕に分断し構えて向かう。
『....ゥ..ヌァァアア!!!』
向かってくる男を前に、フンヌは彼が体勢を立て直している間に溜めていた溶岩を口内から噴出する。
「っ...!!」
玄道は円周に溶岩を避けながら間合いを詰めるが、溶岩が盾に飛び散り凝固して重荷となって、動きが鈍化する。
『ァアア....ヌァッ!!!』
獣に慈悲などなく、フンヌは溶岩が切れると動きが遅くなった玄道に容赦無く飛びかかって、ダイアモンドの鉱脈に炎が帯びた右前脚を叩き付ける。
「っぅ!!...ガハッ....ふ...ぅ"」
小さい山が落下する位の衝撃を緑盾越しに受けた玄道は、その衝撃と熱に脊髄が軋み髄液が沸騰し耐えきれずに地面に粉砕される。
『....ッ....ヌァッ!!ヌァッ!!』
主によって凶暴化されているフンヌは辛うじて緑盾を構えている玄道に、両前脚を交互に叩き付ける。
「ッ!!...ッ...ぅ...ハ"ァ"っ」
あまりの衝撃に緑盾が縁から崩れ、纏っている緑鱗はボロボロと砕け落ち、炎とこぼれ落ちる溶岩の熱で喉が焼ける。
『...ヌァァアア!!』
満ち足りた月へと振りかぶった頭蓋が彼へと振り切られる。
『....ヌァン?!』
が、虫の息だった緑の男は姿を消していた。
身体中に響き渡る衝撃と熱が離れ、粉砕した肋骨が肺に突き刺さり血反吐がつっかえていたのが、スゥーっと楽になる。
「...っ...スゥ」
夜の駐勤中に屋上から聞こえるいつもの澄んだ声が聞こえ、霞む目を開くと満月の逆光に霞まない金色の瞳に迎えられる。
「息はあるな....伏見、イアソノを用意しておいてくれ』
『わかった。応援はいらないのか?こっちはいけるぞ』
才亮は四つ足頭の相手を一時的にドローンに任せながら隠密簡易テント内で、伏見に玄道の退却連絡を入れると、伏見はツキヨノで応援に駆けつける気であった。
『タイミンングは俺が指示する。玄道の容態が...』
後ろでずっと控えている複眼が頭中に蠢いているヒトガタの出方を見れていない中で、伏見の手札を切るには早すぎていたため必要なタイミングでと話し、帰還させる玄道の容態が安定してからと伝えようとすると、満身創痍の彼の左手に止められる。
「...よせ...ガハっ...はぁ...まだやれる。」
意識を保っていられるだけでも異常なのに、半分欠けた緑鱗のフルヘルメットから覗く彼の瞳には燦々と篝火が燃え盛っている。
「....わかった。が、強制帰還は俺が判断する。いいな?」
糸で応急処置をさせたとはいえ、本来なら科長として玄道を復帰させるのはありえない。
けれども....
ーーーー『まだ、やれます!先輩!』
どうしても、オレンジ髪の彼と重ねてしまう。
「...っ...スゥ、了解。ボス。」
「っ...オラぁぁ四足キモ頭っ、こっちだ!!」
『ピィ!....ピィィィ!!』
彼が立ち上がったのを確認した才亮はコクリと頷き、武田に横槍を入れようとしている四足頭を呼びつけて、戦域の幅を広げに向かった。
「....ッ....しぃぃ!!」
彼を見送り、隠密テントから出た玄道は彼が紡ぎ治した筋肉に力を込めて両拳を突き合わせると、所々欠けたウロコノムシの鱗をフルアーマーにして、フンヌへと突進する。
『....ヌッ...ヌァ!?』
ドンパチやっている才亮の方に気が取られていたフンヌは、気配のないところから側面目掛けて突進してきたのにビクリと驚く。
ーーーーズヌンゥっ!!
「カッ...はぁ"っ!!」
しかし、虚を突いても盾は届かず、右腕の鉱脈で跳ね除けられて空へと打ち上げられる。
『ッ....ッ...ッ!!!』
ーーーーブァァァァァ!!
「ぅ...ラァ!...ぐゥァァああ!!」
フンヌは落下軸に合わせて、背の火山を彼へと噴出すると、彼は咄嗟に両腕の盾を交差させて勢い増すマグマを受け、避けようのない大地の怒りに体中が悲鳴をあげる。
ーーーー頑丈なのはいいけど、排熱がネックだね。
ーーーーシンプルで強い。しかし、拡張性に欠ける。
ーーーーどうしても、自力が人間の域をね....
召喚式から召喚獣管理官大学校、選抜試験、そして現在に至るまで、それらは何度も言われてきた事だった。
事実、ウロコノムシは竜の鱗のような葉を纏うだけで、装着者自身の身体能力を底上げする効能はない。
また、受けた衝撃はある程度は地面に分散されるような特性を持っているが、その伝導熱として鱗に蓄積する。その際、鱗を部分的に開いて排熱はできるが、フルアーマーで戦えば排熱は限度に達する。
限度に達した鱗は脆くなり、性能が著しく低下する。
熱に弱く、より相手が強力になるにつれて耐久性が不足している。
だが、召喚式で召喚されたのがウロコノムシであった事を、後悔したことは一度もない。
「・・ぬっ..ぅらぁぁっ!!」
背中の鱗と節々の鱗を部分的に剥がして回転させる。その推進力を持って弱まった噴火先へ向かって加速し、溶岩によって歪に補強された両腕の緑盾を頭蓋の鉱脈の隙間目掛けて振り下ろす。
ーーーーグッ..キィィィンッ!!
しかし、燦々と燃え盛るダイアモンドは砕けない。
『ッ....ヌァァン!!!』
フンヌは膂力を収縮させて弾かれた玄道に前右脚を振り下ろす。
ーーーーグパァァァァン!!
「んっぅ...ハァァ!!...がはっ....んっ...スゥ」
筋肉は断裂し背骨に亀裂が入り両腕の盾は瓦解する。臨界点を超えた鱗が飛び散りながら、彼は吹き飛ばされた先の木々に体を打ち身した。
「っ....玄道!!っぅ?!」
『ピィぃぃ!!』
四つ足頭のビームとヒトガタからの幼虫飛来弾で玄道を引き上げられず、合図を送る間をこそがれる。
『....ッ....ッ...ヌンっ』
フンヌは一歩また一歩と地に伏した玄道へと近づく。
「...カッ...ぁ...はっ...ぁあ...」
地面に面する頬から伝わる足音と振動に、彼は動ける所を無理やり動かし首と足の力だけで立ち上がろうとするが、再び地面に突っ伏し砕けた右腕から微かに動いているウロコノムシだけが赤く染まった目に映る。
『....ッ...ッ...ヌ...ッ!!』
振動が止み、フンヌの息遣いが頭に伝ってダイアモンドの鉱脈が連なった前脚が掲げられる。
ーーーー今日帰れないの?せっかくの休日なのに....また次があるって、そんな当たり前みたいに言わないで
出動前、妻との電話で同僚の前だからといって愛している。と言えなかった事に、今になって後悔が胸を蝕む。
(...雪音、ウロコノ...)
「...っ..す..ぁ..な...!」
『...っ...シィ』
大いに揉めて勤務中は外した指輪の感触を心惜しく思い、ここまでずっと一緒に戦ってくれたウロコノムシの方を見つめ思いを伝えようとすると、右腕に半寄生するウロコノムシは糸を深く張り巡らせ何かの欠片を食べていた。
ーーーーグパァァァァン!!
『ヌァっ?!!』
粉砕音が鳴り響くと、フンヌが振り下ろした右前脚とダイア鉱脈は燃え盛るダイアモンドによって粉々に吹き飛ぶ。
『....ッ....!!』
すかさず距離を取り、虫の息だった人間がいた所へ目を向ける。
「....スゥゥゥ」
そこには欠けていた鱗と同化するように、緑炎がさざなむダイアモンドのアーマーを纏い、背には二つの火口に背骨に沿って排熱火口に隆起した鱗が突起した男がダイアの盾を構えていた。
『ッ....ヌァァぁぁ!!!』
前右足を持ってかれたフンヌは男に飛びかかり、再密度の額のダイアモンドで男を粉砕しようとする。
「...ぬんっ!!」
ーーードッグパァァァァン!!
男は背中の火口から蒸気を発した勢いで、向かってきたフンヌの額を鱗とダイアモンドが融合した盾で粉砕した。
『ッァ?!...っ...ぁ』
ーーーードォォォン
頭をかち割られたフンヌは戦闘不能となって、打ち上げられ地面に墜落した。
ーーーーウロコノムシへの思いには続きがある。
召喚式で召喚されたのがウロコノムシであった事を、後悔したことは一度もなく。
弱いと思ったことは一度もない。
なぜなら、こいつの潜在能力は進化の度に弱点を克服するのだから